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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第五章 五大陸魔法学園交流戦 後編
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第八十話 ごめんなさいをしよう

 交流戦の第二競技は混乱の中で終わりを迎えた。本来、擬似魔物に耐久力を持たせているのはあえて数値化を行う事で競技における採点の手間を楽にするためという面もあり、ダメージを数値化することでそれぞれの生徒の力量が知りやすくなるという面もある。これは交流戦に参加する生徒に目をつけている騎士や冒険者など、様々な職種の者たちのスカウトの参考にもなる。

 レーネシア魔法学園の点数は採点に少し時間がかかったものの、この競技は擬似魔物を倒した時点で終了であり、フェリスたちはトラブルに巻き込まれたものの擬似魔物そのものは倒している。そしてダンジョンをクリアし、擬似魔物を倒したタイムは一番早かったので結果的には第二競技を一位通過だ。


 ・レーネシア魔法学園(人間族):一位/300+42点

 ・ガブリナーガ魔法学園(獣人族):五位/100+95点

 ・ディスモアス魔法学園(魔族):二位/250+48点

 ・レストフォール魔法学園(エルフ族):三位/200+51点

 ・ディラフト魔法学園(ドワーフ族):四位/150+45点


 基本的には一位通過が三百点、二位通過が二百五十点、三位通過が二百点、四位通過が百五十点、五位通過が百点、というように基本点が加算され、そこからダンジョン内で擬似魔物を倒した分だけ更にボーナスポイントが加算される。


 ・レーネシア魔法学園(人間族):862点

 ・ガブリナーガ魔法学園(獣人族):640点

 ・ディスモアス魔法学園(魔族):801点

 ・レストフォール魔法学園(エルフ族):732点

 ・ディラフト魔法学園(ドワーフ族):753点


 現在の第一位はレーネシア魔法学園、第二位はディスモアス魔法学園、第三位はディラフト学園、第四位はレストフォール魔法学園、第五位はガブリナーガ魔法学園ということになっている。

 残すは二日の休息期間をはさんだ後に行われる最終の第三競技のみである。

 その日は、競技中の突然のトラブルに黒騎士の登場などが重なり、混乱のまま解散となった。

 気を失っていたルナはあのあとクラリッサとチェルシー、ユキによって医務室に運び込まれており、ユーフィアも同じく医務室に運びこまれていた。ルナとユーフィアはすぐに意識を取り戻し、その後ユーフィアはエルフ側の騎士たちによって別室へと移され、ルナはソウジたちと共にギルドホームへと戻っていった。ちなみにレイドは魔力の消耗が激しくてそのまま医務室で休むことになり、それにオーガストも付き添っており、フェリスも魔人の細工した魔物からのダメージと疲労を休めるために医務室で休息をとっている。


「ったく。いったいどういうことだ?」


 ギルドホームについて座り込むなり、ライオネルが口を開いた。


「あの魔人野郎、ソウジが魔物を倒したのを感じるとすぐに逃げていきやがった。次に会った時にはタダじゃおかねぇ」


 パシッと手のひらに拳を叩き込むライオネル。そして次に、彼は自分のブレスレットに視線を移した。


「それにしても……あの馬はなんだったんだ? お姫様がいきなり光ったかと思ったら突然あの馬たちが現れてオレたちを助けてよ。そんで魔人野郎が逃げたあと、ブレスレットの中に吸い込まれちまったし」


 ソウジの天馬も同じように、現実の世界に戻ってくると光と共にブレスレットの中に吸い込まれるように消えてしまった。結局アレがなんだったのかは分からない。けど確かなことは、ユーフィアとルナが助けてくれたということだ。


「……そういえば、ルナも光ってたわよね。あの時。ルナ、覚えてる?」

「いえ。その……覚えていません……ごめんなさい」


 クラリッサとチェルシー、そしてユキからあの時の自分に何が起こったのかを聞かされたルナは首を横に振る。どうやらアイン・マラスの時と同じようにルナは何も覚えていないらしい。


「だが一つ確かなことは、ルナちゃんとお姫様はオレとソウジを助けてくれたってことだよな! うん。ありがとう!」


 ライオネルはぺこりとルナに頭を下げる。だがルナ本人はというと慌てたようにぶんぶんと首を横に振った。


「あ、あの。頭をあげてください。わたし、自分でも何やったかぜんぜん覚えてないんですから。それに、本当にわたしがやったのかも定かではありませんし」

「そうか? でもオレはあの時、確かにルナちゃんとお姫様のことを感じたけどな。そうだよな、ソウジ?」

「……ああ。そうだな。ルナ、ありがとう」

「そんな……わたし、本当に何も知りませんから」


 どうやらルナは本当に何も覚えていないらしい。困惑したような表情を浮かべていた。


「…………ソウジ。何か、知ってるの?」

「そうよねぇ。わたしもそれ聞きたかったのよ。どうなのよ、ソウジ」


 チェルシーとクラリッサの鋭い指摘にどうしようかと悩むソウジ。というよりも、クラリッサもチェルシーもルナの謎の力を目の当たりにしてしまったわけだし、隠し事をするのは無理だろう。ソウジは少しだけ考えた後に、意を決したようにこの場にいるクラリッサ、チェルシー、ライオネル、ユキのみんなへと視線を向ける。


「わかった。話すよ」


 そこでソウジは、アイン・マラスとの戦いの際にルナの謎の力が発動してブレスレットを手にしたこと、このブレスレットが『星遺物』であること、ルナとユーフィアが『巫女』と呼ばれる存在であること、『巫女』は『星遺物』を生み出すことのできる不思議な力を持っているのではないか、ということを話した。


「……どうして教えてくれなかったの?」


 チェルシーがややむすっとした表情でソウジにたずねる。ここのところチェルシーの感情表現が豊かになってきたような気がするなぁ、というようなことを思いながらソウジは正直な気持ちを話す。


「『巫女』のことを下手に話して誰かに知られたらルナがあいつらに狙われるかもしれないと思ったし、それに……出来るだけみんなを巻き込みたくなかったから」

「だぁーかぁーらぁー! なんでアンタはそうなのよいつもいつも一人で戦おうとして! 遠慮はいいからせめてわたしだけでも堂々と巻き込みなさいよ! 頼りなさいよ! このばかっ! ていうか、アンタもルナもわたしのギルドの仲間でしょうが! そんな大事なことわたしに黙ってんじゃないわよ! ソウジのばかばかばかばかばかぁ――――っ!」


 正直な気持ちを話したら話したらでクラリッサからぷんすかと怒られる。ピコピコとイヌミミを動かしながら怒っているのだが正直なところ怒っている顔もかわいい。頬をふくらませているところなんかは特に。とはいえ、クラリッサの心からの言葉はさすがにソウジも心に堪えた。


「まあ、人って隠し事の一つや二つぐらいあるもんだって言ったのはわたしだから、これ以上はあんまり怒らないけどっ。でもソウジ、ごめんなさいしなさい!」

「ご、ごめんなさい……」

「仕方がないから、これで許してあげるわっ」


 どうやらお許しをもらえたらしい。クラリッサが背伸びをしながらソウジの頭をなでなでしており、そしてクラリッサに許されたことに心の中でほっとする自分がいてソウジは思わず苦笑してしまう。とりあえず、自分が謝らなくちゃいけない人はまだいる。


「ルナ、その……ごめんな? ルナのことなのに、黙ってて」

「いえ。ソウジさんがわたしのことを気遣って黙っていてくれたということぐらいは分かりますから。でも、もう一人で戦おうとはしないでくださいね」

「へっへーん。そこは安心してくれよ、ルナちゃん。オレがこのどうしようもない先輩をフォローしてやるからさ!」

「ふふっ。お願いしますね、ライオネルさん」

「おうよ!」


 そうだ。今はもう、あの邪人や魔人に対抗出来る存在はソウジだけではなくなった。ライオネルという白騎士がいる。

 とりあえず話がひと段落したところで、ユキが考え込むようにしながら口を開く。


「でも、『巫女』ってなんだろう。あの時、わたしもいきなり胸が熱くなって……話を聞いた限り、お兄ちゃんとソウジさんも?」

「おう。なんかじわじわじわ~! って胸の奥が熱くなったんだよなぁ。まあ、あの後すぐに楽になったけどさ。むしろ力がわいてきたっつーか」

「…………ユーフィア姫もぴかぴか。どうして?」


 ちょこん、とかわいらしく首を傾げるチェルシー。ソウジも考え込みながら情報を整理していく。


「あいつらの言葉を聞いた感じ、まず『巫女』っていう存在は複数人いる。それが何人かは分からないけど……。それで『巫女』はユーフィア姫みたいに最初はその力が眠ってるんだと思う」

「どうしてそう思うんですか?」


 ユキの言葉にソウジは以前、ブラウと戦った時のこと、そしてゲルプとの戦いの時のことを思いだした。


「あくまでも予想、だけど……青の魔人ブラウはマリアさんに『その命を輝かせ、「巫女」の可能性を示してみよ』って言ってた。だから、眠っている『巫女』の力はその力の持ち主が危機的状況に追い込まれた時に覚醒するんじゃないか? ルナが俺を助けてくれた時やユーフィア姫の時だって結構、危ない状況だったわけだし」

「なるほどね……そんじゃあ、あの不思議パワーはなんだ? ルナちゃんはソウジのそのブレスレットを生み出したっていうし、今度はユーフィア姫と二人で馬みたいなもんを創造してたし」

「……あれも『星遺物』?」

「たぶんそうだと思う。けどあの天馬は、どちらかというと星座の力も感じたかな。そっちは調べてみないことにはまだよく分からない」

「わたしがその力をいつでも使えるようになればソウジさんたちのお役に立てるのですが……ごめんなさい」


 一人しゅんと肩を落として落ち込むルナ。彼女は自分が戦いの役に立てないことに対してとても申し訳なく思っているということがソウジたちには分かった。


「なーに言ってんのよルナ。アンタは日頃から十分に働いてもらってるんだから、そんなこと気にしなくてもいいの!」

「……ルナの作ってくれるお料理、いつも美味しいよ?」

「だから、そんなに思いつめることないぞ、ルナ。それにいきなりこんな話を聞いたんだ。不安になっただろうし、疲れただろ? 今日はもう寝よう」


 以前、風紀委員会のギルドホームでソウジとコンラッドが戦った際、ルナの中に今回のような熱がじわじわと溢れてきた時があった。その時、ルナはこれまで魔法の使えなかった自分にこんなことが起こって不安になっていた。それが今回は自分に『星遺物』を生み出すことのできる不思議な力があるという。心の中では不安になっているにちがいないとソウジは思った。


「ルナちゃん。ソウジさんの言うとおりだよ。今日はもう寝よう?」

「ユキちゃん……はい。わかりました」


 ルナはそのままユキに連れられて寝室へと向かった。さきほどまで意識を失っていたのだ。やはりあの『巫女』の力は負担がかかるのだろう。ユキとライオネルがこのギルドに住むことになったのは偶然ではあるのだが、こうなってくるとユキがルナの傍にいて本当に良かった。ユキが傍にいてくれることでルナも精神的に少しは楽になるし、支えになるかもしれない。

 寝室へと向かうルナとユキの背中を見ながら、ソウジとライオネルはそれぞれの覚悟を固める。


「……オレたち、頑張らないとな」

「ああ。出来るだけルナやユーフィア姫にあの力を使わせないようにしないと」


 ぎゅっと拳を握りしめる二人。


「あら、わたしたちも忘れてもらっちゃ困るわよ!」

「……わたしたちも、がんばる」


 クラリッサとチェルシーも、ルナやユキのことを考えてどうやらそれぞれ思うところがあったらしい。決意をしたような表情を浮かべていた。


「それにどうやらあいつらって『巫女』を狙ってくるんでしょ? だったら、わたしたちもそれに対抗するわよ!」

「対抗って?」

「決まってるじゃない。わたしたち『イヌネコ団』で『再誕リヴァース』だとかその魔人だとかを退治しちゃうのよ!」

「そ、それ本気なのか? クラリッサ……」

「もちろん本気よ! やるったらやるの! ユキのことにしたってそう! わたしのギルドの仲間に手ぇ出すっていうのなら容赦しないわ!」


 どうやらクラリッサお嬢様はやる気まんまんのご様子だ。ぷんすかとかわいらしく怒りながら「見てなさい! 打倒魔人!」だとか「ルナやユキちゃん、ユーフィア姫だってわたしたちで守っちゃうわよ!」という意気込みだ。


「……二人は、どうするの?」


 そんな中、チェルシーがソウジに視線を向けながらたずねてくる。チェルシーはクラリッサについていくことは決まっているようで。


「どうすると言われても、ギルマスに言われたら従わないわけにはいかないだろ」


 苦笑しつつ、ソウジは言う。出来るだけみんなを巻き込みたくなかった。でも、もう言ってしまった。巻きこめと。頼れと言ってくれた。ならばもう巻き込もう。頼ろう。その上で、みんなを守ろう。ソウジは心の中でそんなことを決意した。


「つっても、オレらがいなくちゃ邪人退治にしても魔人退治にしてもできないだろ? そうでなくても、オレにはユキがいるからな。せっかく出来たあいつの新しい居場所を、オレが護ってやらなきゃさ」

「と、いうわけだ。チェルシー」

「……うん。ありがとう、二人とも」

「ぜんぜん。こっちこそ、ありがとな」


 ソウジはこれまで自分一人しか邪人や魔人と戦えないと思っていたし、実際そうだった。だから一人で戦っていると思っていたのかもしれない。だがルナにしてもユーフィアにしても、そしてみんなにしても。ブレスレットの力もそうだ。ソウジはいつもみんなに支えられてきた。ソウジは一人では戦っていなかったのだ。確かにライオネルが来るまで邪人と魔人に対抗できるのはソウジだけだった。それでも実は一人じゃなかった。いつでもみんなと一緒に戦っていたのだ。自分一人しか対抗出来ないなんて間違いだった。だからこそ、みんなと一緒に戦って、みんなを守る為に戦う。

 新たなる決意を胸に秘め、ソウジはぎゅっと拳を握りしめた。




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