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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第五章 五大陸魔法学園交流戦 後編
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第八十二話 最強の魔人

 第三競技のポイントはいかにして砦を攻略するか。また、攻略した砦を守りきるかだ。せっかく攻略した砦もフラッグを破壊されてしまっては無意味となる。むしろフラッグの最大個数が減るので無駄になってしまう。どのタイミングで砦を制圧するかが鍵となる。また、砦は各学園のものだけではない。このフィールド内にある様々なエリアそれぞれに砦は存在する。人数を上手く配分することも重要といえる。

 だが、第一競技で使用された通信用の魔導具はドワーフ族が何かしらの対抗策を用意したのかジャミングをかけられて使い物にならない。各自の状況判断能力が要求される。


「つーわけだから、オレらはまず遺跡エリアの砦に行こうと思うんだけど」


 草原エリアを出ようという頃、デリックがソウジたちに提案した。草原エリアの近くにあるのがその遺跡エリアで、もうじきたどり着く場所でもある。


「こっちは本陣の守りを気にしなくていいっつーアドバンテージがあるからな。だからそれを活かして、とりあえず最初は五、六人ぐらいで偵察にまわろうかなーって」


 砦の数は多い。更に本陣となる所属する学園の砦の守りもある。本来ならば本陣は特に守りを固める必要があるのでそれだけ人数が割かれるがレーネシア魔法学園の場合はその守りがエリカ一人で事足りる。その分、他に人員を回せる。


「つーわけだから、オレ、クラリッサちゃん、チェルシーちゃん、フェリスちゃんで遺跡エリアの偵察っていうのはどうよ」

「デリック、その人選のわけを聞かせろ」

「ん? どうせ何人かで行くならかわいい女の子に囲まれたいだろ?」

「…………お前はオレと来い。その他はソウジ・ボーウェンとフェリス・ソレイユと共に行け」


 アイザックが頭を痛そうにしながらソウジにクラリッサたちへの同行を促した。デリックは「オレのハーレムが……」と残念がっていたもののしぶしぶ同意する。


「お前たちはこのまま遺跡エリアの探索を頼む。俺とデリックは他のエリアをまわる」


 砦を攻略してもフラッグが破壊されれば意味は無い。基本的に砦の本格的な攻略は制限時間がある程度経過してから行われることが多い。それまでは敵の生徒を倒して数を減らす戦闘がメインに行われる。よって、偵察による情報収集と敵の撃破は必要なことだ。

 その後、ソウジ、クラリッサ、チェルシー、フェリスはそのまま遺跡エリアへと足を踏み入れた。他のメンバーたちもそれぞれ同じようにある程度の人数で固まって別のエリアの探索に向かっているはずだ。


「ねぇ、第二競技のトラブルはあいつら魔人の仕業だっていうのは聞いたけど……やっぱりこの第三競技でも何か仕掛けてくるのかしら?」

「分からない。でも、あいつらがこのまま引き下がるとは思えない。あいつらの目的は『巫女』を探すことだ。その目的は外との繋がりが遮断されてるこの結界の中なら果たしやすい。だから来る可能性は高いとは思うんだけど……」

「だとしたら、気を引き締めてかからないとね。魔人退治なんて意気込んじゃったわけだし」


 そう言って、クラリッサは首に巻いている紫色のマフラーをきゅっと小さく握る。


「クラリッサ。できれば……」

「分かってるわよ。無茶はしないでって言いたいんでしょ。わたしだって、ソウジですら苦戦する相手にとびかかったりしないわよ。でも、囮になったりルナやユキちゃんを守ったりすることぐらいはできるでしょ。……ってなによその顔は。ソウジだって認めたでしょうが」

「……いや、囮になるのはちょっと」


 クラリッサたちが囮になるのはソウジからすれば許可することはできない。


「なんでダメなのよ」

「クラリッサたちは危険なめにあうのはやっぱり嫌だし。そ、それに。ほら、正体の事もあるし」

「一緒に戦っているからってそうそうバレないわよ。わたしたちが黒騎士の大ファンで力になりたかったとでも言っとけばいいのよ」

「そんなアバウトな……」

「やるったらやるの! もうソウジ一人には戦わせないんだから!」


 ぷんすかと怒っているクラリッサお嬢様のご機嫌をこれ以上そこねると面倒なので黙っておく。

 魔人といえば、またユーフィアを狙って何かしらの手をうってくるかもしれないという危惧はしている。だからそのためにライオネルが会場の外で待機している。


(頼むぞ、ライオネル)


 ソウジはこの結界の外にいる頼れる後輩にその意思を託しつつ、遺跡エリアへと足を踏み入れた。


 ☆


 ソレイユ家の専用スペースにいるユキは試合の様子を見守っていた。第二競技の時に起きたトラブルやユーフィアを利用した魔人の行動のこともあるので見守る側としてはヒヤヒヤしているが。そしてライオネルはというと、ユーフィアのいるエルフの王族専用スペースの近くでこっそりと周囲の様子を窺っていた。魔人がユーフィアを利用していた件があるので警備は厳重になっていたが、魔人の力はそんな警備如きは易々と突破できる。万が一ということもありえるのでこうしてライオネルはユーフィアのいる場所の近くにいるわけだが。


(さっきは危うく連行されるところだったからなぁ)


 試合開始前から既にライオネルはユーフィアを守るためにこの場にいたのだが、ユーフィアの部屋の近くでうろつていたところをエルフの騎士に見つかり、不審者として連れて行かれそうになったのだ。だがそこを偶然、通りかかったエリカが話をつけてくれたのだ。


 ――――この白のガキは大丈夫よ。


 エリカとライオネルは親しい仲ではない。それどころかソウジとライオネルが一緒にいたところをエリカが偶然通りかかり、その時にちょっとだけ話しただけに過ぎない。


(……はずなんだけどなぁ)


 それなのになぜエリカはわざわざライオネルの事に関してエルフの騎士たちに話をつけてくれたのか。


(そもそもあの姉ちゃん、はじめて会った時から色々と引っかかるんだよな……オレの事も白のガキって呼ぶし)


 その呼称は自分の着ている白いコートからとったのだろうか。それとも……。


(ソウジたちはあの人のことをそんなに警戒していないみたいだけど、オレにはどうもなぁ……)


 変態という意味で警戒しているのはさておいてだ。


(そもそもオレとソウジをお姫様のところに向かわせたのも、ここを通りかかったのも本当に偶然なのか? 仮に偶然じゃないとして、なんでオレとソウジをお姫様のところに向かわせた? あの姉ちゃんの目的は何なんだ?)


 考えれば考えるほど疑念がわいてくる。だが、今はユーフィアを守ることが先決だ。


「おい、なんだ貴様」


 気がつけば、エルフの護衛騎士たちの前に大柄な男が立っているのが見えた。黄のローブを纏ったその男の雰囲気に見覚えがある。すると、エルフたちはその男の纏っているローブを見てはっとしたような表情をし、次の瞬間には警戒を高めていく。


「そのローブにこの体格……ま、まさか貴様が……!」

「そうだ、と言ったら?」


 言うと、黄のローブの男は邪悪な魔力を纏って魔人へと変身し、その直後にエルフの護衛騎士二人を薙ぎ払った。


(おいおいマジかよ!)


 ライオネルは通路の物陰に身をひそめ、周囲に人がいないことを確認するとすぐさま白騎士へと変身する。そして物陰から飛び出して即座に『オリオン・セイバー』を『セイバスター』へと変形させて背後からゲルプへと銃撃を仕掛ける。放たれた魔力弾はゲルプへと直撃し、注意をこちらに引き付けることに成功した。


「誰かと思いきや白騎士か」

「オレで悪かったな魔人野郎」

「相手がまた貴様とは、つくづく貴様とは縁があるようだな」

「こっちとしては、そんな縁はお断りしたいところなんだけどな」

「フン。儂だってそうだ」

「だったら、お互いの為にさっさと終わらせるぜ魔人野郎!」


 剣の形へと変形させた星眷を構え、白騎士と黄の魔人ゲルプが交錯した。


 ☆


 遺跡エリアの砦内部では既にエルフと魔族の戦闘が行われていた。その中心にいるのは、マリアとエドワードの二人である。この二人は第一競技でも戦った相手同士であり、特にエドワードはマリアに敗北した借りを返しておきたいと思っていたところだ。

 第三競技の序盤では互いの戦力をどれだけ削れるかが鍵となる。そしてこの二人の存在は戦力として大きい。


「フン。また性懲りもなくわらわに挑むか」

「女の子に負けっぱなしはちょっとね」


 エドワードにも負けっぱなしでは嫌だというぐらいのプライドはある。負けず嫌いでなければ交流戦の代表に選ばれるほどの使い手には選ばれなかっただろう。ここでリベンジを果たすつもりだ。


「ならばまた倒してくれるわ!」

「そうはいかないよ!」


 黒と緑の剣が再び交錯しようとしたその時――――、




「楽しそうだなァ。アタシも混ぜてくれよ」




 空間に黒い亀裂が生まれ、そこを突き破って赤の魔人がその姿を現した。


 ☆


 遺跡エリアに足を踏み入れたソウジたちは、前方に誰かが倒れているのが見えた。近づいてみると、倒れていたのが獣人族のガブリナーガ学園の生徒会長であるアーベルト・バラクロフだということが分かる。そしてもう少しよく見てみると、彼は背中に傷を負っており、大量の血を流していた。それだけでなく、彼は誰かを抱えて蹲っている。おそらくその誰かを庇っていた為にこれだけの傷を負ってしまったのだろう。


「アーベルトさん!?」


 ソウジたちはアーベルトに急いで駆け寄った。状態をしっかりと確認するまでもなく、尋常ではない傷を負っている。まるで傷を負っている背中に何度も何度も重ねて激しく切りかかったかのような酷い傷。それに加えて全身がズタズタにされており、体の至る所から出血していた。

 生徒がやったものなのか。いや、違う。アーベルトの背中の傷から感じる僅かな邪気の残滓。


「やっときたか。待っていたぞ」


 アーベルトが倒れているその先。そこに、紫色の鋼の肉体を持つ魔人がいた。


(魔人……!)


 紫の魔人はじっとフェリスの方へと視線を向けている。まるで何かを確認するかのように。


「フェリス・ソレイユ。確認させてもらうぞ」

「ッ!?」


 紫の魔人リラはフェリスへとゆっくりと近づいていく。そして彼女の発した「確認」という単語でソウジが目の前の魔人が何故フェリスを狙っているのかを理解した。


(フェリスが……『巫女』の候補なのか!)


 だがフェリスはルナやユーフィアのように何かしらの反応を見せたわけではない。だが、マリアの件も考えるとフェリスを絶体絶命の危機に陥らせることで『巫女』であるか否かを確認しようというのだろう。


「逃げろ……そいつは……強すぎる……」


 今にも意識が途切れそうになっているアーベルト。そんな彼が庇っていたのはギデオン・バートンだった。ギデオンは呆然としながらアーベルトの腕の中で一緒に倒れている。意識が無いというわけではない。ただ、なぜアーベルトが自分を庇ったのかが理解できないのだろう。


「か、会長……なんで……」

「うるさい問題児が……た、頼む……こいつを……」

「わかった。任せて!」


 真っ先に返事をしたのはクラリッサだった。アーベルトの下からギデオンを引っ張り出し、そのまま引きずって行こうとする。その行為にギデオンは驚いた表情を浮かべていた。


「な、なんで……」

「うっさい! こっちはもう手伝うって決めたのよ! さっさと来ないと、無理やりにでも引きずり回すわよ!」


 チェルシーはどこか納得できないような様子だったが、ソウジの手伝いをすると決めたというクラリッサの気持ちを汲み取ってギデオンに肩を貸す。ソウジは『黒空間ブラックゾーン』から治療用の薬や『ミネラルアクア』をはじめとした魔法アイテムなどを引っ張り出してフェリスたちに放り投げる。

 目の前の魔人は迫ってきているのだ。ここは自分が対処するべきだと思ったソウジはそのままフェリスたちに背を向けて、魔人に向かっていった。フェリスはソウジから受け取った治療用の薬や魔法アイテムをアーベルトに使用して止血を施しつつ、アーベルトのクリスタルを確認する。


「クリスタルを破壊してアーベルトさんたちを外に転移させれば……!」


 だが、その肝心のクリスタルは既に跡形もなく破壊されている。ルール通りならこれで外に転移させられるはずだが転移魔法が発動していない。第二競技の時と同じだ。魔人の放つあの付与魔法や転移魔法などを無効化する黒い波動のせいか。ということは、魔人を倒すか魔人が撤退するかしないと効力が解除されないということ。


「ソウジくん!」

「分かってる!」


 魔人を倒す。それしか道はない。ソウジは『アトフスキー・ブレイヴ』を紫の魔人へと向かって振るう。だが紫の魔人は右手に雷で形作った剣を出現させると、その刃を漆黒の刃とぶつける。二つの刃と魔力同士が激突して激しいスパークを生む。


「ただの学生風情が、私に勝てると思っているのか?」


 紫の魔人がポツリと言うと、彼女は全身から更なる雷を発した。まるで爆発しかのように炸裂した雷。そのあまりの威力に弾かれるソウジ。咄嗟に防御に徹するもパワーは圧倒的だ。とても『アトフスキー・ブレイヴ』単体で防ぎきれるものではない。


(この魔人……これまで戦ってきた二人よりも強い……!)


 雷の勢いは更に激しさを増す。紫の魔人を中心地として眩いばかりの閃光が辺り一面に広がり、ソウジたちは光に飲み込まれた。その中で何とか背後にいる者たちだけは守ろうとソウジは雷の力を一手に引き受ける。その勢いは徐々に増していき、やがて処理できる範囲を超えていく。


「――――ッ!?」


 ソウジはそのまま遺跡の一角に弾丸の如く飛ばされ、激突した。その衝撃で遺跡の一部が崩壊し、瓦礫がソウジに降り注ぐ。土煙が崩壊する遺跡の一角を覆い尽していく。中にいる者がどうなったのかはとても確認できるような状況ではなかった。


「ソウジくん!」


 ソウジが庇ったお陰でフェリスとアーベルト、そしてギデオンをこの場から避難させていたクラリッサとチェルシーは何とか無事だった。だがソウジの安否は確認できない。紫色の魔人は崩壊してゆく遺跡の一角に視線を向けると、今度はフェリスに向かってゆっくりとその歩を進めていく。


 ☆


 崩れゆく遺跡の中で、ソウジの体は押しつぶされていた。体は至る所が引き裂かれ、両足と左腕が吹き飛び、周囲に夥しい量の血が流れ落ちていた。普通ならば確実に死んでいる。だがソウジは生きている。

 その理由を証明するかのように次の瞬間には黒い魔力が吹き荒れ、ソウジの体を包み込んでいく。黒い魔力が傷口に殺到すると、その部分が再生していく。

 この再生能力の正体はまだ分からない。だが次第にハッキリとしてゆく意識の中で、ソウジはこの再生能力が自分の命を守ってくれていることだけは確かだと感じた。

 自分がバウスフィールド家から追放された時に自分を守ってくれたのもこの力だ。あの時にソウジは前世の記憶を思い出し――――、


「ッ……!?」


 ズキンッ。と、不意に頭が痛む。再生能力によって全身の痛みがひきはじめているはずなのに、なぜか頭の痛みだけは感じている。あの時と同じだ。前世での記憶を思い出した時と。何かを、思い出している。何かの記憶が、蘇っている。




 記憶の中のソウジは草原にいた。綺麗な青空の下にいる。そしてソウジは一人ではなかった。誰かがいる。綺麗な衣をまとっている女の子だ。顔はよく見えないが、金色の輝く彼女の髪がとても美しいということは分かる。女の子は何か大切な事をソウジに話していて、ソウジはそれを黙って聞いていた。何を話しているのかはさっぱり分からなかったが、それはとても大切なことだという事が妙に強く頭に残っている。

 そしてその少女はその衣を脱ぎ捨て、光り輝かせる。やがて衣はその姿を鎧に変えて、ソウジの胸の中に収めたのだ。すると、ソウジの持っていた白い剣がじわじわと黒く染まっていく。何だこれは。そう思う前に、最後に女の子の声が聞こえてきた。


 ――――その力が、あなたを守る盾となりますように。


「ぐっ……!?」


 ズキンッ。と再び頭痛が起こり、ソウジは現実の世界へと意識を呼び戻された。


「なん……だ……今のは……?」


 アレも前世の記憶なのだろうか。だが前世のソウジは現代日本にいたはず。日本にいるはずの自分がなぜ、あんな剣を持っている。あの女の子はなんだ? あの光り輝く力は? あれも魔法? しかし、前世のソウジは魔法が使えない、ただの平凡な少年だったはずではないのか?


(分からない……分からないけど……! 今は!)


 そんなことを考えるのは後だ。今は仲間を助けることだけを考えろ。

 ソウジはブレスレットを装着すると魔力を解放させる。あの魔人はこれまで戦ってきた二人の魔人よりも強い。それどころかおそらく、魔人の中で最強なのかもしれない。

 だがソウジにとってそんなことはどうでもいい。その魔人を放置してフェリス達に危害が及ぶことは許せない。どれだけ強かろうが関係ない。


「『スクトゥム・デヴィル』ッ!」


 ソウジは仲間を救うべく、『たて座』の鎧を纏った戦士へと変身した。




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