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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第四章 五大陸魔法学園交流戦 中編
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第六十八話 第一競技の結果

 第一競技が終わると、選手たちはもとの闘技場のフィールド内へと転移させられた。そこから学園ごとに分かれて怪我人の治療にあたったり、選手たちは学園ごとに用意された控室へと戻ることになった。


「獲得した点数の集計が終わるまで、各学園の選手たちは控室に待機していてください」


 そのアナウンスにしたがって、ぞろぞろと選手たちが控室に戻っていく。ソウジとチェルシーはすぐに怪我をしたクラリッサのもとへと駆け寄った。クラリッサの体を支えながらソウジとチェルシーはサポートスタッフたちと共に医務室までの通路を歩いていく。


「クラリッサ!」

「あー、もうなによ。うるさいわね……痛っ」


 ギデオンから受けた傷は見た目は派手だが幸いにもそう深くはないものだし、ギデオンを倒したあとに戻ってきたソウジがソフィアからの仕送り品である治療用の魔法薬による応急処置を施していた。ソウジはそんなクラリッサの背中に制服の上着をかけてやる。包帯でまかれているとはいっても、あまり背中を無防備に晒すのはよろしくないだろうし怪我を周囲に見せる必要はない。


「クラリッサ……だいじょうぶ、なの……?」


 チェルシーは真っ青な顔をしてクラリッサを見ている。そのクラリッサ当の本人はというとどこか憑き物が落ちたかのような顔をして、


「大丈夫よ。わたしがあんなヤツなんかにそう簡単にやられないわよ。実際、ガツンと一発おみまいしてやったわ」

「……でも」

「だーかーらー、心配し過なのよ、アンタは」

「あうっ」


 ぴこっ、とチェルシーの額を軽く指ではじくクラリッサ。そして彼女は次にソウジの方へと視線を向け、


「ありがとね、ソウジ」

「なにが? ていうかクラリッサにそんな傷を負わせちゃったし……」

「気にしなくていいわよ。こういう怪我ぐらいそりゃするわよ。わたしたちは選手なのよ。それに……ソウジがいなかったら多分、アイツに屈してたと思うから。だから、ありがと」

「俺、何かしたっけ?」

「ふふっ。色々とねー」


 不思議なことにクラリッサは怪我をしたというのに晴れやかな笑顔を浮かべていた。そして医務室のドアを開けた。ちなみに医務室は各学園ごとに分かれており、そしてレーネシア魔法学園用の医務室には既に先客がいた。


「デリックさん」

「よう、一年生共。お先に失礼してるぜ」


 ひょこっと手を挙げてソウジたちを歓迎しているのはデリックだった。両腕共に包帯がまかれており、片方はエマによって回復魔法をかけられている最中である。


「まいったまいった。とんだ貧乏クジを引いたもんだぜ。まさか両腕の骨をもってかれるとはなぁ」

「はぁ~。相変わらず無茶するねぇ」


 と、デリックの腕に回復魔法をかけているエマが呆れたようにため息をつく。


「でもまあ、両腕をもってかれる価値はあった相手だったな」

「聞きました。確か、空間に干渉することのできる魔法の使い手だったんですよね。おかげで助かりましたよ。まともに戦ってたら消費の大きい相手だったでしょうし」

「そんな強敵を一人で倒すなんて、さすがは風紀委員会ね……」


 クラリッサがうんうんと頷きながら女性のサポートスタッフと一緒にパーテーションの向こう側へと消えていった。おそらくこれから背中に回復魔法をかけるのだろう。幸いにも回復魔法さえかければ傷も残らないし後遺症もないそうだ。


「あ、そうだ。ソウジ、これありがとう」


 パーテーションの向こう側から出てきたクラリッサがソウジに制服の上着を返した。それを受け取りながら、ソウジは自分の無力さを噛みしめてぎゅっと制服を握りしめた。


(……もっと俺が注意していれば、クラリッサにあんな怪我を負わせずに済んだかもしれないのに……)


 こういうことがあると以前の事を思い出す。

ソフィアがソウジを庇い、その力の大半を失ってしまった時のことを――――。


「ソウジくんっ」

「ッ。フェリス?」


 気がつけば通路に出ていて、駆け寄ってきたフェリスとオーガストに今、気がついた。


「クラリッサの怪我の具合はどうなってるんですか?」

「大したことないみたいだ。回復魔法をかけてもらったらもう問題ないって」

「そうですか……よかったです」


 ほっと息を吐くフェリスとオーガスト。


「ところで、ルナとチェルシーはどうした?」

「ルナは中でサポートスタッフとして働いてるよ。チェルシーはクラリッサが心配で付き添ってるみたい」

「そうか……それならいいんだが……。ああ、そうだ。もうすぐ点数の発表が始まるらしいぞ。僕たちだけでもフィールドに集合していよう」

「わかった」


 その後、ソウジ、フェリス、オーガストの三人はフィールドに集まり、点数の発表を待った。しばらくすると、拡声魔法によって会場全体に声が響き渡る。


「集計が終わりました。これより、点数の発表を行います」


 会場が一瞬だけ静まりかえり、そのタイミングを見計らったかのように空中に点数表が現れた。


 ・レーネシア魔法学園(人間族):520点

 ・ガブリナーガ魔法学園(獣人族):445点

 ・ディスモアス魔法学園(魔族):503点

 ・レストフォール魔法学園(エルフ族):481点

 ・ディラフト魔法学園(ドワーフ族):558点


 ☆


「まさか一位通過じゃなかったとはなぁ……」


 治癒を終えたデリックが、知らされた結果を聞いて控室でため息をついた。


「ドワーフの奴らならオレだけで四人ぐらい倒したし、出会いがしらにも二人ほど倒してたからぶっちゃけ最下位だと思ってたんだけど」

「ていうか、アレは囮ね」


 けろっとした顔でデリックの言葉にこたえたのはエリカだ。


「あいつら、アンタらがバトッてる間に『インビジブルスーツ』とやらでこっそり着々とクリスタルを見つけてたわよ。こっちは戦闘で勝った分、大量のポイントをゲットできたわけだけど、戦闘一つにかけた時間が多すぎたわね……その間、ディラフト学園のやつらは地道に高ポイントのクリスタルを見つけてたみたい」と、エリカ。

「あと、新しく開発した別の魔道具で高ポイントのクリスタルの位置を特定してたみたいね。去年よりも厄介な魔道具を引っ提げてきたわねぇ」と、コーデリア。


 三年生の二人は思いのほかこの結果を冷静に受け止めている。特にエリカからすれば「まあ、予想通りってとこかしらね。このポイントで二位通過できたんだから予想以上ってところかしら」と言っているぐらいだ。


「それに、第一競技で戦闘を行ったのは無意味じゃないわよ。おかげで他校の選手のデータがとれたもの」


 最終となる第三競技は選手全員が参加することが出来る。そして、第三競技は主に選手同士の戦闘となってくるので、この第一競技が第三競技にむけてのデータ収集となるのだ。


「まあ、今日はみんなよく戦ってくれたわ。三日後に行われる第二競技に向けて休んでちょうだい」


 交流戦は一週間の時間をかけて行われる。一日目が第一試合で、二日目、三日目は休息期間であり、第二競技は四日目に行われる。五日目と六日目は同じように休息期間で、第三競技は最終七日目に行われるのだ。

 また、交流戦で選手におきた怪我は基本的に各学園のサポートスタッフがみることになっているが、緊急時の時に備えて大会側が用意した医療班も待機している。生徒では手におえない怪我をした時の為と、生徒が行った治療が問題ないかを見るためだ。

 この交流戦では参加の書類申請から競技における戦略、怪我人の治療までほぼすべてを生徒たちが行わなければならない。戦いだけではなく、サポートスタッフも生徒としての自主性やその腕前を披露し、鍛える場でもあるのだ。交流戦のサポートスタッフとして働いていた生徒がそのまま大会側が用意した医療班の人に認められてそのまま卒業後は病院に就職するというのも珍しい話ではない。


「怪我したやつは、ちゃんと大会の医療班に怪我の具合を見てもらってから休憩に入ること。以上、解散っ!」


 エリカの声でその場は解散することになった。ソウジたち『イヌネコ団』は医務室で休息を取っているクラリッサと、それに付き添っているチェルシー、サポートスタッフとして働いているルナのもとへと行くことにした。


「それにしても、レイドのやつはまだ来ないのか……三日後の第二競技は僕とお前の番だというのに……」


 イライラとそわそわを慌ただしく繰り返しているオーガストがいまだこの場に現れないレイドのことを口にした。


「そういえば、コンラッド先輩とクライヴ風紀委員長も姿を見せていませんね。風紀委員長と生徒会長は第三競技にしか出場できないという決まりがあるからいいのですが……レイドくんとコンラッド先輩は三日後の第二競技に出場するはずなのに」

「多分、大丈夫だろ。第二競技当日にはきっと来るって」

「……でも、今日は来なかったじゃないか」

「そうだけど……ギリギリまで頑張ってるんじゃないのか?」


 レイドが何をやっているのかはソウジにも大体想像はついている。おそらく、競技に参加するそのギリギリまで時間を使いたいはずだ。

ソウジは心の中でこの学園で出来たはじめての友達にエールを送った。



 クラリッサ、チェルシー、ルナと合流して闘技場から出たソウジたちはそのままギルドホームに戻り、そこで休息をとることにした。ギルドホームには色々と私物を持ち込んでおり、下手をすれば尞よりも居心地が良かったりする。

 ソウジは少しの睡眠をとったあと、オーガストを起こさないように、図書館から借りてきた大量の本を抱えて二階にある男子部屋から一回に下りる。こうしてみんなが寝静まったあとにも調べものをするのがソウジの日課のようなものだ。図書館で得てきた資料を片手に、ソウジはルナによって生み出された『星遺物』であるブレスレットを調べていく。このブレスレットに関してはまだあまり情報を得られない。確かなことは、ブレスレットにはめこまれている宝石のようなものが特殊なクリスタルであったことと、そのクリスタルに数種類の何かしらの魔法が内包されているという事だけ。ソフィアの力を元に戻す手段に対するヒントはまだ何も得られない。

 ソウジはため息をつきつつ、まだまだこれからだと気を取り直して調べ物を再開しようとしたその時だった。


「……ん?」


 ぎしっ、と二階の方から物音が聞こえてきたのでその方向を振り向いてみると、


「あはは……バレちゃいましたか。さすがはソウジくんですね」


 苦笑するパジャマ姿のフェリスがそこにいた。


「フェリス? こんな時間にどうして……」

「眠れなくてちょっと気分転換に何かしようかなって思って下に下りようとしたらソウジくんが調べものをしてたので……何か飲み物を淹れてこようかと思ったんです」

「そっか。ありがとな」


 いえいえ、とテキパキと飲み物を淹れてきてくれたフェリスはそのままソウジの前に飲み物を一つ置くと、


「…………え、えいっ」


 ぽすっ、と(フェリスなりに)勇気を振り絞ってソウジの隣に腰かけた。


「あ、あの。迷惑でしたか? 作業の邪魔になったりとかは……」

「いや、そんなことないよ。それに、俺もそろそろ休憩しようかなって思ってたし」


 フェリスは、まさかこんなことになるとは思っていなかった。眠れないので気分転換に何かしようとしていたはずなのに、ソウジの隣にいたらドキドキして眠るどころではない。


「そういえば眠れないって言ってたけど……やっぱりフェリスも緊張してるの?」

「……ん。そうですね。そうかもしれません」


 ソウジが言っているのは三日後に控えた交流戦でのことだということが分かる。実際、今日の試合を見てフェリスは三日後に行われる、自分が参加する第二競技で自分が上手くできるだろうかという不安が湧き上がってきた。


「……もしわたしのせいで負けちゃったらどうしようって……そんなこと考えてたら、眠れなくて」


 実際、フェリスはプレッシャーが無いわけじゃない。あのエリカ・ソレイユの妹として周囲から期待されているのが分かる。もし交流戦という大舞台で失敗してしまったら、周囲の期待という眼がどうなるのか。姉に迷惑がかかったりはしないか。ギルドのみんなが貶められることはないか。そう考えると眠れなかった。

 そしてそれは、思わず漏れた本音だった。子供のころもそうだった。エリカという天才がいたからこそ、フェリスは期待されていた。幼いフェリスにはその期待で押しつぶされそうになっていた。今思えば、(言い訳するつもりは無いが)その期待がフェリスの魔法習得の足かせになっていたのだろう。だからこそ、ソウジと一緒にいる時間。周囲からの期待から解放された時間。安らぐことのできる時間があったからこそ今のフェリスがあるのだ。


「そっか……。そうだよな。プレッシャーってかかるよな。俺に何かしてやれることがあったらいいんだけど」

「ソウジくん……」


 とくん、とくん、と心地良いリズムで鼓動が刻まれる。もう二度と届かないと思っていた人がそこにいる。そんな人と今、隣同士に座っている。こんなにも幸せなことが、他にあるのかな。


「あ、あの……」

「フェリス?」

「あります。してほしいこと」

「本当か? よし、それならなんでも言ってくれ。俺にできることならなんでも力になるからさ」


 頼もしい笑みを浮かべてくれるソウジ。その笑顔を、ずっと見たかった。ずっと、ずっと。あの頃からずっと恋しいと思っていたものだった。


「……わたしの傍にいてください」


 気がつけば、フェリスの手はソウジの頬に触れていた。


「……フェリス?」

「もう遠くに行かないで。あの時みたいな思いをするのは、いやだもん……」


 それは、ソウジがバウスフィールド家によって処分されてフェリスに会いに行けなかった時の事を言っているというのがわかった。自分の思った以上に心配をかけてしまったことを今さらながら思い知る。


(……ん?)


 フェリスとじっと見つめあう形になったソウジ。気がつけばその距離が徐々に近づきつつあり――――


「……!?!?!?!?!?!???」


 ――――そこで、フェリスの正気が戻った。


「はっ! わ、わわわわわわわわたしはにゃにを!?」


 あらためて自分の行動を思い返してみる。自分の手はソウジの頬に触れていて、あろうことか顔がもう、キスをしそうなぐらいに近づいている。


「きゃあああああああああああああああああああああ!? ご、ごめんなさいソウジくんっ。え、えっと、その、こ、これはですねっ。ええええええーっと……えいっ!」

「げふっ」


 フェリスはがしっと両手でソウジの顔を持つとそのまま自分の太ももへとソウジの顔を押し付ける。ソウジの首から何やら「ぐきっ」という妙な音がしたが気にしない。


「ひ、ひひひひひひひ膝まくら! 膝まくらしてあげますよソウジくん!」

「いや、なんでいきなり!?」

「細かいことは気にしないでくださいっ!」


 というかこの状態はいろいろとまずい。何しろフェリスの太ももはいくらパジャマ越しとはいっても柔らかくて程よくむっちりしてて、それに女の子特有の甘いシャンプーの香りも漂ってくる。更に視線を上にあげればパジャマの上からでも自己主張の激しい胸が見える。フェリスの顔が見えづらくなるほどの。


「あうあうあう……ど、どーしてこんなことに……」

「それは俺が聞きたいんだけど……」

「わ、わたしったらなんてはしたないことを……でもでも、これはこれで良いというか……」


 こうして夜は更けていく、と同時にソウジはこんなところをエリカに見つけられたら殺されるだろうなぁ。と思った。


 ☆




「はっ! フェリスたん!? いま、わたしのフェリスたんがどこぞのクソガキといちゃラブしてやがるわ!」

「何時だと思ってるのはやく寝てちょうだい……」

「離しなさいコーデリア! フェリスたん! フェリスた――――ん! お姉ちゃんがいま行くからね――――――――! ぐべらっ」

「さっさと寝なさい。縛り付けて物置に放り込むわよ」

「ぐふぅ……そ、それでも私は屈しないわ! かわいいかわいいマイシスターを救い出すまで、ごぺっ」


 今宵も、専用の物置には生徒会長が押し込められるのであった。




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