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四神戦隊レイジュウジャー  作者: 沢木佑麗/雲月
第一章 都市連邦編
8/103

『水運都市モーヴ』

 ほんの沖合での日常的な漁に出るだけなのに、この物々しい船団は一体どういうことだ、と考えながら、ニコラは腰に手を置いて船首に立っていた

 しかし、こうして漁船を守る船が追随していてくれないと、漁どころか、漁師たちにも危害が及ぶ状況にまで関係が悪化していることは、すでにこれまでの事件で明らかなことだった。

《あのバカ息子が……!》

 思わずニコラの肉厚な唇から悪態に近い呟きが漏れる。そして潮風にも負けぬ豊かで艶のある黒髪を翻し、船尾を振り返ると、他の漁船にもよく通る声で言った。

《さあ、漁場に着くよ! 今日は連中に邪魔だてされないうちにすばやくやっちまうからね!》

《アイサー!》

 空はまだ暗い。しかし船の上は活気に溢れており、加えて、ここ最近の魚人との小競り合いのことも相まって、海の男たちの意気は上がっていた。

《オリャアッ》

 男たちが次々と網を投げる。まるで花が開くように漁網が海面に広がり、沈んでいく。

 まだ海は「内海」らしく穏やかで、ここが二種族間の争いの場になっているとは思えない平凡さに包まれている。

《油断しないで! アタリが弱くてもいいから適当なところで網を引き揚げちまうんだ!》

 何度網を切られ、網を握っていた漁師たちが海の中に落されたかしれない。死人が出たりといったところまではいかないまでも、ニコラの、漁師ギルド長としての誇りにかけて、これ以上魚人たちに先手を取られるような状況は許せなかった。

 しかし、彼女の用心も、無駄に終わった。

 漁船を守るはずの、冒険者たちが乗った船から喚き声が聞こえたからである。

《何事?!》

 すると、網を手繰り寄せていた漁師の一人が、悔しそうに言った。

《だめだ、切られてやがる!》

 ニコラはその漁師が見せた、ざっくりと切れて魚たちがぴちぴちと逃げ出している投網を忌々しく睨みつけると、大きく舌打ちした。

《ちっ、他の船は?!》

 と視線をぐるりと巡らせると、最初に喚き声が聞こえた船が船尾から海に沈みかけているのが目に入った。

《穴を開けやがった! 冒険者どもは何をしてる?!》

 別の船では、舷側に手をかけ船を揺すって転覆させようとしている魚人と、漁師と冒険者とがそれを撃退しようと棍棒や剣の柄などで追い払おうとしている。が、魚人は攻撃がくるとみるや水中に姿を隠してしまうので、船上の者たちは劣勢を強いられていた。

《姐さん、いっそのこと、こいつら……》

 と漁師の一人が業を煮やしたように言いかけたのを、ニコラはぴしりと遮った。

《それは絶対にだめよ。いい? この海域は彼らの住処でもあるんだから。傷つけあったら、すぐに戦争になっちまう。それだけは絶対にだめ。どっちかが全滅するまで続いちまう》

 また別の船が横倒しに水中に没した。喚き声が妙に虚しく滑稽にニコラには聞こえた。

《冒険者なんて言っているけれど、不甲斐ないねえ》

 自分の乗っている漁船にも魚人の水かきのついた手が舷側に張り付くのが見えたので、ニコラは手近にあった櫂でバチン、と叩き、そのまま張り飛ばすようにして魚人の横面を殴りつけていた。奇妙な叫び声をあげて魚人は跳ね飛ばされてボチャン、と船から離れた海中に落ちた。そして周囲の状況を見ると、情けない気分になりながら、一声、叫んだ。

《引き上げるよ! 落ちた連中をすくい上げるのを忘れないように!》

 来た時よりも少なくなった船団で港へと引き返しながら、ニコラはこうした対処療法的な方法では解決しない段階にきているのではないかと、白み始めた空を睨みつけ、苦々しく考えていた。


*****


 漁師たちが港を離れた頃、時空戦艦ファンロンの艦長室兼会議室では、壁面のモニタに映し出されている地図を、『麒麟』キリルを始め、レイジュウジャー四人が見つめていた。

「先ほど帰艦したジルコンのメモリから取り出したデータから再現した水運都市モーヴの俯瞰図だ。この大きな河川の中州の中にできた街のようだな。街の中にもその支流や人工的に掘った水路が縦横に走っている。ここは歩くより船を使ったほうが速そうな地形をしているな」

「城壁はないようですが、この河川が街を取り囲んでいるため、その代わりをしているようですね」

 と青山龍児が言うと、続けて鳳朱音がその河の上にかかる大きな橋を指さし、

「橋が街への出入り口になっているって感じね。どうする? 街の外に転送してもらう? それとも、中?」

「あの通行証があれば、橋のところで止められたとしても、平気なんじゃね?」

 白井大牙が大好きなチョコバーをくちゃくちゃと食べながら楽観的に言うと、亀梨玄人が苦笑しながら言った。

「グレイウォールに入る時みたいにあれやこれや聞かれないで済むんなら、普通の旅人みたいに外から入った方が自然じゃのう」

「では転送は街の外の人目のつかない場所を選んですることにしよう」

 とキリルが決定すると、龍児がやや懸念をこめて尋ねた。

「転送も含めてですが、ここに空中浮揚しているためのエネルギーは足りるのでしょうか」

 キリルは龍児の心配も当然だと言いたげに一つ頷いたが、その表情はそれほど曇ってはいなかった。

「ここまでの移動もほぼ慣性力を使ったし、ここにとどまるのもほとんど反重力システムに頼るつもりだから、それほどエネルギーを食うこともないと思われる。それに、この高度なら五行パワーを吸収できるようなのだ。蓄積はできなくとも、日々の消費量をまかなうには十分だと思われる。さらに、君たちが話していた通り、この付近は「水」の力に満ちているようだ。だからエネルギーのことは心配せずともよい。むしろ、君たちの方が難しい問題にぶつかるのではないかと危ぶんでいる」

「なんでだよ?」

 大牙の飾らない問いかけに、キリルは彼に視線を向け、

「君たちの情報からすると、この街は現在魚人との抗争に悩まされているということだったな。つまり、亜人種との争いということになる。我々はこれまで様々な地域、惑星で亜人種と接触してきた。そしてその争いにも介入してきた。その際に最も難しいのが「正義」という観念の違いだった。我々が味方する側の正義とあちら側の正義、それはどちらも正義なのだ。我々があちら側を打ち負かす結果となったのは、その正義の貫き方に対し、それを良しとしない惑星連邦の裁可があったからだ。もちろん、妲己一党のように完全なる悪である存在もあるが、亜人種はヒトに近い分、思考も近い。つまり、簡単に魚人側を責めるわけにはいかないと思われるのだ。ここは惑星連邦の裁可を仰げる場所ではない。だから君たちの判断にかかっているといっても過言ではない。よく見極め、慎重になる必要があるだろう」

「なんか、めんどくせ」

 と不真面目に呟いた大牙の頭をぺしっと叩いた朱音は、自分のバックパックの中身を確認しながら、

「そろそろ夜が明けます。転送するなら今のうちですよね、ボス。ほら、いつまでもそんなもの食べてないで、行くわよ、タイガ」

 とくちゃくちゃとやり続けていた大牙を急き立てた。

 キリルはモニタを消して先に立ってエレベータに乗り込むと、転送室のあるフロアに降り、彼らを飾り気のない小部屋へと通した。

「…ここを使うの、大万魔宮殿に迫った時以来ね…」

 朱音がつぶやく。もう何か月もたった気がする四人だった。だがまだ2週間ほどしか経っていないのである。

「さあ、転送装置の上に乗れ、転送するぞ」

 キリルが転送装置の脇にあるコンソール盤に向かったので、四人はバックパック一つのいつもの普段着姿で、装置の上に乗った。

「では朗報を待つ」

「ラジャ」

 キリルがコンソール盤に滑らかな手つきでコマンド入力をすると、彼らの乗る台座と真上にある天蓋のようなところから虹色の光線が放射された。それが四人を包み、透過した。

 みるみる彼らの姿が薄れ、そしてついに掻き消えたのを見届けたキリルは、一つ大きくため息をつくと、ジルコンと共にこのところ習慣となっている、エンジン効率を上げるための方策を練るために、ブリッジへと戻って行った。


*****


 瞬き一つ、呼吸一つの間に水運都市モーヴのやや西寄りの北端に、彼らは降り立っていた。河が近いせいか、やや湿気を感じる。疎らに長い草が生えているが、きちんと整備されていて、葦で視界を遮られたり、雑草で足を取られたりということはなかった。

彼らの目にも、左手に大きめの石橋がかかっているのが見え、そこに篝火がともっているのが伺えた。迷わずそちらへ足を向ける。

果たして、石橋には衛士が一人立っていた。そして彼らをじろじろと眺めてから、言った。

《姓名と出身地、ここに来た理由を言え》

ここで、龍児が丁寧な手つきでバックパックから例の通行証を差し出すと、衛士は怪訝な表情を盛大に浮かべてそれを開いた。そして都市連邦評議会公認の印とグレイウォール衛士隊長のサインの入った立派な通行証に再び驚き、この風変わりな四人組の手元になぜこのように大層なものがあるのかわからないといった様子で、しばし彼らと通行証を見比べていたのだが、後方から息せき切って走ってきた別の衛士に気付き、そちらを振り返った。

《大変だ。水路にまで連中が入り込んできた。ここまで来るかもしれないから十分注意しろ》

これを聞いた橋の上の衛士は、通行証を龍児に突っ返し、中に入っても良いと身振りで示しながら、

《お前たち、冒険者なら、早速腕試しができるぞ。街の南の方へ迎え。そこで問題が起きている》

四人は顔を見合わせ、どうするか決めかねていたが、その時、まだ寝静まっている街にそぐわないものを感じた。遠くで怪人じみた喚き声が聞こえた気がしたのである。それから何かを破壊している物音。

 阿吽の呼吸で彼らはそちらの方に駆け出していた。

 水路に沿うように石壁の整然とした街並みが並ぶ中をしばらく走ると、そこに全く釣り合わないものがうようよと水路から這い上がってきては、覆いをかけて閉めてある市場の屋台を持っている槍で突き崩したり、この辺りの木でできた小さめの橋を同じく壊そうとしていたりした。

 衛士らしき者が彼らを見つけ、誰の手でも借りたいといった様子で声をかけてきた。

《冒険者だな? ちょうどいいところに! こいつらを叩きのめして、海に戻してくれ! 多少なら痛めつけていいが、殺すなよ!》

 今にもその魚人に必殺の一撃を叩きこもうとしていた大牙は、寸止めし、手加減した肘打ちをこめかみに撃ち込んで相手を昏倒させていた。

 朱音も回し蹴りで吹っ飛ばす程度にとどめ、龍児は当身をして懐に入り込むと、相手の持つ槍の柄を掴んで投げ飛ばした。

 すぐに彼らの周りには気絶した魚人の山が築かれていく。そこへ、玄人がどこから見つけてきたのか、荷車を引っ張ってきた。

《海に戻すっつうならこいつがあれば楽だと思ってのう》

 衛士が感心したように言った。

《これはまた今どきの冒険者の割にできるようだな。おかげでこの辺りを滅茶苦茶にされないですんだ。こうして水路から街の中へ侵入されたのはこれで三度目なのだ。だんだんと悪質になってきている。困ったものだ》

 そして、手際よく魚人たちを荷車に積み込んでいる四人を見、衛士は続けた。

《そいつらを海に捨てがてら、港の方も見てきてはくれないか。隊長の部隊が出動してはいるが、ここよりも数が出ていると思われるのでね。それにあそこには漁師ギルドの建物もある。奴らが狙う恰好の場所だ。私はバルトロ・ピッツァーリ、衛士隊副隊長だ。今回の働き、しかと見た。事態が落ち着いたら、詰め所に来るがいい。報酬を支払おう》

 街に着いて早々に騒動に遭遇したことに複雑な思いを抱きながら、四人は港方面に荷車を引いて歩き出した。

 その荷台で昏倒しているものを龍児は興味深い眼差しで眼鏡の奥から見つめ、言った。

「本当にこの世界はファンタジーワールドなんだなあ……これなんか、半魚人そのものだよ」

「架空だろうと、実在してようと、今現実問題として、このにおい、どうにかならないの?!」

 朱音が不平をこぼすのも仕方がなかった。山と積まれた魚人の身体からは強烈な生臭さがにおっていたからだ。

「海に住む魚人だから仕方ない……」

 と龍児が言いかけ、ふっと言葉を飲んだ。やや近い場所でわあわあという騒ぎが聞こえたのだ。それは他の者たちにも聞こえたらしく、大牙が言った。

「あの副隊長さんが言ってた通り、港の方はもっと混乱してるみてえだぜ。早くこいつら海ん中捨てちまってよ、そっちに行こうぜ!」

 そして玄人が引っ張っていた荷車の引手に手をかけ、小走りで無理やりに引っ張り出したのである。

「おい、あんまり急ぐとこいつらが崩れて…」

 と言う玄人の注意も聞かず、大牙はどんどん進む。案の定、途中、1、2体、魚人が転がり落ちた。だが、港の岸壁にはかなり早く到着し、彼らはひとまず魚人たちを海に戻した。

 その間にも、左手の、大きな建物がある方面から小競り合いの声が聞こえてきていた。また、沖の方からも何隻かの船がこちらへ向かってきているのも見えた。

「とりあえず騒いでる方が先ね」

 朱音の提案はそのまま決定事項となり、四人は漁師ギルドの建物の方へと走って行った。

 その場はかなりの乱戦だった。血も流れている。どちらかと言うと、魚人の方が優位に立っているように見えた。というのも、人間側が防戦一方である代わりに、魚人族側はそれをいいことに、そこここで破壊活動をしていたからだ。

今も、魚人の持つ細く鋭い矛の柄が冒険者らしい男の横面を殴りつけ、冒険者は呻いて尻餅をついていた。

「あんな連中、たいして強くねえのに、殺すなって言うからこんなに手こずってやがる」

「それもわかってて殺すなって言ってるからには、何か理由があるのよ。ボスも言ってたでしょ、亜人種との争いには慎重になれって」

 朱音に諭されても大牙はどこか不満の残る顔で突っ立っていたが、玄人にその肩口を小突かれ、むすっとした顔のまま彼を見上げた。玄人は顎で争いの場を示し、淡々と言った。

「とりあえずこれ以上血が流れるのを止めるのがわしらの役目じゃと思うがの」

「ちぇっ、ド派手にぶちかませねえと、つまんねえんだよっ」

 と大牙は言い捨てると、小さな疾風のように駆けだし、大混戦となっているど真ん中へ飛び込んでいた。

 見る間に、大牙に殴り倒されて動けなくなった魚人たちが積み重なっていく。それを見た朱音が失笑とも微笑ともとれる表情をして言った。

「なんだかんだ言ってあの子、ちゃんと言うこと聞くのよね」

「それは当たり前だろう、彼はレイジュウジャーのチームメイトだ。意見がぶれてどうする」

 と龍児が言った時、背後から複数の動く気配を感じ、彼らは振り向いた。

 そこには浅黒い肌をした大柄な体格の黒髪の女を先頭にし、ずぶ濡れの者や軽傷を負ったものなどが、ギルドの前での争いを目にし、愕然としていた。

《街の中にまで?! ギルドが…!》

 今にも魚人たちがギルドの扉を破らんと、その手に持つ矛で木の扉を一斉に突いては体当たりを繰り返している。

 女が反射的に動きかけたのを、玄人が押しとどめ、冷静に言った。

《あんさんはここにおれ。あやつらはわしらに任せておけ》

 女は玄人の穏やかながら、押しの強い一言に、素直なほどに従った。玄人は一つ頷くと、他の二人と共にギルドの扉を破ろうとしている魚人たちに向かっていった。

 彼らの手にかかれば、魚人たちの抵抗などないも等しかった。次々とギルド前から魚人族たちが排除され、中央では大牙が軽い身のこなしで侵入者たちをぶちのめしていた。

 ほぼ魚人族たちが一掃されたその時、四人は同時に別の気配を感じていた。それは女たちが佇むさらに後方から発せられていた。それはタタタッとヒレのついた脚でこちらへ突進してきている。

「新手?!」

 と朱音が咄嗟に身構える。

「いや、あれは僕たちが運んでいた魚人の一人じゃないかな。途中で何体か落としただろう」

 龍児は魚人たちを個体識別できていたわけではないが、顔面に血の跡が残っているのを見て取っていたのである。

 朱音が大牙に批判的な言葉を投げようとした時、その魚人は持っていた槍を大きく振り回しながら、浅黒い肌をした女に向かって突進していたのである。

《危ない、伏せて!》

 朱音が瞬間的に飛び出し、その女の身体を突き飛ばすようにして地面に押し倒していた。同時に、大牙の素早く長い跳躍が白んだ空を背景に弧を描き、着地すると同時に槍の柄を右手拳でぼきりとへし折った。続けて魚人に詰め寄り、肘でみぞおちを強く打って昏倒させていた。

《…あんたたち…》

 二十歳そこそこの若者たちに助けられ、呆気に取られていた女の元へ、長靴の音も高々と、駆け寄ってくる気配がしたので、彼女は朱音の手を借りずにすっくと立ち上がっていた。その女に駆け寄ってきた人物は感情的になるのをギリギリのところで押しとどめているような口調で言った。

《ニコラ、大丈夫か、怪我はなかったのか?》

《大丈夫よ、この冒険者さんたちが助けてくれたから》 

 このニコラという女性の言葉の中にどこかすげないものを感じたのは朱音だけだったかもしれない。

 すると、改めて立派なマントに板金鎧を装備した、すでに彼らにもお馴染みになった衛士隊の隊長と思われる人物から言葉をかけられた。

《見事な腕前であった。彼女を救ってくれたこと、そしてここへ助勢に来てくれたこと、感謝する。私はマウリツィオ・ボリエッロ。この街の衛士隊長だ》

《にしても》

 とニコラは辺りを見回し、積み重ねてあったトロ箱や出港しなかった漁船が破壊された光景に両腕を広げて慨嘆して見せ、

《衛士隊と冒険者が出張ってもこの惨状じゃ、やってられないね。こっちも散々さ。船はだめになる、網は切られる、怪我人も出るわで、漁どころじゃないよ》

《だから評議会にマーフォーク族の鎮圧の許可を……》

 と言いかけたマウリツィオに、ニコラはぴしゃりと言い返した。

《そこがわかってないと言いたいんだよ、あんたに。一匹でも殺してごらん、奴らは血縁の絆を重んじる種族だ。その殺された一族が復讐しにくる。そんなことになれば、お終いさ。だが、こんなことが続いていたらモーヴはとんでもないことになっちまう。どうにかしてあのバカ息子を改心させなけりゃ、この事態はどうにも収まらないと思うのさ》

《だが、今お前は狙われたんだぞ? それでもそんな悠長なことを言っているのか?》

《彼らと戦争になって街が滅ぶことと比べれば、私一人が傷つくくらい、なんてことはないね》

 と断言したニコラは、くるりと四人の方を向くと、

《きちんと礼も言えてなかったね。鮮やかな動きだったよ。ありがとう。そう言えばあんたたち、街じゃあんまり見掛けない顔だね。着いたばかりかい?》

《ええ、グレイウォールから着いたら、いきなりこのようなことに…》

 朱音が応えると、ニコラはすでに衛士隊など目に入らないかのような物腰で歩き出しながら、

《それは災難だったねえ。だけどそのおかげでこちらは大助かりだったんだから皮肉なものさ。そうだ、礼代わりに朝食をどうだい? それと、まだ宿も決めてないんだろう? うちの姉貴が季節漁師相手の宿をやっていてね。宿賃は安いから安心しな。だがメシはなかなかだよ、味も量もね》

 これに大牙が目を輝かせたのは言うまでもない。別段断る理由もないし、衛士隊長と対等に話せるこの女性にも興味を覚えた朱音は、率先して彼女のあとに従ったのだった。そのニコラの後ろ姿をいつまでも追い続ける衛士隊長の視線を感じつつ。


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