帰り道
「ねぇ、帰り道で何かない?」
「え、何の話?」
「んー『帰り道』で文章をね、書かないといけないんだ。あ、俳句でもいいな」
「いや、俳句とか言われても…5、7、5?」
「5、7、5。」
「『帰り道 ああ帰り道 帰り道』」
「馬鹿にしてんの?」
「お前の方が得意じゃん、文章とか」
「そうだけど…なんかさ!ないの?あとお前って言うな」
「じゃ、おまいさん。」
「殴るよ?」
帰り道と言われても。
あ、もう7時か。早いなぁ。
せっかくの休みなのに、結局カフェでだらだら話しただけだったな。
帰ったら明日がきて、そして明日からはまた仕事だ。
明日につながる帰り道が、わくわくしなくなったのはいつからだろう?
「おまいさん、明日仕事?」
「それやめて。明日も何もいっつも仕事だよ~」
「そっか、お前仕事だもんな。じゃあ、ウチ来るのやめとく?家に帰る?」
「…また言った」
「あ…」
「もうさ、何度言ったらわかるの?」
「なんか、つい。」
「…もういいよ。じゃあもう帰ろっか。」
「なんか、言うのが癖になってるんだって。でも直すからさ。ごめん」
「言うのやめてって何度も言ってるのになぁ~。ほら、帰るよ」
馬鹿じゃないの。
馬鹿じゃないの。
言うのが癖になってるって。
確かに結婚前の帰り際には必ず聞かれたけど。
「もう、帰る家は一緒でしょ。いい加減、慣れてってば」
「なんかなー…癖だよなー…ウチ来る?とか言っちゃったし。」
「家帰る?とか聞かれちゃったし。」
「あれか、実家に帰らしていただきます!みたいな」
「そういう意味になっちゃうよね」
「新婚さんなのにな」
「新婚さんなのにね」
帰り道と言われても。
切なさやときめきはもうない。
明日ではなく日常へ繋がる帰り道。
わくわくすることは、たぶんもうないけど…
「あ、なぁ、こんなんどう?」
「ん?」
「『いまはもう 2人一緒の 帰り道』」
歩きたかった帰り道は、きっとここだ。