部屋で
遠くからでも分かる白い家が清水さんの家だった。
「お、お邪魔しまーす」
「いいわよ。別に誰もいないから」
どきどきしながら家の中に入った。
「早くから迷惑だったかな?」
「いいえ、そんな事ないわ。寧ろこんな早くに顔を見られるなんて思ってなかったから」
「嬉しい?」
「とても」
そう言うと、清水さんはじっと私の方を見つめてくる。
「えっ、何? 何か付いてる!?」
「うん。可愛い顔が付いてる」
「もう!」
恥ずかし気もなく言う清水さんにたじたじしながら、仕返しもしてみる。
「清水さんも付いてるよ。素敵な顔が」
「そう? ありがとう」
「ぷ~~」
あっさりとかわされて頬を膨らませた。
「やめなさい。余計に可愛くなるだけよ?」
う~~~ん。なんかむかつく。
「そういえば、お昼はもう食べてきたのかしら?」
1時を指す時計を見て、私は「まだ」と答えた。
「なら、何か作りましょうか?」
「いいの? やったー!」
「上手に出来るかどうかは分からないわよ?」
「えへへ。清水さんの手料理がいいんだよ~」
「はいはい。じゃあ、椅子に座って待ってて」
私は指された椅子に座ると、近くにあったタンスの上に置かれている写真が視界に入った。
「この写真の左に写ってる子って、清水さん?」
「ええ。小学3年の時だったと思うわ」
料理を作る傍ら答えてくれる清水さん。
「へぇ~。髪、短かったんだね」
「小学生の間はね。伸ばし始めたのは中学に入ってからよ」
「ふ~ん。どうして?」
「その頃はスポーツをしていて髪が長いと邪魔だったのよ。中学に上がるのと一緒に辞めたから、それから伸ばしてるのよ」
「スポーツしてたんだ。何してたの?」
「テニス。硬式じゃなくてソフトの方ね」
「うそ。私も中学の時にソフトテニスしてたよ」
「あら、そうなの?」
「うん。あっ、そうだ。今度しようよ」
「……ごめんなさい。私、もう運動ができないのよ」
「えっ? 何かあったの?」
「……ええ、ちょっとね」
「えっと、何かごめんね」
「気にしないで。別に今井さんは何も悪くないもの。……できたわよ」
お皿に載ってきたのは、ハートマークがケチャップで書かれたオムライスだった。
「ぱく。…………。美味しい!」
「そう? お口に合ったのなら良かったわ」
微笑む清水さんの顔にドキッとしながら完食した。
「ん~、美味しかった~。ご馳走さまでした」
「お粗末さまでした」
そう言ってお皿を下げようとした清水さんを止めた。
「いいよ。ご馳走してもらったし、私が片付けるよ」
「ううん、座ってていいわよ。お客様なんだから」
そう言って、やや強引にお皿を片付けてしまった。
「ねえねえ、清水さんの部屋見てみたい」
「いいけど、大した物はないわよ」
「いいのいいの。どこにあるの?」
「2階よ。案内するわ」
清水さんについていくと、途中〈あやか〉と書かれた札のドアの前で立ち止まった。
「どうかしたの?」
「清水さんって妹いるの?」
「ええ、中学の妹がね。……何で妹って分かったの?」
「だって清水さんしっかり者だし、お姉さんっぽいから」
「そうかしら?」
「うん。私、1人っ子だから羨ましいな~」
「そんなこと無いわよ?」
「えー。だって清水さんみたいなお姉ちゃんがいたら絶対いいもん」
「……そっち?」
「だから妹さんが羨ましいな~」
「ふふっ、私も貴方が妹だったら良かったわ」
「えへへ」
「で、彩花の隣が私の部屋よ」
清水さんの部屋は、本棚と机とベッドがあるだけのシンプルな部屋だった。
「うわ、すごーい! この本全部読んだの?」
「いいえ、好きなジャンルがすぐに変わってしまうから、読んでない本もいくつかあるわ」
「へえ~。普段本なんか読まないから何か尊敬しちゃうな」
「……私も昔は読んでなかったんだけどね。……あんな事がなかったら」
「えっ?」
「ううん、何でもないわ。それで、貴方は私の部屋で何がしたいのかしら?」
「んーとね、これ」
持ってきた鞄からトランプを取り出した。
「……トランプ?」
「うん。定番じゃない?」
「う、うーん。定番……かしら?」
そんなこんなで時間が過ぎ、夜の11時になった。
「今井さん。そろそろ寝ましょうか」
「うん。でも、ベッド1つだけだよね?」
「あら、敷布団が良かったかしら」
「……いいの?」
「ええ、もちろん」
私と清水さんは同じベッドに寝転がる。
「いい匂いがする~」
「芳香剤を撒いたから、その匂いかしら」
「ううん。清水さんの匂い」
「もう」
少し頬を赤らめる清水さんを見て、私も顔が熱くなる。
「電気、消そっか」
「ええ。悪いんだけど、リモコンがそっちにあるから消してくれる?」
「ん? どこ?」
「その机の所」
「これね」
リモコンは珍しいなと思いながら、消灯のスイッチを押した。電子音が鳴って暗闇になる。
「……」
「……」
「あっ」
布団の中で手が当たる。
清水さんがそっと手を握ってくれた。
「ねえ、女の子が同じ部屋にいる時、本当はどんな事するか知ってる?」
「えっ? ……んっ」
清水さんに顔を横に向けられたかと思うと、唇に柔らかい物が当たる。
「……」
「……」
「……嫌、だったかしら」
「……お返し」
「んっ……」
私も清水さんにキスのお返しをする。
「……」
「……」
「とろけた顔しちゃって。そんなに良かったかしら?」
「……えへへ」
清水さんは微笑んで答えたくれた。
「おやすみなさい」
「……うん」
……目を覚ました私は、窓から日が漏れていることに気付いた。
あの後、お互いに抱き合いながら寝てしまったから、しっかりと清水さんにホールドされていて起き上がれない。
「まあ、いいか」
そう言って再び目を閉じる。
その後、2人揃って学校に半日遅れたのは言うまでもない。