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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第一章 世界最強の星眷使いの弟子
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第七話 フェリス・ソレイユ

 レーネシア魔法学園の入試が行われた日。


 わたしは、その人の姿を見たときに心臓が止まるかと思った。

 その人はもうこの世に存在しないかと思われていた人だったからだ。

 同時に、その人の姿を見た瞬間に崩れ落ちそうになるのをぐっと堪える。


(よかった……ほんとうに、よかった……!)


 思わず涙がこぼれそうになる。だけど、そこをぐっと堪える。涙が溢れていると、ようやく会えたあの人の姿がよく見えなくなるから。


(ソウジくん……生きていたんですね……!)




 わたしは幼少の頃、ソウジくんと出会った。

 当時わたしはソレイユ家の者として鍛錬を積むべく、魔力が豊富にある土地で修行の日々を過ごしていた。これはわたしの家に代々から続く伝統行事のようなもので、『色分けの儀』の前に魔力の豊富な土地で鍛錬を積み、魔力を上げていくというものだ。


 そこで選ばれたのが、バウスフィールド家の屋敷のある山の麓の村だ。

 わたしは家族と一緒にその村にやってきた。同時に、厳しい鍛錬の日々がはじまったのだ。正直、厳しかったし辛かった。何度も心が折れそうになった。でも、そんな折れそうなわたしの心を繋ぎ止めてくれたのが……ソウジくんだった。


 彼は家では疎まれていた。彼には魔法を使う才能が無かったらしかった。だからこそ彼はよく屋敷を抜け出して山の麓にある村にまで隠れて遊びに来ていた。そこでたまたま、わたしと彼は出会った。当初はお互いの事は何も知らなかった。一人で泣いていたわたしに彼は話しかけてくれて、一緒に遊んでくれた。ソウジくんと一緒に遊んでいる間だけは、わたしも普通の女の子でいられたし、心が安らいだ。それに彼はわたしのことをただの普通の女の子として接してくれる。ソレイユ家に取り入ろうとする、他の家の子供たちとは違う。わたしの周りはそんなのばかりだったから、ソウジくんのような子は新鮮だった。


 でも、わたしの名前を知ればソウジくんの態度も変わるかもしれない。そう思うと、わたしの名前を言い出しづらかった。ブランコに座って二人で他愛ない会話をするのが楽しくて、その日もそうしていた。


「ねぇ、君はどうしてこの村に?」

「……まほうの、れんしゅう」


 当時のわたしは引っ込み思案で、人と話すのが得意じゃなかった。話をするときはいつもおどおどしていて、相手にきかれたことを話すのにある程度の時間を要した。でも、ソウジくんはいつも根気よく待ってくれていた。


「すごいなぁ。僕、魔法が使えないから憧れちゃうよ」

「……まほう、つかえないの?」

「うん。僕、才能ないんだ」


 その時のソウジくんは顔に陰りを見せた。頭を垂れて地面を見つめ、投げやりに小石を蹴る。その姿がどこか、わたしには寂しそうに見えた。


「だから、いつも本ばっかり読んでる」

「……ほん?」

「うん。本。魔法の勉強してるんだ」

「……わたし、本はきらい。つまらないもん」


 今でこそ読書は好きだけど、その時のわたしは本を読むのが嫌いだった。当時、本を読むのは魔法に関する勉強をするときだけで、それはわたしにとっての苦痛の時間だった。


「そう? 面白いけどなぁ」


 そうだ、とソウジくんは何かを思いついたかのように立ち上がった。


「僕が一緒に本を読んであげるよ。きっと、たのしいよ」


 最初は嫌だった。でもソウジくんと一緒に本を読んで勉強するのは楽しかった。たまにわたしが知らない物語の本を持ってきてくれたりして、本を読むのが好きになった。

 そうしているうちに次第に魔法に関する知識も増えてきて、使える魔法も増えてきた。そしてお父様やお母様に褒められて嬉しくなって、それをソウジくんに話すとソウジくんも喜んでくれた。


「よかったね! ねぇねぇ、その魔法、僕にも見せてよ!」


 今思えば、わたしはとても残酷なことをしていたのかもしれない。魔法が上手く使えない彼の前で新しく覚えた魔法を使っていたのだから。でも当時はそんなこと、考えもしなかった。それでもソウジくんは優しく笑って、わたしの魔法を褒めてくれた。

 ソウジくんに褒められるのが嬉しくなったわたしは、それからどんどんいろんな魔法を覚えた。ソウジくんに褒められたかった。だから、たくさん頑張った。そのうち天才だとか神童だとか言われるようになったけど、そんなことはどうでもよかった。


 そんな日々がしばらく続いた。


 そうしてまた新しい魔法を覚えたある日、わたしはまたソウジくんに会いに行った。


 でもその日、ソウジくんはこなかった。


 次の日も、その次の日もこなかった。


 そしてわたしは、彼がバウスフィールド家から追放されたことを知った。


 そのことを知った日は、一日中泣いた。父から彼は死んだ、きっと処分されたのだろうと言われた。

 理由は、黒い魔力を持っているから。

 たったそれだけの理由だった。


 黒い魔力は昔から強力な魔族が持つものだと言われてきた。また、塗りつぶしをはじめとして黒い魔力は他の魔力よりも強力で、侵略の魔力とも呼ばれて忌み嫌われてきたことも知っているし、あの魔王も黒魔力を有していたと記録されている。でも、黒い魔力が持っているからといってその人が悪いというわけではないし、実際に歴史上の英雄の中にも黒い魔力を持っている人物もいる。例えば、ソフィア・ボーウェンがそれにあたる。


 ただ魔力が黒いだけで殺すことはない。くだらない偏見でソウジくんを殺すなんて……あまりにも、酷い。だけどわたしにはもう何もできない。彼はもう、この世にはいないのだ。



 王立レーネシア魔法学園に入学することになった。

 わたしはあれからさらにがむしゃらに鍛錬を重ねて、いつしか天才だとか神童だとか、神に愛されし乙女だとか言われるようになったけれど、どれも空虚に感じた。

 どれだけ綺麗におだてられても、言葉で着飾っても、わたしには何の意味もない。わたしの魔法は、ソウジくんに喜んでほしくて培ったものだ。一番褒めてほしい人がもういない。


 だけど。


 わたしは、見たのだ。


 王立レーネシア魔法学園の入試が行われたその日。

 わたしは、推薦状で入学することになった。いわゆる推薦入学だ。入試と言っても魔力量を測定するだけだけど。推薦入学生徒に対する配慮として魔力測定は個別で行われる。その時、学園の入試会場でわたしは見た。


 ソウジくんの姿を。


 九年ぶりに見たけれど、その姿を間違えようもなかった。

 でも、もしかするとわたしの心が生んだ幻覚なのかもしれないと思って、ソレイユ家の力で彼を調べた。名前はバウスフィールドからボーウェンに変わっていたけれど、ソウジという名前はそのままだった。

 嬉しかった。その日、わたしは泣いた。

 でもあの時とは違って、それは喜びの涙だった。


 わたしは彼と同じクラスになれるよう、Eクラスにしてもらった。かなり無理をしたけど、彼をこの目でちゃんと確かめたかったし、彼と同じ教室で、魔法の勉強をしたかった。九年前のように。それに……わたしはもう、何もできずに彼を失いたくなかったし、『太陽街ソル』と『下位層アンダー』との隔たりを少しでも無くせたら、と思った。

 

 だけどいざ会ってみると、どうやら彼はわたしのことを覚えていないようだった。無理もない。九年も前の事だ。たいていの子供は覚えてないだろう。

 生きていてよかったとか、どうやって生き残ったのとか、今まで何をしていたのとか、色々と言いたいことや聞きたいことがあったけれど、それはあえて言わないことにした。

 彼を混乱させたくなかったし、過去のことを思い出させるのは彼にとってもつらいものだろうと思ったから。


 ソウジくんは、変わっていなかった。『下位層アンダー』の生徒でも何の偏見も差別も持つこともなく、接していた。わたしはそれが嬉しかった。でも悲しいことに、そうでない生徒もいる。

 オーガスト・フィッシュバーン。彼は『下位層アンダー』を嫌う。同時に、黒い魔力を持つ者を憎んでいる。彼の過去を考えると、それを無条件に批判できないのはわたしの弱さだろうか。

 だが、それをただ見ているわけにもいかない。

 彼とメギラスさんの諍いを止めるために動こうとしたその時だった。

 オーガストが魔法を使った。魔力の量からして中級魔法。メギラスさんを狙っている。そしてそれを、ソウジくんが――――塗りつぶした。


 オーガストの魔力を、ソウジくんの圧倒的なまでの魔力量が抑え込んだ。オーガストは驚いたように、そして信じられないようにソウジくんを見た。その表情は次第に憎しみを帯びていく。彼の過去を知るだけに、わたしはただ彼を止めることしかできなかった。


 彼の母親は『下位層アンダー』の人間、それも黒い魔力を持つ者に殺されている。彼の母親はもともと、『太陽街ソル』と『下位層アンダー』の貧富の差や差別を無くそうと尽力されている方だった。優しい女性で、わたしも好きな人だった。だけど、そんな彼女は殺されてしまった。よりにもよって『下位層アンダー』の人に。だからこそ、オーガストが『下位層アンダー』を憎む気持ちもわかる。でも、だからといって関係のない『下位層アンダー』の人を貶めることは間違っている。


 だから、わたしはオーガストを止めた。


「…………わざわざEクラスを志望した『十二家』の恥さらしめ……」


 オーガストの言葉は、わたしにちゃんと聞こえていた。

 わたしは、恥をさらしているつもりなんてまったく無い。


 わたしは、ソウジくんとまた魔法の勉強ができることが嬉しかった。だからこそ今まで以上に真剣に授業に取り組んだ。

 でもソウジくんは、その上を言った。あの強化魔法はとても素晴らしかった。完璧なバランスの美しい魔法だった。


 彼はわたしの想像以上に強くなっていた。魔力量はわたしなんかを軽く超えている。いや、おそらく十二家の誰よりも魔力量は高い。更に魔法に対する知識がとても深くなっていた。とある授業では、ある薬草の効果や使用法など先生より詳しかった。


 これにはわたしも驚いた。なぜならばソウジくんがつらつらと挙げたその成分や使用法は未だ王都の学者さんたちが解明していないことであり、それだけでもう賞がとれてもおかしくないものだ。先生を含めた教室の中にいる人たちはみんなが唖然としてその説明を聞いていた。ソウジくんは自分がどれほどのことをしているのか分からずにきょとんとした顔で、


「師匠が言っていましたよ?」


 と言っていた。

 どうやら彼は、わたしなんかあっという間に追い抜いてしまったらしい。


 そして、模擬戦の日がやってきた。


 オーガストは明らかに以前の腹いせをするつもりなのかソウジくんを相手に指名した。その時、わたしには分かった。オーガストは星眷を使うつもりなのだと。


「いいよ、やろう」

 

 ソウジくんは、オーガストの申し出を受けた。あまりにもあっさりとしていたので、提案したオーガスト自身も驚いていた。だがすぐに意地悪な笑みを浮かべた。「かかった」とでも言うかのように、オーガストは調子づいた。

 不安がるわたしをよそに、模擬戦ははじまってしまう。周囲の生徒は特に反対しなかった。むしろ、ソフィア・ボーウェンの弟子であるソウジくんのことが気になるといった様子で、一部の生徒たちなんかは無責任にも模擬戦を煽った。

 

 何かあったら何があってもわたしが止める。そう思いながら、わたしは模擬戦を見守ることにした。

 状況的には、ソウジくんが圧倒的に勝っていた。最初は直撃してまたもや心臓が止まるかのような思いをしたが、無傷だった。更にオーガストの得意な水属性の中級魔法を、あろうことか火属性の下級魔法で迎撃した。

 圧倒的、否。規格外と呼ぶにふさわしい彼の魔力量。

 それはあの『十二家』のオーガストですらも凌駕していた。

 だが、わたしの嫌な予感は的中していた。

 オーガストが、ついにその力を開放したのだ。


「星眷魔法!?」


 悲鳴のように叫ぶ。分かっていたことだ。でも、いざ目の当たりにすると……またソウジくんが死んでしまった時のような気持ちを抱いてしまうのかと思うと、叫ばずにいられなかった。


「ソウジくん、逃げて!」


 わたしは叫ぶ。そしてわたしはオーガストを止めようとした。

 だけど不思議なことに、ソウジくんはわたしの方にチラリと視線を向けると「だいじょうぶ」と口を動かした。思わず、手が止まってしまう。


「来いッ! 『ピスケス・リキッド』!」


 光が闘技場を包み込んだ。そしてオーガストの手中には、槍が輝きを放ちながらその手中に収まっていた。あれが最高位星眷である『皇道十二星眷』のうちの一つ、うお座の星眷。『ピスケス・リキッド』だ。

 

「それがお前の星眷か?」


 星眷という武力を突き付けられてもなお冷静なソウジくんがオーガストにたずねた。

 その冷静さに苛立ったのか、オーガストがイライラしたように声をはりあげる。


「そうだ。しかも、ただの星眷ではない。十二家の証、『皇道十二星眷』だ!」


 限られた名家にだけ伝わる十二の星眷たち。

 それが『皇道十二星眷』。それは通常の星眷を遥かに凌駕する力を持つ。

 オーガストは槍を持つと前に突き出すようにして放ってきた。すると、高密度に練られた水の魔力が渦を巻き、刃となってソウジくんに襲い掛かる。


「『黒壁ブラックウォール』」


 ソウジくんは目の前に黒魔力で構成された壁を構築する。そしてなんとその壁は星眷属の一撃を弾いた。星眷魔法の攻撃を通常の魔法で防いたというその事実に、闘技場にいた生徒たちが驚愕する。同時に、黒い魔力を放出したソウジくんに驚く生徒が大勢いた。その生徒の大半はソウジくんのことを怯えた目で見ている……。わたしは心がズキンと痛んだ。明らかに、さきほどまでとは生徒たちの彼を見る目が違うからだ。


「汚れた魔力を持つ化け物め、消え去れ!」


 オーガストが槍に魔力を集約させていく。槍の周囲には魔力で生み出された水が渦を巻き、その威力を極限まで高めている。それはもはや渦というよりも、嵐や竜巻といった方がよかった。


「『水嵐アグアトルメンタ』!」


 轟! と、解放された魔力がソウジくんに襲い掛かる。いくらソウジくんでもさきほどの黒い壁ではこの攻撃は防ぎきれない。わたしは祈るようにぎゅっと手を組んだ。どうか、無事にいて……。


 次の瞬間。


 闘技場の中心で、爆発が起こった。それはさきほどオーガストが放った『水嵐アグアトルメンタ』によるものだ。衝撃はこの観客席にまで巻き起こり、更に周囲の地面が抉れていた。そしてソウジくんがいた場所は、まるで大量の爆弾でも放り込まれたかのような爆心地と化していた。

 そこは煙で包まれ、中の様子が確認できない。オーガストが勝ったことを確信していた。だが、自然に晴れることを待たずに煙が切り裂かれた。


 ソウジくんが、そこにいた。


 右手に、膨大な魔力を宿した黒色の剣を手にしていた。


「星眷……魔法……?」


 わたしは直感した。

 あれは、ソウジくんの星眷魔法だ。

 オーガストはかつてないほどに顔を驚愕に染めていた。かくいうわたしもそうだった。ソウジくんの手に持っているあの剣の星眷。いま感じ取れるだけでも明らかに『皇道十二星眷』と同等……もしくはそれ以上の魔力を秘めているのだから。


「貴様……その、剣は……!?」

「『アトフスキー・ブレイヴ』。俺の星眷だ」


 ソウジくんがポツリと言葉を漏らす。だがその星眷の名は、わたしも聞いたことが無いものだった。

 だがあの黒の剣が、規格外の代物であることは解る。

 まだ一年生であるにもかかわらず、星霊と契約を成し遂げて星眷を眷現させている。それは並大抵の努力で出来るものではない。


「ば、バカな! き、貴様のような、十二家でもないただの田舎者が……星眷魔法など!」


 オーガストが口走った「十二家でもない」という言葉に、ソウジくんが自虐的な笑みを浮かべていた。わたしも思わず胸が辛くなる。彼は今、どんな気持ちでオーガストの言葉を噛みしめているのだろうか。


「悪いが、もう終わりにさせてもらう。茶番は嫌いなんでな」


 茶番という言葉に、オーガストが怒り狂った。


「何様だッ! 黒魔力を持つ、化け物の分際でッ!」


 オーガストは再び魔力を集約させると、『水嵐アグアトルメンタ』を放った。だが、ソウジくんはつまらなさそうにため息をつくと、剣を一振りする。

 たったそれだけで――――オーガストの『水嵐アグアトルメンタ』は粉々に砕け散った。

 明らかにレベルが違う。まるで相手にされていない。

 そう思った瞬間、ソウジくんの姿が消えた。


「ッ!?」


 転移魔法。

 わたしとオーガストがそう気づいた時には、ソウジくんの剣が、オーガストの星眷を切断していた。




 この日、ソウジ・ボーウェンという規格外の存在の名が、学園中に知れ渡った。





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