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記憶、随時買取り中。  作者: 裕澄
Dýo ~2章~
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イカれた男達

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました…嶋崎様」

記憶屋はそう言って和服姿の男性を招き入れた


「ここに来るのは久しぶりだな。」嶋崎と呼ばれた男は、70代後半とは思えないほどしっかりと軽い足取りで店へと入っていった。


「…そうですね。先日はありがとうございました」

そう言って記憶屋は嶋崎に水の入ったコップを差し出した


「…あの男の面倒を見ると言ったのはこちらだからな。

まだ礼を言われるのは困る」

嶋崎は水の入ったコップを記憶屋から受け取った


「私は、先日の黒薔薇と貴方と3人での食事会の礼をしたかっただけですよ??

まだお互いあの方については、礼を言うのは時期尚早なのではないでしょうか。」


「…フン。お前も言う様になったな」

嶋崎はどこか感心した様に呟いた


「ありがとうございます。

これでも長年闇の仕事をしておりますので。」


「それもそうだな。だが…あの小説家が言う様にお前は充分…イカれてるさ。」


「嶋崎様。設楽様とお会いになられたのですか??」

記憶屋は驚いた様に嶋崎に聞き返した


「あぁ。あの小説家の方から"会いたい"と連絡を貰った。表向きは"取材したい"ってことになってはいたが…」


「"取材がしたい"ですか。…いかにもあの小説家らしい連絡ですね。

…それで彼の本当の用件は??」


「あの男の記憶以上の価値か解らないが、

あの男(熊野)が使っていたクスリの出どころと、その組織の連中について』聞きたかったそうだ。」

嶋崎は、受け取っていたコップの水を飲み干した


「あくまでも"取材として"という名目を付けてまでも知りたかった…と言うことですね」


「あぁ。あの小説家はクスリをやる人間でもないだろ。

ヤツがクスリを使ってバレた所で、ヤツはもちろんだが、

ヤツにクスリを流した組織にメリットがあるとは思えなくてな」


「そうですね。彼の真意は分かりかねますが…設楽様は物語を創る材料である"熊野十吉郎の記憶"…そのものに魅力を感じたのではないでしょうか??

だから、記憶で知り得る以上の情報も欲した。となればおかしくい話ではありません。」


「そんな男にお前は"イカれてる"と言われている訳か」


「はい。…それに全くもって迷惑な話ですが、設楽様がこの店や私をモチーフに物語を創ったお陰で、招かれざる人間(お客様)もいらっしゃってしまうんですよ…」

そういって記憶屋は深くため息をついた


「そういった意味では"先代の方が"時代的にも記憶の売り買いがしやすかったのかもしれないな。」

"先代"その言葉が嶋崎の口から出た瞬間、記憶屋が嶋崎を見る目つきが変わった。


「…先代。貴方のおっしゃっている方の事を存じ上げませんが…どのような方だったのですか??」

記憶屋は鋭い目つきで嶋崎に問い掛けた。


「…お前も少しは知っているんじゃないか??

それに毎回一対一で会った時にこの質問をされるのも、そろそろ飽きてきたんだが。

…お前自身でも探っているんだろ??何か進展はあったのか」

嶋崎は呆れた様に問いに答えた


その答えを聞いた記憶屋はどこか遠い所を見つめながら

「…掴んだ情報が少ないんですよ。

それに私自身…いいえ 俺自身、いつからこの記憶屋(仕事)をやっていたのか…今、便宜上使っている名前が本当の名前なのか、

記憶とはそもそも何なのか。俺の記憶が正しいのか…よく分からないんだ。

あんたと長い時間共に闇の世界で生活していた記憶だってある。

それに数えきれない程の記憶を売り買いしてきた記憶もだ。」

記憶屋は深くため息をつくと

「…でも、それは本当なのでしょうかね。」

そう呟くとニコリと笑っていつもの記憶屋の雰囲気に戻っていた。


「…俺だってお前についての情報を持ってるが…素直にお前に教えるのも面白くないだろ??

どうやら俺の周りを嗅ぎ回っている奴がいるみたいだしな。

まぁそいつの力も借りながら

お前自身がその謎を解ける日が来るといいな」

嶋崎はニコリと笑った


「…そこまで嗅ぎつけてらっしゃるんですね。

さすが嶋崎様です。

それと、貴方の息子さん…またいい働きをして下さいましたよ。ご存知かと思いますが」

そういうと記憶屋は、嶋崎の前に温かいブラックコーヒーが入ったカップを差し出した。


嶋崎はそのコーヒーを受けとると真剣な表情で

「…ほう。お互い仕事でしか顔を合わせないものでな。ウチの倅…お前の相棒は、"どこまで思い出した"んだ??」


「私が彼…城之内から聞いている範囲では[幼い頃に父親であり、暴力団の組長でもある貴方に記憶を、無理矢理消された事だけを思い出した]…そうですよ」


「…ほう。なるほど。お前も記憶を買う時に売った本人へのペナルティー…みたいなモノを用意するのか??」


「私はあまりそのような事はしませんが…そのような対応をしなければならないお客様であれば、ペナルティー…ではないですが、"記憶を取り戻す為のカギ"を用意することもございます。」

そう言い終わると記憶屋は自分のカップにブラックコーヒーを注いだ。


「…記憶を取り戻す為のカギか。中々面白い事を考えるじゃないか。」嶋崎はニコリと笑った。


「貴方程ではありませんよ。熊野様が記憶を売った後の嶋崎様の采配は実に見事でした」


「お褒めにあずかり光栄だ」


「熊野様を失踪したように見せかけ、熊野様と同じ背丈の部下の手下を身代わりにしてDNA鑑定が不可能な程の焼死体を作り、その周辺に熊野様の愛用の品を置いて完全に偽装する…本当に苛烈で見事なシナリオです」


「世間は…これで納得するだろ??

それに邪魔な人間を排除できて、こちら側も助かった。」とニヤリと嶋崎は笑った


その姿を見た記憶屋は

「はい。貴方の思惑通りに世間はあのニュースを見て納得していた様ですし

…今回の件やはり、黒い太陽も関わっていらっしゃるんですよね??」と問いかけた。


「あぁ。さすがにヤツに力を借りないと今回は世間を騙せそうには、なかったからな。」


「追う側の立場である黒い太陽、追われる側の立場である貴方が手を組んだとは…その光景を私も拝見してみたかったものです」


「フン…よく言う。そういっておいてお前もヤツと繋がっているんだろ」

嶋崎は呆れた様に呟いたが…


「…さて、どうでしょうかね。その件については、嶋崎様のご想像にお任せいたします。」

と記憶屋はいつもの笑顔で答えるだけだった…


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