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第130話 元凶を叩く

「た、た、た、大変だぁぁぁっ!」


 エルフの青年が血相を変えながら叫び、どこかへと走っていく。

 ちょうどシーファさんのお爺さんの家を出たところだった僕たちは、一体何事かと互いに顔を見合わせた。


「広場の方。行ってみよう」


 どうやら青年は里の広場へと駆けていったらしい。

 後を追いかけてみると、そこで青年が必死に訴えていた。


「ど、ドラゴンだ! 森の奥にドラゴンが出たんだっ! しかも、猛烈な瘴気を巻き散らす恐ろしいドラゴンだ……っ! 一緒にいたみんなが、その瘴気にやられて……うっ……」


 青年はその場に膝を突く。

 よく見るとその身体から、黒ずんだ蒸気のようなものが立ち昇っていた。

 これが瘴気だろうか?


「だ、大丈夫かっ!?」

「おい、近づくな! お前も瘴気にやられるぞ!」

「誰か、ポーションを持ってくるんだっ!」


 青年の話を聞いていたエルフたちが慌て出す。

 僕たちはすぐに青年の傍へと駆け寄った。


「ポーションです!」


 そしてマーリンさん製のポーションをかけてあげる。

 するとそれまで苦しそうにしていた青年の呼吸が落ち着いてきた。


 だけど身体を覆っている瘴気は消えない。

 すぐにまた苦しみ始めた。


 ダメだ、ポーションじゃ瘴気を祓うことができない。

 どうしたら……あ、そうだ!


 僕は収穫物保存スキルで保存していた聖水を取り出した。

 これならもしかして……。


 ばしゃん!


 聖水を思い切り振りかける。

 祈るように待っていると、青年に纏わりついていた瘴気が聖水によって浄化されたのか、ゆっくりと消えていった。


「やった、効果があった」

「瘴気が……?」


 瘴気が消失したことに驚いてしばし呆然とする青年だったけれど、ハッと我に返ると、懸命に訴えてきた。


「こ、このままじゃ森が大変なことになるっ……それに、みんなが瘴気にやられて、里に戻ってくる前に倒れてしまって……っ!」

「落ち着いて。私たちがどうにかするから」


 逼迫した状況のようだ。

 僕たちは青年から向かうべき方向だけ訊くと、すぐに走り出した。


 里の外に置いておいた家庭菜園に入ると、念のため僕たちも身体に聖水をかけておく。

 すると一瞬で今まで感じていた息苦しさが消えた。


「どうやら瘴気のせいだったみたいね」


 シーナさんの体調が悪かったのは、それと気づかないくらいの微量の瘴気に、少しずつ身体が侵されていたからだろう。

 里のエルフたちは耐性があり、ハーフエルフのシーナさんだけが影響を受けていたのだと思う。


「結界の中にまで瘴気は入って来ないはず」


 僕は菜園を青年が逃げてきたという方角へと走らせる。

 するとその途中で倒れているエルフを発見した。


 菜園の中に入れると、彼にも聖水をかけてやる。


「うう……っ? ぼ、ぼくは一体……?」

「気が付いた? しばらく聖水の効果が続くはずだから、今のうちに里に帰って」

「は、はいっ?」


 エルフの青年は困惑しつつも、シーファさんの【女帝の威光】の力か、言われた通りに里の方へと走っていった。


 さらに何人かのエルフたちを救いつつ、森の奥へと進んでいくと、段々と周囲の光景にも異変が現れ始めた。


「木々が枯れてる……」


 きっと瘴気の影響だろう。

 あっという間に葉っぱが腐り落ちていくのを見るに、もし菜園の結界がなければ、僕たちも無事では済まないほど強烈な瘴気のようだ。


 しかもそれは急速に拡大しているようだった。

 このまま放っておくと、森全体が瘴気に侵食され、エルフの里もそれに呑み込まれてしまうことだろう。


「元凶を叩く」


 シーファさんが決意の籠った目で、森の奥を睨む。

 見ると、そちらから禍々しい色をした煙が空へと立ち昇っていた。


 け、結界があるからと言って、あんな場所に行って大丈夫かな……?

 でも今さら引き返せないし、結界を信じるしかないよね。


 さらに行くと、もはや木々が完全に腐敗し、森が失われてしまっていた。

 毒々しい色合いの更地が広がっていたのだ。


 その中心にいたのは、一匹の巨大なドラゴンだ。

 灰色の鱗に覆われ、全長は二十メートル近い。

 信じられないことに、あのレッドドラゴン以上の巨体なのだ。


 それが口から瘴気に侵された唾液を吐き出し、周囲に巻き散らしている。

 その一部が結界に飛んできたので身構えたけれど、幸いちゃんと防いでくれた。


「っ……ま、まさか、邪竜ファフニール……っ!?」

「サラッサさん、知ってるんですか?」

「危険度S級とも言われているめちゃくちゃ恐ろしいドラゴンです……っ!」


 危険度S!?

 ちょっ、そんなの、一つの冒険者パーティで太刀打ちできるような魔物じゃないでしょ!?


 さ、さすがに逃げるしかないんじゃ……。

 今のところ菜園隠蔽のお陰か、ファフニールは僕たちの存在に気づいていないし。


「サラッサ、魔法を」

「た、戦うんですかっ?」

「もちろん。森と里を救う」

「わ、分かりました……っ!」


 でもシーファさんは戦う気満々だ。

 サラッサさんが得意の雷撃魔法の詠唱を始める。


「ジオ、奴に近づけて」

「は、はいっ……」


 僕はシーファさんの指示に従い、菜園を前進させた。

 近づくにつれて瘴気の雨を頻繁に浴びるようになったけれど、今のところ結界がちゃんと機能してくれている。


「シャアアアアアッ!」


 と、そのときファフニールがこちらを振り向いた。

 威嚇するように喉を鳴らしている。


 気づかれた!?

 菜園隠蔽を使っているはずなのに……そ、そうか、結界にぶつかった瘴気液が結界に当たって跳ね返っているから、それを怪しんでるんだ!


 このドラゴン、意外と知能が高いのかもしれない。


 こちらへ近づいてくるファフニール。

 しかしそのとき、サラッサさんの魔法が炸裂した。


 ピシャアアアアアアアアアンンッ!


 ……やったか!?


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― 新着の感想 ―
[一言] [やったか?] の時は大体やってない
[一言] 農園ごと体当たりした方が早いのでは… と思ってしまった自分はもう毒されてる。
[一言] (๑╹ω╹๑ )これで肉片になってたらなってたでドン引きです
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