第75話 討伐報告
やってた
レッドドラゴンの討伐に成功した僕たちは、報告のため村へと戻ってきた。
まずはワイバーンを倒したことを話すと、村長さんはホッとした顔で、
「本当にありがとうございます。これで村人たちも安心して眠れます」
「実は報告はそれだけじゃない」
「と、言いますと……?」
「山にレッドドラゴンがいた。ワイバーンはたぶん、ただの手下」
「れ、れ、レッドドラゴン~~~~ッ!?」
シーファさんが告げると、村長さんは驚きのあまりその場でひっくり返ってしまった。
さらに頭を抱え、血相を変えて叫び出す。
「は、早く逃げなければ……っ! もうこの村はお終いだぁぁぁっ!」
「心配要らない。すでに私たちが倒した」
あわあわと狼狽えていた村長さんの動きが止まった。
「……はい? 今、なんと……?」
「すでに倒した。これ、レッドドラゴンの鱗」
シーファさんが見せたのは、直径三十センチくらいある巨大な赤い鱗だ。
討伐を証明するため、レッドドラゴンから剥ぎ取っておいたのである。
ちなみにこれ一枚でも金貨数枚の価値はあるだろうとのこと。
「れ、レッドドラゴンを討伐した!?」
「した」
「しかもこの人数で!? ひょえぇ……」
ひょえぇって……。
「ちなみに死体を持ち帰ってきた。確認する?」
「も、持ち帰ってきたのですか!?」
「家の外に置いてある」
「外に!?」
村長さんは慌てて窓から家の外を覗いた。
「ぎゃあああっ!?」
そこに置かれていた巨大なレッドドラゴンの死体に、悲鳴を上げる村長さん。
ちょうどすぐそこに顔があったせいだ。
確かに死んでいるとはいえ、あれを目の前で見たらびっくりするよね。
当然すごく目立つので、村人たちが家から出てきて遠巻きに眺めている。
さすがに怖くて近づく勇気はないのだろう。
一応、レッドドラゴンの隣にはワイバーンの死体も置いてあるんだけど、悲しいかなレッドドラゴンと違ってまったく注目されてない。
「こんなものをどうやって山から……?」
「それは秘密」
うん、家庭菜園に乗せてここまで運んできたんだよね。
「ほ、本当にありがとうございました……。しかし、見ての通りこの寂れた村です……レッドドラゴン討伐に、十分な報酬を出せるものか……」
「その心配はない。代わりにレッドドラゴンの死体をもらっていく。素材を売ればかなりの額になるはず」
「あ、ありがとうございますっ。ですが、売るとしてもザリまで行かなければ……持ち運ぶだけでも一苦労では……?」
「大丈夫。考えてある」
家庭菜園を使えばアーセルの街まで一瞬だからね。
「それではせめて、感謝の宴会を設けさせてください。と言っても、家畜の被害が多くて大した料理は出せませんが、お酒なら――あっ! ……お、お酒、飲まれますか……?」
若い女性ばかりだということに気づいたのだろう、村長さんはハッとして確認してくる。
「お酒を飲むのは……アニィとサラッサくらい?」
僕とセナはまだ成人したばかりだし、お酒を飲んだことがない。
シーファさんは飲めないようなので、飲むとしてもアニィとサラッサさんだけだ。
「も、申し訳ありません!」
なんだか村長さんが可哀想に見えてきた。
そのときふと良いことを思いついて、僕は言った。
「だったら食材を提供させてください。それで料理を作っていただければ」
「えっ?」
広場に設置されたテーブルの上に、ずらりと大量の料理が並べられている。
美味しそうな匂いが漂ってきて、僕のお腹がぐうと鳴った。
僕が提供した大量の食材を使って、村の女性たちが腕によりをかけて作ってくれたのだ。
すべて家庭菜園で収穫し、収穫物保存によって保存していたもので、その鮮度と味には自信があった。
もちろん一体どこにこんな量の食材があったのかと村長さんに驚かれたので、魔法袋に収納していたのだと説明した。
リルカリリアさんが持っていたあの便利な魔道具だ。
レッドドラゴンもそれで運んできたのかと、勝手に納得してくれた。
村人たちが集まってきて、羨ましそうにこちらを見ている。
「ママ、お腹空いたよ……」
「ダメよ、あれは村を救ってくれた冒険者さんたちのものだから」
「食べちゃいけないの? あんなにいっぱいあるのに?」
「そうね、もし余ったら食べられるかもしれないわ」
家畜被害のせいで、きっと十分な食事ができていなかったのだろう。
大人も子供も随分と痩せている。
僕は集まっている村人たちへ呼びかけた。
「皆さん、こんなにたくさんの料理、どう考えても僕たちだけじゃ食べきれません! だからぜひ一緒に食べましょう!」
村人たちは互いに顔を見合わせた。
「い、いいのか……?」
「村を救ってもらったお礼なのに……」
「そもそも食材は彼らが提供してくれたんだろう……?」
そんなふうに遠慮している大人たちとは対照的に、
「食べていいんだって!」
「やったぁ!」
「ぼく、おにくたべたい!」
「あたしも!」
子供たちは我先にと一斉に駆け寄ってきた。
「はぐはぐはぐ!」
「お、おいしい!」
「うまぁぁぁっ!」
マナーなんて関係ないとばかりに、手掴みで料理を次々と口の中へと掻き込んでいく。
「沢山あるから急がなくていいよ!」
よっぽどお腹が空いていたんだろう。
そんな子供たちを見て、村の大人たちも料理を手に取った。
「っ!? 何だこれ!? めちゃくちゃ美味いぞ!?」
「ほんと! こんなに美味しいの初めて食べた! 村ではお馴染みの料理なのに!」
「食材だ! 食材が全然違うんだ!」
一口食べるや、彼らは目を丸くして驚く。
それからはほとんど子供と一緒だった。
最初の遠慮はどこへやら、子供に負けない勢いでがつがつと食べ始めた。
「うまぁぁぁぁいっ! 何じゃこりゃぁぁぁぁっ!」
って、村長さんまで。
「はっ!? も、申し訳ありませんっ! あまりの美味しさに取り乱してしまい……」
「いえ、いいんですよ」
「しかし、本当に我々まで食べてよかったのでしょうか……?」
「はい。そのために沢山作ってもらったんですし」
実は元から村の人たちに食べてもらうつもりだったんだよね。
「おおおおおおおおおおおおっ! なんてっ! なんて良い方たちなんだぁぁぁっ!」
突然、村長さんが地面に膝を突いて慟哭し始めてしまった。
「ちょっ、やめてくださいよっ!」
「この御恩、一生忘れませぇぇぇんっ!」
村長さんは大袈裟だけれど……ともかくみんなに喜んでもらえてよかった。





