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第4話 出戻り娘



 王都を出発してから数日の内に私とリストリア殿下を乗せた馬車は私の実家であるエルリーン伯爵の屋敷に到着した。


 入口の扉を開けて中に入ると、白髪に立派な髭を蓄えた老執事が予想外の人物の訪問に目を見開いて驚き私たちを出迎える。


「シルヴィアお嬢様、どうなされたのです!? それにそちらの方はリストリア殿下では御座いませんか?」


「ただいまセルバンティウス。話は後です。お父様とお母様はどちらに?」


「はい、旦那様は奥様とテラスにいらっしゃいます」


「有難うセルバンティウス。さあリストリア様、こちらへどうぞ」


「ああ、お邪魔させていただこう」


 テラスへ足を運ぶとテーブルで紅茶を飲んで寛いでいる両親を見つけた。

 妹のクローディアも一緒だ。


「お父様、お母様、ただ今戻りました」


「シルヴィア!? どうしてここに!?」


「わーい、シルヴィアお姉ちゃんだ!」


 執事同様に目を丸くして驚いている私の両親とは対象的にまだ幼いクローディアは単純に私が里帰りをしたものだと思って喜びながら抱きついてきた。


「ただいまクローディア」


 私は微笑みながらクローディアの頭を撫でてあげる。


「クローディア、お姉ちゃん今からお父様とお母様と大切な話があるの。ちょっとお部屋で待っててくれる?」


「はーいお姉ちゃん。また後で遊んでね!」


「ええ、もちろんよ」


 クローディアは素直で良い子だ。


「……あの子にだけは絶対に聞かれたくないわ」


 元気に走り去っていくクローディアの背中を見ながら私は呟いた。

 クローディアの姿が完全に見えなくなったのを確認してまず私の両親が口を開いた。


「シルヴィア、帰ってくるのなら手紙のひとつでも寄こしてくれればよかったのに」


「そうですよシルヴィア。それにリストリア殿下までご一緒とはいったいどういう事でしょうか?」


「エルリーン卿にご夫人、お久しぶりです」


 リストリア殿下は姿勢を正して礼法に則った挨拶をする。

 やはり王宮での自由奔放な彼の姿は偽りの姿だった事が今はっきりと分かった。


 そして信じて送り出したはずの娘が婚約者ではなくその弟を連れて実家に戻ってきたこの状況はあらぬ誤解を招きかねない。

 私は今更ながらそれに気付いて慌てふためきながら弁解をする。


「お父様、別に駆け落ちとかじゃないですよ? 私たちそんな関係じゃありませんから!」


「そんな事は微塵も疑ってはいないが、まずは落ちついて事情を説明しなさい」


「はい、実は……」


 私は両親に王宮内での婚約破棄からの追放劇についてを事細かく伝えた。


「なんと、そのような事が……」


「情けない話だ……」


 お母様は呆れたようにゆっくりと首を横に振りながら溜息をつき、お父様は眉間に皺を寄せながら握り拳を振るわせている。


 ものすごく怒ってる。


「申し訳ありません、私も意地になってしまって……家名に泥を塗ってしまいました」


 私は両親に頭を下げて伯爵家の面目を潰してしまった事を詫びたけど、二人の怒りは私に向けられたものではなかった。


「良いんだよシルヴィア、お前がこうして無事に帰ってきたことが何よりだ。リストリア殿下もどうぞゆっくりなさって下さい」


「道中さぞお疲れでしょう。ささ、どうぞリストリア殿下。お口に合うかどうかは分かりませんが」


 お母様はカップに紅茶を注いで私とリストリア殿下に差し出した。


「いや、俺はもう王子ではない。敬語も不要だ」


 遠慮しがちなリストリア殿下に対してお父様が諌めるように言った。


「王室から除名されたとの事ですが、それはラング殿下の独断なのでしょう? 国王陛下からの正式なお達しがない以上そんなものは何の効力もありません。つまりあなたはまだ王室の一員なのですよ」


「そうですか……それもそうですね。確かにあの時は俺も興奮していてそこまで頭が回りませんでした」


 リストリア殿下は一本取られたように照れくさそうに頭をかく。


「聡明なサイクリア陛下がラング殿下の暴挙を見過ごすはずがありません。ほとぼりが冷めるまでこの屋敷をご自宅とお思いになってゆっくりなさって下さい」


「宜しいのですか?」


「勿論です。娘とラング殿下の問題に無関係だったあなたを巻き込んでしまったのです。そのくらいの事はさせて頂きたい」


「……エルリーン卿、ご厚意に感謝する」


 リストリア殿下はお父様の両手を握りしめて首を垂れて感謝の意を表した。


 こうしてリストリア殿下は私の屋敷で暮らす事になった。


 事情を知らないクローディアは突然知らないお兄さんが一緒に暮らすようになった事に最初は戸惑っていたものの、面倒見もよく美形なリストリア殿下に直ぐに打ち解け、実の姉である私を差し置いて本当の兄妹のように接している。



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