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第25話 鍛冶工房を守れ 1

 シーファさんのお父さんが営む鍛冶工房は、重苦しい空気に包まれていた。


「だ、騙されたんだ……」


 職人の一人が項垂れながら呟く。

 すると別の職人が声を荒らげた。


「だから言ったんですよ! あんな怪しげな商人と取引なんてしない方がいいって!」

「だ、だが、これ以上ないくらいの好条件だったし……」

「それはちゃんとお金をもらえたらの話でしょう! 最初から払う気なんてなかったんですよ!」

「う……」


 さっきまであんなに笑っていたはずの親父さんが、職人に責められて真っ青になっている。


「どうするんですか、これ……」


 職人が指さした先にあったのは、完成したばかりの剣たちだ。

 ざっと見ただけで百本はありそうだった。


 剣は決して安くない。

 これだけの数が無事に売れていれば、相当な儲けになっていたはずだ。


 当然、剣を作るにもお金をかかる。

 さっき借金がどうとか言っていたけど、元から経営が苦しかったのだとすれば、これは大打撃だろう。


「け、契約書だ。契約書を持ってこい! それで商人ギルドに訴えて……」

「だからその商人ギルドに所属していない偽商人だったんですよ! そんな契約書を持っていったところで、取り合ってもらえるはずないでしょう!」


 ……なんか、とんでもない現場に居合わせてしまったみたい。


 それにしても一体、誰が何のためにこんなことをしたのだろう。

 新品の剣はここにあるし、何の利益にもならないはずだ。


「おいおい、随分と騒がしいじゃねぇか」


 背後から嘲笑するような声がした。

 振り返ると、スキンヘッドの厳つい男が遠慮することなく中に入ってきた。


 騒々しかった工房内がシンとなり、緊張に包まれる。


「な、何の用だ? 約束は三日後のはずだろう?」


 親父さんが裏返りそうになった声で訊く。

 するとスキンヘッドは口端を歪めて、


「いや、念のため改めて確認しておこうと思ってなァ? ちゃんと用意できるかどうかをよォ?」

「だ、だから、もうすぐ金が入ってくると……」


 どうやら親父さんはこのスキンヘッドに借金をしているようだ。


「ハハッ、それが心配だからだよ。例えば、取引先に逃げられたりしてないか、とかな?」

「なっ……」


 そこで親父さんは何かに感づいたらしい。


「ま、まさか、あれはお前らの差し金か……っ!?」

「オイオイ、何の話だ? まったく身に覚えはねぇな? それより、本当に金は用意できるんだろうな?」


 ワザとらしく白を切るスキンヘッド。

 親父さんの言い分が正しければ、こいつは借金を返せないよう、わざわざ裏で手を回していたってこと? なぜ?


「パパ、借金なら心配ない」


 それまで成り行きを見守っていたシーファさんが口を開いた。


「……シーファ?」

「火山エリアのネームドボスを倒した。だから攻略報酬がたくさん入ってくる。そのお金を使えばいい」

「「「おおおっ!」」」


 職人さんたちが湧いた。


「さすがはお嬢だ!」

「まさか火山エリアを攻略するなんて!」


 だけどそれには親父さんが難色を示した。


「ま、待て。娘に払ってもらうなんて……それに……」


 言い淀む親父さん。

 嗜虐的な笑みを浮かべたスキンヘッドが、その理由を口にした。


「期限は三日後だもんなァ? もちろんそれ以上は絶対に待てねぇぞ? 果たしてそれまでに報酬が入ってくるかなァ?」

「……」


 シーファさんが珍しく眉根を寄せる。

 その反応からするに、どうやら攻略報酬が入るまで少し時間がかかるらしい。


「もし期限内に払えなければどうなる?」

「担保はこの工房だ。つまり廃業ってことになるなァ」

「っ……」


 親父さんが必死に訴えた。


「も、もう少しだけ待ってくれ! そうすれば必ず返せるはずだ! 祖父の代から続けてきた大事な工房だ! 俺の代で潰すわけにはいかねぇ!」

「ハッ、そんな事情、知ったことじゃねぇなァ? こっちはこれまでに何度も延長してやってんだ。待てねぇもんは待てねぇんだよ」


 スキンヘッドは無慈悲に突っ撥ねる。

 こいつはわざわざ裏で手を回してあえて借金を返せないようにしていたわけで、応じるはずがないだろう。


 しかしそうまでしてこの工房が欲しいものなのかな?

 こんなことを言うのは悪いけれど、古い工房だし、そこまでの価値があるとは思えなかった。


 スキンヘッドが帰った後、工房内は重苦しい空気に包まれていた。

 ほんの数分前との落差に、居たたまれない。


 シーファさんが申し訳なさそうに言ってきた。


「ごめん、ジオ。こんなことになって」

「いえ、気にしないでください。それより何か僕にできそうなことがあれば言ってください。何でもしますから!」

「うん、ありがとう」


 こうなってはもはやデートどころではない。

 僕は早々にシーファさんの家を後にしたのだった。


 自宅に帰りながら、僕は考えた。

 けれど何かいいアイデアが思い浮かぶはずもなく。


「そうだ。リルカリリアさんに相談してみよう」


 彼女なら何かいいアドバイスをくれるかもしれない。

 本当なら今すぐ会って話をしたいところだけれど、生憎リルカリリアさんがどこにいるのか分からない。


「あ、商人ギルドに聞けば分かるかな?」


 というわけで、僕はリルカリリアさんの所属している商人ギルドに足を運んだ。


 冒険者ギルドよりずっと大きな建物で、常に大勢の人が出入りしている。

 中は市場のような騒がしさだった。


「すいません、リルカリリアさんに会いたいんですが」

「リルカリリアですか? 申し訳ありませんが、分かりかねます」

「そうなんですか?」

「彼女は神出鬼没の商人で、我々でもどこにいるのか把握していないのです。もちろん登録された拠点はありますが、そこにいることはないでしょう」

「そうですか……」


 受付のお姉さんに言われて、仕方なく帰ろうとしたそのときだった。


「ジオさんじゃないですかー? どうされたんですかー?」

「リルカリリアさん! よかった! 探してたんですよ!」






「なるほどー、そういうことだったんですねー」


 僕が事情を話すと、リルカリリアさんはいつもの調子で頷いた。


「はい。それでどうにかできないかと思って」

「うーん、そうですねー。その金貸しさんがやったという証拠がないとー、訴えるのは難しいと思いますねー」

「そうですか……」


 まぁでもそれは想定内のこと。

 僕はポケットの中からあるものを取り出し、リルカリリアさんの前に置いた。


「これは……き、金鉱石ですかーっ?」


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