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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第四章 五大陸魔法学園交流戦 中編
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第六十六話 灼熱空間

 デリックとアイザックの二人は途中で森の中で合流し、そこからニコラとアイヴィたちのもとに戻るべく移動していた。彼女たちは同じく森の中に身を潜めており、護衛にチェルシーがついている。二人は去年の交流戦における先輩たちの活躍を見学していたことがある。だからこそ、二人は今の状況に疑問を抱いていた。


「……デリック」

「ん。オッケー」


 デリックはアイザックからのサインを受け取るとすぐに背後を振り向いた。同時に既に星眷を眷現させていた。手のひらから十字をモチーフとした魔法陣が浮かび上がっており、魔力の充填を終えている。


「そこだ!」


 デリックの『レティクル・メテオ』から魔力の弾丸が次々と発射された。魔法弾はそこらにあった木々に激突した。魔法弾が木に穴を開けるが、周囲の様子が騒がしい。周りからは地面を踏みしめる音や草木をかき分けるような音が聞こえてきている。それを確認した二人は一気に走りだしていた。


「多分さっきのドワーフの『インビジブルスーツ』ってやつだぜこれ。ニコラさんたちの居場所が知りたくて俺たちを尾行してたんだろうな。お前のおかげで気づけたがよ!」

「油断するな、来るぞ!」


 アイザックは鋭い声を放つと同時に自身も手にしていたナイフを持った。このナイフこそが、アイザックの『りょうけん座』の星眷――――、


「『カネス・ハウンド』!」


 空間の一部から放たれてきた黄魔力によるアロータイプの攻撃をアイザックは手にしたナイフの形状をした星眷で切り刻む。刻まれた魔法攻撃は爆ぜて消滅する。そんなことすらを確認する時間すら惜しく、アイザックは走っていた足を止めて周囲を観察しはじめた。


「言っておくが、貴様らの姿が見えない魔道具に対抗できるのがニコラ先輩だけだと思うなよ」


 そのアイザックの言葉は、姿を消しているドワーフの生徒の位置に向けて放たれており、視線も完全に姿を消している襲撃者の一人に向いていた。当のドワーフの生徒の本人はというと、姿を消しているはずなのに視線が合ったような気がして冷や汗のようなものが流れたのを感じたが、首を横に振る。見えているはずがない。


(偶然だ)


そのドワーフの生徒は周囲の仲間にサインを送ってデリックとアイザックを包囲した。


「位置を変えようが無駄だ」


 アイザックはしっかりとこの場にいた姿を消している生徒の数を把握するとそれをデリックにアイコンタクトで伝える。数は三人。デリックは両手に魔法陣を眷現させ、アイザックはナイフを構える。そして相手が攻撃を仕掛けてくるよりも早く、二人は攻撃を行った。魔法弾の雨がその場にいたドワーフたちに降り注ぐ。それは反撃すらもままらないほどの密度。ついには一方的に攻撃を喰らってしまったドワーフの三人は『インビジブルスーツ』にダメージを負い、その姿を晒すことになった。


「な、なぜ俺たちの位置が……!」

「さぁて、それはなぜでしょう?」


 デリックがはぐらかすが、アイザックが姿を消したドワーフたちの位置を把握できたのにはもちろん理由がある。アイザックの持つ星眷、『カネス・ハウンド』の能力は身体能力の大幅な強化。更には視覚・嗅覚・聴覚までもが強化されており、それは通常の人間はおろか獣人をも遥かに凌ぐほどとなる。レゾンの開発した『インビジブルスーツ』は確かに影すら残さない高性能なものだがさすがに人の発する匂いまでは消せなかった。そしてアイザックの強化された嗅覚がそれをとらえたのだ。


「くそっ!」


 ドワーフの生徒たちが舌打ちして逃げようとしたがデリックがそれを見逃すはずがない。彼らが背を向けた瞬間にはもう既にデリックの星眷から魔法弾が発射されていた。


「フンッ!」


 だが、デリックの放った攻撃は突如として空から飛来してきた一人の褐色の男によって遮られた。その褐色の男は身の丈以上もある巨大なハンマーでデリックの魔法弾を弾き飛ばし、霧散させる。


「はぁっ!?」


 デリックが呆気にとられていたが、目の前の褐色の男――――ドワーフ族の生徒はギロリとデリックとアイザックの二人を睨みつけていた。


「ここからはオレが相手だ、二年坊主共」

「……アンタは?」

「オレはディラフト学園三年のマックス・リアム。悪いが、後輩の撤退の邪魔はさせん」

「なるほど。面倒見のいい、後輩思いの先輩っつーわけだ」


 デリックがやれやれと肩をすくめて注意をひきつけている間に、アイザックが一瞬でとびかかる。ドワーフ族は小柄だが強靭な肉体と全種族の中でもっとも力がある。接近戦は得意とするところ。その接近戦をアイザックはあえて挑んだ。マックスは望むところだと言わんばかりにハンマーを振るったが、アイザックはすぐに地面を蹴って下がり、それをかわす。挑みかかってきた割にアッサリと退いたことに違和感を覚えたマックス。しかしアイザックが飛び掛かってきたのは、デリックの攻撃から意識を逸らすためだということは、アイザックの背後でデリックが魔法弾を空にいくつも放ったことで分かった。

 しかしなぜわざわざ上空に、というマックスの次なる疑問はすぐに解消されることとなる。デリックが空に放った魔法弾は途中でぐんっと急に曲がり、落下する。その先にはマックスの後輩たちが、さきほど『インビジブルスーツ』を身に纏っていたドワーフの生徒たちがいた。撤退するのに必死でそのドワーフ達は自分たちの背後からデリックの攻撃が迫っていることに気づいていない。やがてドワーフ達三人にデリックの攻撃が着弾した。術式をいじってあるのか炸裂した瞬間、連鎖的な爆発が巻き起こった。


「後輩思いは結構なことなんだけどよぉ、先輩」


 デリックは自分のクリスタルに先ほどのドワーフ達三人が持っていた分のポイントが加算されていくのを確認しながら、ニヤリとした笑みをマックスに向けていた。


「それならそれで後輩の事はちゃあんと最後まで面倒を見てやらなきゃダメじゃないッスか。セ・ン・パ・イ?」

「……言ってくれるな、二年坊主……!」


 デリックのことをニヤリとした笑みを浮かべて威圧し返しつつ、マックスは考える。後ろにいた後輩たちとこの場にいたデリックとの距離は既に百メートルほど離れていた。そんな先まで魔法攻撃は届くのだろうが、ピンポイントであの三人のところまで的確に攻撃を撃てるだろうか? しかも、デリックの視界はマックスにとびかかってきたアイザックで狙い撃つには不便な状態になっていたはず。その上で的確に三人を落とした。そんなこと普通はそうおいそれと出来ない。何か秘密があるはずだ。

 アイザックの連撃が途切れ、次に第二撃が来る。再びハンマーで迎撃しようとするが思いとどまった。


(まさか……)


 マックスは勘を働かせ、ハンマーを使っての迎撃は行わずそれを跳躍してかわした。次が来る。アイザックの身体能力と武器のコンパクトさを活かした連撃。空中だと身動きが取れず、かわしきれない。あえて受けて立つ。巨大なハンマーとナイフでは武器を振るうスピードやとりまわしの点でアイザックのナイフに劣る。しかしドワーフの持つパワーを活かせばどうということはない。だがこの連携はマックスにとってやっかいだ。一人は離れたところから攻撃を行ってこちらの動きを崩し、崩れたところをもう一人が接近して叩く。息もピッタリだ。しかし、


「うぉらっ!」


 マックスはハンマーを力の限り振るう。強烈な風圧と共にハンマーが風邪を切り裂き、空中にいたアイザックが風圧で押されて地面に着地する。それに少しだけ遅れてマックスも着地した。その着地のタイミングを狙ってデリックが魔法弾を放つ。今度は変化球。アイザックの背中をよけて魔法弾の弾道をコントロールする。だがマックスはついにその力を解放した。


「うぉおおおおおおおおおおっ!」


 ボウッ! とマックスのハンマーから炎が渦巻いた。マックスはハンマーを振るうと炎も踊るようにうねり、舞う。その炎によってデリックの多方向からの攻撃は遮断されてしまった。


「フンっ。どうやらお前の攻撃に、さっきオレの後輩を落としてくれた仕掛けがあるようだな……おそらく、その攻撃が当たるとマーカーのようなものをつけられる。そしてそのマーカーがある限り、どこにいようともお前の攻撃は対象を追尾してやってくるのではないか?」

「あっちゃー。バレちゃったか。さすがは三年生。やっぱ単純な経験値でいえばそっちの方が上か」


 ぺろっと舌を出すデリック。が、本当はマーカーの有効範囲があって、デリックから距離が離れすぎるとマーカーも消失してしまう。だからこそ先に三人を始末したのだが、それをあえて言う必要はない。

 デリックの星眷、『レティクル・メテオ』の能力はつまり『狙った対象に必ず攻撃を当てる能力』である。だからマーカーさえ当ててしまえばその有効範囲内にいる限りどこにいようともデリックの攻撃は相手を逃がさない。


(まあ、それだけじゃあないんだけどな)


 更にデリックの星眷は様々な魔法弾を撃てることにも利点がある。今のところはノーマルな魔法弾と変化弾しか撃ってないが、もちろんこれ以外にも様々なバリエーションが存在する。ここまではあえてその様々なバリエーションをもたせなかったが、どうやらそろそろ少し本気を出し始めた方がよさそうだ。


「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 雄叫びをあげながらマックスが炎を身に纏い突進してくる。さすがにこの状態のマックスをアイザックに相手をさせるのは酷か。デリックは『レティクル・メテオ』の能力で新たなる魔法弾を生み出した。


「『クイック・ジャベリン』」


 魔力によって生み出され、槍の形へと変化した魔法弾がマックスに殺到した。マックスは炎を纏って防御を試みたが炎の壁をデリックの放ったジャベリンたちはいとも簡単に貫いた。『クイック・ジャベリン』は速度と貫通力に優れた魔法弾である。ただの炎の壁程度ならば貫くのはたやすい。


「ぬうっ!」


 ハンマーを振るってなんとかジャベリンを叩き落とすマックス。マーカーをつけられたことを懸念してほんの僅かに動きが鈍った。実際は、魔法弾にマーカーを混ぜる場合は何の形態変化も行っていない通常の魔法弾でしか出来ない。よって今の『ジャベリン』タイプの攻撃ではマーカーはつけられない。だが相手はそのことを知らない。ほんの僅かでも動きが鈍れば十分だ。


「『エクスプロージョン・マシンガン』」


 今度は爆発効果の持った魔法弾が目にも止まらぬ速さで連射されている。しかも着弾するごとに爆発を巻き起こしており、嵐のような攻撃の中にマックスは釘付けになってしまった。なんとかハンマーから生み出される炎を使って耐えているものの、炎を削りきれるのは時間の問題である。


(よし、追い詰めた。あとは隙を見てマーカーを撃ちこんで……)


 そこから距離をとって確実に仕留めていく、とプランを練ったその時だった。


「デリック、そこから離れろっ!」


 距離をとって周囲から邪魔が入らないか警戒しつつ戦いの様子を窺っていたアイザックの声が響いてきた。その時には反射的に体が動き出していて、同時に敵の反撃もはじまっていた。


「『灼熱空間リアマ・エスパシオ』!」

 

 爆発のはざまに聞こえてきたのはわずかな声。だがそれが呪文だということには遅れて気がついた。やがてデリックの放った爆撃を切り裂き、否、焼き尽くすかのように炎がマックスを中心に広がっていった。やがてその炎は辺り一帯に広がり、デリックとアイザックは防御魔法で自身の身を護りながらも、自分たちの周囲を見て驚愕した。

 辺り一面、森だった場所が今やメラメラと炎がゆらめく灼熱の空間へと変貌していた。


「熱っ! な、なんだこりゃ!?」

「……おそらく、やつの作り出した空間の中なのだろうな。俺たちは見事に閉じ込められたというわけだ」

「おいおい……空間丸ごと一つ魔法で作りだしたってか? ったく、勘弁してほしいぜ。複数人でやるならともかく単独で空間を作り出すなんてタダゴトじゃねーぞオイ」

「当然だ。この一年をかけて編み出したオレの奥義だからな」


 自信たっぷりにマックスがデリックたちを見る。実際、空間を魔法で作りだすことはかなり難しい。アイヴィやソウジも同じことが出来るが、アイヴィの星眷属にしてもソウジの『黒空間』にしても、あくまでも現実世界の『外』に空間を作り出しているにすぎない。だが現実世界にここまで直接的に影響を及ぼせるほどのものを作るのはかなりの魔力と技術が必要だ。元からそこに存在する空間に別に作り出した空間の影響を及ぼそうというのだ。アイヴィやソウジのように現実世界を基準点として、何もないその『外』に別の空間を作り出す方がまだ簡単だ。


「今の攻撃でオレを追い詰めたと思ったのだろうが――――それは間違いだぞ?」

「……ああ。それを今、身を以って実感してるよ」


 デリックは背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。



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