第25話 王都の光と闇
「……ヴィア…………」
うーん……何かしら?
……うるさいなあ。
「……シルヴィア……!」
誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。
「シルヴィアしっかりしろ、目を覚ませ!」
この声は……リストリア様?
……ああそうだ、私は今眠っているんだ。
そうそう、私は今王都にある人気宿ロイヤルショートリーの一室に泊っているんだった。
それにしても良い気持ちだ。
ふかふかの布団の心地よい感触と強烈な睡魔が私の思考を鈍らせる。
「うーん……もう少しだけ寝させて……」
「シルヴィア! 起きろ!」
「はっ!?」
私はリストリア殿下の悲鳴のような叫び声で飛び起きるように目を覚ました。
「あ……リストリア様、おはようございます」
「おはようじゃない。お前はあれから丸一日ずっと目を覚まさずに眠り続けていたんだぞ。俺がどれだけ心配をしたと思っているんだ!」
「え? ……あっ」
私はリストリア殿下の鬼気迫る表情で王宮でのことを思い出した。
私たちはサイクリア陛下の容態を見る為に、すぐに戻ってくるつもりで巫女の能力である【幽体離脱】を使って王宮へ忍び込んだ。
しかし思いがけない事態が相次いだ為に長居をしてしまい魂を肉体に戻すのが遅れてしまった。
あと少し戻るのが遅かったら本当に死んでいたかもしれない。
私はその事を思い出して背筋に冷たいものを感じた。
「あれ? 丸一日って事は……リストリア様はあれからずっと起きて私を見ていらしたんですか?」
「当たり前だ、お前があのまま目を覚まさないかもしれなかったというのに暢気に寝ていられるはずがないだろう」
「ええっ……」
つまり私はずっとリストリア殿下に寝顔を見られ続けていたという事になる。
私は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして俯いた。
「ともあれ無事で本当に良かった。落ち着くまでしばらくこの宿で休んでいこう」
「いえ、もう大丈夫です。それよりも私たち王宮でとんでもない事実を知ってしまったじゃないですか。どうしましょう?」
「そうだな……アクリアもエクスディア侯爵もレイチェルもやる事なす事許されざることばかりだが父上は俺に対して王家のしがらみから離れて生きろと仰った。俺はもうあいつらとは関わるつもりはない。父上が亡くなった事で恐らく近い内にラングが次の王に即位するだろうが俺にはもう関係がない話だ」
「そうですか……そうですよね。それじゃあそろそろうちに帰りましょうか」
「王都を出れば今後二度とこの地に足を踏み入れる事もないだろう。帰る前に王都の景色を見収めておかないか?」
「いいですね。そういえば大通りにちょっと気になるお店ができていたんです。付き合ってくれますよね?」
「あまり買い物をしすぎるなよ。この後またエルリーン伯爵領へ向けて長い旅が始まるんだからな。荷物は少ない方が良い」
「はーい」
私たちは部屋の片付けをした後に【幽体離脱】の儀式の為に窓を板を打ち付けるなど散々傷をつけた部屋の修繕費や迷惑料を多めに宿屋の主人に渡し宿を後にした。
大通りでは私たちが来た時と同じく多くの労働者が都市開発の為に働いていた。
「その木材はそこじゃない、隣の家屋に持っていけ」
「ここはもういい、お前はあっちを手伝ってこい!」
「後方の安全確認……ヨシ!」
街のあちこちで現場監督と思われる男性がしきりに声を上げ、労働者たちがせわしなく動いている。
最初は活気が良いと思って眺めていたけど、どうも様子がおかしい。
「そこのお前サボってるんじゃねえ!」
「ただでさえ作業が遅れてるんだ。今日の分が終わるまでは帰らせねえぞ」
「やる気があるのかこの愚図どもが!」
「ひいっ」
現場監督の男が鞭を振り回しながら怒鳴り散らしている一方で、労働者たちは苦悶の表情を浮かべながら黙々と作業をしている。
こんな酷い労働環境では労働者たちが直ぐに潰れてしまう。
「はぁはぁ……もう身体が持たない……ううっ……」
その時重そうな木材を運んでいた労働者の一人がフラフラと前のめりに倒れた。
「大変!」
私は咄嗟にその男性に駆け寄って声を掛ける。
「あの……大丈夫ですか? どうしてあなた達はこんな酷い環境で働かされているんですか?」
男性は息も絶え絶えに答えた。
「はぁはぁ……すまないねお嬢さん……俺たちは……あいつらに騙されたんだ……」




