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Beside with you  作者: EMMA
1/1

始まりの始まり。

ハァ、ハァ、ハァ、、、。。。


ここはどこなのか、いつからこうして走っていたのか。もう忘れてしまった。11月の凍てつくような寒さの中、裸足でアスファルトの上をずっと走っていたせいか、足がなんだか突き刺すように痛い。

でも、いくら足から血が流れようと、その足を止めることはできなかった。追いつかれたら。今度こそ殺される。

だから今は遠くへ。遠くへ。




「はぁ。。。今日も疲れた、。」


あの日。大切なプレゼンの前で、準備に追われていたため、作業場を出たのは真夜中。

1人家に向かうため車を走らせていた。

今日は金曜日。こんな大雨の深夜にもかかわらずサラリーマンやら大学生やらが繁華街にあふれているのを横目で見ながら、通り過ぎる。自宅の方へ向かうため横断歩道を左折しようとすると。

「ん、、?」

ボロボロになった小さな子供が膝を抱えて座っている。人目のつかない裏路地の入り口だったため、いつまでもいたら危ない奴らに襲われかねない。

「ここらへん、そんな治安良くねえし。。」

警察署なら車で通りすがりの場所にあるからそこまで送って行こうかと車を止めて少女に近づく。





「おい」

ーん。。。ー

朦朧とした意識の中、誰かに声をかけられた。

やばい。逃げなきゃ。

そう思って立ち上がり、走って逃げようとするが、うまく足に力が入らない。

「お前、いくつ?家出?とりあえず保護してくれるところ連れてくから。」


面倒なことになった。なんとかして、見過ごしてもらわないと。。。ボロボロになったメモ帳を取り出して、急いで書いて、渡す。

ー放っておいて。わたしは大丈夫だから。おねがい。警察とか、連れて行かないで。ー


雨のせいか、その人の顔はよく見えない。

何も言ってこないし。。。と思った瞬間、また意識が急に途切れた。



かなり面倒なことに足を突っ込んだ。

遠目からしか見えてなかったから、ただの小学生の家出かと思ったら。

よくよくみたら、少なくとも中学生くらいはありそうな見た目だし、足なんて、青く腫れ上がっていて、到底歩ける状態ではない。しかも、俺を見上げた時の目。。

「何があったんだよ。。」こんな大雨の中、意識を失ってしまった少女を放っておけるわけもなく、車の後部座席に寝かせ、運転席に戻る。

「いや、これフツーに考えたら、誘拐、じゃね、、?」

「いやいや、ここにおいておいて見殺しにする方がよっぽど罪だ」と、頭の中をグルグルさせながら、結局、身内が経営する病院の元まで車を走らせた。


「なかなか酷い状況だね。足の腫れもひどかったけれど、それ以外にも体全身傷だらけ。背中と腹部の火傷や、殴られた跡もかなり深い傷だし。。カッターや包丁のようなもので切られたような切り傷もたくさん。日常的に虐待とか、DVとか受けてた可能性はかなり高いね。声も出てなかったんでしょ?虐待のストレスから、声が出なくなる例は多いし。

あと、何より体重が。。40キロ切っちゃってるのは高校2年生としてはかなり危険だよ。ろくに食事も与えられてなかったんじゃないかな。」


「なぁ。この子、どうすればいい。」


「うーん。。。とりあえず、学校に連絡だね。親の連絡先がわかるものは特になかったし。この子の手がかりは、財布と、学生証くらいだから。」


「遥希の方から連絡頼んでもいいか?病院が直接かけた方がいいだろ?」


「もちろん。この子もしばらくは入院だねー。体重増やさなきゃだし、声出せるようにするのも、歩けるようにするのにもリハビリ必要だからね。あーあと、なにかあると大変だし、セキュリティも1番いい部屋にしなきゃ。」


「頼む。俺もまた、合間縫って、みにくるから。」




「ふぅ。。。」

時計を見ると、午前3時。。

「もう仕事まで寝れねぇな今日は。」と呟き、車を再び走らせた。




目を覚ますと、真っ白な天井から反射する光を感じ、眩しい。

ーここ。どこ、、?ー

身体を起こすと、全身包帯でぐるぐる状態だった。ベッドの横に置かれていた水を飲み、後悔する。血の味が口に広がりかなり気持ち悪い。そうこうしているうちに、入り口のドアが開く。


「おはよう。よく眠れた?」


知らない人。わたしが最後に見た人に、声はなんだか似てるけど、違う気がするのはなんでだろう。


目の前にあるメモを取って、

ーあの、私、学校は。。ー


「あぁ、学校には、連絡入れておいたから大丈夫だよ?」


ー学校行かないと。怒鳴られる。ー


「お母さん?」

少女はこくりと頷く。


「柚樹ちゃんのお母さん、学校の方に事情話したら、警察が、さっき取り押さえに行ったみたいよ?」


先生らしき人は、気持ち悪いくらいの満面の笑顔で私にそう話した。


柚樹は驚いたような、不安なような顔をして俯いている。



「もう捕まって、警察署の方にいるみたい。だから、安心して?」


「不安?」


ー・・・・ー


「大丈夫だよ。もう君を殴ったり、暴言吐いたりする人は、どこにもいないから。」


ーそれ、身体の傷のこと、ですよね。ー


「うん。」


ー治りますか?この傷。ー


「全部は難しいかも。特に最近つけられた火傷の跡は、かなり深くて。でも、最近の医療技術はすごいんだよ?そこにある機械がね、、、」

と言って、部屋にある1番大きな機械をこちら側にカラカラと移動させた。

「柚樹ちゃんの皮膚を新しく再生してくれる最新のマシーン!!」


ーこれ使うと治るの?ー


「時間がかかるんだけどね。でも、半年あればかなりの範囲が再生されるはず。あと、皮膚の治療ももちろん大事だけど!!まずは5キロ!!」


柚樹は驚いた顔で悠を見る。


「5キロ増やすこと!」


ー私、これ以上太れない。ー


「いーい?よく聞いて。柚樹ちゃんの身長は158cm。16歳の、身長158センチの女子の標準体重は約55キロ、1番軽いモデル体重でも、45キロは必要なの!!きみの今の体重は、38キロ!!ここまできたら、もう栄養失調だから!てかこんな病的なまでに痩せてる身体で太ってるなんていう親もどうかしてるよ。。」


「そんなに最初から一気に体重戻すのは、きっと大変だと思うから。徐々に徐々に戻していけばいいからね。」


ーお兄さんは?お医者さんなの?ー


「俺は、この病院の院長の橘 遥希。はるきって呼び捨てでいいからね?ちなみに、柚樹ちゃんを拾ってきた人の兄貴ね。」


ーはるき、。あ。そうだ。お金。ー


「いや、もちろんここの治療費は、きみのお母さんにちゃんと払わせるから安心して?あと、俺の弟ももう直ぐ来るんじゃないかな。すごい心配してたから、お話ししてあげてね?ぱっと見あんまり愛想のいいやつじゃないけど、柚樹ちゃんを警察に突き出さないで、ここにおいていくくらいのやつだから、悪いやつじゃないし。もちろん、暴力なんか絶対振るわないやつだから!兄貴の俺が保証する!笑」


「ご飯、来たらちゃんと食べること!食べたらちゃんと休むこと!わかった?」


ーごめんなさい、すいません。迷惑ばっかりでー


「いいんだよ。迷惑なんて、いくらでもかければいいよ。もちろん俺がきみの全てをわかった気になってあれこれ言う気は毛頭無いし、今までずっといろんなこと、苦しい思いしてきたんだろ?」


そう言って、遥希は出て行った。


柚樹は、その時なぜだかわからないけれど、ひどく苦しい気持ちになった。


ご飯も看護師さんに手伝ってもらって、なんとか食べ終え、しばらく近くにあった本を読む。


ー本なんていつぶりだろう、、ー


そう思っていると、、ドアが開いて、


ーあ。ー


「目、覚めたのか。。」


柚樹は緊張した様子でおずおずと頷く。


2人の間に緊張が走る。


ーあの、本当にご迷惑おかけして、ごめんなさい。あと、警察に出さないでくれてありがとうございました。ー


「どうして謝るんだよ。てか、なんでそんなに警察嫌だったんだ?」



「いや、いい。忘れろ。」



「・・・」


沈黙が流れる。


ー大人は、信用できない。ー


柚樹はそうメモに書いた。




ーでも、お兄さん、私のこと助けてくれた。しかも、遥希さんのいる、身内の病院。ありがとうございます。ー



俺はなんて返せばいいのかわからなかった。

この子は生まれて十数年の間で、どれだけの苦しみを強いられてきたのだろうか。本人から直接何も聞かなくても、痛いくらいに‘‘何か’’が、心に突き刺さる。

顔は、微笑んでいるはずなのに、目は昨日の時のように悲しそうで。


「なぁ。名前、教えてくれよ。」


ーお兄さんは?なんて名前なの?ー


「俺は、橘 湊都。」


ー水野 柚樹ー


「なんて、呼べばいい?」


柚樹は少し考えているような顔をして、メモにペンを滑らせる


ー苗字は、嫌いだから。名前がいいー


「じゃあ、ゆず、、で、いいか?」


柚樹は少し微笑んで、続けて書き続ける。


ーお兄さんのことは、なんて呼べばいい?ー


「なんでもいいよ。呼びたいように。」


ーじゃあ、ミナトね。ー


ミナトの顔が一瞬固まってしまって。どうしたのって、覗き込もうとしたら。


「悪い。そんな顔させるつもりじゃなかった。せっかく俺が名前で呼んでいいなら、ゆずにも名前で呼んでもらわないとな」


って微笑むから、私は、少し安心した。


それからしばらくたわいもない話をして、ミナトは仕事に戻って行った。


そこから、2日に1回はミナトが部屋に遊びにきてくれた。きっと私が孤独にならないようにしてくれてたんだと思う。



病院の生活にも慣れてきた頃、遥希が、リハビリを始めると言ってきた。


ーなにするの?ー


「歩けるようになる練習と、声出せるようになる練習。今日はどっちやりたい?」


ー声ー


「わかった。」


そう言ってリハビリも始まった。

正直きつい。話すことなんてもう何年もしてない。家で話すことは禁じられていたし、学校行っても、話しかけられることはなかった。話す必要もなかった。

でも、少しずつ、少しずつ。声を出せるようになってきた。歩けるようにもなってきた。車椅子も、メモ帳だって使わないで普通な私になれる日が来るのかな。。


リハビリの間の数ヶ月間、ミナトが病院に来ることはなかった。

私、どうして話したい、歩きたいって思ってるんだろう。。。

誰と話したいんだろう。。

ミナトが仕事で忙しいのは遥希からも聞いていたから、知っているけど。。なんだろうこの気持ち。


皮膚の治療も同時進行で行われていた。

まだ年齢が若いと、新しい皮膚が更新されていくスピードも早いらしく、完璧とは言わないまでも、だいぶマシにはなったと思う。文明の利器に感謝。


そしてなんとか喋れるようになった頃。


「遥希、、。俺、柚樹退院したら、成人するまでは預かろうと思ってる。」


「えーと。。それは、親として?」


「保護者。として。そのために貯金してたんだわずっと。」


「学費とか生活費はあの子の親から支給出るでしょ?」


「あいつ、前見たとき、なんだか勉強できそうな雰囲気だったし、大学行くとなったら、足りないお金出てくるだろ?」


「ねぇ、いくら拾った子だからって、ちょっと情乗せすぎじゃない?施設とかに入れるのが普通でしょ?」


「俺、あいつのこと、守りたい。流されてばかりだったいつもの俺なら、あの日警察に迷わず突き出してたはずなのに。あの時の柚の目。苦しそうな、辛そうな目を見た時、俺がこの子を守らなきゃって、思った。」


「どういう風の吹き回しだよ、。、第一、お前、またアメリカ戻るんだろ?」


「それは、柚に任せる。柚が一緒に行きたいって言えば、俺は大学に戻るし、日本に残りたいって言えば、俺の卒業までに必要な単位も少ないから、柚が入院してる間にアメリカ戻って、卒業認定もらってくる。」


「大学1年の年で、大学卒業認定とか、どんだけの飛び級野郎なんだよこいつ。。。」


「もう柚に任せることにした。」


「お前とはいたくないっていわれたら、どうすんだよ」


「それは、、。柚がそういうなら、仕方ないだろ。」


「今柚樹ちゃん、リハビリしてるの。」


「知ってるよ」


「なんでか知ってる?」


「声とか足とか、元に戻すためだろ?」


「そりゃそうだけど!


湊都のためにやってんだよ。あの子は。」


「え、、?」


「湊都にお礼をちゃんと声に出して伝えたいって。」


「保護者としてのポジションをお前が得られるかは別として。柚樹ちゃんは、お前に感謝してんだよ。あの子はお前には心開いてるみたいだし。だから、一緒に暮らすことも嫌だとは言わないだろうな。だからこそ!!お前も、変に魔が差したとか言って本気で好きなわけでもねえのに、単なる欲望だけであの子を壊すなよまじで」


「そんなんじゃねぇよ。ただ俺は、柚が。。」


「柚樹ちゃんが?」


俺はその時初めて自分が柚に対して持っている感情を、単なる拾った責任感でも、義務感でもないことを知った。


「俺、本気で柚が好きなんだ。」






翌日


「ゆず。久しぶり。」


柚ははにかんだ笑顔をこちらに向けている。


「元気だったか?相変わらず顔だしてやれなくてごめんな?今日、ゆっくりいられそうだから。」


するとゆずは、嬉しそうに微笑んだ。

可愛い。愛しい。

自分が抱いていた、恋という感情を理解してから、そういう目でしかみられなくなる自分が逆に怖い。


少し時間が経ち、



「水もらっていいか」と、ゆずに聞いて、コップを取って水を注ごうとしたとき。




「ミナト」




「んー?、、、、、、、え、、?


ゆず、、、?声、出せるのか?」


「ミ、ナ、ト」

そう言ってこちらを見つめてくる。


驚きすぎて危うくコップを落とすところだった。


「ちゃんと、話せてる?私。」


「話せてる、よ。」


「よかっ、た。」


「ゆずの声、初めて聞けた。」


「変?だよね。」


「全然?むしろ。」


・・・可愛いと言おうとしたところで、グッと堪える。ダメだ。欲に任せちゃ。落ち着け。


「むしろ、?」


「あったかいな。ゆずの声は。ずっとそばで聞いてたいくらいに。」


そういうと、ゆずは、俯いてしまった。


「私は、汚いから、声を出しちゃいけないって言われた。」


「俺、ゆずのこと汚いなんて思ったこと、一回もないよ?」


「・・・・」



「なぁゆず、ゆずが退院したら、俺のところで暮らさない?」



柚樹は戸惑う。

確かにミナトは、ちょっと無愛想なところもあるけれど、私に優しい言葉をたくさんかけてくれる。笑顔を向けてくれる。そんなミナトが私は大好き。、、大好き?

私、ミナトのことが、好きなのかな。。。


「ミナト」


「ん?」


「私。ミナトのことが、好きなのかもしれない」


、、へ?。ゆず。それ質問の答えになってないし、俺、我慢してたんだけど。。。てか、言っちゃうのかよ。しかも、かもしれないってどういうことだ!?!?


湊都の頭の中はいろんなことでぐるぐる回りっぱなしでそんな様子を不安そうな顔をしてのぞいてくる柚樹。何か自分が間違えたことを言ってしまったと思っているのだろう。


「それは、、、。恋とか、そういう意味で?」


「うん。、多分?最近はずーっと湊都の事考えちゃうし、一緒にお話ししていたいし、湊都の顔を思い出すと、ここら辺がぎゅーってなる。これって、恋、なんでしょ?」胸のあたりを押さえて柚樹がそう言った。



「それを踏まえてもう一回聞くんだけどさ、俺のところ、くる?」


「うん。もし、ミナトがいいなら。」


「俺が提案してるの。」


「でも、私迷惑。」


「俺が。ゆずと一緒にいたいの。俺も、ゆず

が好きなの。」


柚樹は未だに湊都の言葉に戸惑いを隠せなかった。

人から愛されるということを未だに知らないにもかかわらず、恋をしてしまい、しかもその相手に同じ感情を向けられているなんて、なかなか信じることができない。


「じゃあ、決まりね?」


行く場所もどうせないし。と思いながら柚樹は頷いた。


数ヶ月後。柚樹は普段通り歩けるようにもなり、皮膚の状態も安定してきた。


そしてついに退院の日。


「大変だったね柚樹ちゃん。でもまぁ、湊都面倒見てくれるなら大丈夫だからね。安心して。」


「はい。お世話になりました。」


「じゃあ、また定期検診でねー」


と手を振る遥希にお辞儀をして、湊都の車に乗り込む。




























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