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清樹町の隅々で  作者: 磐梯 皐月
3/8

古本屋と古着女 part3

非日常世界に片足を突っ込み、少年のような期待感と不安感を手土産に持ち帰り、浮かれた気分で歩く葉月は、ふとさっきの言葉を思い出した。

「誘拐されるなよ」

言われた時は冗談に思えたが、よくよく考えると本気で言ったものなのかもしれない…不安感が増大する葉月。

「(これは人目に触れてはいけないもの…)」

葉月は浮かれた心にブレーキをかけ、ギアを入れ替えるように警戒心へと変えた。


しばらく歩くが、いつも以上に家路が遠く感じる…

視線を感じるような気が…する

いつもの何てことの無い道が、冒険映画で見る遺跡のトラップ通路のように葉月は思えた。

警戒を張り巡らせ、足を動かす…


歩く…歩く…歩く…


ビリッリッ

「っひえぇっ!!…」

小音の電気の音と気の抜けた叫び声が渡り、葉月は気を失いパタリと倒れた。



葉月は夢を見た。

園芸を趣味としていた祖父と花畑を手を繋ぎ歩く、幼い頃の記憶だ…

「この花は…ワシのせん…」

っとそこで目が覚めた。

見知らぬ部屋にいたが、周りに立っている人の風貌でどんな場所かすぐに葉月は理解した。

「よぉ、目ェ覚めたか…」

チンピラのアジトだ…

もちろんよくある椅子にロープで縛られた状態だ!

「あんたの爺さん孫なんかに渡して隠していたのか。シンプルじゃねェか。」

親玉のようなチンピラがそう語り、葉月に目を合わせ

「お前も金にしたくて喜んで預かったんだろォ?」

と問いかけた。

「違う!孫だから預かったの!」と言い返し、本屋の事は迷惑をかけまいと口に出さなかった。

「へぇー、じゃあこの本の中身は知っているのか?」と質問され、「知らない!」とまた嘘をついた。万が一相手が中身を知らず、吐かせようとしている可能性もあるからだ。

「そうか、なーんにも教えられずに渡されたわけだ、じゃあ教えてやるよ、それにはな…」

その時、部屋の扉がバタンッ!と倒れ、二人分の人影が姿を表した。

チンピラ、そして捕らわれの身の葉月も驚いたが、正体が判明して葉月には安心感と疑問が湧いた。

そう、さっきまでぐうたらと店の古本屋で語っていた店主と、恐らく変なマスクを被っていたであろうグラサンのおっさん風の

男がそこには立っている。

すかさずドア近くのチンピラが釘バットで二人に襲いかかったが、一樹はそれを手で止め奪い、それを横に振る。

ドカッ バタッ

っと二回当たる音が鳴り、バットを奪われたチンピラが倒れた横に、壁に漫画のように張り付いているチンピラとしゃがむ凪沙がいた。

「今からこいつが臭い台詞言う、聞いとけ。」

「ふたりは…あっ違った。ヒーローは遅れて来る!中島です。」

「何で落語家みたいに終わらせるんだよ。犬伏です。」

こういう時にもかかわらず悪ノリするのか…っと思いながら葉月自身も心の中で「今日、捕獲されました。八雲です。」と呟いた。

「な、何だてめぇら?あんたらもブツを狙いに来たのか?」と少し足を震わせながらチンピラの親玉は二人に問いかける

「ん?あーそうそう、良く分かったね~えらい、えらいよ~君」

「てめぇ!ボスを侮辱しやがぐぁっ…」

怒り狂ったチンピラを一樹が適当に沈めると、続いて凪沙が

「じゃあそこの部下D、何だかわかるか?」とクイズを出す。

「あぁ!?そんなの決まってんぐはぁ…!」

「はい残念!正解だったら殴らずお縄に掛けてやったのに。」

かわいそうに、心を読まれて解答を先読みされたんだと葉月は敵ながら同情した。

最後に残された親玉は全身を震わせながら「こ、こ、この本だろっ…!?」と本を差し出す。

「かっかっ返すからゆっ許して…」と震える口で呟き、本を手渡す動作をしたと同時に


「なーんちゃっ…ぐえはぁ!!」


凪沙が親玉を蹴り倒し、すぐに片手を抑えた。

「おいおい銃を最後に出すなんて、映画の悪役かよ」とチンピラから銃を奪い、縄を取り出してチンピラ達を縛りはじめる。

「まだ意識があるようだから言っておく、あんたも不正解だ。」

と一樹が親玉のチンピラに言葉を吐きつける。



「二人共、ありがとうございます!」と礼を言う葉月の目には涙の雫が少し垂れていた。

「いいってことよ。あ、ちなみに怖いお兄さん達はしばらく外に出てこないから安心しな。」

「良かった~!でも、何で場所が分かったんですか?」と葉月が質問をすると、一樹はニヤリと笑いながらPHSのような機械を取り出した。

「葉月ちゃん、裾を弄ってみな。」

言われた通りに葉月が裾を弄ると、小さな丸いモノが付いていた。

「…あの?最初から…捕まるの知ってたんですか!?」

「お~察しがいい!今日唯一のクイズ正解者だ!」

「うぅ…ひどい…」

「まあ利用したと言っても君の祖父を嗅ぎ回ってたチンピラのアジトを潰す為でもあったんだ。」

「そうそう葉月ちゃん、本を売ったのも君のおじいちゃん、多分チンピラ達を切り離す為だろう。」

それを聞きほっとする葉月。

「さあて葉月ちゃん、この本はどうする?ウチで預かってもいいけど?」

「お願いします!私には危険過ぎて所持できるモノじゃないし、そして何より、まだあなた達と繋がりが持てるような気がするんです!」と今日一番であろう台詞を口にした。

「嬉しいこと言ってくれるね~。ならバイトとかしてみないかい?」

「はい!是非喜んで!」と笑顔で返答した。

「そういえば、さっきのチンピラさんに出していたクイズの答え、正解ってなんだったんですか?」と唐突に思い出して葉月が質問すると、二人は


「それは、絶滅危惧種の」

「君のことだ!」


と答えた。




葉月にまた明日と挨拶を交わし、二人は本屋で話し始めた。

「なあ一樹、本の中身は言わなくて良かったのか?」

「う~ん、嘘はつきたくなかったけど、あの信じかたを見ちゃうとね~」

「そうだな、まじないってことにしておくか。」

「本人もそういう話好きそうだからな、麻薬製造の記述なんて知ったらがっかりするだろうし。」


古本屋と古着女 終

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