表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第一章 世界最強の星眷使いの弟子
21/167

第二十話 バウスフィールド家との決別

 スクトゥム・デヴィル。

 その名を告げた瞬間、ソウジの持つ『アトフスキー・ブレイヴ』の漆黒の刃から黒色がバラバラとはがれるように抜け落ちた。『アトフスキー・ブレイヴ』はその姿を、白銀の剣へと換えていく。そして抜け落ちた黒は魔力の嵐となり、ソウジの体を包み込む。

 そして嵐は――――切り裂かれた。

 中から現れたのは、黒い鎧に身を包んだ戦士。

 鎧、というよりも装甲といった方が正しいのかもしれない。鎧というには無骨過ぎず、そして可動に支障のない、頭からつま先まで全て覆ったスタイリッシュなデザインの鎧だ。黒い輝きを放ちながら紫色のツインアイをギラリと輝かせており、右手にはその鎧の色と対を成す白銀の剣が握られている。変化しているものの、アレは紛れもない『アトフスキー・ブレイヴ』だ。

 頭から足のつま先まで全身を覆う黒鎧。

 これこそがソウジの持つ『第二の星眷』。『たて座』の星眷、『スクトゥム・デヴィル』だ。


「な、なんだ……それは……?」


 エイベルは信じられない何かを見ているかのようによろめいた。


「それも……星眷なのか?」


「そうだ。これが俺の二つ目の星眷……『スクトゥム・デヴィル』だ」


「ふ、二つ? そ、そんなわけがあるか! 星眷は一人につき一つのはず! なぜお前は二つも星眷を持っている!?」


「さあな。そんなことは自分で考えろ」


「くっ……! くそっ、撃て! 撃てぇえええええええええええ!」


 エイベルの指示によって、十人の星眷使いが一斉に牙をむいた。それぞれが星眷魔法による攻撃をソウジに集約させる。一斉に放たれる星眷魔法による閃光。だが、それは一撃たりともソウジを倒すには至らなかった。ソウジはその光の弾を身に纏った鎧の腕で受け止め、斜めに弾き飛ばした。だが一つでは終わらない。流れるように迎撃動作から次のモーションへと動作を連鎖させていく。敵の攻撃を腕で弾き、足で蹴り飛ばし、果ては裏拳で叩き潰す。幾重にも集約された上級生の星眷魔法の攻撃は、ソウジの身に纏った『スクトゥム・デヴィル』に傷一つつけることは無かった。

 そして次の瞬間、ソウジはもう既にその場から姿を消していた。

 転移魔法によって上空に転移していたからだ。星眷魔法の攻撃によって荒れ果てた森を上から見下ろしながら、ソウジは魔力を展開する。


「今の攻撃で位置は把握した」


 言うと。

 ソウジは再び転移する。

 次の瞬間にはもう既にソウジは、エイベルに操られている上級生のうちの一人の懐に飛び込んでいた。そして拳を腹部に叩き込む。ソウジから一撃をくらった上級生は意識が途絶えると、ぐったりと倒れこむ。倒れ終わる前にソウジは既に次の標的へと転移を開始していた。その圧倒的転移スピードにエイベルは指示が追い付かなかった。気が付けば、あっという間にエイベルのしもべたちは気を失って横たわるだけになっており、それはまさに一瞬の出来事だった。

 だが、エイベルはその瞬間を待っていた。ソウジが転移し、最後の一人を気絶させたところで背後から剣の星眷を振るい、襲い掛かってきたのだ。


「死ねぇ!」


「悪いが、俺はまだ死ねない」


 ソウジはその程度の動きは読んでいた。ぐるんっと体を回転させ、裏拳を放つ。鎧によって覆われた漆黒の拳はエイベルの星眷の刃を弾き返した。ギャリッという金属と金属の激突するような音が響き、ソウジは右手の剣を一閃。白銀の刃はエイベルの腕を切り裂いた。切断するまでには至らなかったものの、エイベルは情けない悲鳴をあげた。


「ぐっ、ぎぃッぎぃゃあああああああああああああああああああああああ!」


 鮮血が舞い、エイベルの星眷を血で濡らす。既に廃墟と化した森の中でエイベルの無様な悲鳴だけがこだましていた。


「ぐっ、うぅううう……!」


「その程度か? 理想のバウスフィールド家を作るんじゃなかったのか、天才」


「黙れぇッ!」


 エイベルは星眷を振るう。ソウジはそれを受け止めた。が、二人の間には圧倒的なまでの魔力量による差があった。明確な、差が。ソウジはエイベルの『タウロス・シュヴェール』を一気にぶった切る。純粋な力で叩き潰された星眷はいとも簡単に崩れ去った。


「なっ……あ……!」


「終わりだ、天才野郎」


 ソウジは拳を振るい、エイベルに叩きこもうとした。だがその瞬間、エイベルは意を決したかのようにポケットからオーガストを狂わせたあの黒く濁ったクリスタルを取り出し、自分の傷口にそれを――――突き刺した。

 瞬間。

 暴力的な魔力が、エイベルを包み込んだ。


「ぐ、ギッ、がッあaあaaaああ阿嗚呼あああアァああaああ嗚呼ああアアああああああaaaaaaaaああッ!!」


「ッ!?」


 ドウッ! と、吹き荒れるあまりの邪悪な魔力にソウジは吹き飛ばされてしまった。だがなんとか空中で体勢を立て直し、地面に着地する。エイベルはあのクリスタルを自らの体にへと埋め込んだ。エイベルの体がドス黒く染まり、更に体がブクブクと膨張して徐々に巨大になっていく。やがてエイベルは醜悪な顔つきの巨人へと変貌を遂げてしまった。


「おいおい。これじゃどっちが化け物か分かったもんじゃないな」


 半ばあきれたように呟くソウジ。


「うルサイ……! うるさいうるさいうるさい! 死ね、化け物め!」


 オーガストの時とは違い、エイベルはこのクリスタルを作ったというだけあって安定し始めている。地面にいるソウジめがけて正確に巨大な拳を振り下ろした。ズウン……という重苦しい音と共に大地が砕けた。ソウジはすぐさま巨人と化したエイベルの背後に転移すると、その巨大な大木のような右腕を斬り飛ばした。白銀の剣によって切断された腕はくるくると宙を舞い、ドス黒くなった血を噴出した。だが、斬り飛ばされた腕はなんとすぐさま再生してしまった。


「こうなったからにはもうボクを止めることはできない!」


「って、やっぱりお前の方がよっぽど化け物じゃねーか」


「黙れ!」


 振り下ろしてくる拳を転移魔法で避け、ソウジはどうすればこの巨人を止められるか。その対策を練る。


(オーガストの時と同じように、核を破壊する!)


 ソウジは突きの構えを行い、白銀の剣に漆黒の魔力を集約させていく。


「『黒刃突ブラックショット』!」


 この『スクトゥム・デヴィル』を身に纏った状態のソウジは通常よりも遥かに魔力やその他の魔法能力が強化された状態となる。

 そうして放たれた『黒刃突ブラックショット』はもはや大砲とも呼ぶべき様な規模と威力と化しており、転移魔法で懐に潜り込み叩き込んだこの一撃でエイベルの胸にデカデカとした穴を開けた。ぐらつくエイベルだが、すぐに勝ち誇ったような笑みを浮かべる。すると、ぼっかりと空いたはずのエイベルの胸の穴が瞬く間に再生してしまった。エイベルは勝ち誇った顔をしながらソウジに向かって叫ぶ。


「バカめ! 核が同じ位置にあると思ったか!」


「思ってないさ」


 ソウジは一瞬で魔力を再装填リロードし、黒い魔力の刃を構成する。

 再度、エイベルの懐に潜り込んでその一撃を放つ。


「『黒刃散ブラックスプレッド』!」


 剣に渦巻いた黒い魔力は拡散し、いくつもの拡散した閃光の刃となってエイベルの巨体を貫いた。先ほど与えた一撃に加えてエイベルの体にはいくつかの穴が空き、そこからは魔力が鮮血と共に噴き出している。ダメージを負った先から肉体が回復をはじめていたが、間髪入れずに次の『黒刃散ブラックスプレッド』を叩き込んでいく。体中がまるで銃撃の雨に晒されたかのような穴だらけの状態になったエイベルは徐々にその勝ち誇った顔が崩れていく。


(さ、再生が追い付かない!?)


「核の位置は大体絞り込めたぞ。化け物」


「ッ! このボクが化け物、だと!?」


 ソウジの一言でエイベルの瞳が怒りに満ち、邪悪に輝いた。


「ボクを化け物と呼ぶな!」


「家族や関係のない人たちを巻き込んで、人の心を弄ぶようなやつが化け物でなくてなんなんだ?」


「黙れ!」


 エイベルは口を大きく開けて魔力を集約させた。暴走したオーガストが放ったものと同じ破壊光線だろう。


「遅い!」


 ソウジは一瞬で破壊エネルギーの塊の目の前に転移すると白銀の剣でエネルギーの塊を切り裂いた。集約途中で不安定な魔力は爆発し、エイベルの顔を吹き飛ばす。


「がァ!?」


 だが吹き飛んだ顔すらもまた再生してしまった。エイベルは怒り狂っているせいか再生途中で不安定な視界の中、ソウジを捉えようと拳をデタラメに振り回すがソウジは既にその場から転移し、距離をとっていた。


「くそっ! くそっ! くそっ! ただの落ちこぼれが、このボクをバカにしやがってぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 まるで獣のように叫ぶエイベルを、ソウジは冷ややかな目で見ていた。あんなものに自分が悩まされていると思うと本当にバカらしい。それに加え、無関係の多くの人の心を勝手に誘導し、操った。オーガストの過去までもを利用し、踏みにじった。


「お前の罪は重いぞ、エイベル」


「ほざけ!」


 エイベルはその巨大な拳をソウジめがけて放つ。対するソウジも拳をエイベルの巨大な拳に向かって放った。

 

 ガッギィィィィィィィィィィィィンッ! と、二つの拳が激突した。


 拮抗したのは一瞬。

 そして、それが崩れ去ったのもまた一瞬。

 黒き拳がその醜悪な巨人と化したエイベルの拳を潰し、引き裂いた。ソウジの放った拳は一撃でエイベルの腕を崩壊させた。ズゥゥゥン……と重苦しい音を立てて巨人が膝をついた。


「がっ……バカな……このボクが開発したクリスタルの力が……!?」


 シュウウウウとエイベルの巨体から煙が噴き出ており、体そのものが悲鳴を上げていた。エイベルは呆然とした表情で膝をつくのみだ。自分が今まで落ちこぼれだと見下してきたソウジに勝てないという動かぬ事実。そして、その落ちこぼれの手によって自らの切り札を完膚なきまでに叩き潰されたというどうしようもない事実が、エイベルを精神的にも打ちのめしていた。


「勝てない……? バカな……このボクが、お前なんかに…………ぐっ!?」


 ドクンッ。


「ごっがっ……ァ!?」


 エイベルは突然苦しそうに胸を押さえてうずくまり、のたうちまわった。すると、未だ巨体である彼が苦しみによってのたうちまわっていることによって辺り一帯が地震が起こったかのように揺れを起こしていた。


「なんだ?」


 最初は悪あがきか何かかと思ったソウジであったが、すぐにそうでないことを知る。


「があああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 突如としてエイベルの体が膨張を始めた。巨体は更にその大きさを増していき、体のあちこちから醜い顔のようなモノが蠢きだした。体中に無数の醜悪な顔が現れ、瞳や肌はドス黒くなり、体からは黒い煙を噴出させ、まるで魔物のような体へと変貌していく。


「これは……エイベルがクリスタルの力にのまれた? コントロールが効かなくなったのか!」


 オーガストも同じ状態になり暴走した。皮肉にもエイベルもオーガストと同じ同じ暴走状態となってしまったのだ。醜悪な巨人と化したエイベルは雄叫びをあげながら地面を蹴って大きく跳ね上がり、その場を離脱した。あまりの風圧にその場に踏みとどまるソウジだが、跳ね上がったエイベルの向かった方向にハッとした。


 その方向は、イヌネコ団が戦闘を行っている場所だった。


「みんな……!」


 ソウジはすぐに転移魔法を使ったが……転移が出来ない。


「転移が出来ない……この霧か!?」


 結界の中から結界の外へと転移出来ないように、エイベルの体から噴出したこの黒い霧は恐らく転移魔法を使えなくするような効果があるのだろう。すぐに霧の外へと出ようとするが、驚くべき勢いで体から霧を噴出しながら飛び去ったエイベルのせいで、辺り一帯は黒い霧に覆われてしまっていた。ソウジはすぐに判断を切り替えて大地を蹴り、護るべき仲間の元へと加速した。


 ☆


 イヌネコ団の面々はソウジが抜けてからもなんとか善戦していた。しかし、ソウジが抜けた穴は大きく、そう簡単に埋められるものではなかった。だが、四人は逃げ回りつつもなんとか気合で持ちこたえる。相手は星眷使いを少なくともこちらの倍以上は揃えていた。その多重攻撃に防戦一方となる。


「くっ……!」


 しかし、中でもオーガストは必死に自分の星眷魔法と魔力を総動員させて防御に貢献していた。彼の汎用性の高い水の結界が無ければとっくの昔にこの均衡は崩壊していただろう。

 だがオーガストの頑張りの目の前で、別の存在がこの均衡を破った。

 突如としてズドン! という音と共に大地に謎の巨人がイヌネコ団と大手ギルドの間に着地してきたのだ。その魔力はすさまじく、一瞬にしてその場を制圧してしまうほど。


「な、なんだあれは!?」


「わ、わからんがこっちをむいたぞ!」


 その醜悪な巨人は大手ギルドの方に顔を向けると口を大きく広げ、エネルギーの塊を構築していく。そして、その莫大なエネルギーが一気に解放された。ピカッと光ったかと思うと、破壊光線のような一撃がフィールドを薙いだ。大地に亀裂が走り、崩壊し、消滅していく。圧倒的なまでのパワーに浮き足立った大手ギルド。大半が星眷使いであった為にギリギリでかわすことが出来たものの、受けたダメージは大きい。連携もバラバラとなった生徒たちは一斉に逃げ出した。そして今度は、醜悪な巨人がフェリスたちの方へとその顔を向けた。


「わわっ、な、なんかこっち見たわよ!」


「……たおす」


 その巨体に慌てるクラリッサだが、チェルシーは冷静に弓を構えて、矢を放った。星眷魔法による強力な風属性の一撃。それは的確にあの巨人の頭を吹き飛ばしたものの、一瞬にして再生してしまった。


「……!」


「さ、再生魔法――――!? そんなの反則じゃない!」


 クラリッサの抗議も空しく、巨人は手をボコボコと不気味に変形させると、一振りの巨大な剣へと変えた。それをクラリッサたちに向かって振り下ろす。


「ちぃっ!」


 オーガストはそれを真っ先に防ごうと水の結界を集約して幾重にも層を重ねた盾を構築した。バチィッ! と剣と水の盾が激突するも水の盾はいくつかの層が破られてしまった。


(パワーが違いすぎる……!)


 既に大手ギルドからの攻撃を防御するのに魔力を消耗してしまったオーガストの体は既に限界を迎え始めようとしていた。膝を突きそうになり、そのはずみにいくつかの層がまた破られる。


「この隙にわたしが!」


「わたしも!」

 

 フェリスとクラリッサがそれぞれの星眷を手にオーガストの盾の層の外へと躍り出る。間髪入れずに焔と雷の魔力が醜悪な巨人に襲い掛かった。それぞれの強力な一撃は確かに巨人の上半身を吹き飛ばしたものの、ぐらりとほんのわずかにその巨体を傾けただけだった。オーガストは巨人の振るう剣をかろうじて受け止めているが、片時も力の抜けない状態になっており動けない。その場に釘付けにされていた。


「……ッ。ここまでダメージを与えても倒せないなんて…………!」


「まずいわよコイツ、再生能力が強すぎる!」


 フェリスもクラリッサもさきほどの戦いで魔力を消耗している。あの巨人を倒すための決定打にはどうしても欠けている状態であり、尚且つ相手は再生能力を有しているのだ。今の二人がこの巨人を倒すのは実質的に不可能と呼ぶに近い。


「ここは素直に撤退よ! まずはあいつの腕を吹っ飛ばして……」


 クラリッサが指示を出そうとしたタイミングは遅かった。本来ならば最初から撤退すべきだった。それを示すかのように巨人の大きな口が開き、エネルギーが充填されていく。今からこの巨人の腕を吹き飛ばし、オーガストの水の盾と激突しているあの剣の動きを止めていては撤退は間に合わない。


「チッ! 僕はここから動けそうにない、君たちは早く逃げろ!」


 状況をいち早く把握したオーガストが、フェリスたちに逃げるよう促す。彼女たちは今現在、自分オーガストがいるからここに動けないでいるのだ。オーガストを放置して逃げてしまえば助かるかもしれない。このまま手をこまねいていては全員が巻き添えになる。一撃で大地を消滅させてしまうほどの一撃は、さしものオーガストでも今の魔力の少ない状態では防ぎきれない。

 だが、


「そんなことできるわけないでしょうが!」


「……むり」


「ここで逃げることなんてできません!」


 三人から返ってきたのは、まさかの拒否の言葉だった。


「なっ!? 正気か」

 

「わたしは決めたんです。ソウジくんの力になるって! だから……だから、こんなところで仲間を誰一人として見捨てるつもりなんてありません!」


 フェリスは残りの魔力を総動員させて防御結界を構築していく。同じようにクラリッサとチェルシーも防御のための壁を展開していた。このままではオーガストもろともあの攻撃に巻き込まれてしまう。レイドの負った重傷とは比べ物にならないダメージが四人を襲うことになる。オーガストとしては、それだけは看過できない。


「バカが! 僕がお前たちにしたことを、言ったことを忘れたか!」


「忘れるわけないでしょう!? でも、もう決めたのよ! アンタはわたしのギルドのメンバー! わたしは、このギルドを作る時に決めたの! わたしのギルドでは、仲間は絶対に見捨てないって!」


「……クラリッサはがんこ。あきらめて」


「……ッ! そんなこと知るか! さっさと逃げろ! でないと、僕がソウジに申し訳が立たないだろう!」


 オーガストの願いは届かなかった。彼女らが逃げる前に、巨人の口から防ぎようのない暴力的なまでの破壊エネルギーが放たれたからだ。総てが光に飲み込まれ、四人の視界は全てが光となった。

 だがその光は、黒い魔力によって引き裂かれた。

 フェリスは視た。彼女たちの目の前に黒い鎧に身を包んだ一人の騎士が白銀の剣であの破壊エネルギーを切断したことを。

 その姿は見たことがなかったが、フェリスはその人物を知っているような気がした。彼女は自分でも知らないうちに、その名を呟く。


「ソウジくん……?」


「悪い。待たせた」


 ヴン、と紫色のツインアイを輝かせたソウジは右手の『アトフスキー・ブレイヴ』を振るった。

 一閃。

 巨人の大木のような両腕はいとも簡単に切断され、オーガストは剣を防御したことによって起こっていた拘束状態から解放された。だがその眼は驚いたように真ん丸になりながら、全身を黒い鎧に身を包んだソウジに集中している。


「お前、そ、ソウジ・ボーウェンか?」


「ああ。まあ、この格好だと分かりにくいと思うけど……俺は正真正銘、『世界最強の星眷使い』ソフィア・ボーウェンの弟子、ソウジ・ボーウェンだよ」


「あ、アンタ、なにそれ? え、なんでそんな状態になってんの?」


「……わお。びっくり」


「それは後にしてくれ。ちょっとこいつを片づけてくるからさ」


 言うと、ソウジは剣に付着していた僅かな返り血を振り払うようにひゅんっと軽く剣を振るう。


「ま、待ってくださいソウジくん。あの巨人には再生能力があって頭や上半身を吹き飛ばしても再生するんです。おそらくどこかに核が……」

 

「あるんだろうな。それに、核の位置は大体絞り込めた」


「ええっ!?」


 ソウジは『アトフスキー・ブレイヴ』を構え、剣に魔力を集中させていく。やがて全身から魔力が溢れ、うねり、渦巻き、乱れ、そして一つの形へと変化していく。ソウジの全身を覆う魔力の形を視たフェリスは、その姿に一つの生き物を彷彿とさせた。


(ドラゴン?)


 ドラゴン。そう、ドラゴンだ。

 魔法生物の中でも最高位に位置する高い魔力を持った生物。

 ソウジの全身を覆う魔力は翼や角、尻尾などといったまさにドラゴンの形を髣髴とさせるものへと形を変化させていた。


(もしかしてあれは、ソウジくんの星霊?)


 あの魔力はただカタチだけの物ではないような気がするのだ。実際、フェリスの予想は正しい。あのドラゴンという形はただのカタチではない。ソウジの星霊を現しているのだ。そしてフェリスはその事実をその眼で確かな事実として目撃する。

 ソウジを覆う魔力から、うっすらと視えるのだ。黒いドラゴンが。ソウジの身に纏う鎧と同じ黒い鱗に紫色の瞳をしたドラゴンの姿が。


「ちょっと……アレってもしかして……」


「ああ、おそらく……」


「…………」


 どうやらオーガストやクラリッサ、そしてチェルシーも気づいたようだ。

 今からソウジとその手に持つ剣に纏っている星霊がドラゴンの形をしていることを。

 ソウジを包み込む星霊の力が高まり、そのエネルギーが剣に集約した。それは黒い光を放つ巨大な刃となり、ソウジはエイベルに向かってそれを振り下ろした。


「『魔龍斬デヴィルストライク』!」


 一閃。


 渦巻くエネルギーを纏った剣で、ソウジはエイベルを一刀両断してした。その一撃はエイベルの体内に在ったクリスタルをも噛み砕いて破壊する。

 核を失ったエイベルはクリスタルの呪縛から解き放たれた。巨大で醜悪な体はドロドロと溶け出して爆散してしまい、その中から元のエイベルの体が投げ出され、地面に叩きつけられてエイベルは意識を失った。

 ソウジは鎧を解除して元の姿に戻った。そして目の前に倒れている自分の弟を視ると、決別を宣言するかのように背を向けて自分が守り抜いた仲間たちのもとに向かって歩き出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ