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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第五章 五大陸魔法学園交流戦 後編
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第七十六話 ユーフィアの危機

 レーネシア魔法学園の闘技場には現在、空中に巨大なクリスタルが魔法で設置されている。クリスタルは魔力や魔法を保存できるという性質からよく魔道具などに使用されており、今のようにクリスタルに魔法で映像を映し出すことも可能となっている。会場では、クリスタルに映し出された選手たちの戦いの様子を見て観客たちは盛り上がっている。

 多くの観客たちは観客席について試合の様子を眺めているが、一部の貴族たちには専用のスペースが用意されている。特に十二家がそれにあたる。そしてソウジ、クラリッサ、チェルシー、ルナはその中の一つであるソレイユ家の専用スペースに入った。


「ライオネル、ユキちゃん」

「おっ。ソウジたちじゃねーか。いいのかこんなところに来て」


 ソレイユ家の専用スペースにはライオネルとユキの二人がいて、試合の様子を観戦していた。勇者の子孫として『再誕リヴァース』の者たちから追われる身としての二人のことを気遣ったフェリスがこの場所を用意してくれたのだ。ここならばよほどのことが無い限り見つかることもないだろう。


「まあ、競技は見ての通り結界の中で行われるからな。基本的に競技中はフリーなんだよ。それに俺たちの出番は今日は無いしさ」

「なるほどな」


 ちなみにサポートスタッフは基本的に待機を命じられているのだが、それはあくまでも回復魔法を得意とする医療スタッフの場合のみである。ルナは魔法が使えないので基本的には雑用系の仕事なのだが今は競技中で特にすることもないので自由に動ける。そうでなくとも交流戦前には働き過ぎで倒れたことでブリジットの逆鱗に触れたことがあり、そのお詫びも兼ねてルナは割と自由に動ける。

 ユキとルナたちはさっそく女の子同士で盛り上がっており、お互いに会えて嬉しそうにしている。それを邪魔しないようにソウジとライオネルはこっそりと専用スペースから廊下に出た。


「で、現役冒険者様から見た交流戦の感想は?」


 ソウジがたずねるとライオネルは感心したようにうんうんと頷く。


「いやぁ、それにしてもすげぇな交流戦って。正直ただの学生レベルなんだろなーって思ってたけどなめてたわ」


 ライオネルは素直に舌を巻いている。冒険者としてずっと実戦を積んできたライオネルからすれば学生の『競技』は退屈に見えるのだろうかとソウジは思っていたのだが、どうやら勇者の子孫であるライオネルの目から見ても交流戦に参加している選手たちのレベルは高いらしい。


「特にあのフェリスちゃん。正直、参加選手の中じゃぶっちぎりだろ」

「確かにフェリスはかなり強いけどな。魔力量もトップクラスだろうし、『最輝星オーバードライブ』だって使えるぐらいだからな。七歳の誕生日の時、『色分けの儀』に成功した時には星霊と契約したらしいし」

「ほぉー。そりゃすげぇや。にしても七歳で星霊と契約って……凄すぎだろ。いくら才能があるっていっても限度ってもんがあるだろ。才能以外の『何か』がフェリスちゃんの中にあるとしか思えないね」

「俺に言われてもなぁ……」


 実際、七歳にして星眷を眷現させたなんて話は聞いたことがない。過去を遡ってもフェリス以外の人間がいたかどうかすら怪しい。


(でも……才能以外の『何か』か……)


 仮にそうだったとしてもそれがいったい何なのかだ。果たしてライオネルの言うとおり、そんなものが本当にあるのだろうか? ソウジはフェリスが努力していたことを知っている。だからこそ『色分けの儀』の当日に星霊と契約し、星眷を眷現させてもおかしくはないと思った。神に愛されし乙女の才能と彼女の努力。この二つがあるからこそ、フェリスの実績があるのだと。

 そんなことをぼんやりと考えていると、


「なーに人の妹のことをこそこそ話し合ってんのよ」

『ッ!?』


 突然背後からエリカの声が聞こえてきた。ふりむくとそこには本人がおり、腕を組んでソウジとライオネルをじろじろと見ている。


「って、この人は……」

「エリカ・ソレイユよ。白のガキ」

「白のガキって……オレのこと?」

「たぶん」


 エリカから突然ガキ呼ばわりされたライオネルが自分を指差してソウジにたずね、ソウジは苦笑しつつ頷く。実際にソウジもエリカからはガキ呼ばわりである。


「ったく。人がちょっと目ぇ離してる隙になにフェリスたんについて語り合ってるのかしらねー。あー、やらし」

「いやいやいや。ちょっと待ってくださいよエリカさん。オレらは別に語り合ってなんか……」

「どうでもいいのよそんなことは。とりあえず黒のガキ、ついさっき会場の外にある機材置場でユーフィア様を見かけたからアンタ行ってきなさい」

「え?」


 突然のことにぽかんと呆気にとられるソウジ。見かけたから行ってこいとはどういうことなのか。仮にもソウジは選手である。いくら今日は出番が無いとは言っても会場(闘技場)の外に行ってこいというのはあきらかにおかしい。


「あれ? ソウジって選手なんだし会場の外にでるのはまずいんじゃ……」

「うっさいわね。ちょうどいいからアンタも行ってきなさい、白のガキ」

「なんでオレまで……」

「どうでもいいのよそんなことは。とにかく行ってきなさい、黒のガキ。アンタ、ユーフィア様に気に入られてたんだし。話し相手にでもなってあげなさい。生徒会長命令よ」

「はぁ……」


 確かにユーフィアにはまた今度お話をするという約束をした覚えがある。ただ今回の交流戦にはエルフの王族としての公務で来ているわけで、いくら約束をしたからといってアポも無しに勝手に会いに行くのはまずいんじゃないだろうかとは思わないこともないが、エリカがこう言うからにはアポもとっているのだろう(ライオネルのことは分からないが)。


「ほらほら白のガキもさっさと行く。お姫様に会えるチャンスなんてめったにないんだから、こういう時は役得ぐらいに思っていきなさい。本当に綺麗でかわいい子よ」

「そう言われると会いたくなるよなー。よし、ソウジ。行こうぜ!」


 あっさりとのせられたライオネルはすぐに通路から外へと出ようとしていた。ソウジもそれに続こうとしたところでエリカが呼び止める。


「ねぇ、黒のガキ」

「はい。なんですか?」


 ソウジはエリカの方へと視線を向けた。いつもの生徒会長をイメージしていたソウジだったが、すぐにそれは崩れ去る。ぞっとするような視線を向けられ、ソウジはエリカから視線を逸らすことが出来なかった。


「アンタは何も考えずに仲間だけを護ってなさい」

「……え?」


 有無を言わさない絶対的なその声が、響く。




「――――あんまり余計な詮索してると、灰にするわよ」




 彼女はそれだけを言い残して、その場から去った。

 ソウジはライオネルに声をかけられるまで、しばらくその場を動くことが出来なかった。


 ☆


 ――――フィーネさんに対するサプライズ企画を実行したいと思います。


 休憩中のユーフィアにスタッフを通じてこっそりと手渡された手紙には、そんなことが書いてあった。手紙を詳しく読んでみると、どうやら今回の交流戦の運営スタッフの中に昔フィーネにお世話になったことのある人がいるらしい。そこで今回、ユーフィアに手伝ってもらいフィーネには内緒でサプライズをしてあげたいという。

 そういうことだから、フィーネには内密に競技場の外にまでユーフィアは呼び出された。周りの護衛たちにも事情は説明すると快く通してもらえた(当然、ユーフィアに護衛はつくが)。今回駆り出された者達の多くは皆、何かしらフィーネの世話になっており、フィーネがかわいがっているユーフィアからサプライズをされたらきっと喜んでくれるだろうと皆が考えていた。

 そういう経緯でユーフィアは会場の外へとやってきた。指定された場所は人けが無く、様々な機材などが所せましと置かれており周囲からは見えづらい。なるほどここならば何かしらのサプライズをするのに良い場所なのかもしれないとユーフィアは思った。


「あの、誰かいませんか。ユーフィアです。お手紙を見てきました」


 三人の護衛と共にやってきたユーフィアが声をかけると、物陰から大柄な男が現れた。黄色のローブを纏っている男だ。


「おお、お待ちしておりましたユーフィア様」

「あなたが手紙をくれた人ですか?」

「そうです」

「そうなんですね。じゃあ、さっそくお話を。わたしも普段からフィーネにはお世話になっているから、何かしてあげたいの。わたし、フィーネの為なら何でもしますっ」


 ユーフィアがやる気に満ちたかわいらしい表情をすると、黄のローブの男は満足げに頷いた。


「そうですかそうですか。……しかし、お前は何もしなくていい」

「え?」


 呆気にとられるユーフィアとは対照に、周囲の護衛たちは目の前の男に対する警戒度を上げていく。


「お前はただ、黙って儂らに連れられてくるだけでいい」


 告げると、黄のローブの男の姿が異形のものへと――――黄に輝く鋼の肉体へと変わった。


「儂は黄の魔人ゲルプ。さあユーフィア姫よ、大人しく攫われてもらおうか」


 ゲルプは魔人の姿へと変化すると、ゆっくりとその歩を進める。更にゲルプは、大地から次々と禍々しい人型の怪物を生み出した。


「さあ、行け。『邪人形イーヴィルドール』よ」


 邪人形と呼ばれたその怪物たちは次々とユーフィアへと襲い掛かっていく。護衛たちは数でユーフィアを護りきるのは無理だと思ったのかユーフィアを連れてすぐに逃げ出そうとしたものの、彼らの進行方向を一人の黒ローブの男が塞いだ。


「な、なんだ貴様は! どけ!」

「…………ユーフィア姫、大人しく我らと共に来てもらおうか。さもなくば……」


 次の瞬間、黒ローブの男は『邪結晶』を使って邪人へと変身した。幾度かユーフィアの目の前に現れた者達のような怪物が現れ、ユーフィアは自分が罠にはめられたことに気付いた。


「姫様、お逃げください!」


 護衛の一人が叫んで剣を引き抜き、邪人へと立ち向かう。ユーフィアは咄嗟に「だめっ!」と叫んだものの、護衛の剣は邪人に通じず、あっさりと弾き飛ばされてしまった。驚愕する護衛だが負けじとばかりに魔法で応戦するも邪人には傷一つ与えられない。

 更に背後では二人の護衛が『邪人形イーヴィルドール』相手に奮戦しているも数もあり、更にパワーも強い『邪人形イーヴィルドール』になぎ倒されていた。二人の護衛が地面に叩きつけられる。邪人に立ち向かった護衛は気がつけば嫌な音と共に手足を折られ、片手で首を捕まれて吊り上げられている。


「ぐ……姫様……お逃げください……がはっ!」

「や、やめてください! お願いですから、わ、わたしなら、あなたたちについていきますから……だからっ!」


 ユーフィアの必死の呼びかけに邪人はジロリとその邪悪な眼を向ける。そして片手で首を掴み、吊り上げていた護衛を壁へと放り投げ、叩きつけた。邪人のパワーが強かった為か、壁に激突して血を吐く護衛を見て、ユーフィアは涙がこみあげる。

 こんなめにあわせてしまったのは自分の責任だ。自分がバカだからこんなことになってしまった。


「……フン。分かればいい」

「ひ、姫様、だめです!」

「我らの事は見捨てて、はやくお逃げください!」


 残り二人の護衛が、『邪人形イーヴィルドール』に手足を捻られながらも決死の思いで叫ぶ。だがそれが気に食わなかったのか、邪人がギロリと殺気立った眼を二人の護衛に向けると、ぎゅるりと背中から触手のようなものを伸ばした。伸びた触手は二人の護衛の首をいともたやすく捉え、先ほどの者と同じように首を絞めつけたまま上へ上へと吊り上げる。


「その余計な口を閉じなければ……殺す」

「かはっ……あ……ァ……」

「ひ、ヒめ……さマ……お逃げ……くだサい……」

「お、お願いです! やめてください……やめてぇ!」


 徐々に二人の護衛から生気がなくなっていくのが分かる。涙に頬を濡らしたユーフィアは必死に叫ぶが邪人には届いていない。首がそのままへし折られるかと思ったその時。


 一瞬にして現れた黒き一閃が、二本の触手を斬り裂いた。


「ッ!?」


 邪人はいきなりのダメージに不意を突かれてよろめき、涙に頬を濡らすユーフィアの傍に一人の騎士が舞い降りた。黒い鎧に身を包んだその戦士を傍に、ユーフィアが驚きと喜びの入り混じった声でその名を呼ぶ。


「く、黒騎士さまっ!」

「まったく。いつもいつもピンチな場面に遭遇するお姫様だな。大丈夫……じゃあなさそうだな」


 気遣うような声に、ユーフィアはその涙を止めることが出来なかった。


「うぅ……ありがとうございます。わたし、わたしのせいで……護衛の方たちが……」

「お姫様のせいじゃないよ。悪いのは……妙なことを企んでるこいつらだ」


 ソウジは邪人と、現状を眺めていた黄の魔人の双方を警戒する。すぐ傍で『邪人形イーヴィルドール』たちが蠢いているのが見えたのでそちらも対応しなければと思った瞬間、


「おっと、オレも忘れてもらっちゃ困るな!」


 跳躍しながら『セイバスター』から魔法弾を連射しつつ、ソウジたちのすぐ傍に、白騎士に変身したライオネルが現れた。いきなり現れた白い騎士にユーフィアが驚いたような視線を向ける。


「あ、あなたは……?」

「オレは白騎士。黒騎士先輩の後輩だ。これからよろしくっ!」

「黒騎士様の後輩様、ですか……?」


 ビシッ! とサムズアップを決める白騎士ことライオネルにぽかんとするユーフィア。そしてユーフィアの姿を、ライオネルがじーっと眺めている。


「いやぁ。にしても近くで見るとこりゃまた美人さんだなぁ。お姫様って」

「おい後輩。今はそんな場合じゃないだろ」

「分かってますよ先輩っと。ただまあ…………こんな美人を泣かせたこいつらが許せないって思っただけだ」


 殺気立った声で言うライオネル。その間に『セイバスター』を『オリオン・セイバー』へと変形させる。ライオネルにはちょうどユーフィアと同い年の妹であるユキがいるので今の状況はどこか許せないものがあるのだろう。


「ああ。それには同意だな」


 ソウジはそう言いつつ、『アトフスキー・ブレイヴ』を構える。今回の敵は邪人と魔人、更に十体ほどいる『邪人形イーヴィルドール』たち。ソウジ一人だけの時ならばなかなかハードな状況だったかもしれないが、今はライオネルという共に戦う白騎士がいる。


「足引っ張るなよ後輩」

「先輩こそ、オレに遅れるなよ?」

「上等だ」


 交流戦の裏で、姫の元に参上した二人の騎士と、邪悪なる者たちの戦いが幕を開けた。



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