表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今井さんと清水さん

部屋で

作者: 青木珊瑚

 遠くからでも分かる白い家が清水さんの家だった。


「お、お邪魔しまーす」

「いいわよ。別に誰もいないから」


 どきどきしながら家の中に入った。


「早くから迷惑だったかな?」

「いいえ、そんな事ないわ。寧ろこんな早くに顔を見られるなんて思ってなかったから」

「嬉しい?」

「とても」


 そう言うと、清水さんはじっと私の方を見つめてくる。


「えっ、何? 何か付いてる!?」

「うん。可愛い顔が付いてる」

「もう!」


 恥ずかし気もなく言う清水さんにたじたじしながら、仕返しもしてみる。


「清水さんも付いてるよ。素敵な顔が」

「そう? ありがとう」

「ぷ~~」


 あっさりとかわされて頬を膨らませた。


「やめなさい。余計に可愛くなるだけよ?」


 う~~~ん。なんかむかつく。


「そういえば、お昼はもう食べてきたのかしら?」


 1時を指す時計を見て、私は「まだ」と答えた。


「なら、何か作りましょうか?」

「いいの? やったー!」

「上手に出来るかどうかは分からないわよ?」

「えへへ。清水さんの手料理がいいんだよ~」

「はいはい。じゃあ、椅子に座って待ってて」


 私は指された椅子に座ると、近くにあったタンスの上に置かれている写真が視界に入った。


「この写真の左に写ってる子って、清水さん?」

「ええ。小学3年の時だったと思うわ」


 料理を作る傍ら答えてくれる清水さん。


「へぇ~。髪、短かったんだね」

「小学生の間はね。伸ばし始めたのは中学に入ってからよ」

「ふ~ん。どうして?」

「その頃はスポーツをしていて髪が長いと邪魔だったのよ。中学に上がるのと一緒に辞めたから、それから伸ばしてるのよ」

「スポーツしてたんだ。何してたの?」

「テニス。硬式じゃなくてソフトの方ね」

「うそ。私も中学の時にソフトテニスしてたよ」

「あら、そうなの?」

「うん。あっ、そうだ。今度しようよ」

「……ごめんなさい。私、もう運動ができないのよ」

「えっ? 何かあったの?」

「……ええ、ちょっとね」

「えっと、何かごめんね」

「気にしないで。別に今井さんは何も悪くないもの。……できたわよ」


 お皿に載ってきたのは、ハートマークがケチャップで書かれたオムライスだった。


「ぱく。…………。美味しい!」

「そう? お口に合ったのなら良かったわ」


 微笑む清水さんの顔にドキッとしながら完食した。


「ん~、美味しかった~。ご馳走さまでした」

「お粗末さまでした」


 そう言ってお皿を下げようとした清水さんを止めた。


「いいよ。ご馳走してもらったし、私が片付けるよ」

「ううん、座ってていいわよ。お客様なんだから」


 そう言って、やや強引にお皿を片付けてしまった。


「ねえねえ、清水さんの部屋見てみたい」

「いいけど、大した物はないわよ」

「いいのいいの。どこにあるの?」

「2階よ。案内するわ」


 清水さんについていくと、途中〈あやか〉と書かれた札のドアの前で立ち止まった。


「どうかしたの?」

「清水さんって妹いるの?」

「ええ、中学の妹がね。……何で妹って分かったの?」

「だって清水さんしっかり者だし、お姉さんっぽいから」

「そうかしら?」

「うん。私、1人っ子だから羨ましいな~」

「そんなこと無いわよ?」

「えー。だって清水さんみたいなお姉ちゃんがいたら絶対いいもん」

「……そっち?」

「だから妹さんが羨ましいな~」

「ふふっ、私も貴方が妹だったら良かったわ」

「えへへ」

「で、彩花(あやか)の隣が私の部屋よ」


 清水さんの部屋は、本棚と机とベッドがあるだけのシンプルな部屋だった。


「うわ、すごーい! この本全部読んだの?」

「いいえ、好きなジャンルがすぐに変わってしまうから、読んでない本もいくつかあるわ」

「へえ~。普段本なんか読まないから何か尊敬しちゃうな」

「……私も昔は読んでなかったんだけどね。……あんな事がなかったら」

「えっ?」

「ううん、何でもないわ。それで、貴方は私の部屋で何がしたいのかしら?」

「んーとね、これ」


 持ってきた鞄からトランプを取り出した。


「……トランプ?」

「うん。定番じゃない?」

「う、うーん。定番……かしら?」


 そんなこんなで時間が過ぎ、夜の11時になった。


「今井さん。そろそろ寝ましょうか」

「うん。でも、ベッド1つだけだよね?」

「あら、敷布団が良かったかしら」

「……いいの?」

「ええ、もちろん」


 私と清水さんは同じベッドに寝転がる。


「いい匂いがする~」

「芳香剤を撒いたから、その匂いかしら」

「ううん。清水さんの匂い」

「もう」


 少し頬を赤らめる清水さんを見て、私も顔が熱くなる。


「電気、消そっか」

「ええ。悪いんだけど、リモコンがそっちにあるから消してくれる?」

「ん? どこ?」

「その机の所」

「これね」


 リモコンは珍しいなと思いながら、消灯のスイッチを押した。電子音が鳴って暗闇になる。


「……」

「……」

「あっ」


 布団の中で手が当たる。

 清水さんがそっと手を握ってくれた。


「ねえ、女の子が同じ部屋にいる時、本当はどんな事するか知ってる?」

「えっ? ……んっ」


 清水さんに顔を横に向けられたかと思うと、唇に柔らかい物が当たる。


「……」

「……」

「……嫌、だったかしら」

「……お返し」

「んっ……」


 私も清水さんにキスのお返しをする。


「……」

「……」

「とろけた顔しちゃって。そんなに良かったかしら?」

「……えへへ」


 清水さんは微笑んで答えたくれた。


「おやすみなさい」

「……うん」


 ……目を覚ました私は、窓から日が漏れていることに気付いた。

 あの後、お互いに抱き合いながら寝てしまったから、しっかりと清水さんにホールドされていて起き上がれない。


「まあ、いいか」


 そう言って再び目を閉じる。

 その後、2人揃って学校に半日遅れたのは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ