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第31話 メガゴーレム初陣 1

 スキンヘッドの男、ハゼアは苛立っていた。

 二人の配下を送り出してから、すでに三分以上は経っている。

 本来ならとっくに戻ってきていい時間だった。


「おい、あいつらは何をやっている? 無力なガキ一人捕まえるだけで、何でこんなに時間がかかってやがる?」

「た、確かにちょっと遅いかもっすね……。室内は暗いですし、見つけるのに苦労しているのかも……」

「ちっ、鼠を探してるんじゃねぇんだぞ。こんな狭い家、人間一人くらい十秒で探し出せ」


 彼らはこの都市を中心に活動するギャングの人間だった。

 中でもハゼアはまだ三十代ながら幹部職に就いており、若い構成員たちから慕われ、畏怖されている。


 だが先日、ギャングに入って以来、最大とも言える大失態によりボスから顰蹙を買ってしまい、今は降格の危機にあった。


(ボスは前々からあの女を欲しがっていた。だから色々と手間をかけて準備を整えていったってのによ。あのチビ商人のせいで台無しだ)


 ハゼアは顔を歪める。

 あのポピット族の商人にやられたままでは、彼の矜持が許さなかった。


(あいつは絶対に生かしてはおけねぇ。オレに喧嘩を売ったこと、後悔させてからあの世に送ってやる……ッ!)


 そのために、あの商人と関わりが深いらしいこの家の少年を拉致しようと考えていた。

 ……その少年こそが彼の失態の最大の原因だったのだが、彼はそこまでのことは知らない。


「っ……兄貴、戻ってきたみたいっす」


 配下の声で意識を現実に戻すと、確かに玄関の向こうから足音が聞こえてきた。

 ドアが開き、慌てた様子で二人の配下が飛び出してくる。


「す、すいやせんっ!」

「失敗しました……っ!」

「何だと?」


 予想外の報告に、ハゼアは眉を吊り上げる。


「おい、どういうことだ? ガキ一人もまともに捕まえてこれねぇのか?」

「そ、それがっ、猫のような生き物がいましてっ……」

「猫だと?」

「た、ただの猫じゃねぇっす! 恐ろしく動きが素早くて、牙も爪も鋭く――ひぃっ!?」


 ハゼアが目にも止まらぬ速さで剣を抜き、彼らの鼻先を掠めるようにして斬撃を放った。


「てめぇらの言い訳は後で聞く。おい、お前ら、こいつらの代わりに捕まえてこい」

「「「は、はいっ!」」」


 今度は五人の配下が一度に突入していく。

 しかししばらくすると、彼らの怒声や悲鳴が聞こえてきた。

 さらに何かと戦っているような音が響いてくる。


 家の中からではない。

 庭の方からだ。


「……何が起こってやがる?」


 さすがにハゼアも異常に気がついた。

 幾らなんでも、無力な子供一人に、こうした荒事に慣れた配下五人がこれほど手間取るはずがない。


「オレが行く。てめぇらも付いてこい」


 残る配下を引き連れ、ハゼアは自らその家へと踏み込んだ。


 ごく普通の庶民的な一軒家である。

 家の中には入らず、塀に添って交戦の音がする方へと進んでいく。


 やがて辿り着いたのは、家の半分くらいの広さがある庭だった。


「てめぇら、ガキ一人捕まえるのにいつまで手間取ってやがる!」


 そう怒鳴りつけながら、ハゼアが庭へと立ち入ったそのときだった。


 人影がこちらへ躍りかかってくる。

 ハゼアは反射的に剣を振るっていた。


 ザンッ!


 身体を両断され、倒れ込む人影。

 よく見るとそれは土の塊だった。


「ゴーレム……? 何でこんなところに?」


 ゴーレムは一体だけではなかった。

 闇に紛れ、彼の配下たちと戦っている。


 どうやらこのゴーレムたちに阻まれていたらしく、ターゲットらしき少年の姿が庭の向こう側にあった。


「こんな雑魚相手に邪魔されてんじゃねぇぞ、コラ」


 吐き捨てながら、ハゼアは別のゴーレムをまたしてもたった一撃で粉砕する。

 だが三体目を仕留めたところで、彼は信じがたい光景を目にすることになった。


 また新たなゴーレムが生まれていたのである。


「兄貴! こいつら幾ら倒しても何度でも出てくるっす!」

「ちっ、邪魔をするんじゃねぇ!」


 ハゼアは次々とゴーレムを切り倒していく。

 その早さは新たなゴーレムが生まれるのを上回っており、徐々にゴーレムの数が減っていった。


 ハゼアは庭の奥にいる少年を睨みつけた。


「おいガキ、これはてめぇの仕業か? 余計な手間をかけさせやがってよ」


 目の前のゴーレムを斬り捨てると、庭を縦断し、少年へ近づいていく。


 すると少年が走り出した。

 逃げ場などない、と思いきや、よく見ると庭はさらに奥まで続いていた。


 この大きさの家にしてはあり得ない広さだ。

 まるで隣の一軒を取り壊し、そのままそこも庭にして繋いでしまったかのようである。


「ちっ……手間かけさせるんじゃねぇっつってんだろうがよ!」


 ハゼアは少年の後を追いかける。

 そのとき、突然、視界が一気に暗くなった。


 月が雲に隠れたのだろうか。

 一瞬そう考えたハゼアは、何かに激突してしまう。


「っ……な、何だ?」


 まるで柱にでもぶつかってしまったような衝撃を受け、よろめくハゼア。

 そのまま顔を上げ、


「は?」


 口から変な声が漏れた。


「――――」


 というのも、目の前に高さ五メートルはあるだろう巨人が立っていたのだ。

 しかも一体だけではなかった。


 後退っていると背中に衝撃を受け、振り返る。


「――――」


 そこには別の巨人がいた。

 ハゼアは右を見る。


「――――」


 そこにも巨人がいた。

 左を見る。


「――――」


 やはり巨人がいた。


「は、はは……冗談だろう……?」


 乾いた笑いを零しながら、ハゼアはその場に尻餅を突いた。


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