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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第一章 世界最強の星眷使いの弟子
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第二話 九年後の落ちこぼれ

 九年ほどの時が経ち、ソウジは十五歳となっていた。髪と背は伸び、九年前よりも強い眼を持った少年になっていた。日々の鍛錬によって生まれた肉体がシャツの下で息をひそめており、それがこの九年間でソウジがどれだけ努力を重ねてきたかを物語っている。

 ソウジは桶を持つと、小屋の結界の外へと出ていった。このソウジとソフィアが住んでいるのは『特別指定区域』に認定されている『龍の大地』という場所は、Sランク以上の魔物が跋扈している危険な森でもある。だが、そんな危険な森をソウジは難なく歩いていく。


 近くにある湖に水を汲みに行くためだ。この『龍の大地』という場所は木や草花、水や鉱石に至るまであらゆるものがレア度の高い素材と成り得る。例えばこの区域の水は『ミネラルアクア』といい、栄養価の高いうえに飲めば水属性に対する耐性を得ることのできる水だ。王都では高値で取引されている高級水となっている。ついでに、お肌にいいとも言われている。

 水ぐらいは魔法で簡単に生み出せるものの、さすがにこのミネラルアクアのような高級水は生み出せない。ソフィア曰く、湖に水をくみにいくのも鍛錬のうちだのミネラルアクアを飲み続けることで体にもいいし、水属性に対する耐性を付けることが出来るなどと述べているものの、明らかに美容効果が目的だろう。

 だが確かに、この『龍の大地』にある天然の素材たちはどれもが高級素材である。ここに生息している魔物たちも含めて。この九年間はその恩恵も受け続けてきたからソウジも文句は言えない立場にあるのだが。


 歩いていると、ソウジを出迎えるように巨大な二頭のドラゴンが現れた。が、明らかに歓迎ムードではない。ギラリと殺意の籠った瞳でソウジを捉える。一頭はS級のファングドラゴン。もう一頭はSS級のサラマンダドラゴンである。S級のドラゴン一頭だけでも冒険者や騎士たちが何人も束にならないと敵わない。が、ソウジはそれら二頭を見ても涼しい顔をして見上げている。

 九年前、この地に転移させられた時にソウジを襲ったのもファングドラゴンだった。だが、今の自分とあの時の自分は違う。

 ソウジは軽くため息をつくと、間髪容れずに襲い掛かってきたドラゴンたちに片手を突き付ける。その手の平から黒い魔法陣が展開され、それがソウジを護る壁となり盾となった。


「『黒壁ブラックウォール』」


 バチイッ! と黒い壁に激突した二体のドラゴン。ソウジは一瞬怯んだ隙を突いて黒魔力特有の転移魔法でドラゴンたちの頭上へと転移した。転移魔法は闇属性魔法だ。だが、例外として特殊な魔道具を使用すれば使うことが出来る。たとえば九年前、ソウジがこの地に飛ばされた時の様に。あの時、バウスフィールド家の使用人は特殊な転移魔法の魔道具を使ってソウジをこの地に転移させ、処分しようとしたのだ。その思惑は、見事に外れたのだが。


 ソウジは空間から一振りの剣を取り出した。闇属性魔法による空間魔法、『黒空間ブラックゾーン』である。闇属性魔法で作った空間の中にいろんなものを収納できる便利な魔法だ。ソウジは取り出した剣を一振りする。次の瞬間、たった一撃で二頭のドラゴンの首が落ちた。ソウジは着地するとドラゴンを剣で捌き、ドラゴンの肉を頂戴する。ドラゴンの肉は魔力を持っており、ドラゴンによって様々な効果を持っている。例えばサラマンダドラゴンの肉は食べ続けると少しずつだが火属性に対する耐性や火属性魔法の威力をあげることが出来る。ソウジはこの九年間でたくさんのドラゴンの肉を食してきたので、様々な魔法に対する耐性、また属性魔法の威力が強化されている。


 ソウジはドラゴンの肉を『黒空間ブラックゾーン』に収納して湖にて水を汲み、小屋へと戻った。小屋に戻ると、ソフィアが研究用のテーブルに突っ伏して寝ていた。どうやらまだ起きていないらしい。ソウジはためいきをつくと、ソフィアを揺り起した。


「師匠、起きてください。もう朝ですよ」

「ん……あら、もう朝なのね……」

「そうですよ。朝です。今から朝ごはんを作るので、せめて顔ぐらい洗ってきてください」


 ソウジは汲んできたばかりのミネラルアクアを台所に持っていくと、『黒空間ブラックゾーン』からドラゴンの肉を取り出す。この九年間ですっかりと家事スキルが身についてしまった。ドラゴンの肉を手早く調理する。ドラゴンの肉とミネラルアクア、この元気な大地で育った野菜をふんだんにつかったシチューを作る。ソフィアは顔を洗って朝の支度を済ませると、食卓に着いた。二人だけの朝食がはじまる。


「そういえば、今日が入学式だったわね」

「はい」

「あなたももう、十六歳なのね。あの頃の、小さなソウジが懐かしいわ」

「やめてくださいよ師匠。俺、もう小さな子供じゃないんですから」

「それにしても残念ね。学校あっちでは寮生活になるから、しばらくソウジの『ワショク』が食べられなくなるのね」

「『和食』です」

「そう。どっちでもいいわ。だって、美味しいもの」


 思わず照れてしまう。だが、ソフィアの浮かべた愛情のこもったその笑みに感謝の気持ちでいっぱいになる。この九年、ソフィアは自分を本当の息子のように扱ってくれた。弟子にして鍛錬をつけさせてくれて、力をくれた。感謝してもしきれない。この人は紛れもない、家族であり恩人だ。

 そして、今日がその恩人に恩を返すための一歩となる。


「師匠」

「なぁに?」

「…………俺、頑張ります」

「ん。がんばってね」


 ニコッと笑顔を浮かべるソフィア。


「あ、そうそう。あそこは特に食堂がオススメよ。かわいいもいるし、料理も特に美味しいわ」

「覚えておきます」


 その後ソウジは朝食を済ませ、準備をする。この九年で暮らしてきた小屋の前で、二人は一度向かい合った。


「自信を持ちなさい。あなたはこの私の、ソフィア・ボーウェンの弟子なんだから」

「はい。いってきます、師匠。……この九年間、本当にありがとうございました」


 ソウジが言葉にしてもしきれない感謝の気持ちをなんとか口にする。


「ばかね。これが最後ってわけじゃないんだから。いつでも会いに来なさい」

「はいっ!」


 ソフィアは笑って、転移魔法で旅立っていくソウジを見送った。


 ☆


 ソウジは『星眷使い』を育成するための学園、『王立レーネシア魔法学園』へと入学することになった。これはソウジから言い出したことだ。というのも、ソウジはとある目的があった。その目的を果たすためのヒントを探しに学園に入学するのだ。学園には膨大な数の貴重な魔法関連の資料が収められている。だが学園の関係者にしか閲覧が許されず、ソウジは『学生という学園の正規の関係者』という立場を手に入れるために学園に入学することにしたのだ。


 それだけではなく、この九年間、最強の星眷使いであるソフィア・ボーウェンの弟子として育ってきたソウジは、自分が師匠の名に恥じない立派なプロの星眷使いになることが恩返しになると思った。それに、星眷使いになってたくさんの金貨を稼いでソフィアに何かしてあげたかったし、ずっとソフィアの弟子でいたかった。


 ソウジはソフィアから『エスト金貨』を貰っている。この世界には金貨と銀貨と銅貨が通貨となっており、銅貨は一エスト、銀貨は十エスト、金貨は百エストの価値となっている。ちなみに銀貨と銅貨も同じく『エスト銀貨』、『エスト銅貨』と呼ばれている。例えば、三百五十二エストの剣が売ってあったとしたら、金貨を三枚と銀貨を五枚、銅貨が二枚でちょうど三百五十二エストになる。

 ソウジの巾着袋の中には金貨がぎっしり詰まっている。ソフィアから入学祝と称してもらったものだ。

 この九年の間に王都に行ったことは何度かあったので、転移魔法で近くまで来ることが出来た。転移魔法は一度、行ったことのある場所にしかいけないのだ。


 『ステジア王国』の『王都レーネシア』は、広大な土地を持つ巨大な街だ。戦争の際に敵の侵攻を防ぐために三段式の土地がたっている。一番下の階層は『下位層アンダー』と呼ばれており、その次の階層は『太陽街ソル』。そして最上階は『王領域レグルス』と言う。『下位層アンダー』の人々は基本的に平民であり、その上の『太陽街ソル』に住む人々は貴族、もしくは比較的裕福な者たち。そして『王領域レグルス』は王族、もしくはそれに近しい上級貴族たちが住んでいる。


 ソウジは門番に証明書を見せて、王都の中に足を踏み入れた。学園は『太陽街ソル』の中にある。広大な王都の土地を活かして、学園もかなり広い。闘技場や訓練場、さらにいくつもの種類の魔法生物を飼育している。その巨大な学園の敷地という目的地をしっかりと目に捉えながら、ソウジは歩き始めた。『下位層アンダー』から『太陽街ソル』へと登るための門は、東西南北の全部で四つしかない。また、門へと登るには許可証が必要で、許可証も無しに『下位層アンダー』が『太陽街ソル』へと足を踏み入れてはならないことになっている。


 この『下位層アンダー』は上の『太陽街ソル』に比べると少し暗い。見てみればあちこちにガラクタが落ちている。建物や屋台は年代を感じるほど古く、一部が壊れていたり汚れていたりしている。それに上の『太陽街(ソル)』に比べて明らかに人が住める土地が少ない。ソウジはそんな『下位層アンダー』の街並みを眺めながら、門へと向かう。門に近づけば近づくほど人通りが少なくなっていることに、ソウジは気が付いた。ソウジが門に近づくと、門の番をしている兵士がキッと睨み付けた。


「貴様、何者だ。門に何の用だ!」


 威嚇するように叫ぶ門番。ソウジはため息をつき、許可証を見せた。


「なんだ学校通いのガキか……通っていいぞ」


 ソウジが着ていた制服をあらためて眺めてそれにはじめて気が付いたかのようにぶっきらぼうにそう言い捨て、許可証を押し付けるように返した門番。噂通り、『下位層アンダー』は一部の上位層の人間からは差別を受けていたり不当な扱いを受けているのかもしれないとソウジは思った。とはいえ、この街の犯罪者は『下位層アンダー』の者が大半なのだからさっきの門番はそれを警戒した、という可能性もあるが。


 次に『太陽街ソル』に足を踏み入れてみると、明らかに『下位層アンダー』の街とは違っていた。ここにガラクタなんて落ちていないし、古い建物があっても清潔に保たれているし、威厳すら感じる。街の人たちの表情も晴れやかで、そこに不満が一切感じられない。ソウジはそんな『太陽街ソル』の街を通りながら、学校へと向かった。


 学校は見た目で明らかに結界がはられていることが分かった。巨大な校舎に校庭には豊かな緑が見える。

 辺りを見てみると、ソウジと同じように学校の制服を身に纏った生徒たちがチラホラ見えていた。

 学校についてみると、その人の数が更に多くなり、密度も高まる。学校の敷地内を見てソウジは感心したようにきょろきょろと周囲を観察しはじめた。が、これでは完全に田舎から出てきた田舎者みたいになっていたのでやめる。

 その後、入学式が行われた。式そのものはすぐに終わったので、すぐ外に出る。何やら騒がしい声がしたのでその方向を見てみると、掲示板に人だかりができていた。クラス分けが行われているのだろう。また、この学校では生徒は寮生活を行うことになるのだが、クラス毎に寮が分かれている。例えばA組ならA寮で暮らすことになるし、B組ならB寮で暮らすことになる。クラスは全部でA、B、C、D、Eの五つの一クラス五十人。

 ソウジはひょこっと人だかりの中から背伸びしてクラス分けを確認する。ソウジのクラスはEクラスだった。ついでに近くにあった掲示板に張り出されていた校内の地図を確認すると、校舎の中に入り、目的の教室に向かった。






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