表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

草原 竜の章 第5話 放課後

―――PM7:25―――

―――神葉町内―――

--------------------------------------------------------------------------------


「いや〜茜ちゃんが家の近くやったんやね。夜道一人ちゃうから寂しいないわ」


「うん〜私もぉ〜げぷ…」


「あら。大丈夫かいな? 飲みすぎやで茜ちゃん」


「だってぇ〜。じゅーすだと思ってたんだもん…ふらふらするよぉ」


「あ〜大丈夫ちゃうな。ほら、掴まりぃ」


「あぅあぅ竜君やさしぃねぇ…ぽよぽよ」


 などと言いながら一緒に帰るというより護送しているような感じであるが、竜としては嫌な気分では無い。


「ちょぉっとまったぁぁぁぅぅあ……げほっ!」


 コレが居なければ。


「何で着いてくんねん。お前家逆ちゃうんかい」


 グロッキー寸前の田代はフラフラしながら竜達の後を着いてきていた。


「お…オレも茜ちゃんを送るって言って…んだ……よぉ!げぇぇ…」


 倒れこみリバース。


「うわぁ…蛍助きったなぁい〜さいてー」


「がーん」


 蛍助最低

    蛍助最低

       蛍助最低

          蛍助最低…


 蛍助心のエコー。 


「きったね…。それに、そないな足取りでどないせーちゅうんねん…。茜ちゃんもこんな状態やし…。あ…」


 竜は足を止めた。「此処」で足を止めたのは二度目である。竜の前には『守矢公園』と書かれた公園がある。


「…? どうしたの竜君?」


「……」


「…ん?なんだ? 立ったまま寝たか?」


 公園の方を見て何も言わなくなった竜を二人は訝しげに眺めて来たが、そんな事はどうでも良かった。


 公園の方を見ると先日見た木がある。が、その下に先日の様に人が倒れていた。


「ちょ…ちょっと茜ちゃん頼むわ!」


「ほえ?わぁ!?って蛍助くさいよぉ〜」


「…っと!?ゴメン! って、な…んだぁ? おい貴…様!茜ちゃんは物じゃ…って待てよ!」


 半ば投げ渡した感じになってしまったが、本当にそんな事は構ってられなかった。竜は視力は悪い方じゃないが、公園は元々薄暗く倒れた者が誰なのが分からなかったが嫌な予感がした。








―――PM7:34―――

―――守矢公園―――

--------------------------------------------------------------------------------



 竜は倒れていた者へ掛け寄り、抱き起こそうとした。しかし、その瞬間その者は目の前から消えてしまった。


「え…」


「おい! どうした…んだよ!」


 茜を背負いながら田代が追い着いてきた。中々体力があるようだ。


「今人居てん…」


「は? 何言ってんだ?」


「今此処に人が倒れてたんや!お前見てないんかい!」


「はぁ? 酔っ払って何訳分からない事言ってんだ…。うぷぅ…走ったら気分が…」


「酔ってへん! あれぐらいで酔うかいな!」


「ううぅ〜…叫ばないでよぉ竜君…。何ぃ?なにがあったの?」


「ああ、茜ちゃん堪忍。いや、此処に人が倒れとったんやけど…目の前で消えたんや」


「えっ!?」


 それを聞いて茜は田代の背中から飛び降りた。目をキラキラさせて竜に詰め寄る。

「うっそぉ! それは大事件!不思議事件だよぉ! もー酔いなんて一発覚めっ! でで、顔とか見たの?」


 少し足取りが危ないが、気力が勝っているのか茜は嬉々としてスカートのポケットから手帳を取り出した。


「顔?……」


「あれぇ顔見てない? 近くまで来たんでしょ?」


「いや…一瞬の事で…。いやまてよ…」


 確かに一瞬だったが顔を見たような気がしていた。しかも、どうも一度見た事があるような感じまでしている。


「なんだよ…わけわかんね…ん?」


「何か見た事あるような気がしてるんやけど…」


「うんうん! それで?」


 それ以上は思い出せそうに無かった。大体こんな非常識な知り合いは居ない。だとすると―


「あ、もしかして今朝の―」


「え? 何か思い出した?」


「あ、いや。夢の話なんやけど。その夢に出てきたヤツに似とったような…」


「夢? …あっ!もしかしてそれって予知夢とか!?」


「うんにゃ。今まで似たような夢見たんやけど一度もそういう場面に合った事は―」


 そうして彼女に竜の夢の話を説明した。今朝の夢は少し刺激が強い内容なので、他に見た男女(?)の会話の夢などを話してやると、茜はますます目を輝かせた。


「すごいよ! 竜君ってサイコメトラーなんだね!」


「な!? なんでそないなんねん!」


「だって自分が体験してない事ばかり夢に見るって事は何かの記憶を読み取ってるんだよきっと!」


「はぁ?読み取るゆーても普通にベットに寝とるだけやで?何かの写真を枕元に置いてたわけやないし…」


「言ったでしょ?この町全体がパワースポットになってるって」


「へ?冗談ちゃうかったんかい?」


「だから、竜君の潜在能力が増幅したのかもしれないよ? この町全体の記憶。そしてこの公園の記憶を読み取ったのかも…。あ、そうすると竜君が見たのは…この公園で死んだ人?」


「分からへん…」


 頭には残っているような感覚があるのだが、本当に出て来なかった。茜の言う事が正しければ今朝夢に見た少女なのかもしれないが、それとは違うという気がしていた。


「うーん。そうだ蛍助どう思う? ってあれれ?蛍助は?」


「ん?」


 茜と話し込んでいて田代を見ていなかったので、竜には分からなかったが、見渡してみると、すぐ近くの茂みを覗き込んでいる蛍助の背中が見えた。


「おーい何やっとんねん〜」


「うわぁ!? ビックリさせるなよ!」


 身体をビクッと震えさせて、振り返った彼は少し顔が青ざめていた。


「今そこに人が座ってたんだ」


「えっ!」


 それを聞いて、茜も駆け寄っていき、茂みを覗き込む。


「ほえ? 誰も居ないよ?」


 暗くて良く見えないが、人影はそこにはなかった。


「ああ、だから過去形なんだ。「座っていた」って言っただろ?そこに変な髪型の女の子が隠れてた」


「変な髪形ぁ?」


「んで、どないしたんや?」


 一瞬「変な髪形」という言葉に千穂を思ったが、流石にもう家に帰っているだろう。


「ああ、消えた」


「消えたぁ?蛍助酔ってたんじゃないの?」


「それは無い! さっき吐いてスッキリしたし」


 胸を張って言う台詞では無い。


「うわっ最低」


「蛍助きったなぁい」


「で、でででも!ちゃんと拭いたぞ!?」


「制服でぇ?うわぁ寄らないでぇ〜」


「変態」


「変態言うな!」


 竜に向かって激昂する。


「変態」


「ムキー!!」


 猿だ。


「っていうか、変な髪形ってまさか三つ編みが混ざった感じの髪型とかちゃうやんな?」


 一応可能性を潰しておこう。そう思って軽く蛍助に聞いた。


「お?お前も見たのか?」


 可能性復活。


「こらぁぁぁ! 千穂ちゃん何しとんねん!」


 まだ近くに隠れているのだろう千穂を炙り出す。急に叫んだ竜を見て二人は驚いたが、呼ばれて茂みからガサゴソと現れた少女を見て余計に驚いた。


「ひぃぃ!出たぁ!」「きゃーーー!!!」という歓声を聞きながら、「変な髪形の少女」千穂が現れた。


「あれぇ?何で分かったの?お兄ちゃん?」


「変な髪形やしな」


 苦笑しながらその三つ編み部分を見つめる。


「なんでソレそんな少しだけ三つ編みやねん?」


「あ?知り合いか?」


「チホ??おにいちゃん??」


 二人には初対面の「妹」なので、竜は軽く説明しなくてはならなかった。ただし、此処での出会い等は省略して養子で、血は繋がってない兄妹という事だけ説明した。


「ほぉ〜。お前の妹にしては可愛いとは思ったぞ」


「わあ。田代さんありがとー」


 嬉しそうに跳ねる妹。血は繋がってないが、一応身内になってしまったので、子供っぽい仕草をされるとこちらが恥かしくなってしまう。


「ねえ。千穂さん。貴女名字は何ていうの?」


 何か茜が、先程より元気が無いように見える。神妙な顔で千穂に質問した。


「え?草原だよ? お兄ちゃんと一緒だよ。当たり前だけど」


「違うの。ええと…」


 茜は何かを考え込んだように眉間にシワを寄せて、思いついたように再度質問した。


「養子って言ってたわよね? 前の名字は何て言うの?」


「前?え〜と森川だよ」


「そう。モリカワさんね。ありがとう」


 そういうとそれきり茜は黙ってしまった。


 竜達が訝っていると、茜は思い出したように「帰る」と一言残してその場を立ち去った。それを追って、田代も着いていこうとするが、断られたようでトボトボと逆方向へ歩き出した。


「なんやったんや?最後の茜ちゃん。 ……まあ、千穂帰ろか」


「うん!」







―――PM7:56―――

―――草原家―――

--------------------------------------------------------------------------------


「ただいまー」


「ただいまぁ♪」


「あら、お帰りなさい。遅かったのね?」


 家に帰るとエプロン姿の母が出迎えてくれた。玄関に靴があるので父も、もう帰っているようだ。


「ああ、なんやイキナリ部活誘われてん。そのまま侵入部員歓迎会ぽい事になって遅なりましたわ」


「部活〜?アンタ前は万年帰宅部だったのに珍しいわね?」


「前は前や。新しい環境には巻かれるもんやで?」


「えっらそうに〜。それで千穂も?」


「ううん。私はお兄ちゃん待ってたんだよ」


「そうやったんか?」


「そうだよ〜。それなのにお兄ちゃん全然姿見せないから公園で待ってたんだよ?ひどいよ」


「そうやったんか。寒いのに堪忍」


「何? 一人でこんな遅くまで公園に居たの千穂? 貴女、女の子なんだから危ないわよ気をつけないと」


「うん。今度から気をつけるよ〜」


 今まで子供は竜だけだったので、母の千穂の可愛がりようは竜には異様に感じた。その視線を鋭く感じたのか母はこちらを睨んでくる。


「まったく。アンタが遅いから千穂を危険にさらしたんだからね? 今日は晩御飯のオカズ1個マイナスよ」


「はぁ!?そんな殺生なぁ〜〜」


「ちなみに今日はエビフライよ」


「おかんーーーーーー殿中ですぞぉ〜〜〜〜」


「…お兄ちゃんそれ用法違う…」



 そんなこんなで竜の学園生活1日目は終了した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ