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第66話 長旅は家庭菜園で 4

「それで、今は遠征中だというのは確かなのだな?」

「はい、間違いありません。冒険者ギルドによれば、往復で一週間はかかるとのことです」

「よし、ならば今のうちにこの向こう側を調べよう」


 見えない壁の高さが五メートル程度であることが判明したため、エリザベートは壁を超えることを検討していた。


「よろしいのですか? わざわざこっそり調べなくとも、領主権限で調査することが可能ですが?」

「それもそうだが……何となく、事前に通知しておかない方が良い気がするのだ。まぁ、ただの勘だが」


 そこに高さ五メートルの壁があるという前提で考えれば、それを乗り越えるのは難しいことではなかった。

 先端に鍵爪を付けたロープを引っかけるという、原始的な方法で彼女たちは壁を越えることに成功する。


 不思議なことに、壁を越えたその瞬間、先ほどまでは見えなかったはずの壁がはっきりと認識できるようになった。


「こ、これは……っ!?」


 そして壁の向こう側に広がっていたその光景を前に、エリザベートは立ち尽くす。


 かつてあったはずの沼地など影も形もない。

 ただ広大な畑が広がっていたのである。


「……いや、畑だと?」


 自分は夢でも見ているのだろうかと思い頬を抓ってみるが、間違いなく痛い。

 すぐ目の前の一帯には立派なナスビがなっているし、その隣の一帯には真っ赤なトマトが見える。


「閣下、これは一体……」


 配下の騎士たちも目を丸くしていた。


「沼地を開拓して畑にした……? この短期間で……? そもそもあやつらは冒険者なのだろう……?」


 次々と疑問が頭に浮かんでくる。


 と、そのときだ。

 ズンズンズンズンっ、という激しい地響きとともに、彼女たちの方へ近づいてくる巨大な影があった。


「っ! ご、ゴーレム!?」


 身の丈は五メートル。

 あのアトラスを倒したゴーレムほどではないが、それでも十分な脅威だ。


「……もしかして、我らを敵と認識しておるのとか?」

「恐らくそうです! 早くお逃げ下さい!」


 騎士たちに促され、エリザベートは慌ててロープで壁を登った。


 エリザベートに続いて、騎士たちもロープを使って壁をよじ登ってくる。

 どうにかゴーレムに攻撃される前に、全員が壁の反対側へと逃げることができた。


「……どうやら壁の先までは追って来ないようだの」


 そろって安堵の息を吐く。

 もしあの大きさのゴーレムと戦闘になっていたら、精鋭の騎士たちと言えどただでは済まなかっただろう。


 しかし収穫も大きかった。


「今はまた見えなくなってしまったが……この謎の壁に、ゴーレム……やはりあのとき我らを助けてくれたのは……」


 エリザベートは確信する。

 と同時に、新たな疑問にぶつかってしまった。


「ただ……彼女たちはあのときダンジョンに潜っていたことが確認されておる……」


 ダンジョンの入り口にはその出入りを管理するための監視員が配備されている。

 しかもそれは冒険者ギルドではなく、領主が派遣しているので、嘘を吐くとは思えなかった。


「一体どういうことなんだ……?」




     ◇ ◇ ◇




「二匹ともいなくなったから。もう心配は要らないぞ」

「ひひん」


 ミルクとピッピを家に上げ、視界からいなくなって、ようやく安心してくれたようだ。


「よしよし、ニンジンあげるから明日もまたよろしくな」


 頭を撫でてやりながら、菜園で採れたニンジンを食べさせてやった。

 けれど一口齧った瞬間、


「~~~~っ!? ひひひぃぃぃんっ!」

「えっ、今度はどうしたのっ?」


 突然、後ろ脚で立ち上がる馬。

 さっきよりも激しく暴れ始め、一体どうしたのかと僕は困惑する。


 アニィが呆れ顔で言った。


「あんたのニンジンのせいじゃない?」

「これ?」


 齧られたニンジンを手にしていると、馬が首を伸ばしてきて僕の手ごとパクリ。


「ちょっ!?」

「ひひ~~~~んっ!」


 どうにか口から引き抜いたけれど、唾液でベトベトだ。

 そんな僕を後目に、馬は嬉しそうに飛び跳ねている。


「ひひん! ひひん! ひひん!」


 まるで犬のように尻尾を振りながら、もっともっととおねだりしてくる。


「そ、そんなに美味しかったんだ……」


 確かにうちの菜園のニンジンは美味しいけれど……馬にも味が分かるんだね。








 その日は我が家でしっかり休んで――もちろん僕とセナ以外はそれぞれの自宅に戻った――翌日、菜園間転移で再び昨日の地点へ。


「わっ!?」


 すると目の前に緑色の肌をした気持ち悪い生き物がいたので、めちゃくちゃ驚いた。

 ゴブリンだ。


「グギャギャギャッ!」


 相手も突然現れたこちらにびっくりしつつも、すぐに石器みたいなものを手に躍りかかってくる。

 ひぃっ、殺される!?


「ほい」

「ギャッ!?」


 思わず腕で頭をガードしたけれど、いつまで経っても衝撃は来なかった。


「お兄ちゃん、もう倒したよー」

「え? あ」


 恐る恐る腕を下ろすと、ゴブリンは胸の辺りを一突きされて倒れていた。

 死んでいるようだ。


「……セナが倒してくれたのか?」

「そだよー。ていうかお兄ちゃん、ゴブリンなんかにビビり過ぎ! ぷぷぷ!」

「い、いきなりだったからびっくりしちゃったんだよ!」


 それにしてもいつの間に倒したんだろう?

 僕にはまったく見えなかったけど……。


 新米とはいえ、さすが冒険者なだけはあるってことかな。


 だけど今後はちょっと気を付けないといけないな。

 今回はゴブリンだったからよかったけど、もっと危険な魔物が近くにいたら大変だ。


 菜園を壁で囲っておくか、ゴーレムを置いておくかして、周囲の魔物を排除しておくようにしよう。


 そんなちょっとしたトラブルがありつつも、僕たちは二日目をスタートしたのだった。


「ひひ~~~~んっ!」


 今朝もニンジンを食べさせてやったからか、馬はやる気満々だ。

 ……と言ってもこの馬、ただ走るだけなんだけど。


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