第八十一話 第三競技
交流戦の第二競技は様々なトラブルに見舞われたものの、第三競技も問題なく行われるとのことだった。選手たちは二日間のうちにしっかりと休息をとり、コンディションを整える。これで交流戦はラストだ。泣いても笑っても最後の競技となる。
最後の競技を観戦しようと多くの観客たちが会場であるレーネシア魔法学園の闘技場に押し寄せた。会場や学園内はより警備が厳重となっている。
「さあ、これで最後よ」
第三競技前の控室では、エリカとクライヴが選手やスタッフたちを前にして最後のミーティングを行っていた。
「最終である第三競技は『拠点攻略』。これは、フィールドの内部の様々な場所に存在している『砦』を攻略していく競技よ。第一競技の『トレジャーハント』と似てるけどね。ただ、第一競技と違うのは私たちの学園で行っているランキング戦と同じように選手たちが身に着けることになるクリスタルが破壊されるとその時点でその選手は競技から脱落しちゃうってことね」
「また、砦の攻略方法だが、各砦の中心部に自分の学園の旗を打ち立ててはじめて攻略完了となる。もちろん、そのフラッグが破壊されればまた未攻略状態ということになる。よって、フラッグを打ち立ててからはその場で誰かがフラッグを守らなければならない」
「この最終競技は制限時間終了と同時に終了。その時、拠点にフラッグが立てられてた時はその拠点にフラッグを立てた学園にポイントが加算され、逆に自分の拠点に他校のフラッグが立てられてた場合はその分ポイントが引かれてしまう。ちなみにポイントは敵生徒を倒しても加算されるから、その辺はいつもやってるランキング戦と同じね。要するに、ガンガン敵を倒して、ガンガン他の学園の拠点を攻略していけばいいのよ」
そもそもいつものランキング戦は交流戦の予行演習みたいなものだ。そこに『砦』という要素が加わるだけであるのでルールは簡単にのみこめた。ようは他の学園の砦に自分の学園のフラッグを立てればいいのだ。
「確認しておくが、フラッグは学園の砦に元から立てられてるもの以外は選手一人につき一つ配布される。だが、フラッグが破壊されたらもうそのフラッグは使えない。つまり、こちらの学園のフラッグの個数が数が減ってしまうという事だ」
「砦の攻略にはフラッグが無いとどうしようもないからね。フラッグをその砦に立てる時には破壊されないように注意すること」
ルールを確認し終えると、いよいよ入場だ。闘技場のフィールド部分には参加する選手全員が集まっていた。この第三競技からは各学園の生徒会長、風紀委員長が参加かのうということもあり、まさに総力戦といっても過言ではないだろう。
ソウジはフィールドに立ちながら、この競技にも魔人が何かしらの細工を施していないかを考えていた。第二競技では魔人の手による細工が施されていた。第三競技にも何かしらの仕掛けがあるのかもしれない。クラリッサが『イヌネコ団』で邪人退治、魔人退治を行っていくと意気込み、ソウジもそれに協力すると言った。そして後から『巫女』の件も含めてすべての話を聞いたフェリス、レイド、オーガストも同じようにクラリッサに協力すると言ったので、もう後には引けない。
たとえ邪人や魔人に対抗できるのはソウジとライオネルだけだとしても、みんなの力を合わせて魔人たちと戦うと決めた。
(仮に魔人が来たとしても、俺が……いや、俺たちが絶対に倒してやる)
ソウジがそんな決意を胸に秘めると同時に、選手たちは一斉にフィールド内に転移された。
☆
第三競技の結界内部は、森、草原、荒野、砂漠、遺跡、廃墟などと様々な種類のエリアに分かれている。また、試合開始時点で各学園にはそれぞれ一つ砦が与えられる。そして、どこの砦を最初に取ることが出来るのかだが、ここまでの競技で獲得したポイントが高い順で各学園の生徒会長が選択することが出来る。つまり、ここまでの合計獲得ポイントが一番高いレーネシア魔法学園が好きな場所の砦を選ぶことが出来るというわけだ(ちなみに試合開始時点でどの学園がどのエリアの砦を選んだのかは知らされるようになっている)。
そしてエリカが選択したのは、草原エリアにある砦だ。この場所は障害物が殆ど存在しないので見晴らしがよく、的になりやすい場所ともいえる。だがエリカたちレーネシア魔法学園は現時点でポイントトップ。いわば狙われる立場である。迫りくる敵を迎撃する場合は障害物が邪魔になるし、下手に周囲に障害物があるとかえって奇襲を受けやすい。よって、草原エリアのような見晴らしがいい場所にある砦を構えているとどこから敵が来るのかが分かりやすくなり、奇襲を受けにくくなる。とはいえ、第一競技でディラフト学園が披露したような『インビジブルスーツ』のような例があるので油断はできないが。
ちなみに今回の競技における作戦だが、第一競技の時と同じように攻めに人数を割くようにした配置となっている。エリカ一人をレーネシア魔法学園の砦の護りに置いて、残り全てはアタッカーにまわるという超極端な配置なっているのだ。
「にしても、護りを本当に生徒会長一人だけに任していいのかしら」
アタッカーとしてソウジたちと行動を共にしているクラリッサが首を傾げる。その言葉にデリックは去年の事を思い出していた。
「まあ去年もこんな感じだったからなぁ。マジで守りは生徒会長一人だけでいい。そこは安心してくれよ。クラリッサちゃん」
「……それで去年も勝っちゃったのよね?」
「そうそう。凄かったぜぇ。四方八方から大量の敵が押し寄せても一人で全部ぶっ潰してたからな。もう他の先輩たちもいらないんじゃないかってレベル」
「……さすがフェリスのお姉ちゃん」
チェルシーのいう事ももっともだ。確かにあのフェリスの姉というだけはある。それにフェリス自身も姉のことは尊敬し、強さのお手本にしているぐらいだ。当のエリカ本人は変態だが。
それにソウジもエリカの強さは目の当りにしたことが無いものの、滲み出ているあの底知れない強さは侮れない。
「それに、エリカさんの『学園最強』って称号は『すべての魔法学園の生徒の中で最強』って意味もこめられてるらしいからな」
デリックの言葉にソウジたちは驚いた。まさか他の学園も含めてでの『学園最強』だとは思ってもみなかった。だがよくよく考えれば獣人族の学園、ガブリナーガ魔法学園の生徒会長であるアーベルト・バラクロフもパーティの時に今年こそはエリカに勝つ、というようなことを言っていた。実際にそれだけの実力をエリカが有しているという事なのだろう。
「まあ、エリカさんも強いがうちのボスもなかなかのもんだぜ」
「デリック先輩のボスっていうと……風紀委員長のクライヴ・ライガ先輩ですよね?」
「おうよ! なんたってあのエリカさんに次いで学園二位だからな!」
☆
時は遡り。
『下位層』にあるとある廃墟。その中に五人の魔人たちは集っていた。
「すまんなぁ。見事に失敗してしまった。ガッハッハッ!」
黄の魔人ゲルプが言葉とは裏腹に豪快に笑っている。実際、失敗したという報告は既にリラは確認している。
「へっ! ざまァみろ。せいぜいリラからお叱りでも受けやがれ!」
赤の魔人ロートが、先に黒騎士、白騎士と戦えたゲルプが怒られることを期待しているものの、紫の魔人リラからロートの期待する言葉は出なかった。
「いや、よくやったぞゲルプ」
「はぁ!? なんでだよリラ、こいつ失敗してんじゃねーか!」
「そうでもない。ユーフィア姫を『空の巫女』への覚醒まで導いたのだからよくやった方だろう。それに、グリューンがダンジョン内部に仕掛けを施し、ゲルプが黒騎士と白騎士の二人を相手して時間を稼いでくれたおかげで次の巫女の候補が出てきた」
「あァん? 候補ぉ?」
リラが映し出した映像に、一人の少女の顔が現れる。
「あら、その子……ゲルプの邪人化した魔物に対抗してた子じゃない」
「……フェリス・ソレイユ。ソレイユ家の娘か」
ブラウがじっと映像として映し出されたフェリスの顔を見ながら、その名を口にする。
「そうだ。もともとソレイユ家は『太陽の巫女』の転生体の第一候補だからな」
ゲルプとグリューンにあのレーネシア魔法学園のダンジョンに細工を施すように命じたのはその第一候補であるソレイユ家の娘であるフェリスが『巫女』かどうかを確かめるためである。
「でもこの子、姉や母親もいるわよ。なんでわざわざこの子が候補だと? まさか前の戦闘で反応でも出たのかしら?」
「いや、『巫女』の反応そのものは出なかった。強いて言うならば私の勘だ」
「勘ねぇ。その勘に振り回されるワタシの身にもなってほしいものね」
リラの指示で緑の魔人グリューンは交流戦という人間やその他の種族が多くいる場所に紛れ込んでいるのだ。不満の一つや二つ、出てきても仕方がないだろう。それはリラも分かっている。
「それはすまない。苦労をかけるな、グリューン」
「……まぁ、いいけどぉ。これも仕事だし。それに、リラの勘って結構当たるし」
とはいえ、リラの指示が間違っているとはグリューンも思っていない。実力のある者達が集まり、なおかつ戦いを繰り広げる交流戦を利用して『巫女』を見つけ出すというのは理にかなっている。これだけの大舞台。普段は周りのガードが固くて調べられない生徒の事を調べやすいし、なにより潜入が容易だ。
「ユーフィア姫が『空の巫女』に覚醒したことで、残りは『太陽の巫女』、『月の巫女』、『自然の巫女』、『大地の巫女』の四人。残りを必ず探しだすぞ」
「そのために、また交流戦に乱入してやるんだろ? 次こそアタシにいかせろ! ゲルプもブラウもあの騎士共と戦ってんだ。体がウズウズして仕方がねぇ!」
「いいだろう。交流戦も次は第三競技。お前が存分に暴れられる場所で行われるからな。許可してやろう」
リラの言葉にロートはぱあっと笑顔を輝かせ、「やったぜ!」と嬉しそうにガッツポーズをとっていた。
「だが、第三競技には私も同行する。いいな」
「おうよ! 暴れられるのならなんでもいいぜ!」
「念のために言っておくが、生徒は殺すなよ。殺した中に『巫女』が紛れ込んでいたら転生するまで待たなくてはならないからな」
「へいへい。わかってますよっと」
ロートは弱い生徒たちに興味はない。ロートが興味を持つのは強い者のみである。そして今現在、興味があるのはあの黒と白の二人の騎士だ。
「待ってろよ、黒騎士、白騎士……てめぇらはアタシがぶっ殺してやる」
残忍な笑みを浮かべながら、ロートはその時を待った。