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清樹町の隅々で  作者: 磐梯 皐月
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キッカイ・トーク・ラウンジ

清樹町にあるカフェ『狸平原』で葉月はコーヒーを飲みながら、店長と話していた。

「はぁ~。その人ったらバイトの私に殆どの仕事をやらせておいて、当の本人は葉巻ふかしてばっかりで…」と愚痴る。

「ははっ、でもそこが楽しいから働いてるんだろ嬢ちゃん?」と葉月と話す狐目の男がこのカフェのオーナー、神田 根治郎である。

「まーそうなんですけどねー、流石に疲れますよー。」

そんな風に葉月が溜まった毒を吐いていると、二人組の客が入ってきた。

葉月の座席から一人分を空けて座った若い男女は二人組であり、葉月と根治郎の二人はソレを見て同じ事を考えた。


『(カップルだな・・・)』


「コーヒーでいいか?」と男の方が女に問い掛け、それに「それでよいぞ」と返答していた。


『(よいぞ…?)』


またも同じ事を考える二人。

その時「すいません、コーヒーを二杯お願いします。」と注文をした。

「あいよ~」と軽い感じで根治郎はコーヒーを二杯淹れ、それを二人に差し出した。

「お待ちどうさま。ところで君たちはこの辺で見かけないが旅行者かい?」とコーヒーを出すついでに根治郎は尋ねた。

「そうですね、この辺にきょ…」

「我らは妖怪退治に来たんじゃ!でも、悪意ある亡霊退治もやってるからあれじゃ、いわゆる"ごーすとばすたーず"じゃ!!」と女の方が言う。

「おいっ!変なこと言うな!」と男が女の頭を軽く叩くと「事実を言っておるだけじゃろう!」と女は叩き返した。

「はははっ、面白いコンビだね~!流石この店を選んだお客さんだよ!」と根次郎は客に対して遠慮なく笑った。

「ほら笑われちゃっただろ…。すいません、連れが変なこと言いだして…」

「構わんさ。そうだ!せっかくこんな町までこんなに面白い二人に来てもらったんだ、特別に『清樹焼き』を出してやろう!なっ、いいだろ?八雲の嬢ちゃん。」と根次郎が葉月を見ると、目を輝かして二人の旅行者を見つめていた。

「その仕事について詳しく聞かせてもらいませんか!!」と今までの毒を口から出していたときとは真逆のテンションで尋ねた。

「えっ!?えっとその…」

「我らの仕事に興味があるのじゃな!じゃあ、遠慮なく業務内容をおしえt…」

また女が頭を叩かれた。

「連れの変なノリにつき合わしてしまいましてすいません。まあ、僕たちはそんな漫画みたいな人間じゃなく、ただのそういう噂が好きな旅行者なんです。」と微妙な笑顔で男が返した。

それを聞いた葉月は一瞬気を落としたが、"そういう噂"が好きな人間だということに対して仲間を見つけた嬉しさがこみ上げていた。

「じゃあ、そういう噂について聞かせてください!」と葉月が店主ではなく客にオーダーする。

「それならいいですよ!おい阿紀、今度は喋ってもいいぞ。」

「いいのじゃな!それじゃ遠慮なく!」

阿紀、それが言葉遣いの変な女の名前である。

「ほう、中々面白そうじゃないか、それじゃ私も参加するかなっと。」


こうして四人は明るいテンションで奇怪な話をし始めた…



「…それでな、その客は今でもウチに来るよ。そしていつもの特大チャレンジ級裏メニュー『清樹焼き・御神木』を頼んではたいらげていくんだ…」

「マスターそれじゃただの変人じゃないですか~。まあいいか、最初のお題からもうすごいずれてるし。」と葉月は笑う。

「奇人変人、世の中にはいろんな人間がいるもんじゃのう。」

阿紀の言葉には2人ほど心の中で『お前もナ!』と突っ込んだに違いない。

「そうだ、我らも奇人の噂を聞いてこの町に旅行に来たのじゃ」

「そういえばそうなんです。まあ直接その人に用事があるわけじゃなく観光みたいなもんですけどね。」

清樹焼きを食べながら話す男と阿紀。その様子を根治郎は微笑を浮かべて見つめていた。

「手掛かりは少しあるんですが…。数日間はこの町にいるので、まあ見つかると思います。それじゃ、僕はこの辺で。あ、サービスしていただいてありがとうございました。また滞在中に伺うので、また美味しいコーヒーをお願いしますね!」

「また来るぞ!」とカップル二人はお代を根治郎に手渡す。

「あいよ。ところで兄ちゃん、苗字は何て言うんだい?」

「頼運です。そして相方が華六と言います。」

「なるほど、覚えておく。次からはもう常連さんってことにしとこう。」と受け取った代金をレジに収めながら応えた。



二人が店を出た後、葉月もバイトの時間だと店を出て行った。

客がいなくなった喫茶店、根治郎はオーダーメイドのキセルをひと吹きし、電話の受話器に手を掛け、未だに回転ダイヤル式の電話を回し、どこかに電話をかける。

「もしもし、根治郎だ。…さっき頼運家の坊ちゃんが店に来たぞ。この町に来た理由も予想通りというかいつもどおりと言うか、一応伝えとこうと思ってな。」


…しばらく通話は続き、通話が終わると根治郎はコーヒーカップにコーヒーを注ぎ、それを少し口にして呟いた。


「あの一族も懲りないねぇ…」

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