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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第四章 五大陸魔法学園交流戦 中編
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第七十一話 その名は白騎士

 白い魔力と共に現れたその白い鎧の騎士。その姿はソウジの『スクトゥム・デヴィル』と似ている。まるでもう一人の黒騎士のようだった。驚くソウジと同様に、敵も乱入者の予想外な変身に驚愕していた。


「き、貴様も……黒騎士、なのか?」


 緑の邪人が顔を驚きに歪ませながらその白い鎧に身を包んだライオネルにたずねた。


「黒騎士ぃ? いや、オレ黒じゃなくて白だし。強いて言えば先輩が『黒騎士』だからオレは『白騎士』ってとこだな」


 と、ライオネルこと白騎士はソウジに向かってそんなことを言う。


「いや、そんなこと言われても……ていうか『黒騎士』って名前自体、俺が考えたわけじゃないし。そもそも先輩ってなんだ?」

「ほら、この鎧のヒーローになったのってソウジが先だろ? んで、オレはソウジの後にこの変身が出来るようになった。だから、『先輩』」

「同い年だろお前……そもそも俺は別にヒーローってわけじゃないんだけどな」

「細かいことは気にしない気にしない。それに先輩後輩に年齢なんて関係ないって」


 肩をすくめる白騎士に対してソウジはため息をつく。なぜライオネルが『スクトゥム』の力を、『たて座』の力を使った鎧の戦士への変身が可能なのかは分からない。しかしライオネルはこちらに危害を加える様子はなく、共闘を望んでいるということは分かる。そしてライオネルには大切な守りたい人がいる。その為にライオネルはこの場で戦っている。それだけが分かればこの場は十分だ。


「そんじゃあ行きますか、先輩!」

「だからその先輩ってのはやめろ。後輩」


 白と黒の戦士が並び立ち、二人の邪人と睨みあう。


「ク、ろ、騎士ィィィィイイイイイイイイイイイッ!」


 水の邪人は黒騎士に対する憎しみで更にそのパワーを増大させていた。そんな水の邪人に対して構えをとるソウジだが、


「おっと。あのやたらと荒ぶってるやつはオレがもらうぜ」

「ライオネル?」

「さっきまでずっと戦ってたんだ。あの体力いりそうなのはオレが担当しますよ、せーんぱい?」

「別に疲れてないけど……ここはお言葉に甘えさせてもらうよ」

「片腕がぶった切られてる手負いに負けないでくれよ?」

「負けるかよ」


 言うと、ソウジは転移魔法で一瞬にして緑の邪人の目の前に現れて斬りかかる。転移魔法による一瞬の攻撃に戸惑っていた邪人は避けようとするも攻撃を喰らって胸が裂ける。とはいっても傷は浅い。


「黒騎士ィ! 貴様、俺を無視するのか!」

「おおっとぉ! お前の相手は先輩じゃなくてオレだ!」


 ソウジの方へと向かいそうになる水の邪人の上を跳躍して白騎士は瞬時にソウジと水の邪人の間に立ちふさがる。


「邪魔をするなァああああああああああああああああああ!」


 憎しみを露わにして白騎士に水の鞭を放つ邪人。流動的に迫ってくるその鞭を白騎士はなんとかかわしつつ、じっと相手の動きを観察する。白騎士ことライオネルは常に戦いの中に身を置いてきた。たった一人の妹を護る為に身に着けた力。大切なものを守る為に身に着けた力。その力はライオネルに、白騎士に、その鞭の動きを一瞬で見切らせる。鞭をいなし、かわし、そして白騎士は水の邪人に接近するとたんっと地面を蹴って飛び、パンチを叩き込んだ。そこから流れるようにキックやパンチを次々と次々と叩き込んでいく。


「あらよっと」


 ドガッ、と水の邪人を蹴り飛ばして壁に叩きつけると、白騎士は更なる魔力を展開した。


「いっくぜぇ! 『オリオン・セイバー』!」


 白い魔力の輝きと共に、白騎士の右手に白銀の輝きを放つ剣が現れた。その見た目はどこか黒騎士になった時のソウジが手にする『アトフスキー・ブレイヴ』とカラーリングや形状も似ている。


「星眷魔法!? でもお前、『たて座』と『オリオン座』……二つの星眷を持っているのか?」

「なぁに言ってんだ。先輩だって星眷を二つ持ってるじゃねぇか。まあ、『たて座』に関しては『持っている』っていうのは、正確にはちょーっと違うけどな」


 得意げに『オリオン座』の星眷である剣を振りまわす白騎士。そしてそれを構えたまま水の邪人に向かって駆けだした。真正面から向かってくる白騎士に対して水の邪人は侮られていると思ったのか屈辱に顔を歪めた。ただでさえ、今は状態的に負の感情に刺激されやすいのだ。


「なめるなァッ!」


 全身から邪悪な魔力を迸らせ、それを再び大量の水の刃へと変換していく。この狭い路地裏では回避コースは無いに等しい。ギラギラと血走った眼を向けた邪人は殺気と共に大量の刃を一斉に放った。


「無駄無駄無駄ぁ!」


 白騎士は恐るべき速さで剣を振るい、迫りくる刃を次々と、片っ端から叩き斬っていく。ソウジの剣に比べればやや荒々しいが、彼は水の刃を一発もその背後に通していない。実戦の中で磨かれた、大切なものを守りきるという意志が感じられる剣捌きだ。


「そんな攻撃じゃあ、オレは倒せないぜ! まあ、最初から倒される気なんざ微塵もねーけどな!」

「おのれっ!」


 一瞬で水の邪人の懐に潜り込んだ白騎士はそのまま迷いなく剣を振るう。パンチやキックなどの格闘も織り交ぜつつ、更には狭い路地裏という地形を利用して壁を蹴って多角的な攻撃を披露していた。その攻撃に水の邪人は対抗できず、ただただ翻弄されるがままだ。

 接近戦では勝てないと踏んだのか水の邪人はキックをくらったと同時にわざと後ろの方へと吹っ飛ばされる。これで距離を稼いだ。剣のリーチではとうてい届かない距離を。


「ぐ、ゥ……。だが、ここまで離れればその剣も役立たずだな」

「おや、それはどうかな?」

「ハッタリを!」


 叫ぶと同時に水の邪人の背中がもぞりと蠢いた。白騎士の攻撃を受けながらもため込んでいた魔力をここで開放する。ドバッ! という塞き止められていた水があふれ出たかのような音と共に、水の邪人の背中から何本もの触手が現れた。


「死ねェ!」

「お前如きに殺されるなんて、それこそ死んでもお断りだね」


 皮肉げに言うと、白騎士は剣をくるくると片手でまわす。


「『セイバスター』!」


 ガシャンッ! というメカニカルな音と共に、剣の形状をしていたはずの白騎士の星眷が、なんと『銃』のカタチに『変形』した。『セイバスター』と呼ばれた剣だった銃を迫りくる触手に向ける白騎士。引き金をひくと、その銃口から次々と白魔力で構築された弾丸が発射される。ガガガガガッ! と、白魔力の魔法弾は迫りくる触手を一本も残らずすべて撃ち落した。だが白騎士の銃撃は止まらない。魔力で構築された弾丸を放つ魔法弾ならば魔力がなくならない限り弾切れもない。放たれた魔法弾は触手の根源ある水の邪人へと次々とヒットする。


「がハッ……!」


 水の邪人はがくん、と膝をついた。胸に直撃した白騎士の銃撃や、さきほどの接近戦で切り裂かれた自分の体を見て、シュウウウ……という煙が噴き出るだけで治らない傷口を見ながら体をよろめかせる。


「な、なぜ……貴様から受けたダメージが……再生、しな……い……ッ!?」

「さあね。それは自分の胸に聞いてみな」

「お、のれ……!」


 肩をすくめる白騎士を憎々しげな表情で睨みつける邪人。だが、彼には白騎士に勝てるだけの実力も魔力も無い。あるのはただの邪悪な心と力のみ。その者がそんな力で挑んでも、白銀の騎士に傷一つつけられない。


「さぁて、先輩。そろそろ終わらせるぜ?」

「了解したよ、後輩」


 既にソウジも風の邪人を追い詰めていた。二人は互いの事を確認すると、必殺の一撃を放つべく魔力を解放した。

 黒い魔力が剣に収束して束と化し、それは邪悪な敵を打ち滅ぼす必殺の刃となり。

 白い魔力が銃に収束して球と化し、それは邪悪な敵を撃ち滅ぼす必殺の弾となる。

 二人はお互いの敵に対してしっかりと狙いを定めると、呪文を詠唱した。


「『魔龍斬デヴィルストライク』!」


「『勇龍弾セイヴァーバースト』!」


 黒い刃と白い弾丸。

 二人から放たれた必殺の一撃は、二人の邪人を同時に撃破した。強大な魔力爆発が起こり、その中から全身をボロボロにした二人の男が吐き出される。二人は気絶しており、更に『邪結晶』を使った影響か体力が低下し、意識を失っていた。

 辺り一帯には黒い魔力の欠片と白い魔力の欠片が舞い散り、幻想的な風景を描き出していた。

 黒騎士と白騎士は倒すべき敵を倒すと、互いを無言で見つめあう。そして先に口を開いたのは、黒騎士だった。


「お前はいったい……何者なんだ?」


 かつてこの世界を救った英雄である勇者と同じ色の魔力を有し、『たて座』の鎧姿へと変身し、更にはこの世界にはあまり広まっていないはずの『銃』という武器までもを使いこなす。彼はいったい何者なのか。

 鎧のヘルムでその表情は見えなかったが、ソウジの問いにライオネルはニヤリとした笑みを浮かべているのはなんとなく分かった。


「オレは白騎士。かつてこの世界を救った、勇者の力を受け継いだ男だ」




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