古本屋と古着女 part1
清樹町という町がある。
そこは田舎とも都会とも言い難い中途半端な場所であり、これといった全国的に有名なものも無く、
町民にしか有名でない「清樹神社」があるだけである。
そんな町で古本屋を営んでいる一人の男、中島一樹は新聞を読みながらカウンターでタバコをふかしていた。
「へえ、昏睡状態から抜け出せない病ねぇ。しかも治療法が無いと・・・」
新聞の隅にある記事を見つつ独り言を抜かしているこの男がカウンターでタバコを吸えるのも、この店に客がめったに来ないからである。もちろん、タバコを買う金ぐらいは稼いでいる。
そんな販売意欲0.5%の店に、一人の女性が訪ねてきた。明治時代の女学生ような格好をした若い女性だ。
「おお、いらっしゃい。」とタバコを隠すように捨てると、そっけのない感じで接客とも言い難い接客をした。
「とある古本を探しているのですが・・・」と女が一樹を警戒しているかのような目で見ながら尋ねた。
「古本?それはどんなものだい?」と手馴れたかのように返答をするが、実はこの男本を尋ねられたことなど一度も無く、古本探しの手伝いなど未経験である。
そんな得意げな一樹を見て、女はほっとした表情へと顔をゆるめた。
「それがただの古本ではなく、その、えーと・・・たぶん博物館に眠っているレベルの古本なんです・・・」
それを聞いて目線を斜め上にそらした一樹を見て、女は不安げな表情へと顔を固めた。
「んー・・・一応そんな見た目の古本もウチにはあるから、ちょっくら手伝ってくれれば探すよ。手伝いといっても本を探すことだし。」
「ありがとうございます!」と、少しの希望と少しの絶望の波を乗り越えた顔の女は礼を言うと、その古本に関することを言い出した。
「その古本は私の家系に代々伝わる古文書でして、それには一族だけ知りえることができることが書いてあると祖父に教えられました。しかし一月前に亡くなった私の祖母は古文書をただの古びた本だと勘違いし古本屋に売ってしまったと亡くなった後に知らされ、今現在のように探している最中なんです。」
それを聞き、一樹は少し前にある老人が古本を売りに来たのを思い出した。それは女が言うような古びた本だった。しかし売りに来たのは女性ではなく男性だった。その後、書庫の奥へと仕舞い込んだままほったらかしになっている。
「それを探すと家族には言ったのかい?」と探るように一樹が女に尋ねた。
「はい、一度は言ったのですがもう見つからないだろうと諦めるように返されてまともに相手にしてくれないので、今回は黙って探しているという状態です。」
その返答を聞いた一樹は少しスッキリしたかのような表情を浮かべながら、女に声をかけた。
「お嬢ちゃん運がいいねぇ。ちょうどソレらしいものを手に入れたばかりだ。」