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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第五章 五大陸魔法学園交流戦 後編
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第八十三話 ヘルクレスモード

 漆黒の鎧に身を包んだソウジはそのまま煙によって遮られた視界を利用して『黒加速ブラックブースト』で加速しつつ回り込み、地面を蹴って今まさにフェリスへと近づこうとしているリラのもとへと飛び込む。リラは飛び込んできた黒騎士に気づくと、再び雷の剣を作り出してソウジの白銀の刃を受け止めた。


「黒騎士だと? 貴様、いったいどこから……」

「そんなことはどうでもいい。一つ確かなのは、俺はお前らの敵ってことだけだ!」


 白銀の刃が雷の剣を弾き、お互いに距離をとる。ソウジはリラからフェリスを庇うように立つ。相手は最強の魔人。変身していないソウジだったとはいえ大ダメージを負った相手である。油断はできない。だが今は変身した姿である。この状態は『アトフスキー・ブレイヴ』のパワーも上昇する。この姿ならば魔人に対抗できるはずだ。


「貴様はどうあっても我らの邪魔をするつもりらしいな。忌々しい」


 ソウジはリラと剣を交えながら背後の様子を確認する。アーベルトはまだ動けそうにないようだ。フェリスはそんなアーベルトを放っておけないのかその場に残っている。『イヌネコ団』のメンバーでソウジを一人で戦わせないと決めた。その為の手伝い。出来ることをすると決めた。だからこそ、フェリスはアーベルトを庇ってここにいる。


(今狙われているのはフェリスだ。けど、アーベルトさんも放っておけない。だったら……)


 ソウジはリラからバックステップで離れつつ、そのまま『アネモイモード』へと変身する。風の力を宿した緑の鎧へと姿を変えたソウジは、弓の形状となった星眷『アネモイ・ブレイヴ』を構えて矢を生み出し、放つ。放たれた矢は途中で分散し、弾幕を形成しつつリラの視界からフェリスたちを遮ることに成功する。

 その隙にソウジは『アネモイモード』の力でアーベルトを風で包み込む。アーベルトは空中でふわふわと浮遊し、傷口が開いている様子はない。


「フェリス、アーベルトさんを連れてここから逃げるんだ。こいつは俺が引き受ける」


 ソウジの放った風の力で浮遊するアーベルト。これならば肩を貸して無理に動かした際の衝撃や振動で傷口は開かないで済む。フェリスもリラから遠ざける事が出来る。


「早く行け!」


 叫び、再び矢を放つ。これもいつまで通じるか分からない。だがやるしかない。

 ソウジの叫びを聞いたフェリスは僅かな葛藤の後、頷きながらアーベルトと共に逃げだした。これでいい。あとは、目の前の魔人を倒すだけだ。


「この魔人リラをなめるな!」


 ソウジの放った風の矢は、紫の魔人リラから迸った閃光によって砕け散った。そのあまりの威力に攻撃の手が止まってしまう。やはりこの魔人はこれまで戦ってきたブラウともゲルプとも違う。とにかくパワーが圧倒的過ぎる。リラは全身に雷を纏うと剣を構えてソウジに向かって突っ込んできた。


「ッ……!」


 矢を撃ち、現在の距離をキープしようとするが全身に雷を纏ったリラは止められない。ならばと今度は『レーヴァテインモード』へと変身。緑から赤へと色が変わった、焔の力を宿した真紅の鎧を纏い、弓から剣へと形状を変えた『レーヴァテイン・ブレイヴ』を眷現。

 リラに対抗するように全身に焔を纏って刃を振るう。リラの持つ雷の剣とソウジの持つ焔の剣が激突する。雷と焔はお互いを侵食せんとするかのようにせめぎ合う。


「はあああああああああああああ!」


 ソウジは力を振り絞り、魔力を増大させていく。同時に全身と剣に纏っている焔もより強力に、強大になってゆく。


「チッ」


 そのあまりのパワーにリラの雷がついに弾かれ、ここではじめてリラがソウジに吹き飛ばされる形で大きく後退する。


「ならば貴様も、さっきのヤツと同じように吹き飛ばしてくれる」


 叫ぶと、リラは全身から膨大なエネルギーを放出した。先ほど、変身前のソウジが受け止めて処理しきれなかった雷の放出攻撃だ。アレをまともに受けたらただでは済まない。さらに言うならば、リラが放出しているエネルギーは先ほどよりも大きい。このままだといくら鎧を纏っているからといっても無事では済まない。だが、それでもやらなければならない。こいつをここで止めなければならない。後ろにいる仲間たち。一緒に戦うといってくれた、大切な友達を守る為にも。

 大地を破壊し、抉り、砕き、殺意をばらまきながら巨大なエネルギーの塊と化した雷が迫りくる。


 こいつはここで、止める――――!


 ソウジはその背を守るべき者達だけに見せながら、巨大なエネルギーの塊へと突っ込んだ。魔力を集約させ、剣を振るう。ソウジの姿は、その閃光の中に飲み込まれていった。

 直後に轟音が周囲に響き渡り、地面に亀裂が走る。ソウジはその中でいまだ耐えていた。剣でなんとか閃光を受け止め、堪えている。フェリスがこの場からいなくなったことで相手にも遠慮がなくなっていた。


「消えろ、黒騎士」


 リラの冷たい声と共に、雷のパワーが更に向上していく。次第にソウジが圧されはじめた。徐々に邪悪な雷が浸食をはじめており、鎧の所々に傷を作る。だがそれでもあきらめない。あきらめてたまるか。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ソウジの叫び声と共に、ブレスレットが新たな輝きを帯びはじめた。それはまるでソウジの願いにこたえようとしているかのようで、そこからまた何か新たな力が流れ込んでくるのを感じた。リラもソウジに何かしらの異変が起きていることを察知し、このままでは厄介なことになりそうだと更にパワーを高めていく。

 だが、リラが仕留めきるよりも早く――――


「ッ!?」


 ――――斧へと形状を変えた新たなる星眷の力が、リラの雷を引き裂いた。直後に切り裂かれた魔力による衝撃と爆発が辺りを包み込む。だが煙に包まれたその中で、鎧の戦士は健在だった。爆炎を切り裂き、リラの前にその姿を現したソウジ。

 鎧は土属性の証である黄色に染まり、ツインアイが力強い輝きを放つ。手にしているのは先ほどリラの攻撃を引き裂いた斧の形状をした星眷『ヘルクレス・ブレイヴ』だ。これはレイドの星眷である『ヘルクレス・アックス』の力。つまりは『ヘルクレスモード』ということだろうか。

 身の丈ほどもある大きな斧を構えながら、ソウジはリラを睨みつける。先ほどのリラのあの一撃を引き裂いたパワーもそうだが、この『ヘルクレスモード』は尋常ではないほどの力を感じる。これまでのモードはソウジの仲間たちの星眷の力も使うことが出来た。つまりはこのモードでも同じことなのだろうが、レイドの星眷に関してはまだ知らないことが多い。だが、土属性の力は雷属性であるリラに有効なはず。


(ありがとなレイド。使わせてもらうぜ)


 心の中で友達に礼を言いつつ、ソウジは斧を振りまわすと同時にリラへと飛び掛かる。先手必勝。相手がまた何かを仕掛けてこないうちに。そう思って踏み出したのだが、そこでソウジは違和感を感じる。それは決して悪いモノではなく。


(は、速い!?)


 そう。速い。とにかく速いのだ。少し踏み出しただけなのにいつもよりよっぽど速い。スピードが格段に上がっている。ソウジ本人がそのスピードに戸惑っているほどだ。だが想定していたよりもすぐにリラに接近できた。リラの方もいきなりこのスピードは予想外だったのか咄嗟に雷の防御を纏うことしか出来なかった。チャンスとばかりにその防御に向かって斧を振り下ろす。

 斧と雷が激突したのは一瞬。

 その直後には既に、斧が防御を叩き割っていた。リラは迫りくる斧から咄嗟に身をかわす。ゴドンッ!! と、斧が地面を叩き割り、その衝撃でリラを吹き飛ばす。身を宙に浮くことになったリラは舌打ちをしながら空中から雷の波動を放った。だがソウジは『ヘルクレス・ブレイヴ』を振るうと、斧はいとも容易く波動を叩き割る。


(これは……)


 この『ヘルクレスモード』はこれまでのモードと明らかにパワーが違いすぎる。他のモードは能力が変わることがあってもここまで劇的に基本スペックが向上することは無かった。むしろ、基本スペックだけならば『デヴィルモード』が属性の相性的な意味でも一番バランスに優れていた。

 先ほどまで苦戦していたリラに対してここまで優位に立てるのは属性の相性だけではないだろう。もちろん、それがかなり大きいという事は自覚している。だが、それにしてもだ。


(いや、まさか……これがレイドの星眷の力なのか?)


 レイドは自分の星眷の力を完全に引きだせてはいないと言っていた。使いこなせていないと。だからソウジもレイドの星眷の本当の力は知らなかった。だが、こうして『ヘルクレスモード』に変身してみてはじめてわかった。理解した。レイドの星眷である『ヘルクレス・アックス』の能力は『身体能力の超強化』。

 星眷の中には武器を眷現させることが出来るだけでなく、その使用者そのものを強化する力を有しているものもあるという。例えばアイザックの『カネス・ハウンド』もそれに該当するし、風紀委員長のクライヴ・ライガの持つ『しし座』の星眷も同じように身体能力を超強化する類の物だし、何よりソウジの『スクトゥム・デヴィル』もある意味、その強化タイプにあたる。

 そしてレイドの『ヘルクレス・アックス』もそれらと同じだったのだ。身体能力の超強化。それもただの強化魔法の比ではない。あの『皇道十二星眷』に匹敵しうるほどにまでの強化が施されるのだ。レイドが強化魔法をはじめて上手く発動できた時に得意魔法はこれから強化魔法だと言ったことがあったが、まさかそれがレイドの持つ星眷の能力になろうとは。

 そしてそんな彼の能力を宿した姿がこの『ヘルクレスモード』である。そのおかげで、ソウジ自身も超強化されたのだ。リラを圧倒的る程に。それこそ、単純なパワーだけでいうならばこの『ヘルクレスモード』は現在変身できる六つの姿の中で最強と言える。


「はああああああああああっ!」


 このモードに変身できたことで形勢は一気に逆転した。後退していくリラに対してソウジは斧を振るっていく。リラの放つ雷の閃光を軽々と叩き潰していき、更に超強化されたスピードでその背後に回り込み、不意をとって一気に刃を叩きこむ。だがリラもさすがは最強の魔人ということか、咄嗟に腕をクロスさせて斧の一撃をかろうじて防御する。メキメキと歪な音が腕から響き渡り、そのまま押し切るようにソウジはリラを吹き飛ばす。


「ぐッ……!」

「今だ!」


 勝機を掴んだソウジはそのまま追撃する形でリラへと迫る。斧に魔力を集中させ、光の束を作りだす。キラキラと輝く魔力の光が、必殺の一撃へと変貌を遂げる。


「『魔龍土斬ヘルクレスストライク』ッ!」


 最強の魔人リラへとついにその必殺の刃が届く。眩いばかりの黄の閃光によって斬り裂かれたリラ。彼女はそのまま派手な爆発音と共に地面へと隕石の如く叩きつけられ、クレーターを形成する。ソウジは地面に着地すると、リラが落ちた場所であるクレーターの中心地へと視線を向ける。姿そのものは煙に覆われていて見えない。だが、邪悪な魔力だけは健在だった。


「…………やってくれたな、黒騎士」


 魔人リラは、まだ生きていた。体に大きな破損が見られるものの、まだ彼女は二本の脚で立っている。これだけのダメージを受けてまだ動けるのかと思わざるを得ないが、思えばブラウですら『ストライク』タイプの攻撃を受けて生きていたのだ。たった一撃加えただけでリラが行動不能になるとは思えない。だがダメージは決して小さくは無い。何しろ六つのモードの中で最強のパワーを誇る『ヘルクレスモード』での一撃なのだ。


「まだ生きていたのか」

「当然だ。魔人を侮るなよ」

「なら、もう一度だ!」


 ソウジは再び『魔龍土斬ヘルクレスストライク』を発動させようとした。魔力が斧に集約され、再び必殺の一撃を放たんと輝きを放つ。


 だが、すぐにその魔力が霧散してしまう。


 次の瞬間には鎧の色が黄から黒へと変わり、星眷も斧から剣へと形状が戻ってしまった。


(『ヘルクレスモード』の変身が解けた!? どうして……いや、まさか……時間切れか?)


 魔力切れで強制解除させられたというわけではない。まだ魔力なら残っている。だが減りが異常に早かった。やはり強力な『ヘルクレスモード』には大量の魔力消費という代償があり、魔力切れによる強制解除ではないということはこのモードには唯一、変身可能時間があるのだろう。

 これまでの他のモードには変身可能時間というものが無かった為に完全に油断していた。

 そして鎧が『デヴィルモード』へと戻ったソウジを見て、厄介なことにリラは冷静に状況を把握していた。


「なるほど。さっきの姿は変身できる時間が限られているらしいな。だとすれば、またあの厄介な姿になられる前に貴様をここで葬り去る」

「出来るもんならやってみろよ。たとえさっきの姿に変身できなくても、俺はお前に勝つ」

「ほざけ。魔人の力があの程度で終わると思ったら大間違いだ」


 リラが更なる魔力を解放していく。最強の魔人とも呼ぶに相応しいほどの魔力。だが関係ない。リラが向かってくるというのなら、守るべきものを守るためにソウジも戦うまでだ。

 と、気を引き締めたその時だった。


「そこまでよ」


 轟ッ!! と、ソウジとリラの間に膨大な魔力を秘めた炎が燃え上がった。メラメラと燃え盛るその紅蓮の炎にソウジはどこか見覚えがあったような気がした。よう、学園の中で何度か目にしたことがあるような。その答えはすぐに目の前に現れた。

 炎の中から現れたのは一人の少女。

 コツ、コツ、コツと一歩一歩、何かを踏みしめるように現れたその少女は、魔人リラを冷たい眼で見下していた。


「まだ遊び足りないのなら、私が遊んであげる」

「貴様は――――」


 リラは火炎の中から現れたその少女の名を知っていた。


「――――エリカ・ソレイユ、か」

「あら、私の名前を知っているの? 魔人に覚えてもらえてるなんて光栄ね」


 学園最強の称号を有する少女が、魔人の前にその姿を現した。





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