古本屋と古着女 part2
怪しい古本屋に再び来たこの女、名は八雲葉月という。
今日も葉月は探している本と同じように博物館にでも飾ってありそうな服を着ていた。
葉月が来店者を一日ではなく一週間で数えたほうがいいかのような雰囲気を放つ古本屋に来たのは、店主の一樹に「探しておくからまた今度来てくれ、あとその珍しい服どこで売ってんだ?」と言われたからである。
最後の余計な一言には「ふ、古着屋です・・・」とジトッとした目で見ながら返したが、礼を一言言って頼んでおいた。
それから三日後の今日、期待30%ほどでまた一樹の元へ顔を出した。
葉月が店の扉を開けると「よう、大和撫子ちゃん!」と上機嫌そうな一樹がカウンターにいた。
「誰が大和撫子ですか!」と飛んできたボールを打つように言葉を返すと「だって見た目がそれじゃあ、ねぇ・・・」と言葉をキャッチし、そのまま一樹はその言葉で隣の男とキャッチボールをするかのように問いかける。
「ふっ、確かにそうだ」とキャッチした男は何かが変だと葉月は感じた。いや、明らかにおかしい、
頭に鹿のマスクを被っているのだから・・・
「そんな明治時代の女学生みたいな格好している女ッコなんてコスプレイヤーぐらいだろうしな。」
「いや、あなたには言われたくないです!」葉月の心を突き破り、言葉が出てきた。
「そういえば葉月ちゃんには紹介していなかったな。こいつは俺の友人である犬伏だ。」
「初めましてお嬢ちゃん、犬伏凪沙だ。今後ともよろしく。」
「よ、よろしくお願いします・・・」
初対面のコスプレイヤーのような二人が挨拶を交わし終わるのを待っていたかのように一樹が口を開いた。
「そういえば、お爺さんの本が見つかったよ」
「本当ですか!」期待していない分、葉月の嬉しさも大きかった。
「しかし、これは人目につかない場所で保存するのが条件だ。それを守れなければ、返すことはできないね。」と一樹が言葉を突きつける。
「えっ、何でですか?」家系図か何かだろうと思っていた葉月には、このような条件を突きつけられたことに最初は驚きと疑問以外を持つことはできなかったが、ちょっとしたオカルト方面への期待感も後から沸き上がった。
「凪沙、説明よろ~」
「了解っ!と。」
重要な事を伝える前とは思えない会話を一樹と交わした凪沙は、葉月にその鹿顔を近づけ「やっぱり大丈夫みたいだ」と呟く。
「えっ、大丈夫ってどういう事ですか…?」と葉月が返すと、凪沙は続けて説明した。
「あれはまじない本の一種みたいなもんだ。まじないといっても人を幸福にするものではない。だからこそ、オカルティックな話を信じ、ただ純粋に代々引き継がれたものを見つけようとする心を持つ葉月ちゃんに安心して返すことができる。だから、条件さえ守ればあれはキミのモノだ。」
「えっ、えっ、考えてたこと…ええっ!?」
「そう、俺は人の心が見たくなくても見えてしまうんだ。あっ、でも今は目の穴を塞いだからダイジョーブダイジョーブ。」
葉月はこの男の正体はもちろんのこと、本の正体まで知らされ混乱した。
「でも、キミみたいにいっつも変な格好してるわけじゃないけどね~。普段は特殊加工のグラサン」
でもこの男が初対面で変なマスクを被ってきたことについてはスルーした。
凪沙が説明を終えると、一樹がひょいっと例の本を凪沙に投げて渡し、それを葉月に手渡した。
「あ・・・ありがとうございます。それで、代金は・・・?」
「いいよいいよ、今回は特別タダで。なんか凪沙も珍しいものが見れたみたいだし」
「ああ、こんな純粋な人、もう絶滅してたと思ったよ!」
っとここで代金無料の種明かし、これには葉月も照れ笑い。
「まあそんなことだ。あと、帰り道には気をつけナ」
「そうだ、知らないおじさんについて行っちゃ駄目だぞ絶滅危惧種」
「付いていくわけないじゃないですか!小学生じゃないんですし!あと絶滅危惧種はやめてください凪沙さん!ジャイアントパンダじゃないんですよ私!」
後々ツッコミ役としてキャラが定着しそうな勢いでツッコミを入れた後、葉月は礼を言って店を後にした。
店を出た葉月を見送る二人。
見えなくなったことを確認すると、凪沙が口を開いた。
「大丈夫だろうか・・・」
「ん?本の中身か?」
「中身は古い書体で書いてあるから大丈夫だろう。問題は帰り道だ・・・」
「あー、それなら問題ないモーマンタイ。これがあるからね~」
と一樹はPHSのような機械を取り出した。