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第107話 ヒドラ討伐 4

 一番ヒドラに近い位置にいたロインさんが、毒の息を浴びて卒倒した。


「ロイン! くそっ、アンチポイズンポーションをっ……」


 慌ててアンチポイズンポーションを取り出し、ロインさんに駆け寄ろうとするパーティメンバーのマットさん。

 だけどそれをバルーゼさんが制する。


「待て! かなり強力な毒のようだ! まずは自分で飲んでから――ぐ……っ?」


 バルーゼさんがよろめいた。

 どうやら毒の息はすでに周辺一帯にまで拡散していて、しかも少し吸い込んだだけで熟練の冒険者をふら付かせてしまうほどらしい。


 みんな慌ててアンチポイズンポーションを飲み干す。

 ヒドラの毒対策のため、しっかりと準備してきたのだろう。

 だけど、


「っ……バカな……アンチポイズンポーションでも、毒が……」

「い、意識が……」

「ラグナっ!? くっ……僕も……」


 どうやらアンチポイズンポーションでも解毒できないほどらしい。

 苦し気な呻き声とともに、みんな次々と地面に膝を突いていく。


「このままでは…………っ!? な、なぜ、君たちは平気なんだっ?」


 クリスさんが驚いたのは、唯一シーファさんのパーティだけ平然としていたからだ。


「……何ともないわね?」

「うん、へーき」

「何でですかね……?」

「たぶん、これ」


 シーファさんが掲げてみせたのは、アンチポイズンポーションだ。

 彼女たちも毒の息に対抗するためそれを飲んだのだけれど、


「マーリン製だから」

「なるほど……普通のアンチポイズンポーションとは効果が段違いなわけね……」


 僕の菜園で収穫したシイ草を使い、マーリンさんが作ってくれたもので、やっぱり並のアンチポイズンポーションよりも優れているらしい。

 スチュパリデスの毒も完全に無効化してくれたしね。


 もちろん結界に護られている僕も無事だ。


「ひふひょ(行くよ)」

「~~ッ!?」


 セナがポーション瓶を口に咥えたまま、黒蛇へと突っ込んでいく。

 自分の毒が効かないとは思っていなかったのか、黒蛇は元気に向かってくる相手に怯んだ。


 ブシュウウッ!


 セナの剣に斬り裂かれ、黒蛇の身体から血が噴き出した。

 それを浴びたセナが顔を歪める。


「っ! 血には息以上に強力な毒が混じってるのかも! セナちゃん、返り血を浴びないように気を付けて!」

「おーあい(りょーかい)」


 セナは飛び下がって距離を取ると、その場で出鱈目に剣を振り回した。

 にもかかわらず、黒蛇の身体に次々と傷が刻まれていく。


 ミランダさん製のこの剣は、斬撃を前方に飛ばし、離れていても敵を攻撃できる特殊効果を持っているのだ。


「セナちゃん、避けてください!」

「っ!」

「ライトニング!」


 サラッサさんの雷撃が黒蛇の頭部を焼いた。

 ついに力尽きたのか、黒蛇が地面に倒れ込む。


「ふう、どうにか倒せたわね」

「うん。みんなも無事」


 セナたちが戦っている間、シーファさんが毒で倒れた人たちを回収し、マーリンさん製のアンチポイズンポーションを飲ませてあげていた。


「う、うぅ……こ、ここは……? はっ、ヒドラはっ!?」


 目を覚ましたロインさんが、慌てて周囲を見回す。


「倒した」

「そ、そうなのですか……?」


 全員が毒から回復してから、シーファさんは状況を説明した。


「どうやら君たちと、その薬師さんのお陰で我々は命拾いしたみたいですね……」

「もしお前さんたちが飛び込みで参加することになってなかったと思うと、ぞっとするぜ」

「ありがとう」


 みんなが感謝の言葉を口にする中、セナが明後日の方を向いて言った。


「一番はお兄ちゃんのお陰だよー」


 ……僕がいるのはそっちじゃないぞ?







 それから街に戻った僕たちは、依頼主の代官さんに無事にヒドラを討伐したことを報告した。

 代官さんに大いに喜ばれながら街を後にし、ランダールへ。


「皆さん、お疲れさまでした」


 冒険者ギルドに集合して、ロインさんが労いの言葉を口にする。


「予想よりも危険な魔物でしたので、恐らく特別報酬が出ることになるでしょう。特に大活躍だったシーファさんのパーティには色を付けてくれるようにと、私の方からギルドにお願いしてみます」


 今回の一件で、シーファさんの株が大きく上がったみたいだ。

 僕は戦ったわけじゃないけど、それに少しでも貢献できたのなら嬉しい限りである。


 ヒドラの死体は、後日、冒険者ギルドから回収チームが派遣されることになるという。

 素材を買い取って得られた収益については、各パーティで均等に割り振るそうだ。


「それと、あのアンチポイズンポーションの代金を教えていただけますか? その分をお返ししたいので」


 律義なことに、ロインさんは使ってもらったポーションの分を支払うという。


「ただ、あれだけの効果です。恐らく相当な値段がすると思いますので、少しお支払いは待っていただくことになるかと……」

「値段は普通のアンチポイズンポーションと変わらない」

「えっ? さ、さすがにそんなはずは……」


 シーファさんの言葉にロインさんが目を丸くしているけど、実際それは本当だ。

 いや、むしろシーファさんたちには普通よりも安く売ってくれているほどだ。


「凄いですね……あれだけの効果があるのに……。はっ、もしかしてそのポーションを精製したのは、マーリン氏では……?」

「そう。マーリンのポーション」

「やはり! 今この街の冒険者や薬師の間で話題になっているのです。他の薬師には生成不可能なポーションを幾つも作り出し、アーセルのダンジョン攻略に大きく貢献した薬師がいらっしゃると! 彼女に弟子入りするために、アーセルに引っ越した薬師もいるくらいです」


 ……どうやらマーリンさん、アーセル以外の街でも有名になっているらしい。


書籍1巻が発売中です。

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― 新着の感想 ―
[一言] マーリンの弟子選考は厳しいだろうなー
[良い点] 数あるご都合tuee物の中にあって、エグみの少ない作品。「走る農園」と言うばかばかしくも面白く愉快な設定が光る良作。 [一言] 映像化されればその面白可笑しさも倍増間違いなし。作家ガチャに…
[一言] 最悪マーリンさんごと菜園内に匿う事態になりかねんなぁ
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