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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第四章 五大陸魔法学園交流戦 中編
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第六十九話 黒と白の邂逅

 第一競技が終了した次の日。ソウジは目を覚ました。やけに柔らかい感触があるなぁと思っていると、頭にかかっている感触が何かを思い出した。端的にいえばフェリスの太ももであり、そういえば昨日、(強制的に)膝まくらをされてそのまま寝てしまったことを思い出した。どうやらフェリスもそのまま寝てしまったようで、ソファの上ですやすやと穏やかな寝顔を見せている。寝顔ですらこんなにもかわいのだから確かに周囲の生徒たちからの人気が高いのは分かる。

 なんて思っていると、


「……ふぁう……ねむねむ……」


 二階の方から誰かが下りてくる気配がして、声も聞こえてきた。フェリスの太ももが気持ちよくて寝ぼけたまま、その頭でぼーっとしていたがふと思う。

 もしかして、この状態を見つかったらものすごくやばいのではなかろうかと。

 さぁっと頭の中が真っ青になって起き上がろうとしたのだが、


「……ソウジ、なにやってるの?」


 チェルシーの冷たい声がソウジに突き刺さる。思わず動いていた体が止まってしまって体が固まってしまう。


「おはよー。ってソウジ? なにやって……」

「ぁう……おはようございます。みなさん、はやいですね……ソウジさん?」


 チェルシーに続いてやってきたクラリッサとルナが冷たい表情になったのがソウジにも分かった。クラリッサのいつもの元気いっぱいの笑顔やルナの穏やかな雰囲気はどこへやら。チェルシーも含めた三人はさながら極北のブリザードの如く冷たい表情になっていた。


「昨日は人が寝ている間にずいぶんとお楽しみだったようね……」

「…………………………………………………………………………」

「…………………………ソウジさんって、そういう人だったんですね」


 イヌネコ少女二人とかわいい巫女からの冷たい視線を浴びたソウジ。

 背後からゴゴゴゴゴゴゴという擬音が聞こえてきそうなぐらいの気迫で三人に迫られたソウジは逃げようとしたが、さながら転移魔法もびっくりの速度で三人に捕まり、お説教を受けた。


 ☆


 お説教を受けたソウジはその後、お昼にギルドホーム用の食材やお菓子の買い出しを命令されて王都まで来ていた。ルナとクラリッサ、チェルシーの荷物持ちという形で。どうやら昨夜のギルドホームにおける一件は三人のご機嫌をかなり損ねてしまったようで、買い出しという形の一緒にお出かけをすることしばらく。ソウジの両手は荷物でいっぱいになっていた。


「たくさん買ったなぁ」

「ふんだ。ちょうど良い罰よ」

「……ソウジは昨日、フェリスとお楽しみだった」

「ソウジさん、見境ないです」


 ぷんすかと仲良く怒っている三人。罰といいつつ、それぞれソウジの分も少しずつ荷物を持っているのだからこれが本当に罰なのか怪しいものだ。ずいぶんとかわいい罰に思わず苦笑してしまう。そんなソウジの反応が気に入らなかったのか、クラリッサはぷくっとかわいらしく頬を膨らませている。


「むぅ……なによぅ。そのかおは」

「別になんでもないよ。そうだ、ちょっと休憩しようか。みんな疲れただろ、俺が奢るからさ」


 交流戦の影響もあって王都はいまだ人が多くて混雑している。人が多い所を移動すればやはり疲れるだろう。ソウジならばともかく体があまり大きくないルナ、クラリッサ、チェルシーの三人では異動するだけでかなり体力を使うのでここらで休憩した方がいいという判断だ。


「でもこの時間帯だとどこも混雑してると思いますけど」

「……交流戦の影響でやっぱりまだ人が多いし」

「休憩場所になる店なんて無いわよ」

「大丈夫。予約入れてあるから」


 ソウジがけろっとした顔で言うと、クラリッサが驚いたような顔をしていた。


「よ、予約? そんなのいつの間に入れてたの?」

「朝の間にささっと転移魔法でここら辺まで来て探しておいたんだ。当日で急だから見つからないかもと思ったんだけど、運良く当日キャンセルがあったみたいでさ。だからそこに滑り込ませてもらった」

「そ、そうなんだ……」

「ついでにお昼済ませちゃおうと思って。買い物した後だとみんな疲れちゃいそうだし」


 言いながら、ソウジは三人を連れて目的のお店に入った。店の中は賑わいを見せていて、予約なしではとうてい四人分も入り込めそうにもなかっただろう。そのお店は今、王都で若い女性に人気のお店である。ヘルシーなメニューと甘いデザートが絶品らしい。ヘルシーなメニューをとったあとにカロリーの高い甘いデザートはどうなんだろうとソウジは思ったのだがやはり女の子には色々あるのだろうと深く考えないことにした。


「ここ、雑誌で読んだことあります」

「……わたしも知ってる」

「ち、超人気店じゃない……よく予約がとれたわね」

「運が良かったんだよ」


 というよりもこの店に入るハードルがかなり高かった。何しろこのお店は女性客が主体なので男が一人で入るにはかなりハードルが高かった。ソウジの元いた世界のように電話なりパソコンなりがあれば電話かメールで店に行かずとも予約が出来たのだが。第一競技で使ったような通信手段はまだまだ一般には普及していないのが残念だ。


(あ、そうだ。フェリスとオーガストと、あとレイドにも何かお土産を買ってこなくちゃな)


 フェリスとオーガストは今日は実家の方に顔を出しに行っているらしい。レイドはいつ戻って来るかは分からないがいちおう買っておこうとソウジは思った。

 店員に案内されていざ席に着いてみるとやはり周りは若い女性ばかりだ。中にはソウジたちと同じぐらいの年齢の子もいる。


(うーん。やっぱりこういう空間って居づらいなぁ……でも、今日はせっかくだからみんなに楽しんでもらおう。普段は寮生活でこういうところはあんまり来れないんだし)


 今日はあまり周りのことは気にしないように心掛けたソウジ。そんなソウジを見てクラリッサたちはというと、


「うー……なんか罰ゲームとか言って来たけどなんだか悪い気がしてきたわ……」

「……わたしも」

「なんだかちょっと複雑です」


 罰と称してこっちの都合でお買い物に連れてきたのだがいざ来てみるとこの待遇だ。なんだかソウジにとても悪い気がしてきた三人はメニューにも手を取りづらい。


「なに食べようかなぁ。あ、この夏の爽やかセットなんてのもいいよなー。みんなは何食べる?」


 そんな三人の様子を見たソウジが先にメニューを開いて何気なく注文を取りやすい雰囲気を作る。


「そ、ソウジ、なんかごめんね……」

「ん。なにが?」

「……ソウジがフェリスとよろしくやるのはソウジの自由」

「え。いやちょっと待って」


 おかしい。ヘンな横道に逸れはじめている。


「そうですね。ソウジさんがフェリスさんとあれやこれやいかがわしいことしても……その、誰を選ぶかはソウジさんの自由でしたし。理不尽でしたね。ごめんなさい」

「ちょっと待って。なんでルナまでそんなこと言ってるんだ!?」


 そもそも昨日はみんなが思っているようなやましいことは何もしていない。……フェリスの割とボリュームのある体の感触を味わってしまったのは確かだが、とにかく何もやましいことはしていない。ただただ膝枕をされて、それだけだ。


「とにかく、みんなが思っているようなことは何もなかったから」


 ソウジが苦笑しながら言うと、心なしか三人の表情が晴れやかになったような気がした。


「そ、それならいいんだけどっ」

「……クラリッサ、わたしちーずけーき食べたい」

「それは最後にしなさい」

「わたしはオレンジジュースと……」


 なんとか機嫌が良くなったようで何よりだとようやくほっと一息ついたソウジ。とりあえずこのままさっさとメニューを決めてしまおうとすると、


「あ、あの子って昨日の試合に出てた子じゃない?」

「ほんとだ。わー、近くで見るとかわいいねー」

「わたし、ちょっとタイプかもっ」

「昨日の試合の時の冷たい目もクールだったけど、今みたいなかわいい感じもいいよねっ」


 どうやら昨日の交流戦を会場で見ていた人が近くの席に座っていたらしい。黒魔力に対しては特に何も思うところは無いようで、一緒にいる事でルナたちが何か言われなくて安心していると、


『………………………………………………………………』


 目の前で、イヌネコ団がほこる三人娘がとても不機嫌になさっていた。


「え、えーっと……どうしたの?」

「……ずいぶんと人気がおありなようで」

「……ソウジ、モテモテ」

「……よかったですね」

「ごめん。お、俺なにかみんなの気に障るような事しちゃった……?」

『してないから黙ってて』

「はい……」


 複雑な乙女心はやはり理解できないなぁとソウジはつくづくそう思うのだった。


 ☆


 とりあえず注文を取り終えてその品を待っている間、何気ない雑談を行う。その中で出てきたのは、以前出会ったユキという少女とその兄の事だ。


「わたしたちと歳が変わらないのに兄妹二人で旅してるんだ。すごいわね」

「……ユキちゃんのお兄さん、とても強そう」

「ユキちゃんもそう言ってました」

「まあ、兄妹二人でここまで旅出来るぐらいだからな。やっぱお兄さんの実力は相当なもんだろうな。俺らと歳がそう変わらないのに冒険者として独り立ちしてるんだから」


 お兄さんと言うのはあの白いコートの少年の事だろう。あの少年を見ているとどこか不思議な感じがするのだ。自分と似た『何か』を感じる。それが何なのか、ソウジにも分からないのだが。


「ユキちゃん、今頃どうしてるかな……」


 どこか寂しそうに呟くルナ。やはりはじめての同い年の友達なのだから気になるのも仕方がない。『同い年』の友達というのはやはりルナにとっても特別な物なのだろうし、そればかりはさしものクラリッサやチェルシーも何もしてやれない。


「あっ」

「? どうしたのよソウジ」

「いや、そのユキちゃんがそこに……」


 ソウジが指を刺したその先。お店を入ったところで店員さんと話している、ローブに身を包み頭をフードですっぽりと覆った少女。そしてその傍にいるのは白いコートを着た、不思議な何かを感じる少年。


「ちょっと行ってみるから、待ってて」


 それだけ言うとソウジは久しぶりに目にした二人に近づいた。どうやら何か困っているらしい。


「申し訳ありません。当店は本日、予約のお客様でいっぱいでして……」

「そ、そうですか……ありがとうございました」

「うっ。ご、ごめんな、ユキ。兄ちゃん、予約がいるってこと知らなくてよ……」

「ううん。仕方がないよ、他のトコ行こう、お兄ちゃん」


 どうやらこの店で何か食べようとしていたらしい二人は客がいっぱいなので入れないらしい。


「ユキちゃん」

「あ、ソウジさん」


 声をかけてみると、ユキが振り向いた。どうやら覚えてくれていたらしい。そのことに少しほっとする。何しろあの時はあんまり会話しなかったので忘れられてたらどうしようかと思ったのだが。


「ここに入ろうとしてたの?」

「はい。でも、今日は予約でお客さんがいっぱいみたいで……ソウジさんは?」

「ルナたちと一緒にここでお昼食べてるんだ。なんとかギリギリで予約がとれて」

「ルナちゃんもいるんですかっ?」

「うん。ほら、あそこ」


 ソウジが指し示したところにルナがいて、気になっているのかそわそわとした様子のルナがこちらを見ていて、ルナとユキはお互いに手を振った。


「そうだユキちゃん。ちょっと提案があるんだけど」

「ソウジさん?」

「俺、実はもうお腹いっぱいでさ。俺の代わりにあの席でご飯食べててくれないかな? もちろん、ユキちゃんが良ければだけど……」

「え、でもソウジさんがせっかく予約出来たんですし、悪いですよ。わたしたちは大丈夫ですから」

「いやぁ。でもこういう所って男一人だけだと居づらいんだよね。お願いっ。ここは俺を助けると思って引き受けてくれないかな?」


 お願いという形にして無理やり押し切る作戦に出たソウジ。ユキのようなタイプにはこうやって「お願い」という形にした方が気兼ねなくしてもらえると思ったのだ。しかし、ソウジがユキのためにこう言っていることぐらいはユキにも分かる。


「うぅ……でも……」

「ほら、ユキ。ここはお言葉に甘えてやれって。友達も待ってるんだからさ。これ以上、渋るのは逆に迷惑になるぞ?」

「お兄ちゃん……」


 どうやら迷惑になる、という兄の一言が効いたらしい。ユキは戸惑いつつも柔らかい笑みを浮かべていた。


「分かりました。お言葉に甘えさせてもらいます、ソウジさん」

「ん。ありがとね、俺のために」

「そんな……ソウジさんがわたしが遠慮しないようにそう言ってくれたことぐらい、分かりますよ」

「気のせいだよ。俺は今から店員さんに話をつけておくから、ユキちゃんはルナのところに行っておいで」

「はいっ。本当に、ほんっとうにありがとうございました!」

 

 ぺこりと頭を下げるとユキはそのままルナたちの方へと向かった。ソウジは店員にソウジの代わりにユキが席にはいる事を説明してお願いしつつ、


「すみません、あの席のお会計はこれでお願いします」


 とりあえず先に、四人全員が贅沢が出来る程度のお金は先払いし、フェリスたちのお土産も購入しておく。その後に店を出ると、


「よお」


 ユキの兄である、白いロングコートに身を包んだ少年がそこにいた。こうしてあらためて相対してみると――――やはり相当の実力の持ち主だ。佇まいに隙が無い。常に戦いの中に身を置いてきた者のそれだ。


「悪いな、気ぃつかわせちまってよ」

「いや、俺の仲間の子の大切な友達だし。それに、どうせなら友達同士で楽しく食べた方がいいだろ」

「そっか。ありがとな」


 ニカッと笑うその少年は、妹の事をとても大切にしているのが分かる。きっと今まで必死にたった一人の妹を守ってきたのだろう。


「俺はソウジ・ボーウェン。ええっと……」

「おっと、悪い。自己紹介が遅れたな。オレはライオネル・ブレイバー。冒険者やってる。よろしくな!」


 ライオネルから差し伸べられた手にソウジはしっかりと応えた。しかし、握手をした後にライオネルが「ん?」と何か引っかかったような表情をしている。


「ボーウェン? あ、そういえば交流戦でもなんか言われてたっけな……ソフィア・ボーウェンの弟子ってやつで……あああああああああああ! そうだ! お前だ!」


 いきなりライオネルが大きく反応したので驚いたソウジだが、その次に路地裏の方から女性の悲鳴が響き渡り、二人の会話を中断させた。





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