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「あのー。すみません。」
ガチャリと、骨董屋 allagiにひとりの女性がやって来た。
「…いらっしゃいませ。なにか、お探しですか?お嬢さん?」
黒の燕尾服を身に纏った、40歳代の男が話しかけてきた。
「えっーと…。」口ごもる女性を見た男は、
「もしかして、設楽圭介様のファンの方ですか??」はぁ。と軽くため息をついた。
「はい。やっぱりあなたが、そうなんですか!?」途端に女性は、目を輝かせはじめた。
「設楽様は、確かに此方の骨董屋 allagiの常連でいらっしゃいますが…。」
「私と、此方の骨董屋は【記憶の片隅に】の舞台の記憶屋でもありませんし、私自身そうでは、ありません。」
男がそう言うと、
「設楽さんの作品にある、記憶屋が本当にあるって、
言うのはやっぱり、都市伝説なんですね…。」
落胆しては居るが、
何処か安心した女性を見た男は…
「うちは、ただの骨董屋ですから…。」
と、右手をパチンと鳴らすと、
女性はその場に倒れ込んで気を失ってしまった。
「少しだけ、"記憶"観させて頂きますね。…そして、"此処へ来た記憶"…買取りさせて頂きます。」
数分が経った後
そっと、女性の肩を抱き上げ立たせると
「貴女が本当に、記憶を売りたいと思った時、また御来店下さい…。」
そして、男は
「この世で一番の悪があるとするならば、
それは人の心だ。
この世で一番儚く、脆いものは人の記憶だ。
そんな貴方の記憶、買取りさせて頂きます。」と、またパチンと右手を鳴らし店のドアを開けると、女性は振り向くこと無く去って行き、女性が去った後ドアが静かに閉まった。
「はぁ。…設楽様、そちらで見て居られないで、此方にいらっしゃったらどうですか?」
店の物影から30歳代の男が現れた。
「いやいや。こう言うのは、少し離れた所から見るのが、良いんだよ。
イカれ記憶屋にしては、素敵な女性のエスコート方法だな?」
「…誰のせいで、この様な対応をしなければならないのか、小説家の貴方ならお分かりでしょう?
それに、イカれ記憶屋と言う、呼び方はどうかと思いますよ?」
はぁ…。と記憶屋はため息をついた。
「イカレ記憶屋。とても、あなたらしいと俺は思うけど…"記憶を売り買いする人間"なんて、イカれているだろ?どう考えても。」
「…それを言ったら、お互い様ですよ?設楽様。」
「ハハハ。そうかもな。…新しい"面白い記憶"見せてくれないか?」
そう言うと、
小説家は売り物のアンティークの椅子に腰かけた。
「…それでは、此方なんていかがでしょうか?」