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第三十八話 エピローグ

 学園の一件以降、学園はしばらく慌ただしかったものの授業の方はすぐに平常運転で行われることになった。予想されていたほどの混乱はなかったのが教師たちには意外のように感じたらしいが、それというのも学園内に現れた『真紅の騎士』に対する噂が混乱を上回ったからだ。

 あのあと、ソウジは食堂周りの敵をフェリスと一緒に片づけるとまだ学内にいる残党たちを一気に殲滅しにまわった。その際に多くの生徒にその姿を目撃されており、色は違う物の噂されていた『黒騎士』なのではないかと話題がもちきりである。

 それに加えて、教師や風紀委員会、生徒会の活動のお陰で生徒たちには被害が無かったのも手伝ってか、すぐに混乱は収まったのだ。

 ソウジとしては喜ばしい限りなのだが、また変な噂が広がりそうでやや憂鬱である。

 また、アインはすぐに騎士団に引き取られた。アインが今回の一件の主犯であったことは多くの生徒がショックを受けていたが。

 ルナはあの後しばらく意識を失っていたが、保健室で静かに意識を取り戻したという。ソウジたちはすぐに保健室にむかおうとしたが、あの後、襲撃の際に勝手に飛び出して戦い始めていた事に対して処罰……というよりお説教を受けていたのだ。当然のことながらプラスになるようなことは何もない。教師陣としても心苦しいのだが、下手に褒美を与えると非常時に他の生徒たちが避難せずに戦おうとしてしまうかもしれないからだ。こういった事態に置いては一般の生徒は素直に逃げるのが正しい。

 だがその翌日には、ルナも元気な姿を見せていた。

 そのことに安堵すると同時にソウジはあの時のことが気になっていた。アインに囚われていた際の……あの、ルナが発した謎の光。そして、今はソウジのポケットの中に入っているあのブレスレットのことも。

 調べてみたところ、あの時ルナが創造したブレスレットはやはり『星遺物』だった。

 だが、どの記録にも欠片もその存在が記されていない謎の『星遺物』でもある。

 一つの仮説として、おそらくルナはあのブレスレットを媒体にして――――『星遺物』を、創ったのだ。

 それがどういった力なのかは分からない。しかもルナはあの時の事を覚えていないという。

 ルナが感じたあの『熱』と、そしてルナ自身が魔力が無く、魔法も使えないという体質に何か関係があるのだろうか?

 考えてみても分からない。一応、ソフィアには手紙を送っておいたが。

 ただソウジは、あの時、自分を助けてくれようとしたルナにお礼を言った。ルナはきょとんとしていたが。でも今はまだそれでいい。

 ソウジはポケットの中に入っているブレスレットをじっと見る。

 これはルナの手によって創り出された『星遺物』。それは間違いない。これはルナからの贈り物だ。ソウジが追い求めていた、ソフィアの星眷を元に戻すための鍵となるアイテム。


(……ありがとう)


 ソウジは心の中でルナにお礼を言う。彼女のおかげで、また次の一歩を踏み出せる。目的を果たすための一歩が。まだまだやるべきことはたくさんある。図書館でまた資料を集めつつ、このブレスレットを調べる。ソウジはソフィアが『星遺物』の実物を研究しているのを見ていたので、いくら実物があるからといって、このブレスレットを調べるのはかなり大変そうだということが分かる。


(それがどうした)


 かなり大変? それがどうした。大変という程度なら諦める理由にはならない。元より何があろうと諦めるつもりはない。またこれから忙しくなりそうだ。

 とはいえ、まずは調べる前にちょっとした用があるのだが。


「お、おまたせしました」


 息を切らしながら小走りで集合場所である正門前にまでやってきたのはフェリスである。彼女ほどの使い手が小走りで来た程度で息を切らすのは珍しいとソウジは思った。しかし、その当のフェリス本人があまりの緊張でドキドキして小走りでやってきたぐらいで息を切らしている――――という理由があるということは、ソウジは知る由もない。


「あのっ、お、遅れてごめんなさい」


「気にしなくていいよ。俺もいま来たところだから」


 実際、まだ集合時間まで三十分はある。それなのにこんなにも急いできたフェリスに苦笑するばかりである。多少、遅れてくることぐらいは予定に入れてあったし、まさかこんなにもはやく来てくれるなんて思わなかった。


「それじゃ、行こうか」


「は、はいっ。えと、あの……よ、よろしくお願いします……」


「? こちらこそ」


 フェリスのわけのわからない様子に首を傾げながらもソウジはフェリスと共に学園を出た。

 今日は休日で、ちゃんと許可もとってある。ちなみに他のギルドメンバーたちには秘密だ。

 フェリスは昨日、突然ソウジに明日一緒に外に出ないかと誘われたのだ。

 しかも、他のギルドメンバーたちは無しで。これには心臓の鼓動がドキンッと跳ねた。昨日からずっと緊張して、この前の買い出しの時みたいな服を選んでいて遅れてしまったなんてヘマをしないように服を引っ張り出してきてずっと明日着ていく服を考え抜いていたのだ。おかげでちょっと寝不足気味だが。


「なんか、今日のフェリスの服……」


「ふぇ!? な、なにか変でしたでしょうか……」


「いや、今日のはいつにも増してなんかかわいいなって。似合ってるよ」


「あぅ……」


 顔が熱い。思わず俯いてしまう。不意打ちだ。まさかこんなにも自然に褒められるなんて思わなかった。というかソウジはどこか鈍いところもあるので何も気づかないのかと思っていたのだが――――どうやら、気合を入れてきたということはちゃんと気づいてもらえたらしい。恥ずかしくもあり、同時に嬉しくもある。


「そ、それはそうと、えと、今日はどこに行くんですか?」


 呼び出しをくらったのだが行き先は教えてもらっていなかった。

 ソウジは何気なくはぐらかして結局、教えてもらえない。

 

「んー。まあ、いろいろな」


 そう言うソウジにフェリスは連れられて、様々なお店をまわった。最初はウィンドウショッピングを楽しみながらお昼になると喫茶店に寄って一緒にお茶をする。その後はまたお店をまわっていく。最後にソウジはとある小物を売っている店に入っていった。そこで何かを買っていくと、また外に出る。向かったのは公園だった。


「フェリス、これ」


 またもや不意打ちで、ソウジから何か手渡された。よく見てみるとそれはプレゼント包装された小箱だった。


「わたしにですか?」


 ソウジは静かに頷いて、フェリスはその小箱を受け取った。


「あの……開けてみても、いいですか?」


「もちろん」


 そういえばこんなやりとりをルナともしたなぁと思いつつ。ソウジは少しだけ緊張しながらフェリスの様子をうかがった。


「これ……」


 フェリスに渡した小箱から出てきたのは、太陽をモチーフにしたヘアピン。


「あの、これって」


「いや……なんか春のランキング戦の時も今回の時もさ。フェリスには俺の分まで頑張ってもらってたから。だから何かお礼がしたいなって。なんかこの前、ルナにプレゼントした時に見てたし……やっぱ女の子だから、こういうの欲しいのかなって思って」


 欲しいから見ていたというのではなく、ソウジからのプレゼントだから見ていたというのは言えない。

 だけどそれ以上に、自分にもプレゼントをくれたという事実がとても嬉しかった。


「それと、これも」


 ソウジが袋から取り出したのはルナにプレゼントしたものと同じデザインのブレスレットである。ただし、星の装飾の色は赤い。また、ソウジも右手に同じブレスレットをつけていた。ただ、フェリスのものとは違って星の装飾の色は黒い。


「オーダーメイドで作ってもらったんだ」


「えと、それって、もしかして……」


 わたしのために? などと甘い想像をしたが、それはあっさり打ち砕かれる。


「ちなみに他の皆のもあるぞ!」


「えっ」


 固まるフェリスの前に対してソウジはずらっと他のみんなの分のブレスレットも出した。それぞれ、青、緑、紫、黄と色を見ただけで『イヌネコ団』みんなの分というのが解る。


「みんなの分も買おうと思ったんだけど、どうせならお揃いのものをつけようかなって思ってさ。オーダーメイドで同じデザインの、色違いのものを作ってもらったんだよ」


 ニコニコとした笑顔で言うソウジにフェリスはつい脱力してしまった。が、すぐにまた笑顔になる。

 なんだかんだ、ソウジのこういうところも含めて好きなのだと思ってしまう自分がいる。


「そういえば手紙を書いたらさ、師匠がまたみんなの分もマフラー送ってくれるらしいんだ。だからそこからもヒントをもらったって感じかな」


「ふふっ。みんなでお揃いのユニフォームみたいでかっこいいかもしれませんね」


「うん。俺もそう思う」


 ソウジの笑顔を見ながら、今はこれでいいと思える。


 ――――今は、この距離で。


 二人を包み込むように優しい風が吹く。


 季節は夏。


 次のランキング戦が、はじまろうとしていた。


 ☆


 夜。


 学園の正門を歩く、一人の少女がいた。

 その少女が歩くたびに、月明かりに照らされた美しい金色の髪がなびき、輝きを放つ。


「さて、ようやく帰ってこれたわねぇ」


 学園の校舎に視線を移す。既にこの学び舎で二年は過ごし、春からしばらく離れていたが何も変わっていない。どうやら何か騒ぎがあったらしいが、自分がいなくても乗り越えられたようで安堵する。


「ああ、入学式に出られなかったせいで妹の晴れ姿も見れなかったわ。学園長に抗議しようかしら」


 軽く寮のある方角に視線を向ける。

 今頃、きっとあの寮の一室でかわいい妹がかわいい寝顔をしながらかわいく眠っているはずだ。


「フェリス、元気だといいけど……愛しのお姉ちゃんが帰ってきたからには、元気づけてあげなくちゃね!」


 愛しの妹の事を思いながら、この学園の生徒会長、エリカ・ソレイユはゆっくりと歩を進めた。





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