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ここは銀杏学園高等学校。
先日、工事用のクレーン車が倒れてくるという大事故が起こり、ちょっとした騒ぎのあった学校だ。
使用していない教室が被害に合ったため、教師や生徒に死傷者が出なかったことが幸いであった。
そんな騒ぎもようやく収まった頃、1年2組の教室で時期外れの珍事が起きた。
「今日は転校生を紹介するよ」
黒髪のショートヘアに低身長のぽっちゃり体型、ふっくら丸顔に黒縁眼鏡をかけた女性教師、担任の浜野先生が朝のホームルームでそう告げた。
「入っておいで」
その声に合わせて一人の少女が中に入ってくると、浜野先生の横に並んで立った。
「ルー=リースさんだ」
「ルー=リースです。イギリスから来ました。皆さん宜しくお願いします」
学校指定のオークルのブレザー制服を着た少女は、大きな青い瞳でクラス全員をゆっくりと見回す。そのあと綺麗な銀髪のツインテールをピョコンと可愛く揺らしながら深々とお辞儀をした。
「うおぉーーお!」
「可愛いーー!」
男子も女子も教室中が色めき立った。
「席は…」
浜野先生は教室をクルリと見回した。すると教卓から真正面の、一番後ろの席が空いていることに気が付いた。
「お、新島の隣が空いてるな」
言いながら浜野先生はルーの方に顔を向けた。
「それではリースさん、あそこの席へお願い」
「はい」
ルーはにこやかに微笑むと席へ向かって歩き出す。道中で掛けられる声に笑顔で応えながら、一番後ろまでやってきた。
「ルー=リースです。よろしくお願いします、新島さん」
「新島春香よ。よろしくね、リースさん」
少女は肩まで伸ばした綺麗な黒髪をサラリと流し、整った顔立ちで気さくに笑って挨拶を返す。
ルーは嬉しそうに微笑むと、自分の席に着席した。
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「リースさんて、日本語上手だね」
「向こうに日本人の友達がいてましたので、その人に習ったのです」
休み時間のたびにルーの周りには人集りが出来ていた。しかもルーは人当たりよく受け応えをするので人気もうなぎ登りだ。
そうして時刻は昼休みになった。
ルーが隣に座っている少女に注目していると、彼女は自分の鞄からお弁当を二つ取り出し、パッと立ち上がった。
それに合わせてルーもサッと立ち上がる。
「新島さん、お昼はどこかに行くんですか?」
「え?あー、うん」
新島春香が少し困った様子で頷いた。
「新島さんはいつも、お昼はお兄さんと食べてるみたいよ」
ルーの取り巻きの一人が、新島春香に代わって質問に答える。
「お兄さんと…いいですね」
ルーはニッコリ微笑んだ。その可愛い笑顔に、新島春香は少し顔を赤らめる。
「そ、そーかな?リースさんはお弁当?」
「それが…今日は用意がないのです」
ルーはウルウルした瞳を新島春香に向けた。何か強い熱意のようなモノが伝わってくる。
「え…えーと、良かったら一緒に食べる?」
そのとき新島春香は何かに屈してしまった。
「ええ、是非!!」
ルーがとびきりの笑顔を見せる。
「え!?リースさん、そんな…」
ルーの周りの生徒たちが騒ついた。
「皆さん、すみません。そういうコトなので、今日は新島さんとご一緒します」
ルーはペコリと頭を下げた。