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第18話 氷冷ポーション

「うへー、暑い~」

「うん、もう少し先に行くと火山エリアだから」

「火山エリア?」


 シーファの言葉に、セナは首を傾げた。


「ここのダンジョンは幾つかのエリアに分かれているのは知ってる?」

「初耳!」

「そう。全部で五つのエリアがある。今まで攻略してきたのは洞窟エリアで、この先には火山エリアがある。洞窟エリアとは環境も魔物もがらりと変わってしまう」


 ほんの基礎知識も知らない新入りに、シーファはイヤな顔一つせずに解説する。


「火山エリアはあまり人気がないところね。まぁ探索するだけでもキツイし、当然だけど」


 補足したのはアニィだ。


 シーファが率いる女三人組のパーティは現在、洞窟エリアの中でもかなり奥の方にまでやってきていた。

 洞窟エリアはダンジョンの入り口から広がっていて、最も難易度が低いとされている。


「他にはどんなところがあるの?」

「森林エリアに遺跡エリア、それから水中エリア」


 それぞれのエリアは複雑に連結し、そうして一つのダンジョンを形成している。

 どのエリアも、必ず洞窟エリアを通らなければ辿り着くことができない。

 そのため洞窟エリアは基礎エリアとも呼ばれていた。


「このうち最も難易度が高いと言われているのが、水中エリア。今のところ攻略者はゼロ」

「攻略者って?」

「エリアのどこかにいるボスを倒した者のことよ。洞窟エリアにもボスはいるけど、しょっちゅう誰かに倒されているから、なかなか遭遇することはできないわね」

「……次点で火山エリア。水中エリアに次いで環境が厳しく、挑むパーティは少ない。ただ、その分あまり荒らされていないから、挑戦できれば稼げる」

「水系の魔法を使える魔法使いがいるか、もしくは耐熱性の装備があればねぇ。じゃないと、あっという間に干上がってしまうのよ」

「へー。干物は好きだけど、自分が干物になるのは嫌だなー」


 先輩たちの説明に、セナは暢気な感想を口にする。

 そのとき何を思ったのか、シーファがカバンの中をごそごそと漁り始めた。


「二人とも、これを見て」

「これは……ポーション? 見たことない色ね」

「きれいな色~。氷みたーい」


 シーファが二人に見せたのは、マーリンの薬屋で入手したばかりのポーションだった。


「氷冷ポーション。これを飲めば火や熱への耐性を得られる……らしい」

「え? それ本当?」

「マーリンが言うには」

「す、すごいじゃん。マジなら火山エリアにも挑戦できるってことでしょ?」


 驚くアニィに、シーファは力強く頷いてみせた。


「何でそんなポーションが?」

「ヒヤリ草という滅多に手に入らない草を原料に作った」

「ヒヤリ草? 聞いたことないわね……。って、まさか」

「ジオから買ったらしい。恐らく菜園で作られたもの」

「お兄ちゃん~……余計なことを~……」


 セナがぼそりと恨みがましく呟くのを余所に、シーファは自分の分を一本残すと、氷冷ポーションを一本ずつ二人に手渡した。


「ただし、まだマーリンも効果は確かめてないらしい。実験台になる代わりに、この三本はタダで貰った」

「なるほど。ということは遠慮なく飲めるってわけね」

「でもちょっと美味しいそうかも~?」


 三人は躊躇なく氷冷ポーションを飲み始めた。

 マーリンの薬師としての腕を信頼しているのだ。


「っ! つっめたーい!」

「キンキンに冷えてるわね!」

「頭が痛い……?」

「わっ、あたしも!?」


 冷たいものを一気に飲んだため、三人は締め付けられるような強い頭痛に襲われた。


 それはすぐに収まったのだが、今度は全身をぶるぶると震わせ始める。


「「「寒い!」」」


 さっきまで汗を掻いていたはずなのに、代わりに氷水に浸かっているかのような寒さに襲われていた。

 汗があっという間に引いていく。


「すごい効果ねっ!」

「早く火山エリアへ」

「へっくしょい!」


 三人は慌てて火山エリアへと足を踏み入れた。


 そこはあちこちで溶岩が流れる灼熱の地。

 まだ比較的マシな入り口付近であっても、真夏のような気温がある。


 だが氷冷ポーションを飲んだ彼女たちは、まったく熱さを感じることはなかった。


「むしろひんやりしている感じね」

「うん、ちょうどいい」

「過ごしやすそー」


 どうやらこのポーションの効果は本物のようだ。

 それから彼女たちはしばらくエリアの入り口付近を探索することにした。


「溶岩に近づいても大丈夫のようね。さすがに直接浴びたら厳しいでしょうけど……」

「えー? ダメかなー?」

「ちょっ、なに触ろうとしてんの!?」


 セナが溶岩に手を突っ込もうとしていたので、アニィは全力で止めた。


「「「グルルル」」」

「っ……それより魔物よ!」


 現れたのは全身の毛が炎に包まれた犬だ。

 フレイムドッグと呼ばれるこの魔物は、ここ火山エリアによく出現し、特に群れで襲いかかってくることが多かった。

 今も五体がシーファたちを取り囲んでくる。


「えーい!」

「ギャウンッ!?」

「あれ? 弱い?」


 しかし単身で飛び込んでいったセナによってあっさりと蹴散らされた。

 シーファとアニィは顔を見合わせる。


「今の、見た?」

「うん。斬られたら身体の炎が弱まった……ように見えた」

「もしかしてこれも氷冷ポーションのお陰かしら……?」


 どうやら氷冷ポーションを飲むと攻撃に冷気が乗るらしく、それはフレイムドックにとって弱点なのだろう。

 そして恐らくはこのエリアの魔物の大半に当てはまると思われた。


 その後、およそ一時間でポーションの効果が切れてきた。

 悪くない効果時間だ。


「このポーションがあれば探索も容易」

「どれくらい入手できそうかしら?」

「たぶん幾らでも」

「……しばらくこのポーションのことは隠しておきたいわね。少なくともわたしたちがこのエリアを十分に探索し尽くすまでは」


 そうして彼女たちは、しばらくの間、火山エリアを集中的に探索していくことに決めたのだった。



    ◇ ◇ ◇



「つい勢いで栽培してしまった……」


 僕はそれを前にして、期待と後悔の入り混じった思いでいた。


 直径三十センチほどの巨大な卵。

 青白い色をしたそれは、何を隠そう魔物の卵だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 壁]・)フェンリルの卵 もふもふ(//∇//)
[一言] 魔物の卵(食べられない) ※食べちゃダメよ妹ちゃん
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