第37話 後始末
ラングが水神ヒュドラを鎮める儀式を行っている頃、レイチェルの命令で私シルヴィアの捕縛と剣士ハインケルの奪還にやってきた騎士たちはリストリア殿下の巧みな剣捌きによって返り討ちに遭っていた。
参考人の数は多い方が良い。
リストリア殿下は地面に伸びている騎士たちをハインケル同様に縄で縛り上げ、馬宿で新たに手配した馬車に乗せてエルリーン伯爵領へ連れ帰る事にした。
そのまま何事もなく屋敷に戻ってきた私たちはお父様に事情を説明した。
「ご苦労だったなシルヴィア。後は我々が対応するからゆっくりと休むと良い」
「はい、お父様」
お父様は使用人たちに命じて捕虜たちを地下室へと運びこんだ。
手足をきつく縛られ、まるで荷物のように担がれて運ばれていく捕虜たちを見てリストリア殿下が眉を顰めながら私に問いかける。
「シルヴィア、あいつらをどうするつもりだ?」
「もちろん地下室で知ってる事を洗いざらい吐いて貰いますよ。大切な情報源ですもの」
「拷問か……あいつらがやった事を考えれば当然の報いだがあまりいい気分はしないな。別にあいつらの心配している訳ではないぞ。あの温厚なエルリーン伯爵にそのような事をさせるのが忍びないのだ。いっその事俺が代わりに……」
「え? 拷問だなんてそんな酷い事はしませんよ」
「そうなのか? しかしあいつらが簡単に口を割るとは思えんが」
「リストリア様、我がエルリーン伯爵家にはシャーマンの秘術がある事を忘れていませんか?」
「ああそうか、何か不思議な力を使って情報を聞き出すんだな。それなら良い」
リストリア殿下は得心した様子でほっと胸を撫で下ろす。
その時地下室の方から捕虜たちの声が外に漏れてきた。
「うぎゃああああああああああああああ! やめてくれええええええええええええ!」
「何でも……何でも話すから! これ以上は……ひぎゃあああああ!」
「セルバンティウス、扉が少し開いているぞ」
「申し訳ありません旦那様。直ぐにお閉め致します」
続けてギギギイ……バタンという扉が閉まる重い音がしたのを最後に地下室からは何も聞こえてこなくなった。
リストリア殿下は顔を引きつらせながら再度問う。
「……シルヴィア、シャーマンの秘術ってどんなものなんだ?」
「魂に直接干渉をする術なので掛けられた方はちょっと苦しかったりするらしいですよ。実際に体験した事はないので詳しくは分かりませんけど」
「ちょっと? そんな感じではなかったが……ま、まあいい。何も聞かなかった事にしよう」
リストリア殿下は苦笑いをした後一切その話題を出さなくなった。
でもそんな事よりも私にはもっと気になる事がある。
「それでリストリア様、いつもクローディアの部屋で何をされているんですか? 私と一緒に過ごす時間を犠牲にしてまでの事ですから余程大切なことなんですよね?」
「うっ……知っていたのか?」
「そりゃあ自分の家ですから。誰がいつどこにいるのかぐらいは把握していますよ。さすがに部屋の中で何をしているのかまでは分かりませんけど」
巫女の力を使えば付近を彷徨っている霊にお願いしてクローディアの部屋の中の様子を見て貰う事も出来たけど、さすがにそんな覗き行為のような真似をするつもりはない。
それが最愛の妹の部屋の中ともなればなおさらだ。
「そうだな……恥ずかしかったので誰にも言えなかったのだがもう隠してはおけないか。実はな……」
リストリア殿下は照れくさそうに頭を掻きながらその理由を答えた。
私はその回答に驚愕して思わず大声を出してしまった。
「ええっ!? クローディアに【口寄せ】を頼んでいたですって!? そんな事でしたら私に言ってくれれば喜んでお受けしましたのに!」
「最近シルヴィアは忙しそうだったからな……クローディアと遊んでいる時にその事を軽く話したら快く引き受けてくれたのでそのまま甘えてしまった」
確かにエルリーン伯爵領内の人口が増えた事で以前より【口寄せ】の依頼が入る事が増えた。
先日発覚したクローディアの巫女としての才能については既に屋敷内の皆が知るところとなっている。
試しにお父様やお母様の立ち会いの下でクローディアに降霊術からの【口寄せ】をさせてみたところ、私と同じかそれ以上使いこなせている事が分かった。
私は軽くクローディアに嫉妬の感情を覚えた。
「はぁ……もういいです。それで毎日何時間も誰の霊を呼び出していたんですか?」
「ああ、それはだな……お前も名前ぐらいは聞いた事があるかもしれないが、呼び出していたのは伝説の……」




