闇の世界と繋がる男
「世間は闇の住人に、厳しくなって来たものだな…。」
記憶屋は、カウンターの椅子に座りながらスポーツ新聞を読んでいる。
そのスポーツ新聞には、
『七代目 熊野十吉郎(47)黒い交際 ついに発覚!!』と一面を飾っている。
七代目 熊野十吉郎 47歳
本名 赤坂迅
歌舞伎の名門 熊野家きっての天才役者
そして、芸能界きってのトラブルメーカー。
若い頃にヤンキーと殴り合いの喧嘩
有名女優との熱愛
愛人との不倫
歌舞伎を観に来てたマナーの悪い客に対して、退席を命じるなど…。
様々な話題でワイドショー 世間を騒がせて来たが
ついに闇に潜む人間との関わりが報道された。
芸能界に身を置く人間にとっては一般人以上に、
闇の世界と繋がる人間と交遊を持ったり
知らずとも関わった事があると
報道されれば、
クリーンなイメージを必要とされている
芸能人としては、
致命的なダメージとなる。
歌舞伎界の名家となれば尚更であり、
そして彼は、危険ドラッグなどの使用疑惑も持たれている。
「さて…。相棒から来た仕事とはいえど、リスクの高い案件だな。」そう言って、記憶屋はスポーツ新聞をゴミ箱へと投げ入れた。
記憶屋は、カウンターの引き出しから資料の入ったファイルを取り出した。
「まぁ、資料によると確実に両方とも真実だからな…。」
ペラペラと資料をめくって読み始めた。
「大抵このタイプ客は、自分の"記憶を売り"に来る。そして、世間の興味も消し去りたい…って、所か。」
「…相変わらず、見事な推理だな。名探偵にでもなったらどうだ??記憶屋。」
いつの間にか、店には記憶屋と同世代の男性が来店していた。
「相変わらず、気配を消すのが上手いんだな、城之内。
…お前こそ、探偵になったらどうだ??」
カウンターの椅子から立ち上がった記憶屋は店内の奥へと歩いて行った。
この男は、城之内健悟
記憶屋と闇に関わりのある人間や、"記憶を売りたい"人間を引き合わせる
[記憶コンダクター]なる役割の男で、
記憶屋が自分以外の人間で最も信頼を置いている、数少ない人間である。
記憶屋自身、本名を語ろうとはしないが
城之内の名前も本名だと限らない。
闇で動く人間は、コードネームや偽名で活動するものも少なくないからだ。
「…こんな上客、中々現れないからな。
俺も細々動いた甲斐があるよ。」
そう言って、城之内はさっき記憶屋がゴミ箱へ捨てたスポーツ新聞を拾い上げ呟いた。
「…あぁ。それは同感だ。
珍しくこっちでも、
買い取りの前に下準備もしなきゃならないから面倒では、あるが…。」と、2杯分のブラックコーヒーが入ったカップを記憶屋が現れた。
「その分面白い"記憶が手に入る"…だろ??」城之内は記憶屋からコーヒーのカップを受け取った。
「あぁ。歌舞伎の名門でなおかつ、お騒がせ有名人の記憶だ"あの男"が食いつかない訳がないからな。」
「…設楽圭介。あの[記憶コレクター]か。」
店に無造作に置かれた数冊の設楽の小説を城之内は、無作為に手に取りペラペラとめくって読み始めた。
「あの男も特異体質の中でも、酔狂な男だよ。…さて、喋ってばかり居ないで仕事でもするか。」