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草原 竜の章 第8話 非日常の始まり

―――PM3:21―――

―――新海南高等学校・文化煉1階不思議研究部室―――



「あはは。草原君も災難だったね」


 部長はお昼の話を聞いて、のん気に笑ってお茶を啜っていた。


「ぶちょぉ〜。笑い事やないですよ。人の身ぃにもなったって下さい」


「もてるって事は良い事だよ?それに彼女はこの学園のトップクラスの権力も持っている。学園

生活が充実するだろう」


「好きでも無いんに構われたら良い迷惑ですわ」


「あれ? 竜君ってち〜ちゃん好きじゃなかったの? じゃあ悪かったね〜。止めなくて」


 天然娘はやっぱり分かっていなかった。


「ま…まあ、人間的には好きな感じがしたんやけど、あの強引さがあれへんかったらなぁ」


「それを言うのは酷だね。彼女に強引さが無くなったら何が残るのか」


 部長こそ「それを言うのは酷」である。


「そこまで言いますかぶちょ〜」


「あの〜…」


 そう朗らかに三人で話していると、今日は普通に顔を出している小山少年が割り込んできた。


「そんな事より、僕は昨晩の竜先輩の事件が気になっているのですけど」


 何処から情報が漏れたのか、小山少年はそんな事を言ってきた。


「な…なんで少年が知っとるねん?」


 当然と言えば当然の疑問に、小山少年はニヒルに笑ってこう答えた。


「そりゃぁ、後を着けてましたから」


「はぁ!?」


「小山君。一歩間違えれば犯罪だよ?」


「情報集めは僕の専売特許ですから」


 流石の部長も顔をしかめて彼を嗜めようとしたが、彼はハンディタイプのビデオカメラを片手にして得意げに言う。


「いいか少年。そういうのはストーカーって言うんや」


「女性のいやらしい画像が欲しいわけじゃありませんから問題ありませんよ?」


「列記とした人権無視や!」


「だって、昨日竜先輩とは殆ど喋ってないじゃないですか。だから交流を深める為に情報が無ければ不安になってしまいますよ。あ、それと昨日もう一人居た「田代」って方も僕は知りませんでしたから調べさせて頂きました」


「ん? そうなん?」


 言っても無駄のようなので、とりあえず盗撮の件は置いといて、少年が田代と認識が無いというのに疑問を感じた。一応部員であるのに。


「けーすけあんまり此処に来ないから」


 と茜が言うと


「そうだね。彼は週に一回ぐらい来ているが、部室を覗いてはすぐ帰ってしまうからね。特に火鳥君が居ない時は」


 と部長が続ける。田代は茜目当てで部に来ているようだ。


「それで、丁度今まで会わなかったんか。へぇー。」


「そんな事よりも! 昨日の話を。僕は昨日遠くからしか見ていなかったので良く分からないんですよ」


「ふむ。興味あるな。竜君お願い出来るかな?」


 中々こういう事になると人間が変わるようで、小山少年は鼻息が荒かった。見た目は少女のようなのに、それだけみるとただの変態に見える。いや、この部室に居る者全員がそうなのかもしれない。自分を除いて。


「詳しい事は俺にも分かってへんけど、昨晩守矢公園で人が消えたんや」


「人が? 神隠しか何かかい?」


 流石にこういう部の部長である。こんな話を聞いても全く動揺が無い。それだけでは無く、キチンとメモの用意まで始めた。


「いや、神隠しかどうかも分からへん。ただ、その顔に見覚えがあったんです。ただし、夢の中で見た顔ですけど」


「ふむ…サイコメトリーか」


「あっ部長! やっぱりそう思います?」


 部長の言葉に茜が嬉しそうにした。


「サイコメトリーって何でしたっけ?」


 小山少年はそう言って、部室の本棚を眺めながら言う。


「ESP能力。要するに俗に言う超能力だね。起源は忘れたが、サイパワーを持って物品等の記憶を読み取るような能力だね」


「ふむふむ」


 小山少年は本を探すのを諦めたのか部長の話を聞いている。その本棚には色々な本があり、そこから一つの事を探すのには苦労しそうな程の蔵書があったので、知ってる人に聞くという彼の判断は正しいかも知れない。


「ESP―超感的知覚―は「霊媒性トランス」、「自動運動」、「瞑想」、「夢」などにともなって、時折発生する。1902年のマイヤーズの記録から1962年のL・E・ラインの記録等がある。その後の、1960年代の行動主義心理学全盛の背景を考えれば、初期のカード当てテスト・パラダイムの提唱者達が、健康状態や、異常刺激の効果、未知の観察者達の影響等の比較的総合性を持った行動主義的尺度に目を向けて、概ね、被験者達の心の内的状態を気にとめなかったのも無理は無いよね」


「意味分からないよぉ」


 茜が非難の声をあげている。果たして、小山少年は分かっているのか「ふんふん」とそれを聞いていた。


「まあ、夢を媒体としたESPの報告は多数あるという事だよ。とある調査では全体の65%を占めていたらしいよ」


 頭に手を当てて話す部長。


「で…でも、公園と俺の家から10分ぐらい歩くで? そんな遠くの事の記憶読み取るいうんですか?」


「いいかい?このサイコメトリーの凄い所は、横は45マイル、上には60フィートの事まで読み取ったという記録もあるんだよ。遠く離れた町からでも受信する事が出来るんだよ」


 そして「ESP/超心理学の実験と研究」という本を手渡してきた。読めというのだろうか?


「それにしても、部長って信じてないって言ってる割にそんな事を鵜呑みにするんですね?」


「「ある」と仮定しての話だよ火鳥君」


「う〜素直じゃない」


 茜の呟きを無視して、小山少年は話を進めた。


「で、草原先輩の事はそのサイコメトリーだと?」


「私は、そう思うかな。ただ、何故火鳥君がそう思ったのかが気になるね」


「え? だって夢の中で―」


「夢の中で見たという事=サイコメトラーという発想が出てくる理由がありそうな気がしたんだけどね。思い違いなら失礼」


「もちろん。こういう環境に居ればすぐに思いつきますよぉ」


 そう言って部室全体を包むように両腕を広げてみせる茜。そうしてみても、彼女の両手では全体を包むのは無理だが、そうされて竜にはこの部室全体が紫色の空気に包まれてるような気がしてならなかった。怪しい。


「そうかい? 私はてっきりあの公園であったあの事件の―」


「部長!」


「ん?」


「その先は言わないで下さい。はい。部長の仰る通りです。確かに「その事」があったからすぐに思いつきました」


 その時の顔は昨晩の彼女の顔だった。彼女の顔を見て、短く嘆息して部長は話をするのを辞めた。


「火鳥君。許してくれ。これはただの好奇心の発言だ。 話を戻そう。 草原君、その顔は少女じゃなかったか?」


「え!?ええ、そう言われてみればそんな気がしますわ。後、夢の話ですけど若い男も居ましてん」


「男?」


「顔は見てへん…というか良く分からへんかったんですけど、暴力しとりましたわ。その少女に」


 それを聞いて部長と茜が表情を険しくする。小山少年は特に変わらずメモを取っているが、この二人の変わり様はハッキリと分かった。


「いやに鮮明だね。草原君もしかして…だが、君は「最後まで見ていた」のか?」


「?」


 疑問符を浮かべると、部長は咳払いをして言い直した。


「失礼。その少女がどうなったか知っているんだね?」


 最後…。夢の中で少女は、若い男に何度も殴打されて殺された。とても気味が悪い夢だったが、部長の今の言葉で鮮明に思い出してしまい吐き気がしてきた。


「火鳥君…。これはちょっと事件だ」


 部長は竜の反応を見て肯定と取ったようだ。


「……」


 茜は部長の言葉にただ頷くと、こちらを見据えている。その顔には何かの「意思」が込められているようで力強かった。


「火鳥君…。君が良ければ彼に話したいのだが…いいかな?」


「部長!?」


「彼はここまで知ったのだ。全て知る権利があるだろう?」


「そ…そうですけど…。夢の話ですよ?」


「君がその能力を信じたからこそ言ったんだろう? サイコメトラーと」


「あの…何の話しとるんですか?」


 二人は何かを知っているようで、秘密なやり取りをしているので、たまらず竜は問いただした。


「ちょっと待ってくれるか? 今火鳥君の了承を―」


 部長が説明するのを茜が止める。


「いいです。部長」


「ん? 火鳥君?」


「私が話ます。その方が正確ですから」


「…他人の私がしゃしゃり出てはいけないか。火鳥君に任せるとしよう」


「ありがとうございます。部長」


「?」


 全く分からないが、茜が話してくれるようなので、黙って聞く事にした。


「まず、本筋から言うと、あの公園でね。昔殺人事件があったんだよ」


「は?」


 イキナリ全く予期しなかった言葉を言われて竜は頭が真白になる。


 殺人事件?


 殺し?


 公園で?


 浮浪者?


「殺されたのは山下 知帆。知るに船の帆で チホって言うんだよ。当時15歳だった」


「ち…チホ?」


 その名前に一瞬ドキッとする。字は違うが、ウチの「チホ」と同じ名前だからだ。それで、昨晩茜は「千穂」に名字を聞いたのか…。


「竜君の妹さんと同じ名前だね。 当時、知帆はとある男性と付き合ってた。1年前のあの日、彼女達はあの公園で討論になったらしいわ」


 それで、逆上した男に殴り殺された。


 痛ましい事件である。犯人の男はそのまま逃走して行方不明らしい。


「動機は分かっていないが、多分別れ話が拗れたのかもしれないね」


「ああ、その話だったんですか。結構騒いでいましたね。当時僕の学校でも話題になりました。美少女殺害って見出しで。とても可愛い人だったらしいじゃないですかその山下って方」


 今まで黙って聞いていた小山少年も話の内容を知っているようで、口を挟んできた。


「犯人の名前は確か「矢崎 良平」でしたよね。当時18でフリーターだったらしいですけど」


 そんな事をつらつらと話し出した小山少年に、少し唖然とした様に見る茜。


「そ…そんなに有名だった?」


「ええ、僕の周りでは。そういえば親友のコメントが新聞にありましたよね。ええと確か名前は……えっ!?」


 思い出すように天井を眺めていた小山が弾かれた様に茜を見る。


「火鳥…茜…。そうか、火鳥先輩だったんですね…」


「…うん。チホは私の幼稚園からの親友…。当時良く彼女の相談に乗ってたのよ」


 そこまで聞いて、彼女の昨晩の反応が納得いった。親友を殺された茜。その時の彼女の心境は分からないが、悲惨だったのだろう。


「茜ちゃん…。ごめんな。俺が変な事言うたから…。嫌な事思い出させて…」


「う……うう…チホぉ…」


 竜が優しくそう言うのをセキを切ったように泣き出した。


「火鳥君…」


 部長も火鳥の背中を叩いてやりながら、一緒に泣きそうな顔をしている。


「結局、どういう事なんでしょう?」


 一人、平常通りの小山は話を続けようとしている。


「…小山君。君は人に冷たいと言われた事は無いかい?」


「はい、良く言われます。どうしてなんでしょうかね?」


 本気で分からないといった顔をしている小山を呆れてみながら、茜に「大丈夫だね?」と声を掛けて気を取り直して話を戻した。


「小山君…。まあいい。 草原君。問題は君がその犯人の顔を見たかもしれないという事なんだ」


「犯人を見た事?」


「そうだ。実はこの事件の犯人は、その矢崎という男とされているが、確証が無いらしい」


「そ…そんなん茜ちゃんの発言とかあるんとちゃうんですか?」


「いや、それだけなんだよ。他に彼女達が揉めているような現場を見た者が居なくて、状況証拠だけでは犯人の特定が出来なかったという事らしい」


「…うん。チホはいつも二人っきりになると人が変わったようになるって言ってた…。だから普段は仲の良い恋人達だったんだよ」


「それで、犯人と思われる人間「矢崎」は失踪。確かに怪しいが、それだけでは警察は動かない」


「なんやねんなそれっ! 無能警官ばっかりとちゃうんかっ!」


 どんなに証拠が無くても、一人の少女を不幸にした男を野放しにしておくほど腐っているのかこの国の国家権力は。憤りを感じたが、こればっかりは一介の高校生の力ではどうしようも無い。ただ、庶民は怒るだけしか出来ない。


「まあ、彼等が無能というより、それだけ彼女の事を知る者が居なかったという事だろう。山下さんは、友人は火鳥君。両親は居なかったらしい。そこで…。草原君。君にお願いがあるのだが」


「なんです? 人探しとかするんですか?」


「近いね。今から守矢公園に行って、念写して来てもらえるかな?」


「ねんしゃ…ってはぁっ!? 出来ませんがなそんなん!」


「サイコメトリーが出来れば出来そうな気もしたんだが無理か」


「出来へん出来へん! それにそのサイコメトリー言うんのも自分から出来へんですよ?」


「そうか。残念」


 本気で言っていたようだ。明らかに落胆してみせてきた。



「なら、こうしよう」


 そんな事を言っておいて、部長はとりあえず現場を見に行こうと提案した。陽が落ちてからでは観察するのにも支障があるという事で、今度の土曜日に現地集合するという事で決定した。


 それまでに茜はESPの事について調べるという。小山少年は現場の付近の聞き込み調査。部長はそれらのバックアップらしい。そして竜は…


「とりあえず寝て夢を見てくれ」


 寝る事が仕事なのは赤ん坊の時以来である。


 部室へ行くと、布団が用意されてすぐに睡眠薬を投与されたりした。怪しい実験体のようだ。


 そして気持ち良く目が覚めると決まって部員達の落胆と嘆息が出迎えてくれる。

 時折、部屋に誰も居なくて、横に保科が潜り込んでいる事もあったが、それは御愛嬌。

 その次の日に『新聞部部長ベットイン?相手は噂の転校生』という「?」が異様に小さく印刷された三流週刊誌のような記事が出たりして保科を追いかけまわしたりした。



―――そして週末になった―――


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