第23話 天使と謎デート 1
「たっだいまー」
「おお、おかえり。なんかいつもより元気だな」
「ニィ~」
セナが帰ってきた。
「分かるー? 明日からしばらく冒険がお休みなんだ~っ!」
「そうなのか?」
「実はね、火山エリアってところのネームなんたらを倒したんだよ!」
「ネームなんたら?」
「うん、魔物なんだけど、今までで一番強敵だった! でも報酬いっぱい貰えるんだって! なんかみんな驚いてた!」
「へえ~」
よく分からないが、どうやら頑張ったようだ。
しかし幾ら【剣神の寵愛】というレアギフトを持っていると言っても、まだほんの駆け出しだ。
「足を引っ張ったりしていないか?」
「大丈夫! あたしはいつも大活躍だよ!」
こいつは昔から根拠のない自信だけはあるんだよなー。
きっと本人は気づいていないだけで、周りに負担をかけているだろう。
アニィはともかく、シーファさんにはしっかりお礼を言っておかないと。
「さーて、眠って眠って眠りまくるぞー!」
「それでいいのかお前の休日の過ごし方」
まぁここのところ休みなく頑張ってたし、少しくらいはだらけてもいいか。
「あ、そうそう、お兄ちゃん。シーファちゃんが会いたいって言ってたよ」
「えっ、シーファさんがっ?」
「うん。なんかね、ポーションのお礼だって」
「い、いつ会いたいって?」
「そこまでは聞いてないけど、明日おうちに行ってみたら? シーファちゃんもお休みだよ」
「そ、そうか」
やったぁ!
ついにきた。
以前、少しそんな話が出たけど、その後はさっぱり聞かなかったので、立ち消えになってしまったのかと思ってた。
どうやら律義に覚えていてくれたらしい。
「ニィニィ?」
「ごめんな、ミルク。明日はセナが面倒見てくれるから」
「ニィ……」
「そ、そんな悲しそうな顔しないでくれ。その日のうちには帰ってくるから。……たぶん」
そうして翌日。
今日は昼まで寝ると宣言していた妹のためご飯を作り置きしてから、家を出ようとしたところで、来客があった。
こんなタイミングで誰だよと思いながら出てみると、そこには銀髪の天使がいた。
「ジオ、おはよう」
「し、シーファさんっ? お、おはようございます!」
「ええと……今、大丈夫だった?」
「もちろん大丈夫です!」
「でも、どこか出かける格好してる?」
「い、いえ、その」
シーファさんの家に行く予定だったんです、とは何となく恥ずかしくて言えず、しどろもどろになってしまう。
「? でも大丈夫ならよかった」
「は、はい!」
不思議そうな顔をするシーファさんだけど、どうにか誤魔化せたようだ。
「今日は時間ある?」
「ありますあります!」
「そう? じゃあ……一緒に、お出かけしない……?」
断られるのが不安なのか、少し躊躇うようなその言い方に、僕はキュンとしてしまった。
か、かわいい……っ!
シーファさんみたいな美人のお誘いなんて、きっとどんな男でも急用すら投げ捨ててOKするだろう。
なのに恐る恐るといった感じで誘ってくるところが最高すぎる。
これでシーファさんに男性経験がないことが証明できるね。
うん、間違いない。
「ポーションのお礼、したいと思って……ジオ?」
「あ、すいませんっ。もちろん大丈夫ですよ! 今日はずっと暇ですし!」
「よかった」
こうして僕はシーファさんと一緒にお出掛け、もといデートすることになったのだった。
「回復ポーションに氷冷ポーション、どちらもすごく助かった」
「いえ、僕は素材を提供しただけですし……」
「だけど素材がないと作れない。それに、すごく安く手に入った」
二人で道を歩きながら、シーファさんが礼を言ってくる。
どうやら本当に彼女の役に立ってくれたらしく、僕は【家庭菜園】に感謝する。
「でも、シーファさんも、妹の面倒を見てくれてありがとうございます。……足引っ張ったりとか、迷惑かけてないですかね?」
「そんなことないよ? セナはすごく優秀。すでにパーティの主力になってる」
「そうですか?」
口ぶりから言って、リップサービスといった雰囲気じゃない。
やっぱり【剣神の寵愛】は強力なギフトなのだろう。
まぁ主力云々はさすがに言い過ぎだろうけど。
「それで……どこに行きますか?」
「考えてきた」
「ほ、本当ですか?」
「うん。頑張って考えてみた」
どうやら僕のためにわざわざデートプランを考えてくれたらしい。
それだけで嬉しくて、僕は顔がニマニマしてしまう。
そんなところを見られたらカッコ悪くて仕方ない。
僕は顔をシーファさんの反対方向に向けた。
「……?」
やがてシーファさんに連れられてやってきたのは、
「えっと、ここは?」
「冒険者ギルド」
「……ですよね」
なぜ冒険者ギルドなのだろう?
でもきっとシーファさんには何か考えがあるはずだ。
そう思い、後についていく。
「ここがロビー。あそこが受付け。あれが掲示板。二階が宿屋になってる」
シーファさんは一つずつ説明してくれる。
もちろん僕は知っていた。
冒険者になることが夢だったので、何度も来たことがあるからだ。
「地下には訓練場。行ってみる?」
「は、はい」
頷くと、シーファさんは地下へと続く階段を下りていった。
するとそこにあったのは、広々とした空間だ。
ここは冒険者たちの訓練用に開放されていて、今も剣を振ったり魔法を練習したりしている冒険者たちの姿があった。
まぁここも来たことあるんだけどね。
その様子をじーっと眺め続けるシーファさん。
これは一体、何の時間なのだろう?
内心で首を傾げていると、シーファさんがこっちを向いた。
「ジオ、楽しい?」
「え? あ、はい……」
「よかった」
シーファさん、謎すぎる。