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魔物たちの勇者撲滅記録

星に願いを

作者: 葛城 獅朗

こちらは「壊れた世界」の番外編になります。完結後一年が経過したある日の桜と雪那。

「ながれぼしみたい」

 予想外の少女の言葉に一瞬、俺は言葉の意味を考えてしまった。そして「流れ星が見たい」と理解した時、間抜けにも少女に聞き返す。

「流れ星?」

 少女は俺の目をまっすぐに見てこくんと頷いた。いつになく真剣な顔をしている。あまり動かない少女の表情を読み取れるくらいには、俺たちは同じ時間を過ごしてしまっていた。

 この少女、桜がこの洋館に暮らすようになって、もうじき一年が経つ。言葉も分からず表情も変えず、人の世界のことさえ分からない子供の面倒を見なければならなくなった時の憤りは今でも覚えていた。それでも共に過ごしていくうちに情が沸いたのだろう。こうして寝る前の世話をすることにもなんとも思わなくなっている姿を当時の自分が見たら、きっと絶叫しいるはずだ。

 だが今日の任務はもう終ろうとしている。風呂に入れて髪を乾かして、よく眠れるようにとご丁寧にもホットミルクを入れてやった。そして桜が歯磨きを終えて洗面所から戻ってきたので、さてベッドに放り込もうと思った矢先のこの言葉。

「流れ星はそう簡単に見られるものじゃないぞ」

 早く寝ろという意味も込めて事実を言ってみたが、桜はふるふると首を振った。何が違うんだよ、俺もう眠いんだけど。

「テレビいってた。きょう、たくさんながれぼしみれる」

 まだ不完全な桜の言葉でも意味は分かった。そういえば何とか流星群が見られるって言ってたっけ。

「みたい、ゆきな」

 桜がぎゅっぎゅっと俺の服の裾を引っ張る。湯冷めするし、夜更かしになるし、ダメだと言うために口を開いた。



 二十分後、俺は桜を抱えて屋根の上に座っていた。落ちないように膝に座らせ、一枚の毛布に二人で包まる。おそらく寒くないだろう。桜は好奇心に満ちた光る瞳で空を見上げていた。

 運の良いことに、流星群はすぐに訪れた。ひとつ、長く尾を引く光が落ちたと思ったら、後を追うように次々と現れる。すぐに空一面を覆い尽くす光の群れとなった。

「すごいな………」

 俺は思わずつぶやいた。長い生の中で何度も見てきた光景ではあるが、それでもやはり驚嘆する。

 夜目の利く桜には、流れ星はどう映っているのだろうか。気になって腕の中を見てみると、子供はぱかっと口を開けたまま一心に空を見上げていた。

「………すごい、きれい」

 おもむろに言葉を発した桜は、ほんの少し笑った気がした。俺の見間違いかもしれないが、喜んでいるのは確かだろう。桜にもこの光景が美しく映っていることに俺は安堵した。

 美しい世界で生き始めたばかりのこの少女は、流れ星に願い込めるという習慣を知っているだろうか。教えてもいいが、真剣に見つめ続ける姿に邪魔をしてはいけないような気がした。いつか分かることだろうし、今回は俺だけが願おうと再び空を仰ぎ見る。

 次に星を眺める時には、桜が満面の笑顔を作れるように。



 ちなみに翌朝、俺も桜も寝坊して純子に叩き起こされた。

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