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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第五章 五大陸魔法学園交流戦 後編
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第七十四話 師弟コンビの到着

 ついに第二競技がはじまろうとしていた。闘技場には再び多くの観客がつめかけており、会場は今の段階で既に熱狂に包まれていた。各学園の代表選手たちは試合開始前の最後のミーティングとして控室に集まっている。


「さて、それじゃあ最後の確認よ。第二競技は『タイムアタック』。各学園の出場選手たちを同時に個別のダンジョンに突っ込んで、そのダンジョンをクリアできた時間を競うって競技よ。出場するのはフェリスたん、レイド、コンラッド、コーデリア、オーガスト……なんだけども」


 エリカがため息をついた。理由は分かっている。ここにいない二人の生徒のことだ。


「クライヴ、あのレイドとかいう一年とコンラッドのバカコンビはどうしたのよ。まだなの?」

「ついさっきコンラッドの使い魔から連絡があった。今向かってるとの事だ」

「はぁ……ギリギリまで頑張るのもいいけど、遅刻は流石に困るわよ?」

「すまん。オレの責任だ」


 ため息をつくエリカにクライヴが謝罪するものの、その顔はどこか楽しそうに笑っている。


「だがあいつはなかなか面白い仕上がりになったぞ」

「ふーん。アンタがそう言うならかなりの戦力になるってことね。この際あとは競技に間に合えば文句ないわ」


 生徒会長と風紀委員長が会話をしている最中、オーガストはずっとイライラした様子でムスッと頬をふくらませているのを見てソウジは思わず苦笑する。どうやらかなりレイドのことが気になっているらしい。ブツブツと「まだ来ないのか……」「……何をやっているんだあのばか」などと言っている。

 今回、ソウジはどちらかというと見送る側だ。第一競技、第二競技で参加できるメンバーは決まっている(各学園の代表二名、この場合は生徒会長と風紀委員長は第三競技にしか出場できない)。ここは参加選手たちのことを精一杯応援しようと思っていたところ、くいくいっと背中から制服を小さく引っ張られているのに気がついた。


「ルナ?」

「そ、ソウジさん……あの、たすけてくださいっ」


 ふるふると震えているのはルナだった。ソフィアから送られてきてくれた白いマフラーを巻いてくれていてそれがどこか嬉しい気持ちになる。だが、ルナから「たすけて」と言われると気になる。ルナはあの魔人が狙う『巫女』と呼ばれる存在なのであり、何かあったのではないかと勘ぐってしまう。


「たすけてって?」

「じ、実は……」

「あ、ルナちゃーん!」


 その声に呼ばれてルナはびくっと身を竦ませた。


「え、エマさん……」


 ルナが怯えたように見ているのは同じサポートスタッフのエマ・ブリュウである。回復魔法を得意としているので風紀委員では回復要員として大活躍しているらしい。


「探したよー。ぐふふふふ……」

「……あの、わたし、これから用があるようなないような……」

「逃がさないよーん。さあさあ、これからわたしと一緒にお着がえしよう!」

「い、いやですっ。そ、ソウジさん、たすけてください」

「たすけてって言われても……」


 まさかまた魔人か邪人かと思ったらこれである。正直な話、拍子抜けした。だが逆に拍子抜けしてよかったと言える。ライオネルが妹のユキが普通の女の子として平和に暮らせるようにしてやりたいと思っているように、『巫女』の力を持つルナは誰からも狙われないようにしてあげたいと思っている。だからこそ、魔人や邪人関連でなくて本当によかった。


「ていうか、着替えってどういうことなんですか?」


 ルナがあまりにも必死な様子でふるふると震えているのでソウジは一応、エマにたずねてみる。


「実はね、この前ルナちゃんに似合いそうなチアコスを作ってみたんだぁ。せっかくだから今日、着てもらおうかと……」

「い、いやです。周りに人がたくさんいるんですよ。そ、それなのにあんな格好して外に出るなんて……」


 そういえばブリジットがルナにフリフリのメイド服をプレゼントしようとしていたけど断られたとか以前、言っていたことを思い出した。そのメイド服はクラリッサが着ていたが。


「…………へいわだなぁ……」

「ソウジさん!?」

「ぐふふふふ……さあさあ、いっしょにイイコトしましょうよぅ」

「わ、わたし踊れませんから!」

「手取り足取り教えてあ・げ・る☆」

「ソウジさぁん……」


 さすがに不憫になってきたのでそろそろ止めてやることにした。エマから庇うようにルナの壁になってやり、苦笑気味になる。


「エマさん。本人は嫌がってるみたいなんで、そろそろ」

「そだね。ごめんね、ルナちゃん」


 ぱっと笑顔になったエマ。とはいえ、彼女も無理やり着せるつもりなんて最初からなかったのだろう。まあルナで遊んでいたことは確かだろうが。


「い、いえ……こ、こちらこそごめんなさいです」

「ふふふ。優しいねぇ、ルナちゃんは。でもチアコスが無理なら他の……」

「おいコラ。その辺にしろこの暴走女が」

「おうふ」


 べしっとデリックがエマの頭をチョップする。


「悪いなぁ、ルナちゃん。このバカが暴走して。ところで今日、このあと一緒にお食事でも……」

「ごめんなさい。お気持ちだけ」

「拒否するのはやっ!?」

「ぐふふふふ。やっぱりデリックくんはアイザックくんと結ばれるしかないんだよ!」

「やめろ! マジでやめろ!」


 涙目になっているデリックをよそに妄想を繰り広げていくエマ。

 どうやらそっとしておいた方がよさそうだ。

 その間にルナに引っ張られて退避するソウジ。


「ありがとうございます。たすかりました」

「……どういたしまして?」


 お礼を言われるようなことは何もしていない気がする。


「そういえば、体の方とかは大丈夫?」


 もともとルナはあまり体が丈夫な方ではない。この前も熱が出たばかりだ。


「はい。だいじょうぶです。みなさんによくしてもらってますし。さっきは逃げちゃいましたけど、普段もエマさんにはたくさん助けられているんです」

「そっか。よかったな、ルナ」


 くしゃっと頭をつい撫でてしまう。こうして自分たちイヌネコ団以外にも関わりを持つ人が増えて、ルナの周りの世界がどんどん広がっているような。そんな気がしてソウジは嬉しく思った。そこでふと、ソフィアも同じようなことを自分に考えてくれたのだろうかと思った。


(師匠も、こういう気持ちだったのかな)


 ルナの周りの世界が広がっていくことが嬉しい。ソフィアも同じようにソウジの世界が広がっていくのを見ているのは嬉しいと思ってくれているのかもしれない。


「ありがと、ルナ」

「なにがですか?」

「なんとなく、かな」

「?」


 きょとんとした表情で首を傾げるルナ。ソウジは、ソフィアの気持ちが少しでも実感できたことに対してお礼を言ったが、ルナに分かるはずもなく。ソウジはただ、微笑むだけだった。




「あ、でもルナのチアコスっていうのはちょっと見たかったかも……」

「……! そ、ソウジさんのばかぁっ!」


 と、顔が真っ赤になったルナに言われた。


 ☆


 もうすぐ選手がフィールドに集合する時間になった頃、ソウジは控室にフェリスがいないことに気がついた。かといって同じ空間に居るフェリスをエリカが逃すはずが……、


「ふごふごふご! ふごふ、ふごふごふご! ふごふごふごふごふごふごふごふごふご。ふごふごふごふふふふふ!(※訳:フェリスたん! 嗚呼、フェリスたん! みんなの前で縄プレイなんて大胆な子ね。お姉ちゃん興奮しちゃうわ!)」


 エリカは猿轡をされ、更に全身を縄で縛られて床に転がされていた。なんて言っているのかがなんとなく分かるのが恐ろしい。しかも周りの人たちはさも当然の光景のように放置している。とりあえずソウジもエリカを放置して控室の外に出てみることにした。するとすぐに見つけた。真紅のマフラーを既に巻いており、すっと目を閉じて集中している。


「……あ。ソウジくん」

「ごめん。邪魔しちゃった?」

「ふふ。そんなことないですよ。むしろ、競技前にソウジくんの顔を見れて嬉しいです」

 

 にこっとした表情で見せる太陽のような表情。こんな笑顔を見せるかわいらしい女の子がさきほど姉を縛りつけたのだから女の子というのは分からない。とはいえ姉が姉なので仕方がないとは思うが(フェリス曰く、「やらなければこっちがやられる」らしい)。


「やっぱり、緊張してる?」

「……はい」


 第一競技が終わった日。ギルドホームでかわした二人の会話は今でも覚えている。

 彼女はこうしている今も、きっとプレッシャーと戦っているのだ。特に交流戦というこの舞台においてはエリカの妹というだけでかなり注目され、期待されるだろう。フェリスにのしかかっている重圧はきっとこの場にいる誰よりも、重い。


「俺に、なにか出来ることはある?」


 自然とそんな言葉が出ていた。


「ほら、俺……第二競技には参加できないから。フェリスの傍には、いれないだろ?」


 あの日、フェリスは傍にいてと言った。でも今回の競技でソウジは傍にいることが出来ない。


「……あります。ソウジくんにできること。ソウジくんにしか、できないこと」


 フェリスは手をすっ、とソウジの前に差し出した。


「手を、握ってくれますか?」


 ソウジは無言でフェリスの願いに応えた。彼女の女の子らしい手を両手で包み込む。彼女の手は微かに震えていた。


「――――わたしに、勇気をください」


 ソウジはフェリスの願いに応えるかのようにぎゅっと彼女の手を握る。それで何かが届いたのかは分からなかったが、かつて自分を救ってくれた少女に少しでも自分が力になれたら、と思った。


 ☆


 ついに第二競技に参加する選手たちの集合時間がおとずれた。各学園の代表選手たちはレーネシア魔法学園をのぞき、すべて出そろっていた。係員の人がレーネシア魔法学園の生徒を確認してリストと照らし合わせている。


「選手がまだ二人揃っていないようですが」

「申し訳ありません。どうやら到着が少し遅れているようでして……」


 係員にコーデリアが説明を行う。とはいえ、競技開始時刻までにはまだ五分ほどの時間がある。

 オーガストはそわそわとしており、フェリスはソウジに握ってもらった自分の手を大切そうに胸の前に置いて集中している。そうこうしている間にじわじわと残り僅かしかない時間が過ぎていく。規定人数が揃わなければその時点で失格となってしまう。

 ……残り四分。

 …………残り三分。

 ………………残り二分。

 ……………………残り一分。

 さすがに会場の観客たちもざわついている。レーネシア魔法学園の生徒たちは不安げな表情を見せており、控室にいるソウジたちにも緊張がはしった。

 だが。


「……来たか」


 オーガストただ一人が、その気配を察知した。僅かに遅れてソウジ、フェリス、エリカ、クライヴの四人が気づく。直後に上空から、二人の少年が闘技場に舞い降りた。

 どうやら闘技場のすぐ外から跳躍し、そのまま一気にここまで下りてきたらしい。魔法で落下の衝撃を無くしつつ、風を巻きあがらせる。


「ギリギリセーフ、だよな?」


 その一人であるコンラッドがニヤリとした表情でコーデリアを見ている。そしてもう一人。

 マントを身に纏い、更にとあるギルドのメンバーの証である黄のマフラーを巻いた、全身ボロボロの少年。その名を、レイド・メギラスと言う。

 そしてレイドはオーガストの顔を見るとニカッとした爽やかな笑顔を見せる。


「よっす! 待たせたな!」

「……フン。ぜんぜん待ってないぞ、ばかめ」


 オーガストはレイドの顔を見て、自然な笑みを浮かべていた。



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