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第三十六話 レーヴァテインモード

 邪悪な魔力の渦から姿を現したアインは、これまでのオーガストやエイベルが見せたような化け物よりも安定しているように見えた。体のサイズは本来のものを維持しているし、出力も安定している。しかし体はとても人間のようには思えない肌で覆われていた。


「ああっ……! これが、これが……! 魔王様の御力の一端を授かった姿……!」


 その姿を『邪人イーヴィル形態』へと変化させたアインが自身の体を見て歓喜に震えていた。そんなアインの喜びに呼応するかのように魔力がどんどん膨れ上がっていく。ソウジはその姿を見て油断することなく剣を構えた。アイン曰く『未完成品』であるオーガストとエイベルの時ですらすさまじいパワーと再生能力を持っていたのだ。油断は出来ない。


「さあ、さあ、さあっ! せいぜい実験台になっていただきましょうか!」


 アインは素晴らしいオモチャを与えられたかのような歓喜に打ち震えた表情のまま全身から邪悪な魔力を吐き捨てた。同時に、邪悪な魔力で形作られた触手のようなものが放たれる。ソウジはそれらの触手を睨み付け、背中にいるルナに一発たりとも通さない覚悟で『黒壁ブラックウォール』を展開させる。


「無駄ですよ!」


 触手は『黒壁ブラックウォール』に突き刺さり、そのまま壁を貫通した。ソウジは貫通したことに驚きながらも星眷の刃を振るい、触手を切断していく。切断された触手は砕け散り、その欠片を霧散させていく。だがアインは新たな触手を展開させて追撃してきた。


「ただの魔法で、魔王様の攻撃が防げるわけないでしょう!」


 どうやら通常の魔法は効かないらしい。あまりに興奮するあまりただのオモチャを自慢するだけのガキに成り果ててしまっているアインをソウジは哀れに思いながら、通常の魔法が効かないならば『星眷魔法』ならば通用することを悟った。実際、『アトフスキー・ブレイヴ』はあの触手を軽々と切断した。

 ソウジは『黒刃散ブラックスプレッド』を放ちつつ剣を振るうことで触手を一度にいくつも破壊しながら接近していく。通常の魔法が使えない以上、ソウジには遠距離の攻撃手段が封じられたも同然。ならば接近しなければ勝機は無い。ソウジから放たれる高速連撃にアインは徐々に距離を詰められていった。このまま触手を放ち続けても勝機は無いと思ったのか、アインは片手をボコボコと刃の形に変化させると一気に距離を詰めてきた。

 ソウジの持つ星眷とアインの刃が激突し、魔力と魔力の激突によってスパークが生まれる。が、それは一瞬だけ。ソウジはアインの刃を上手く弾くと同時に一閃をアインの体にたたき込んだ。寸前でバックステップによる回避をされて傷は浅かったので悔やまれる。やはりオーガストやエイベルと違ってサイズが普通の人と同じに保たれている分、小回りも効いていると思ったが、またオーガストやエイベルの時と同じように再生が行われるのだろうと思ったが、案の定再生が行われた。

 だがオーガストやエイベルの時で核さえ破壊できれば倒せるという事を確認しているソウジはまた体内にある核を探そうと接近戦を仕掛けた。再び重なる刃と刃。

 つば競り合いをするソウジに、そっとアインが囁きかける。


「おや? 背中にいるゴミを放っておいて大丈夫なのですか?」


「ッ!」


 瞬間、アインの体を渦巻く魔力から再び触手が放たれた。だがその狙いはソウジではなく――――その後ろ。離れたところにいるルナだ。ソウジはすぐさまアインの刃を弾くと、脚力を強化して一瞬にしてルナの目の前へと回り込む。襲い掛かる触手を斬り裂くと同時に、アインの狙いがソウジの足止めだということを悟る。アインはソウジが触手を迎撃している間に既に魔力を集約させており、その閃光の一撃を放っていた。


「ルナっ!」


 ソウジは背後にいるルナを真横に突き飛ばす。心の中で手荒になってごめんと謝罪しつつ、アインの放った邪悪な魔力による閃光を真正面から受け止めた。

 元々の力が高かったうえに『邪結晶イーヴィルクリスタル』によって強化された為か、アインから放たれたその一撃はソウジを受け止めた星眷ごと吹き飛ばした。爆発と共に食堂の壁に何かが激突したような音が響き渡り辺りが煙に包まれる。


「ソウジさんっ!」


 ルナはソウジの名前を叫ぶ。だが返ってくるのはパラパラという欠片が降り注ぐ音と、爆発の余韻のみ。


「『スクトゥム・デヴィル』!」

 

 しかし、すぐにまたソウジの声が響き渡った。嵐を切り裂くような音と共に辺りの煙を振り払い、中から黒鎧に身を包んだ一人の騎士がその姿を現す。ルナはそれが直感ですぐにソウジだということが分かり、そして驚いたように目を見開いた。それはアインも同じで、邪人化したままの顔で驚愕の表情を露わにしていた。


「その姿……あなたが噂の黒騎士だったのですね。先日、我々の同志の邪魔をしてくれたという」

 

「噂のかは知らないが、お前らの仲間の邪魔をしたっていうのならたぶん俺かもな」


 アインの言葉で、休日の時にソウジがこの姿に変身して鎮圧させたあの人攫いが『再誕リヴァース』の手先であったことを悟る。妙に戦い慣れしていると思ったが、まさかアインと同じ組織の手の者だったとは思わなかった。

 あの人攫いがアインの仲間だったことを知り、更に怒りがわいてきた。ソウジは変身して全体的な能力が一気に格段に強化されたのでそれを活かして距離を詰める。アインはまた邪悪な魔力の閃光を放ってきたものの、今のソウジには効かない。白銀の輝きを持つ『アトフスキー・ブレイヴ』をくるん、と軽く振り回しながらその先端の刃を邪悪な魔力による閃光に向ける。間髪入れずに『黒刃突ブラックショット』でそれを貫き、床を蹴って空中で回転。アインのがら空きの胴体に『アトフスキー・ブレイヴ』を振り下ろした。アインは咄嗟に触手を前に集めて防御をしたが、ソウジの刃はそれごとアインの体を切り裂いた。

 触手に邪魔されたせいで傷はまたもや浅い物だった。また再生されてしまうかとソウジは思っていたが、アインにつけた傷口はなぜか再生することなくそこに刻み付けられている。シュウウウウ……と煙のようなものが微かにあがっており、傷口が熱を帯びていた。そのことに一番、驚いているのはアインだった。


「があっ!? な、なぜだ? なぜ傷が再生しない!?」


 明らかに動揺するアイン。その隙をソウジが見逃すはずがない。追撃の一手を加えようと再度、剣を振るう。アインは舌打ちしながら触手を再び防御に回す。魔力を流して強化しているためか、ゴギンッという鋼鉄を斬っているかのような音と共に弾かれた。だがそんなことでは諦めない。何度も剣で斬りかかるが、防御に特化し強化した触手に弾かれるのみ。

 ならばと再び剣を軽く回転させてから『黒刃突ブラックショット』を放つ。黒刃は触手の防御を粉砕してアインの右腕を貫いた。


「がああああああああああッ!?」


 悲鳴と共にアインは地面に魔力をさく裂させて爆発を起こした。鎧の星眷に身を包むソウジにそんなものは効かない。だが目的はソウジにダメージを与えることではなく、その爆発の衝撃によってその場を離れることにあったのだ。距離をとったアインは膝をつきながら破壊された右腕に目をやり、憎々しげな視線をソウジに送る。


「おのれッ!」


 叫ぶ。吼える。

 憎しみをぶつけるように全身から魔力を発散させるように刃をマシンガンのように放つ。ソウジは剣を振り回し、的確に刃の一つ一つを切断していく。アインはそれを見て今度こそ恐怖を感じたのか「ひっ」という情けない声を漏らした。無理もない。魔王の力の一片をその身に宿しながら、ソウジにまったく歯が立たないのだから。更に無敵の再生能力を有していたかと思いきや、それすらも今のソウジには封じられている。アインは邪人となった今だからこそ恐怖を感じていた。

 その恐怖を認めないかのように今度は魔法弾を次々と繰り出す。一つ一つが星眷魔法にもひけをとらないもの。だがソウジはアインの悪あがきを見てその程度かと思った。こんなもので止まるわけがない。離れて逃げた気になっているようだが笑わせる。食堂の床を蹴って攻撃を迎撃しながら再び距離を詰める。そしてその距離はあっという間にゼロに変わった。それと同時に再び剣を振るい、今度こそアインの胸に深い傷を与えた。ドッと赤黒い魔力が血のように噴出した更にトドメの一撃として刃を振り下ろそうとした瞬間――――、


 アインの体が、炸裂した。


 それはソウジがアインの体を切り裂いたことによって起こった結果ではなく、アインの体が内側から炸裂したことによるものだった。そして体の内側を突き破るようにして巨大な棘がアインの体から放たれる。ソウジは咄嗟に攻撃をキャンセルして剣を盾にした。ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッ! と、剣ごと物理的にソウジの体は押し出される。


「らあっ!」


 だがそれをソウジは魔力を更に高め、無理やり薙ぎ払う。棘はソウジの剣に切断……否、まとめて薙ぎ払われ、砕け散った。破片が舞い散る中、ソウジは目の前からアインが消えたことに気が付く。最悪の予感が頭の中を駆け巡った。


「そこまでだクソガキィ!」


 振り向くと、体を完全に回復させていたアインの姿がそこにあった。どうやら自らの体を炸裂させることで回復しない傷口ごと吹き飛ばし、無理やり回復したようだ。だが全身の大半を自ら吹き飛ばした傷の回復にはかなりの魔力を使ったようで、荒い息を吐いている。

 だがソウジにとって最悪な点はそこではない。悪い予感が的中してしまっていた。

 ルナが、アインに囚われてしまっていた。

 触手によって手足をはじめとした全身を絡め取られてしまっており、ソウジに見せつけるかのように高々とルナの体を宙に釣りあげて拘束している。

 やられた。

 ソウジは思わず歯噛みする。

 無警戒にしていたわけではなかった。自らの体を犠牲にした自爆技によってソウジの動きを僅かに抑えてその隙を突かれた。完全に自分の落ち度だ。


「う……ぁ……」


 ルナは苦悶の表情を浮かべており、ソウジはぎゅっと自分に対する怒りで思わず拳を握る。


「形勢逆転ですねぇ」


 ニタニタとした邪悪な笑みを浮かべるアイン。その顔を今すぐ剣で切り裂いてやりたかった。ルナの命を手中におさめ、自分の気分次第だという事を示したような顔が気に食わない。


「さァ、まずはその剣を戻してもらいましょうか。逆らったら人質がどうなることぐらい、あなたにでも分かるでしょう?」


 ソウジは悔しげな表情を鎧の兜の下で浮かべ、『アトフスキー・ブレイヴ』を解除した。同時にアインは全身から魔力弾を生み出し、それらを一斉にソウジに向かって放った。まるで大砲の弾が着弾しているかのような爆発がソウジを中心にして巻き起こる。邪人化の影響で魔力が増幅されたアインによって、ソウジは絶え間なく爆撃を受け続けた。その一発一発が星眷魔法級の威力を誇っている。並みの星眷使いならばとっくの昔に粉々に吹っ飛ばされているだろう。だがソウジはこの鎧の姿に変身しているために持ちこたえられている。だがそれでも鎧の所々が微かに傷つき始めていた。そんなことはどうでもいい。自分のミスで彼女を危険に晒している。ルナが無事ならば、こんなものいくらでも耐えられる。


「ヒャハハハハハハッ! 死ねッ! 死ねッ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇえええええええええええええええええええええええええええええ!」


 アインは狂ったように笑いながら爆撃を仕掛け続けた。腕をクロスして盾にし、耐えることしかできないソウジを嘲笑っているかのようだ。


 ☆


 その光景を、ルナはただ見ていることしかできなかった。

 自分が捕まっているからソウジは何もできないでいる。

 さっきもそうだ。自分を庇って受けなくてもいい攻撃を受けてしまった。

 助けに来てもらって、庇ってもらって、そしてこうして人質にとられて……何も役に立っていない。お荷物にしかなっていない。迷惑をかけてばっかりだ。

 思えば、自分はソウジからいろんなものをもらってばかりだ。

 自分は何をあげられていない。

 視界の中のソウジは全身に爆撃を受けて鎧が傷ついている。

 このまま彼がやられるのを黙ってみていることしかできないのだろうか?

 囚われのお姫様のように、ただ彼の無事を黙って祈っていることしか――――、


(……いやです…………)


 いやだ。そんなのは、

 

(…………ぜったいに、いやっ!)


 何の役に立たないなんて嫌だ。お荷物なんて嫌だ。もらってばかりなんて嫌だ。囚われのお姫様のような役回りなんか死んでもごめんだ。もっとソウジと一緒にいたい。もっとたくさんお喋りしたい。この前いったお買いもののようにまた一緒に街に出たい。出来れば手を繋いで。

 あの時はたくさんの思い出をもらった。楽しい思い出。緊張した思い出。どきどきする思い出。

 もっともっとたくさんのことをソウジと一緒にしたい。今度はもらうばかりじゃなくて、こっちからソウジに思い出をあげたい。プレゼントをあげたい。


 想う。

 願う。

 祈る。


 みんなとの日常を再び取り戻すために。


 今はただ、彼を助けるための力が欲しい。


 少女はただ純粋に想い、願い、祈った。


(――――っ!?)


 ドクン、と再びあの鼓動がした。今度はルナの願いに呼応するかのように胸の中が熱くなってきた。その熱はじわじわと胸の内から体の全身へと広がっていく。まるで体全体が高熱を帯びたようだった。だけど不思議とあの時みたいに不安じゃない。なぜだか力がわいてきた。今ならなんでもできそうな気がする。そしてその力はルナの体内で凝縮され、留まっている。ルナは何かに導かれるようにその力を――――解放した。

 同時に、ルナは意識を失った。


 ☆


 星屑の輝きが、室内を塗りつぶしていた。アインは膨大な魔力を感じ取り、背中を向ける。

 思わず目を見開いた。拘束していたはずのルナの体から放出された魔力が炸裂し、彼女を拘束していた触手を粉々に砕いていたのだから。

 更に彼女の全身が高密度の魔力で満ち溢れており、星屑色の輝きを放っていた。


「な……なん……だ……?」


 ルナ・アリーデ。

 彼女は魔力を持たないただのゴミのはず。

 魔法が使えないただのゴミのはず。

 なら、彼女の全身から生まれている膨大にして高密度の魔力はいったいなんだ?


「……………………………………………………………………………………」


 拘束から解放された彼女は落下速度を軽減させているのかゆっくりと浮遊しながら下に落ちていく。そしてふわりと軽やかに着地した。アインはその様子を信じられないモノを見ているかのような目で眺めていた。が、彼女という人質が解放されたということはソウジがまた動き出すという事。冷や汗が流れ、再び触手を出して拘束しようと仕掛ける。

 だが、アインの放った触手は星屑の輝きによって遮られ、蒸発した。


「なっ!?」


 驚くアイン。だがその背後で、ソウジも同じように目を丸くしてルナを見ていた。


「ルナ……?」


 鎧越しに不思議な輝きを放つルナを見るソウジ。だがなぜかルナと視線が合ったような気がした。

 ルナは瞳にもその星屑の輝きを宿している。いつものルナの意識がそこにないような気がしたソウジは不安になったものの、反対にルナの方は穏やかな笑みを浮かべていた。

 そしてすっ……とソウジの右手首を指差した。


 直後、ソウジの右手首が突如として輝きを発した。


「ッ!?」 


 ルナが身に纏っている物と同じ輝きがソウジの右手首を覆い尽くしたかと思ったその瞬間、なぜかルナにプレゼントしたものと同じブレスレットがその姿を現した。星の装飾をした、あのブレスレットだ。しかしそれは光と共に弾けたかと思うと、次にその姿を左手首に現し、その形状を変化させていた。光の帯が渦巻き、ソウジはルナのブレスレットにかけたあの魔法を通じて何かがこちら側のブレスレットに入り込んでいるような気がした。

 やがて光の帯が弾けて、その中からシルバーに星屑の輝きを宿したブレスレットが顕現する。

 中央には黒い宝石のようなものがはめ込まれており、キラキラと輝きを放っている。

 ルナにプレゼントしたあのブレスレットは何の魔力も感じなかった。魔道具でもなんでもない、本当にただのブレスレットだったはず。だが今やその形は変化し、何らかの魔法アイテムへと変貌していた。ただの魔道具ではない。そういうレベルのモノじゃない。これは。ソウジにはこれが何なのか直感で分かった。それに関しては散々、様々な書物を漁って少しずつ調べていたもの。

 そしてアインも、ソウジの左手首に顕現したブレスレットの正体を察したようだった。

 信じられないかのような面持ちで、そして震える声でそのアイテムの名称を、告げた。


「――――せ、『星遺物』ッ!?」


 『星遺物』。

 その正体の多くが謎に包まれている強力な魔法アイテムのことだ。そしてそれはソウジが師匠であるソフィア・ボーウェンにかけられた呪い。七色の星眷にかけられた封印の呪いを解くためのキーアイテム。

 学園の蔵書でもかろうじてその名を見つけられたに過ぎない。

 今でも春のランキング戦終了後以降、必死に図書館に通って調べている手がかりがたった今、ソウジの元に姿を現した。だからこそソウジはこれが『星遺物』だと直感で分かったことが不思議だった。何しろ実物を見たことが無いし、種類も形も様々。だがまるでこのブレスレットが自らを『星遺物』だと語りかけてきたかのようだ。

 ブレスレットにある宝石が真紅の輝きを帯び始める。

 同時に灼熱の焔が渦を巻き、ソウジの体を包み込んだ。

 焔の嵐が吹き荒れ、それを切り裂く。


 その中から現れたのは、真紅の鎧に身を包んだ一人の騎士。


 黒と紅の色をした鎧は焔を放出しており、更に右手には鎧と同じように真紅に染まった『アトフスキー・ブレイヴ』が収まっていた。だがソウジはこれはその名ではないことを知っていた。この力がフェリスの星眷、『ヴァルゴ・レーヴァテイン』のものが宿っていることを感じていた。言うなればこの剣は『レーヴァテイン・ブレイヴ』といったところだろうか。


「き、貴様……その姿は……?」


「さあな。俺にも分からない」


 それは事実だ。

 何しろソウジの知る『スクトゥム・デヴィル』にこんな姿は無い。

 しかし、不思議とこれが悪い力ではないことは解る。ソウジを護るための力だということが解る。

 ソウジを護りたいという誰かの想いや願い、祈りで生まれた力だということが、解る。

 そして、強いて言うならばこの姿は『レーヴァテインモード』といったところだろうか。

 ソウジはまだ何がなんだか分からなかった。が、ルナからその謎の輝きが失われ、糸が切れた人形のようにバランスを崩したことを視界にとらえた。


「ッ!」


 一瞬にしてルナのもとへと移動し、力が抜けた彼女の体を優しく受け止めた。

 その隙を狙ったアインが魔法弾を撃ってくる。だがそんなアインに背後を向けていてもソウジはその行動を見抜いていた。

 轟ッ! とソウジの背中から焔が迸り、迫りくる触手を灰にへと変えていく。

 焔はそのまま壁となり、ルナを優しく包み込んだ。


「これ以上ルナに手を出してみろ」


 焔の軌跡を描きながら、ソウジはその真紅の剣の切っ先をアインへと向けた。


「灰にしてやる」


 ソウジのその言葉を聞いたその瞬間、アインは反射的に動いていた。触手と魔法弾を一斉射撃して繰り出す。だがソウジは真紅の剣を一振りするだけで、それら全てを粉砕した。ボウッという焔が燃やし尽くす音と共に一瞬にして全てが灰になった。

 更にソウジは焔と化した魔力を剣に集約させていく。


「――――『魔龍焔斬レーヴァテインストライク』」


 ソウジは焔剣を振るう。

 焔の斬撃がアインに向かって放たれ、それはアインの決死の防御魔法を粉々に打ち砕いていた。

 なす術もなく焔に巻き込まれたアイン。

 彼はその視界に床に横たわるルナを見た。彼女の姿と先ほどの輝きを見てその記憶を刺激される。


「そうか……貴様は――――巫女だったのか……ッ!」


 彼の放った言葉は、焔の中へと溶けて、消えた。




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