第21話 巫女の禁じ手
私とリストリア殿下を乗せた馬車は王都の正面入り口の門に差し掛かった。
門番たちは客車に乗っているのが私とリストリア殿下という事を確認すると素通り同然に王都の中に通してくれた。
やはり思った通り私もリストリア殿下も王都に入る分には何の問題もないようだ。
もっともラング殿下の事だ、本当は私たちへの王都追放の刑は有効だったけどその情報が末端まで行き渡っていないだけなのかもしれない。
何はともあれ王都の中に入ってしまいさえすればこちらものだ。
サイクリア陛下は王宮の西側の部屋でご養生なさっている。
私たちはまずはそこから一番近い場所にある宿屋を目指す。
「それにしても……」
「ああ、王都もずいぶん様変わりしてしまったな」
大通りに並んでいる古い建物は全て取り壊され、新たな家屋の建築が進められている。
私たちの知らない間に大規模かつ強引な都市開発が始まっているようだ。
道行く人々も見知らぬ顔ばかり。
この人たちは何処からやってきたんだろうと疑問に思い彼らの会話に耳を傾けてみるとその内容や独特のイントネーションからエディー公爵領からやってきた人たちという事が分かった。
彼らはエディー公爵に王都の開発など様々な仕事をさせられる為に半ば強制的に連れてこられたらしい。
「リストリア様、自分の領民を王都に送り込みつつ元の住民を追い出すような真似をして、エディー公爵は王都の乗っ取りでも企んでいるのかしら?」
「そんな事をすればいくら馬鹿兄貴でも黙ってはいまい。王都には元老院だっているんだ。何か裏があるんだろうがそれが何かまでは分からないな」
「ここで考えても仕方がありませんね。とにかく宿へ行きましょう」
王宮のすぐ西にある一際大きな宿屋ロイヤルショートリーは、窓からサンクタス王国が誇る造形技術の粋を集めた美しい王宮を間近で眺めることができる観光客からも人気の宿だった。
しかしサイクリア陛下が病に倒れられてからは徐々に衰退していく王都に観光に訪れる者も少なくなったそうで、今日は私たち以外の宿泊客の姿は見えなかった。
私たちにとってはそれは好都合だ。
これから私が行う事は誰にも見られたくないし邪魔をされたくないからだ。
私とリストリア殿下は部屋に入るとすぐに入り口に鍵を掛け、中を覗かれないように窓にも板を打ち付けて塞ぎ完全な密室を作った。
部屋の中は夜のような暗闇に包まれ、微かに蝋燭の灯りだけがゆらゆらと揺れている。
「それではリストリア殿下、始めますよ」
「分かった。まずは何をすればいい?」
「まずはベッドの上に仰向けになって目を閉じて下さい」
「こ……これでいいのか? ……この状態少し恥ずかしいのだが」
「そのまま動かないで下さいね。声を出してもダメです」
「うぐ……」
「そのまま瞑想するように何も考えずにいて下さいね」
「…………」
「まだ邪念が入っています。これが巫女の修行ならば木の棒で叩かれますよ」
「……すまん……意外と難しいな」
「声を出してはいけません」
「! ……」
かなりの時間を費やした後、リストリア殿下が完全に無心になったのを感じ取った私はリストリア殿下に向かって一気に巫女の力を解き放つ。
「はあっ!」
「!!」
その瞬間、リストリア殿下の身体から白い煙のような物が飛び出してきた。
それはリストリア殿下の魂だ。
巫女である私以外その魂を見る事ができる人間はこの王都にはいないでしょう。
私たち巫女は普段霊魂を自分の身体の中に降ろす事で【口寄せ】を行っている。
この力を逆のベクトルに使えば肉体から霊魂を離脱させる事もできるのが道理だ。
「リストリア様、【幽体離脱】は成功しましたよ」
「本当か? ……おお、これは不思議な感覚だ……」
リストリア殿下の意識はベッドの上で横になっている肉体側にはなく、部屋の中を漂っている霊魂側にある。
霊魂は自分の意志で空間を移動する事ができる。
リストリア殿下は今まで体験した事がないその感覚に最初は戸惑っていたけど、すぐに制御できるようになった。
本来危険を伴うこの能力はシャーマンの家元であるエルリーン伯爵家門外不出である。
王室の人間でさえ知る者はいない。
にもかかわらずお父様から【幽体離脱】の力を使う許可を頂けたのは、お父様がリストリア殿下の事を本当の家族のようなものと認めているというからに他ならない。
続けて私も自分に対して【幽体離脱】の力を使い肉体から霊魂を切り離した。
他人にこの力を使う場合は霊魂に干渉する必要がある為に完全に心が無の状態になって貰わないといけないけど、巫女として魂のコントロール方法を熟知している自分に使うのは割と簡単だったりする。
「リストリア様、それじゃあこのまま王宮へ忍び込みましょうか」




