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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第一章 世界最強の星眷使いの弟子
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第十八話 開幕、ギルド戦

 ランキング戦のギルド戦が開始されることとなった。個人戦で大活躍を見せた『イヌネコ団』はのメンバーは周囲からの注目度も一気に高まっていた。そうでなくとも『黒魔力』、『半獣人ハーフ』、『神に愛されし乙女』という嫌でも注目されるメンバーだ。

 だがそんな今回のランキング戦注目度ナンバーワンの『イヌネコ団』には一つ問題が生じていた。

 それは、


「え――――!? レイド、間に合わなかったの!?」


 ランキング戦ギルド戦開始まで一時間というところ。食堂でクラリッサは悲鳴のような叫び声をあげた。もうほとんどの生徒は校庭か、観覧席にまで移動しているので食堂には『イヌネコ団』の面々しか残っていない。


「うっ……す、すまねぇ……。無理してでも出ようとしたんだけど、校医の先生から止められてよ……」


「……ドクターストップ?」


「まあ、そういうことになるな」


「ううう……ソウジぃ。お前のあの回復アイテムで何とかならねぇのか?」


「レイドとオーガストを応急処置した時にほとんど使い切っちゃったよ。それに自然回復で治すのが一番体にも良いんだ」


 レイドは申し訳なさそうに肩を落としている。前回の個人戦でかろうじてクリスタルの破壊は免れていた為にポイントの減少は無かったものの、出場できなければ意味はない。


「ど、どうしよう……うちに予備メンバーなんていないわよ!?」


 クラリッサが焦るのも無理はない。なにしろ『イヌネコ団』のメンバー数は定員ギリギリの五人。そしてギルド戦は最低五人いないと出場できない。


「…………本当にすまん」


「お前が気に病む事じゃない、レイド。あれだけのダメージを受けたんだ。回復に時間がかかるのは仕方がない」


 とはいえ、ソウジにとっても困ったことになった。ソウジが決着をつけたい相手はこのギルド戦に出てくるだろう。なんとしてでも戦いたい。もうこれ以上、レイドやオーガストのような人を出したくはなかったし、何よりアレはソウジを狙ってやったものだ。だとすれば、自分が止めるのが義務だろう。


「……でも、どうするの?」


 チェルシーの意見ももっともだ。レイドが回復することは分からなかったから代わりのメンバーを探そうとはしたものの、『黒魔力』や『半獣人ハーフ』のいるギルドに誰が来ようか。結局、メンバー集めは空振りに終わった。だからあとはレイドの回復を祈るしかなかったのだが、結果はこの通りである。

 メンバーをどうするか。

 今からではとうてい集まらない。そうでなくとも、この一週間必死にメンバーを探したのに集まらなかったのだ。今からでは集まるわけがない。


「……ここまで来たのに…………」


 ぎゅっ、とクラリッサが小さな拳を作る。このギルドを作ったのは彼女であり、彼女には彼女の目的がある。それを果たすための第一歩がこのギルド戦だ。

 順調だった。

 上手くいっていた。

 その矢先にこれだ。

 悔しがるのも無理はなかった。

 もうどうしようもないのか。

 また所詮は半獣人ハーフが作ったギルドとバカにされるのか。

 クラリッサはそれだけは許容できなかった。こんな自分のギルドに来てくれた仲間をバカにされたくなかった。クラリッサとチェルシーの周りはいつも嘲笑が渦巻いていた。そんな環境でもめげずに諦めずに頑張ったのに……結局はこんなもんだとバカにされるのか。嘲笑われるのか。


(そんなの、嫌……)


 でも、どうしようもない。

 クラリッサも含めた誰もが諦めかけていた。

 だが、ソウジだけは違った。クラリッサはソウジを見た。彼の眼はまだ死んでいなかった。まるで何かを待つかのように、眼に光を灯していた。


「……実は、一人心当たりがある」


 ソウジの言葉に、クラリッサは目を輝かせる。


「え、誰!?」


「それは……」


「僕だ」


 人けのいない食堂に、自信を含んだ声が響き渡った。クラリッサは思わず眉をひそめた。なぜならば自分たちの目の前に現れたのは、オーガスト・フィッシュバーンだったからだ。


「ねぇ、ソウジ。もしかして心当たりって……」


 クラリッサは間違っていてほしいと願いつつ、ソウジにたずねる。だがクラリッサにとって残念なことにソウジは首を縦に振った。


「ああ。オーガストだ」


「冗談でしょ!?」


「冗談じゃない。本気だ」


「こいつがレイドに重傷を負わせたんでしょ!? そもそもこいつは――――」


 クラリッサはソウジの正気を疑った。そもそも自分たちがこんな状況になったのはレイドが重傷を負ったからであり、その怪我もオーガストのせいで出来たものだ。

 それになにより、


「――――こいつは、わたしとチェルシーをずっとずっとバカにしてきた張本人よ! 半獣人ハーフけがらわしいから、きたならしいから教室には入ってくるなとか、たくさんひどいことを言われたわ! それに、他の生徒をわざわざ煽ってくれたしね!」


 そう。オーガストは入学してAクラスになってからクラリッサとチェルシーの二人をも罵倒していた。『下位層アンダー』の『半獣人ハーフ』。『下位層アンダー』に住んでいるというだけで、彼にとっては憎むべき対象だったのだ。


「わたしのことはまだいいわ。でも、チェルシーやみんなをバカにしていたこいつをわたしはギルドに入れたくない! ていうか、アンタだって散々化け物やらなんやら言われたんでしょ!? なんでこいつを入れようとするのよ!」


「それは分かってるし、俺もまだ完全に許したわけじゃない。でも、今はそれほど切羽詰まった状況なんだ。それにこいつは引き受けた。ギルド登録も、もう済ませてきた」


「ちょっ、勝手に!?」


「それは謝る。でも、今は時間がないし――――」


 ソウジの言葉を、オーガストの右手が遮った。オーガストはクラリッサを見つめ、クラリッサはオーガストの眼を睨みつけていた。やがてオーガストは静かに頭を下げた。


「……入学してからの数々のご無礼、申し訳ありませんでした」


「っ!?」


 クラリッサを含めた、チェルシーやフェリスまでもが驚愕した。

 オーガストは『下位層アンダー』を常に見下していたし、『下位層アンダー嫌い』で学内でも有名になっていたほどだ。そんな彼が今、『下位層アンダー』に対して頭を下げている。それは通常ならばありえないことで、クラリッサもオーガストがまさか自分に頭を下げるなどとは夢にも思わなかった。


「頼む。僕に、このギルドのメンバーとしてランキング戦に参加させてくれ」


「は、はぁ!? なんでアンタがそんなことするのよ? わけがわからないんだけど」


 さしものクラリッサも、この目の前のありえない光景に対してショックが抜けきっていないようだった。


「レイド・メギラスが重傷を負ったのは僕の責任だ。だから、その責任はとる。もう『下位層アンダー』だとか、『半獣人ハーフ』だとか……『黒魔力』だとか、そんな『くだらないこと』で人を蔑んたりしないと誓う。ポイントだって全て献上する。これまでの無礼も全て謝る。だから僕に、罪を償うチャンスをくれ……いや、チャンスをください!」


 オーガストは更に頭を下げて、床に額を突いた。土下座までするオーガストなど、通常ならばありえないことだ。迷うクラリッサに対して、あろうことかレイドも一緒に頭を下げた。


「オレからも頼む!」


「れ、レイド!? なんでアンタまで……」


「オレ、みんなの足を引っ張りたくないんだ! いや、もう引っ張っちゃってるけど……でも、今ここでオーガストを出さなかったらみんなきっと後悔する! オレはみんなに後悔してほしくないし、それに……こいつが本気だってことぐらい、オレにだって分かる。だから、頼む!」


 レイドまで一緒に頭を下げた。クラリッサは困った顔でソウジを見る。だがソウジも、一緒に頭を下げた。


「頼む。もう時間が無いんだ。それに……俺もレイドと同じだ。オーガストが本気だってことは分かるし、オーガストは実力も確かだ。今、俺たちがメンバーに加えられる生徒の中で間違いなく最強はこいつだ」


「……………………」


 クラリッサはチェルシーとフェリスを見る。だが二人とも、決断はクラリッサに任せることにしたようだ。どちらにしろ、ギルドマスターはクラリッサだ。最後に決断するのはクラリッサ自身なのだ。

 クラリッサはほんの僅かな時間、目を閉じたあと…………。


 ☆


 プルフェリックは観覧席で、さきほど生徒たちが転移された結界内の様子を眺めていた。今日も闘技場の観覧席の空中に映し出されている。その映像はいくつかあるものの、その中の一つ。とあるギルドのメンバーを映した映像に、観覧席の誰もが釘付けとなり、そして驚愕していた。


「お、おい、アレ……」


「ああ、間違いない……オーガスト・フィッシュバーンだ……」


「どうしてあの『下位層アンダー嫌い』のオーガストがあのギルドにいるんだ?」


 そう、今ランキング戦注目度ナンバーワンのギルド、『イヌネコ団』の参加メンバーの中にオーガスト・フィッシュバーンの姿があったのだ。これには会場のだれもが驚いた。オーガストと『イヌネコ団』。それは組み合わさることはない組み合わせだと誰もが信じて疑わなかったからだ。

 プルフェリックはその光景に思わず頬を緩めた。


(まるで、百年前のあの子を見ているかのようだ)


 今から約百年前。

 ソフィア・ボーウェンは黒魔力を持つ問題児としてこの学園に入学してきた。当初、彼女は誰からも嫌われていた。だが次第に彼女は周りの生徒たちと打ち解けていった。最初は彼女を嫌い、化け物と罵っていた貴族もいた。だがそんな貴族すらともソフィアは友達になった。彼女の周りには友達が、仲間が増えていった。彼女の周りには、身分も種族も関係なかった。


(本当に、君の弟子は面白いですね。ソフィアくん) 


 プルフェリックは、かつての教え子と、その弟子の姿を重ねた。


 ☆


 ギルド『イヌネコ団』は草原エリアに転移されていた。


「今頃、かなり注目されてるだろうな。オーガスト」


「そんなこと、言われなくても分かっている。今までの僕が僕だったからな」


 オーガストは自分に対する皮肉を言った。


「フン! せいぜい活躍しなさいよ」


 オーガストから視線を逸らすクラリッサ。だがクラリッサは最後には決断した。そのことにオーガストは感謝した。


「ああ。そうさせてもらう……来い! 『ピスケス・リキッド』!」


 オーガストは星眷を眷現させると、一気に周囲に魔力の水を展開した。『イヌネコ団』の周囲に展開された水は、四方から降り注いだ敵の遠距離魔法攻撃を全て防ぎ切った。遠距離から放たれた閃光が水の壁と激突し、火花を散らす。だが水はビクともせず、閃光をかき消した。


「僕にその程度の攻撃が通用すると思うな!」


 水はバシュッという音と共に、弾丸と化して閃光が放たれた地点へと放たれた。しばらくしてから各方向でドゴォォォンという爆発音が響き渡り、生徒たちが慌てふためいて逃げ出す声が聞こえてきた。クリスタルにポイントが加算されているところを見ると、どうやら今ので敵を四人は確実に仕留めたらしい。


「や、やるじゃない」


「お褒めの言葉をいただき、至極光栄だよ」


「アンタ、やっぱバカにしてる?」


「していない」


「……クラリッサ、落ち着いて」


「落ち着いてるわよ!」


 ギャーギャーと喚くクラリッサ。オーガストは油断なく水の結界を広げている。

 チェルシーがクラリッサを諌めていると、チェルシーの耳がピクリと動いた。


「…………くる!」


 オーガストもチェルシーの言葉をきっかけに敵の攻撃の気配を感じ取ったらしい。その部分に水の結界を向けて防御態勢に入った。放たれてきたのは雷属性の攻撃。本来ならば相性が悪いがただの魔法ならばたとえ相性が勝っていても星眷の方が魔法の格としては上なので優位だ。しかし、水の結界は一気に破られた。


(これは……星眷魔法!?)


 オーガストは自分の判断を誤ったことを悔いた。今のは水を総動員して一点に集中させて防御するべきだった。悔いるオーガストの眼前に、雷が迫る――――、


「『アトフスキー・ブレイヴ』!」


 オーガストに向かって放たれた雷の魔法。だがそれを、漆黒の剣が引き裂いた。

 ソウジの星眷が、敵の星眷の攻撃を切断したのだ。


「大丈夫か? オーガスト」


「あ、ああ……すまない」


「……あー、くそっ。素直になったのは良いことだけど、素直なオーガストは慣れないな……。助けられてちゃんとお礼を言うなんてことは今まで考えられなかったし……」


 ソウジがため息をついていると、オーガストの頬が桜色に染まった。今までの自分の言動を思い出して恥ずかしがるという、ソウジの前世的な言い方では中二病を思い出して恥ずかしがっている高校生そのものである。


「う、うるさいっ! そ、そもそも今のだって僕一人でもなんとかできたんだからな! 勘違いするなよ! 僕は別に、ソウジに助けられてなんかないんだからな!」


「うん。それでこそオーガストだ」


「あ、なんかわたしもこっちの方が落ち着くわ」


「……同意」


「あはは……」


 オーガストもいつもの調子に戻ってきたところで、今度は第二撃が放たれてきた。オーガストの苦手とする雷属性の攻撃である。しかも、ただの雷属性ではなく、星眷魔法だ。


「『ヴァルゴ・レーヴァテイン』!」


 轟! と、オーガストの水の結界の外に焔が渦巻いた。今度は焔が壁を造りだし、雷属性の星眷魔法による攻撃を完全にシャットアウトする。更にソウジは焔の結界の外へと飛び出し、片っ端から追撃を切り飛ばしていく。


「星眷魔法を使っている辺り、どうやら上級生、それもこの威力は大手ギルドからの攻撃ですね」


 それを簡単にシャットアウトしてしまうフェリスの星眷の威力は凄まじい。


「でも妙ね。どうして開幕早々、どいつもこいつもわたしたちの位置を正確に知ってるのよ?」


「……索敵魔法?」


「……………………」


 ソウジはその疑問に対して答えられるこたえにはアテがあった。だが、確信はない。そうこうしているうちに、再び遠距離からの攻撃が放たれた。さきほどまでの雷属性だけではない。様々な属性の、それも星眷魔法が繰り出されている。これはいくらなんでもオーガストとフェリスだけでは対応しきれない。


「『ケイニス・トルトニス』!」


「……『リンクス・アネモイ』!」


 クラリッサとチェルシーはそれぞれの星眷を眷現させた。敵の遠距離攻撃を捌く。だが四人では捌き切れない部分が出てくるので、その分はソウジが切り裂いていった。


「何よこれ、狙い撃ちじゃない!」


「大手ギルドがここまで一気に攻め込んでくるとは……!」


 星眷魔法の攻撃が雨のように降り注いでいた。辺りは砂煙に覆われ、視界がどんどん悪くなっていく。魔力と魔力がぶつかり合い、激しい地鳴りのような音が響き渡る。ソウジたちはその場に釘付けにされてしまい、動くことが出来なくなっていた。


(仕方がない……)


 魔力を集め、ソウジが突破口を切り開こうとしたその時だった。


 ――――久しぶりだな、化け物。


「ッ!?」


 いつの間にか、ソウジの背後に小鳥が一羽、迷い込んでいた。いや、この小鳥は迷い込んできたのではない。何者かによって魔法で操られ、ここまで飛んできたのだ。


(俺たちの居場所を大手ギルドに漏らしていたのはこいつか?)


 おそらく、ソウジ以外のギルドメンバーの誰かにこの小鳥を仕込み、転移されたと同時に小鳥から発せられる感知不可能はほど微弱な魔力をたどって、攻撃を開始したのだろう。


 ――――来いよ。


 小鳥から声が聞こえてきた。この声にはどこか聞き覚えがあった。そしてソウジの予想が正しければ、この小鳥を操っている術者こそが、オーガストにあのクリスタルを渡した人物。

 だが、どうする。

 この小鳥を追いかければ、ソウジがいてやっと均衡を保っているこの状況が崩れてしまう。


 ――――どうした、来ないのか?


 小鳥を操っている術者は明らかに今の状況を理解していた。そしてソウジの反応を見て楽しんでいるのだ。


(どうする……!)


 ソウジが悩んでいたその一瞬。


「『紅爆焔レッドバースト』!」


 フェリスの持つ『ヴァルゴ・レ―ヴァテイン』から放たれた焔が、星眷魔法による弾幕を薙ぎ払った。膨大な魔力の渦が、他の介入を一切許さないという意思を秘めた焔を生み出した。


「行ってください、ソウジくん」


「フェリス……」


「ここは大丈夫ですから、行ってください」


 どうやらフェリスも、この小鳥の存在に気が付いたらしい。

 フェリスは、ソウジが今回のオーガストの一件の黒幕についてもうソウジと同じ結論に達していたようだった。そしてそれを分かった上であえて、ソウジに託そうとしている。本当は自分も一緒に向かいたいのに。だけどソウジのために、ソウジの大切な仲間を護るためにあえてここに残ることを選んでいた。


「今のあなたは『世界最強の星眷使いの弟子』、ソウジ・ボーウェン……なんでしょう? だったら、もう大丈夫のはずです。あなたはもう、昔のあなたとは違う。あの家との決別を、ちゃんと済ませてきてください。そして、わたしたちを助けてください」


 正直、大手ギルドに集中狙いされている今の状況はキツイですから、とフェリスは微笑んだ。


「本当は、はんぶんこしてほしかったけど……一緒に行きたかったけど……今はあなたが心置きなく戦いに行けるようにすることしか、わたしにはできないから」


 フェリスは剣を握りなおした。そこから更に魔力の焔が滾りだしていく。


「……なんだかよく分からないけど、ソウジ。アンタ、今の状況を打破する手立てと、今の状況を引き起こしている人物に心当たりがあるっていうのね?」


 ソウジは無言で頷いた。


「よし! ならソウジ、アンタはさっさとそいつをぶっ飛ばしちゃいなさい! ギルマスからの命令よ!」


「……ぐっとらっく」


「よく分からないが、ここは任せてもらおうか」


 この状況下でソウジが抜けることはかなりキツイ。下手をすればみんながせっかく稼いだポイントを失ってしまうかもしれない。それでもあえて、ソウジにこの局面を託すことに決めたのだ。そしてそのことに、みんなが一切の迷いが無かった。


「うちのエースはアンタよ! さっさといってきなさい!」


 クラリッサが叫んだ直後、既にソウジは走り出していた。


「……ありがとう。すぐに片づけて戻ってくる!」


 ソウジが駆け出したのと同時に舌打ちをして小鳥を操っていた魔法が解けた。それはおそらくこちら側に位置を知られないようにするためだろうが、既にソウジは魔法の逆探知に成功していた。

 場所は、森エリアだ。

 ソウジは加速魔法で駆け抜けること数分。ようやく森エリアに到着した。本来、別のエリアに移動するにはもっとたくさんの時間がかかる。それをたった数分でこなしたことは、彼がこの八年でどれだけの成長を遂げたかと如実に物語っていた。ソウジはランキング戦の途中だというのに不自然なほど静まり返っている森の中に入り込むと、この場にいるはずの人物に問う。


「隠れたって無駄だ。そこにいるんだろ」


 ソウジは確信をもって、森のとある一点に向かって呼びかける。

 そして、


「――――エイベル」


 その名を、告げた。


 すると、木の陰から一人の少年がソウジの前に姿を現した。


「……九年ぶりだな、化け物」


 エイベル・バウスフィールド。


 かつてソウジを追放したバウスフィールド家の人間が、ついにその姿を現した。


 






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