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“K”iller  作者: YOHANE
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笑顔


エレベーターで7階まであがり、佐々木と三田の住む709号室の位置を確認した。非常階段に近く、両隣には一般人の住人がいるらしく子供の声が聞こえてくる。しかし709号室の2人は外出中なのか、物音ひとつしなければ気配もない。


ただフラフラと部屋の前を徘徊して帰るのでは不審なので、適当な部屋のベルを押す。人の気配がしないその部屋の住人はやはり留守にしていた。

いかにも会えなくて残念だったという様子を装って溜め息をつくと、Kは何事も無かったかのようにエレベーターに乗り、今度は13階まで上がるとそこからは非常階段を使い自室のある階まで登った。足取りを紛らわすためのちょっとした工夫だ。



開錠して玄関を開けると、すぐに奥からパタパタと小さい足音が近寄ってきて、満面の笑顔でKに飛びついた。お腹と腰の辺りに衝撃があり、Kは慌ててアイラを抱き止める。後ろに一歩だけよろけたが、体勢を持ち直すと後ろ手に玄関を閉めた。

「おかえりなさいっ!」

腰の後に纏わりつき、動きが取れない。顔が見えなくてもその声は明るくて、彼女はにこにこと笑っているのが分った。出かける前の気まずさを思い出し苦笑にも似た息を漏らしたが、口元が綻んだ。

「アイラ、放せ…」

それから抱きとめた際に背中に回した腕を下ろし、静かに言った。

しかしアイラは首を横に振ると、力強くKにしがみ付く。引き剥がすことは容易だが、触れる温もりは不快ではなく、わざわざ離そうとは思わなかった。諦めたように立ち尽くして彼女の反応を待った。


「アイラ、ちゃんとお留守番できたよ!」

ぱっと顔を上げ笑顔で報告するアイラに、Kはいつも通りの無機質な目を向けた。この笑顔と澄み切った大きな瞳は何故だか調子を狂わせるようで、普段通りを維持するのに一苦労だ。


いくら子供だからとはいえ両親を殺された子、いつ事実を知って殺しにかかってくるか知れないから油断してはならない。

ひしひしと感じるアイラの好意が、いつ何の切っ掛けで悲しみと絶望の混じった殺意へと転換するか分らない。


そう自分に言い聞かせないとどうにも心のざわめきは収まらなかった。

純粋な好意にさえも警戒を払わなくてはいけない自分はやはりアイラとは生きる道が違うのだと思い知らされ、無表情にさらに影を落とした。

「そうか…」

アイラはきっと褒めて欲しいのだろうが、どんな言葉を言うか悩んでいるうちにタイミングを逃してしまって結局そっけない相槌だけを返した。

それを気にする様子もなく、アイラは遠慮がちに口を開く。

「だからね、ケイ、アイラお家にお人形さん忘れてきちゃったの…」

「人形?」

「クマさん…。お友達なの。取りに行っちゃダメ?」


人形が友達などと言う言葉はKには到底理解できないものだが、大切にしている物らしいことは伝わった。

しゅんとしながら、上目遣いでアイラはKを見つめている。

下がり気味の眉と大きな瞳に覗きこまれると、「無理だ」とは即答できなかった。人形くらい諦めろと言うのも躊躇われる。


けれど、あそこにはもう戻れない。


トップニュースになっている榊原夫妻の殺害事件現場のあの邸は警察とマスコミでごった返している。

そこにアイラを連れて行って何か好からぬ事を口走られでもしたら面倒なことになりかねない。それかそ夫妻が殺されたことを知り、いくらアイラでもあの夜突如と現れた不審者であるKを疑うだろう。

全国ネットで顔を晒されれば逃げ切れないアイラ質問攻めに遭い、榊原夫妻の隠し子だということもバレ、そうなるとKの事も芋づる式に知られてしまう。

これは何としても避けたいことだった。

裏社会では情報こそが重要で、いかにそれを隠し、逆に相手の情報は盗み取るか。それが命運を分けると言っても過言ではない。

些細な情報だとて寄せ集めることによって重大な事実を炙りだすこともある。


しかし自分が無理やりアイラをここまで引っ張って来た手前、このまま何も言わずに人形クマだからぬいぐるみだろうを諦めろとお願いを無碍(むげ)にすることもやはりできなかった。


悶々と考えた結果、やっとのことで口を開いた。

「買いに行くか?その…お友達、を……」

彼にしては、かなり頑張った言葉だ。眉間には縦皺が刻まれていて、苦虫を噛んだような顔をしている。なんだかすごく気恥しい。


友達を買いに行くなんて表現は良くないとは思うし、けれどその友達とやらはぬいぐるみだからそう言うしかなかった。ただ単にぬいぐるみを買いに行くと言えばよかったなんて事は思いつかなかったのだ。


「お友達を?クマさん?」

心持ち明るくなった声。まずい表現を気にも留めていないようで、Kは内心ほっとした。

「クマでもネズミでも。好きなのを選べばいい」

幸い金は腐るほど余っている。実際、腐ったものだ。使うことに抵抗はない。


人を殺す度に振り込まれる金は貯まりに貯まり、普通の17歳が到底持てる額でもないし、その辺のサラリーマンは一生手にすることのない額になっているだろう。滅多に通帳を開かないからその辺は詳しく把握していないが。


食費と生活費、あとは怪我をした時の治療代でたまにいくらか引かれているようだが、派手に金を使う機会がないのでどうしても溜まってしまう。

仲間内の散財するタイプの奴はブランドで身を固め、さらに女を数人侍らせても金に余りがあるようだから、Kは土地つきの家でも建てられるだろう。


なんとなく気持ちが暗く落ちていく中、アイラの笑顔と嬉しそうな声がそれを打ち消してくれた。

「お買いものいくの!?アイラもいっていいの??」

驚きと喜びの混じった顔はきらきらと輝いている。Kは静かに頷くと、アイラは手をパチンと叩いて、きゅっとKに抱きつく腕に力を込めた。

「わぁい!ありがとう、ケイ!!」

「…あぁ」

どうしてこうも笑うことができるのか?見ているだけで気持ちが晴れる。

どこにでもいるようで、今まで一度も出会ったことのない少女に良くも悪くも振り回されている自分は、数日前の自分が見たら驚くことこの上ないだろう。

冷たい平静を揺るがすものなど自分には在りはしないと信じていたのだから。


普段動くことのない頬の筋肉が持ち上がることに違和感を感じつつも、Kは笑むことを止められず、赤い手の幻影には目を瞑りアイラの頭を撫でた。

柔らかい髪が手に心地よい。アイラも首を縮めながら嬉しそうにに笑っている。


「もう行けるか?」

「うん!」

帰宅したばかりの部屋を後に、Kはアイラを連れ出した。

自然に握られた手に驚き、しかしゆっくりと優しく小さな手を包んだ。半分ほどしかない小さな白い手は、柔らかくて子供特有の温もりがあった。


罪悪感や後ろめたい気持ちが無いわけではないが、ただ小さな手の温かさだけに集中した。手を握られた記憶はないし、手がこんなに温かく柔らかいモノだとは知らなかった。

自分にもこんな手を持っていた時期があったのだろうか?

今はもうこんなにも罪に塗れた手を持つ自分にも、穢れなき頃はあったのだろうか…?


忘れられた遠い昔に思いを馳せたが、浮かぶ記憶は闇だった。



*・*・*・*


「ケイっ!あれなぁに??」

「…どれだ?」

アイカははしゃぎながら指を斜め上に挙げている。指し示す曖昧な方向に目を向けるが、一体何を指しているのか分らなかった。センスのない店かショーケースかまたはあの独特な服装のことか…。

アイラは軽く足を止め、目を凝らしてどう説明しようか悩んでいる。

「うんとね、あの赤く光ってるやつ」

「…信号機」

こんな物も見たことが無かったのかと、眉をしかめたのも何回目か。それでも引っ切り無しの質問にめげずに1つ1つ丁寧に答えてあげるとさらに嬉しそうな顔をした。

「しんごーき?」

「車が走る目印だ」

きょとんとした瞳で改めて問われると的確な答えが浮かばず、当たらずとも遠からずの答えを返すことも多い。何よりKも世間一般の事に詳しいわけではなく、必要最低限のことしか知らないが、街で目につく大方の物に対しては答えられそうで良かった。

数秒後に赤から青に変わった信号を見て、アイラが歓声をあげまた疑問をぶつけたことは言うまでもない。



マンションからしばらく歩いたところにおもちゃ屋がある。

アイラは初めて見るおもちゃだらけの世界に目を輝かせていた。Kももちろんこんな店に入ったことは無く、しかめっ面で辺りを見回す。

あまり楽しめそうにない雰囲気だ。

楽しげな音楽が店に流れ、親子連れが目立った。あれ買って、これ買ってとせがむ子供を両親がやれやれといった様子で宥める微笑ましいシーン。

Kはそれから目を逸らすと、他の子と同じようにKの腕を引っ張り「早く、早く!」と急かすアイラに促され足を進めた。


アイラは唐突に足を止めると、物珍しそうにおもちゃを手に取った。

いつの間にか放されてしまった手を物寂しいと感じ、その感情を慌てて否定した。

仕方なく、迷子にさせない為に握っていた手が離れて心配になっただけだ。それか、手が冷えるのを無意識に嫌がったかのどちらかに違いない。

頭に浮かんできたごちゃごちゃまとまらない考えを消し去った。


おもちゃを手にとって凝視しているアイラに「買うか?」と問うと、彼女は逡巡したのちに首を横に振った。

遠慮はいらないのに、余計なものは買わないように教育されているようだ。

そんなこんなで目的のぬいぐるみコーナーに着くまでには長くかかったような気がする。

「かわい〜!」

ふわふわとしたぬいぐるみが棚に所狭しと置いてある。

天井まで届く棚が両側にあり、Kはかえって買いにくいだろと冷静に分析すると同時にそこにいるだけで咳き込みそうだった。

彼にすればどれも似たり寄ったりで、よくもこんなに種類を集められたものだと感心した。

そんなKとは逆にアイラは辺りを見回し、目を輝かせている。口なんか半開きだ。

クマを見つけると嬉々として駆け寄っていった。テディベアといってもいろいろ種類があり、色も大きさも様々である。大きな丸く黒い瞳は、アイラの瞳に負けず劣らず輝いている。

けれど、笑顔でアイラに優っている物は無い。


「うーん、どうしよぉ…」

どれも魅力的らしく、あちこちに目移りをさせながらぬいぐるみを手に取っていく。ふわふわとした手触りに、思わず胸に抱き頬を寄せたりもしている。


「…全部買うか?」

「えっ!ほんとっ!?」

アイラは目を丸くして驚いていた。そしてグルリと辺りを見回し、目を瞬かせながらKを見つめた。どんな幸せな想像をしているのだろうか。

あのマンションの部屋いっぱいにぬいぐるみを詰め込み、身動きが取れないくらいに囲まれて過ごす光景が思い浮かび、アイラは嬉々としていられるだろうが自分は到底無理だなと判断する。


「嘘だ。10体ぐらいまでにしてくれ」

真面目に思案するアイラに思わずククッと笑いを洩らしつつ言った。自分から冗談を言っておいて悪いと慌てて手で口を押さえるが、驚きぽかんとした様子のアイラに抑えきれなかった。


実際金銭的には全てのぬいぐるみを買っても余裕はあるのだが、置くスペースがない。この量があの部屋にぎゅうぎゅうと詰みこまれれば、寝る場所の確保すら難しくなる。それこそ埃っぽくなって咳が止まらなくなりそうだ。

「10こも持てないよ…」

アイラは自分の両手を見ながら極々真面目にそう呟く。どうしようかとこれまた本気で考えているようだ。

冗談を言った事を怒るかと思っていたKは面喰って、また吹き出した。肩を震わせながら笑うKを見てアイラも無性に嬉しくなり笑顔をみせる。


「3つぐらいなら持てるか?1つくらいなら俺が持ってやる」

笑いで涙の滲んだ目で言うと、アイラはパッと顔を上げた。

「ほんとう!?」

「あぁ」

今度は冗談ではないと頷いてやると、アイラはあっという間にパタパタ駆け出して行った。多少悩みながらあちこちの棚を巡り2つのぬいぐるみを選ぶと、その様子を見守っていたKの元によろけながら戻ってきた。大きさは50センチくらいだが、2つを持てる身長はアイラにはまだ無い。視界が塞がれていて足もとが覚束ない。

「これとこれとね…」

なんとか転ばずに来たアイラからネコとキリンのぬいぐるみを受け取る。手に馴染む柔らかさには心和み、彼女が好むのも少し分った。ネコなんかは首に付いた鈴が軽やかな音を鳴らしている。


両手が自由になるとアイラはまたぬいぐるみ棚に駆け寄り、今度も2つ抱えてきた。けれど、どちらも似たような種類である。

「あとね、こっちのクマさんと、このクマさん、どっちがいいと思う?」

真剣な表情をするアイラの両手には、白いクマと茶色いクマがあった。どちらも黒々とした大きな瞳の愛らしい表情で、首には鮮やかな赤いリボンをして飾り立てられている。


趣味がいい、と思いかけた瞬間、ふと不意に首元のリボンが首から流れる血に見えてた。そこから首が千切れ、赤い血が滴るような錯覚。ただまっ黒な瞳も生気を失った人間のそれに見える。一度その印象がつくと、なかなか頭から離れない。さっきまで少なからず可愛いと思っていたそれらが不気味に映る。

さらにちょうど色違いを2つはアイラの両親にダブる。


「ねぇ、ケイ。どっちがいい?」

何も知らないアイラは愛らしく首を傾げながら問うが、Kは顔をしかめテディベアから視線を逸らす。

「…俺にそういうことは分らない」

できればそのぬいぐるみは止めてほしい。

愛らしいぬいぐるみの顔もひどく歪んで見えてしまう。今までそんなことはなかったのに、病んできているなと自嘲気味に薄く笑った。


「ケイはクマさん嫌いなんだ…」

どう解釈したのかは知らないが、明らかに機嫌が悪くなったKを見てアイラはそう思い至った。不味いことを言ってしまったのかと不安げに下を向き、表情に輝きが無くなる。

「…違う」

そう呟くとアイラの説明を求める視線を感じたが、そのまっすぐな瞳を受ける事はできなかった。

赤いリボンとその色違いのテディベアが首を切って殺した人々に、またアイラの両親を連想させるからだと言えというのか。


「何が好き?」

けれど気を取り直したらしいアイラが言うと、Kは胸を撫で下ろしながらアイラと彼女の抱えているぬいぐるみから視線を外しKは辺りを見回す。

陳列されているどれもがつぶらな瞳で「買え」と訴えかけてくる。気のせいかもしれないが。


ややあって、Kは棚に手を伸ばすと無造作に1つを掴みとった。

アイラが選んだテディベアを尊重し一応クマであり、赤いリボンを巻き付けていないものを選んだ。

それを渡すと、アイラはきょとんとそのぬいぐるみを見ながら呟いた。

「しろ、くま…ケイはシロクマさんが好きなの?」

心底意外だと思われているのはその表情でわかる。事実、シロクマなんて好きでも嫌いでもない。ぱっと目に入ったものを取っただけだ。おかげで少し後悔するくらい可愛さに欠けている。

「あぁ」

少々バツが悪く感じながら取り敢えずそう答えると、アイラはテディベアを元あった位置に戻しに行った。けれど棚は際どい高さで、取る時にはギリギリ大丈夫だが、戻すとなるとあと少しの所で手は届かず、ケイに助けを求めるような視線をよこした。

ケイは短く息を吐き、キリンをアイラに持たせるとテディベアを受け取り棚に返した。あまりにもあっさり戻してしまったので、アイラは羨ましそうな目をしている。


4本の足で立つシロクマは可愛いさよりはリアルさを追求したものだった。さらには毛足も短く、手触りもネコやキリンに比べ劣っている。レジに行くまで何度ももうちょっとマシなものを選べば良かったと後悔しつつも、嬉しそうにシロクマを抱くアイラを見るとこっちもその気持ちに感化されてしまった。


「それでいいのか?」

「うん!ケイが好きなシロクマさんだもん!!」

会計まで持って行ってする質問ではないが、やはり確認せずにはいられなかった。Kがネコとキリンをレジに置くと、アイラも真似てシロクマをレジに出した。

店員は整った顔立ちと独特な雰囲気を纏うKに思わず見とれてしまったが、仕事中だと気付くと頬を染めながら視線を外す。女性の店員の視線に気づくと、Kは不機嫌さをあからさまに顔に出したが、それでもやはり美しさは隠しきれていなかった。

一緒にいるアイラも可愛らしくて、でも顔立ちや雰囲気を含め共通点は無く、血は繋がっていだろうになぜ一緒にいるのだろうかと余計な詮索をしながらレジを打った。


キリンとネコは袋に詰められたが、シロクマだけはどうしても抱いて帰りたいとアイラがせがんだので今はアイラの胸に抱かれている。

空いている片手は来た時と同じように繋がれていて、嬉しそうにニコニコと笑顔を見せ続けているアイラはスキップをしながら歩いた。手が不規則に揺れて歩きにくいが、なんとか合わせながら歩を進めた。

和やかな慣れない雰囲気に戸惑いつつも、知らずと笑みが零れた。


途中夕飯と明日からの食材が無い事を思い出し、久し振りにスーパーに寄った。家にあるのはガスコンロと水道。確か、鍋とフライパンも備えられていたはずだ。ごはんは炊ける、だろう。

食事のメニューを考えることはめったにないKは米と卵だけを買った。卵は栄養価が高く、調理への応用も利く。

アイラは終始落ち着きなくキョロキョロしてばかりで、手を繋いでいなかったらきっと走り回っていたところだ。けれど手を引かれているうちにスーパーを隅々までまわってしまい、他の客からは親子とも兄妹とも見えない2人に興味の混じった視線を送られてしまった。多数の視線に晒されることのないKにとっては居心地が悪いことこの上なかった。


やっとマンションに着いたころには、もうお昼を回っていた。時折、アイラはぐーっと腹の虫を鳴らし、Kもかなり気疲れしていた。

アイラがいるのでエレベーターで15階まで登らなくてはいけないため、辺りを注意深く見回し不審な人影がないことを確認すると、エレベーターに乗り込んだ。アイラは精一杯背伸びをして「15」のボタンを押すと満足げに微笑んだ。

チン、と甲高い音がして扉が開くとそれを合図に勢いよく駆け出してKの部屋の前で立ち止まった。少し遅れて追いついたKが鍵を手渡すと、少し苦戦しながら開場すると顔の位置にあるドアノブを捻った。けれどドアは子供には重いらしく、結局Kが手伝って部屋に入ることができた。


部屋に入ると急に疲労感が襲ってくる。

それはアイラも同じらしく、疲れたような息を吐きながら部屋の奥へと入っていった。


Kも思わず重い溜息を洩らしたが、ぬいぐるみを室内に運ぶとすぐに踵を返した。

「昼飯買ってくる。お前は、大人しく待ってろ」

まだ自分1人のペースが抜けず、1日3食が基本なことを忘れていた。思い出していればさっき買っておいたのに。


けれど、いいきっかけかもしれない。

「はぁい…」

またついて行くとぐずるかと心配したが、やはり疲れたのだろう。寂しそうな顔をしたが、ぬいぐるみを胸に抱いて素直に従ってくれた。





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