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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第一章 世界最強の星眷使いの弟子
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第二十一話 エピローグ

 春のランキング戦は衝撃の結末となった。

 メンバーがすべて一年生のギルド『イヌネコ団』が、はじめてのギルド戦で獲得ポイント数一位を記録したのだ。これは約百年ぶりの快挙であり、学内の誰もが驚愕した。

 まさか新興ギルドがギルドランキングで初登場十一位を記録したのだから。

 ソウジは個人ソロの獲得ポイント数ではトップとなり、更にMVP賞までもとってしまった。

 エイベルを倒した後、残された僅かな時間の間に一気に他の生徒のポイントをあっという間にかっさらっていった。そのおかげでソウジは当初の目標であるランキング五十位以内に到達するという目的を果たした。ソウジは学内ランキング三十九位となったのだ。


「今度こそ、ちゃーんとした大勝利ね!」


 ランキング戦から三日後。

 クラリッサはその僅かしかないふくらみをもった胸をはってドヤ顔をしていた。手にはオレンジジュースの入ったグラスを手にしており、食堂に集まったイヌネコ団の面々もそんなクラリッサを見て笑顔を見せている(オーガストは少し照れくさそうだが)。


「ふっふっふ~。わたしとチェルシーもランキング五十位以内に入れたし、これで仕送りが出来るわ!」


「……かんぺき」


 クラリッサとチェルシーは実家である孤児院に仕送りが出来るようになって喜んでいる。特別支援金を自分で使うわけでもなく、家族のために惜しげもなく全て使う辺り、とても優しい子たちだな、とソウジは思った。


(支援金っていえば……)


 ソウジはチラッと視線をもうすっかり包帯も取れたレイドに移した。レイドの傍にはオーガストがいて、ルナの手料理を黙々と食べている。


「なぁ、オーガスト。本当によかったのか?」


「しつこいな。構わないといっただろう」


「でもよぉ……」


 レイドが言っているのは、オーガストがレイドに自分のポイントを全て譲渡したことだ。このポイントと、ギルドに特別に加算されたポイントでレイドは何とか五十位以内にギリギリで入ることが出来た。そのおかげで特別支援金を家族に仕送ることが出来るようになったのだ。


「これ、成績にもプラスされるんだろ? これじゃあ、お前……」


「フン。お前は僕をバカにしているのか? ランキング戦のポイントなど無くても僕の成績はトップクラスだ。そもそもランキング戦における特別支援金など、フィッシュバーン家の僕にとっては大して必要なモノじゃないんだよ」


「でもオレ、このままじゃお前に申し訳ねェよ」


「ええい、うるさい! いらないといったらいらないんだ! ありがたく受け取っておけ!」


 オーガストはムスッとした表情のまま、さもついでのように言葉を付け足した。


「…………そんなにも申し訳がないというのなら、次のランキング戦でしっかり活躍してみせろ。だからそのポイントは貸しだ」


 オーガストの言葉にレイドはぱあっと顔を笑顔にした。


「おおっ、そうか! よーし、そんじゃあ頑張って次のランキング戦では活躍してやるからな!」


「フン。せいぜい精進しろ」


「おう! ありがとな、オーガスト!」


「…………うるさい」


 ぷいっとレイドから顔を逸らすオーガスト。だがその頬は若干赤い。きっと恥ずかしいのだろうとソウジは思った。食堂ではルナがお祝いにいろんな料理を作ってテーブルに持ってきてくれた。みんな今日の戦いで魔力を使いすぎて空腹になっており、どんどん食事は進んでいった。そんな中、ソウジは外の風にあたりにテラスに出た。椅子に座って夜空に輝いている月を眺めていると、ふと背後から人けがした。


「おつかれさまです。ソウジくん」


「フェリス……うん。おつかれ」


「隣、いいですか?」


「いいもなにもないけど、まあどうぞ」


 フェリスはソウジの隣の椅子に座って一緒に月を眺める。隣に座る彼女は月明かりに照らされてどことなく幻想的な美しさをしていた。思わず一瞬、見惚れてしまうほどに。


「あの人……エイベル・バウスフィールドは、どうなったんですか?」


「騎士団に引き渡されたよ。今頃きっと、いろいろ事情聴取でもされてるんじゃないか?」


 エイベルが暴走し、倒されたことによって洗脳されていた上級生たちは解放された。そこからエイベルの悪事が次々と芋づる式に掘り起こされて、ついにはあのクリスタルの件にまでとんだ。事が大きくなった為についにはこの世界の警察である騎士団が登場するはめになった。


「でもまあ、ざまーみろってところだよ。俺からすれば」


 そういって軽やかに笑うソウジに、フェリスは少し心配そうな目を向けた。そんなフェリスの視線に気が付いたソウジは、手をひらひらとふってフェリスに微笑みかける。


「ああ、大丈夫。確かにエイベルは俺の家族だったやつだけど、あいつは罪を犯し過ぎたし、俺は九年前にあいつのせいで殺されかけた。そのことは今でも忘れていない。だから騎士団に連れて行かれてよかったって思うのは本当だよ。ありがとな、心配してくれて」


 フェリスはソウジを心配してくれていたことぐらいはソウジにも分かっている。だからこそ、フェリスにはちゃんと大丈夫だという事を伝えておきたかった。


「そうですか。よかった……」


 心の中の不安要素が消えたことでフェリスもようやく一安心できた。心配だった。ソウジが本当は自分の家族の事を意識していたことを知っていただけに、エイベルと実際に戦ったことがとても心配だった。あの時は送り出したものの、それでも戦っている間もずっとずっと心配だったのだ。


「ソウジくんは確か、図書館にある資料の閲覧権限を上げるためにランキング戦に参加したんですよね? 目当ての本は見つかったのですか?」


 ソウジはランキング戦が終わって、自分の順位が三十九位に上がったことを確認するとすぐに図書館へとすっとんで図書館に引きこもっていたのだ。


「ん……見つかったといえば見つかったかな」


 ソウジはもともとこの学園にはある目的を果たすために役立つものを探しに来た。図書館に収められている書物にソウジの目的を果たすヒントがあるかもしれないと思って必死にランキングを駆け上がった。そして見つけた。その目的のヒントになりそうなものを。


 ソウジの目的。それは、師匠であるソフィア・ボーウェンの復活。


 現在のソフィア・ボーウェンは全盛期の半分以下の力しか残っていない。それはただの衰退ではなく、とある呪いにかかっているせいだ。その呪いの力によってソフィアは自身の星眷を封じられている状態にある。そのため魔力を含めたすべての魔法能力が半減している。

 ソウジはその状況を打破するためにこの学園にやってきた。

 ソフィアの持つ七色の星眷たちを解放するために、そのヒントを探しにやってきたのだ。


 夜空を見上げながら、ソウジは思わず拳を握る。『世界最強の星眷使い』であるソフィア・ボーウェンがそのような状態になったのも、すべて自分のせいだ。ソフィアの呪いは、突如として襲ってきた襲撃者からソウジを庇って負ったものだった。

 だからこそ、ソウジは探している。ソフィアの力を取り戻す方法を。

 そしてヒントを見つけた。

 その呪いの解呪には『星遺物』と呼ばれる特別な魔法アイテムが必要となる。


 だが『星遺物』は未だその多くが謎に包まれており、ソフィアも研究していたものだ。


 こんなことはソフィアはとっくに掴んでいるだろう。

 ただソウジに心配をかけまいと黙っていたのだ。ソウジに話せばきっと『星遺物』を探しに行ってしまう。世界のどこにあるのか分からないモノ。そうでなくとも強力な魔法アイテムだ。そんな危険なモノを探しに行かせたくないとソフィアなら思う。実際にソウジはもっとはやくこのことを知っていたらたとえソフィアが止めても『星遺物』を探しに行くつもりだった。


 しかし、ソウジはこの学園に来てしまった。

 そしてここで大切な仲間が出来てしまった。

 そう簡単にはここをもう離れることはできない。

 みんなを見捨てることなんてできない。


(ああ、そうか。だから師匠はあんなにも笑顔で、俺を送り出してくれたんだな)


 あのままあそこにいたらきっとソウジの世界は狭まっていた。ソフィアはそれを危惧していた。だからこそ、学園へと旅立っていくソウジを快く送り出した。

 もっと外の世界を見て、大切な友達を作ってほしい。

 そんな願いを込めて。


(ありがとう、師匠)


 だけどまだ諦めたわけじゃない。『星遺物』に関する情報がこの学園の図書館に眠っているかもしれない。その膨大な量の書籍をすべて把握しているものは恐らくこの学園の誰もいないだろう。それぐらい数が多いのだ。それに、あのソフィア・ボーウェンの弟子が学園を中退なんてそんなみっともない真似が出来るわけがない。立派な星眷使いになって、ソフィア・ボーウェンの名に恥じぬよう頑張ることも恩返しだ。


「ソウジさん、フェリスさん」


 月を見上げていると、背後からルナが自分たちを呼ぶ声が聞こえた。


「クラリッサさんが呼んでます。どうやら勝手に抜け出した二人にご立腹のようです」


「こら――――! そこの二人、さっさと祝勝会に戻りなさーい!」


「あんな感じです」


 淡々と説明するルナとぷんすかと怒るクラリッサに思わず苦笑を浮かべて顔を見合わせるソウジとフェリス。


「ギルマスのご命令とあらば断わるわけにもいかないからな。戻るか」


「ええ。そうしましょう」


「そうしてください。せっかく作ったお料理が冷めてしまいます」


「悪い悪い。それじゃ、さっさと戻ってルナの作ってくれた料理でもまたごちそうになるか」


 月明かりに照らされながら、イヌネコ団の祝勝会は夜まで続いた。


 この日の夜のことを、この先ずっと忘れないだろうとソウジは思った。



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