闇の協力者
「…と言う訳だ。
お互いリスクは高いが金にはなる。
城之内からある程度の段取りは聞いているんだろ?"黒薔薇"。」
記憶屋はスマホである女性と電話をしている。
『そうね。
中々お目にかかれない上客でしょ?
私がこの件に乗らないとでも??』
彼女は、通称"黒薔薇のメイキスト"
表の顔は、美人 整形外科医 鐘崎遥
だが彼女の裏の顔は、黒薔薇と呼ばれる
闇の美容整形外科医である。
「彼が記憶を売った後は、君にまかせる。彼をどんな顔に"作り変える"のか楽しみだよ。」
『ところで記憶屋。…今夜空いてるかしら?』
急に黒薔薇は声のトーンを変えて、妖艶な声で記憶屋に問いかけた。
「お誘いは大変嬉しいのですが…。あるの方との会食の予定が入っておりまして…申し訳ありません。」
記憶屋の話し方が客を相手にする時のような口調に変わった。
『はぁ…相変わらずつれないのね。アナタ』電話口の黒薔薇がため息をついた。
「ですので、次回に…。と言いたい所ですが、黒薔薇。
君も今夜の会食にいらっしゃいませんか?
今回の私たちの協力者 嶋崎様との会食なのですが…」
『アナタもたまには素敵な事を思い付くのね。記憶屋。』
「ありがとうございます。では先方にその様にご連絡いたしますね。
恐らく貴女のクリニックまで、私か先方の使いの者がお迎えにあがると思いますので、それまでクリニックでお待ち下さいませ。」
『わかったわ。では…嶋崎と記憶屋に会えるのを楽しみにしておくとするわ。』
「はい。私も楽しみにしております。
…では、また後程。失礼いたします。」
記憶屋の電話が終了すると
「…流石だな記憶屋。黒薔薇の話は聞こえなかったが、俺にはお前の様な芸当はできないからな。」
電話を静に聞いていた城之内が口を開いた。
「俺も好きでやってる訳じゃないからな。」はぁ…。と記憶屋がため息をつくと、
城之内はニヤニヤと笑いながら
「そのわりには、黒薔薇と話している時のお前の顔は生き生きしてる様にみえたぞ」と返した。
「…例えるなら、俺やお前は物語における"ストーリーテラー"であり、
カジノゲームの"ディーラーやゲームマスター"みたいなモノだ。今夜会うあの男が揃えば…役者が揃う。」
「…お前がこんなこと言うなんて、
記憶コレクターのあの男あてられたか?相当メルヘンな話だな」
「…この仕事に乗り気じゃないなら、
降りるかこの仕事?」
「いや。ここまで準備をしたんだ。
ここまできて、降りる訳がないだろう。
あんなに金になりそうな仕事は、久しぶりだからな」
城之内は呆れた様に話はじめた。
「…ふん。それでこそお前だ。
ところで今夜の会食…お前も来るか?」記憶屋は、高級レストランの住所の書かれたメモを城之内に差し出したが、
「遠慮する…仕事以外であの男と会う気は無い。」と城之内はメモを受けとらなかった。
「分かった…じゃあその代わりに、
この仕事が片付いたら、いつもの所で飲むか。
…俺とお前二人だけで。」
「あぁ。そうしてくれると嬉しいな。
…じゃあ、俺は今回の仕事の最終調整でもしておくよ…っと。」
そう言って城之内はカウンターの席を離れて、骨董屋 allagiを後にした。
城之内が店を後にした事を確認すると、記憶屋は
「…Prosvlépoume stin allagí」
と呟いた。