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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第九章 消えゆくモノ、金色の輝き
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番外編 二人の少女の邂逅

久々に軽いのを一本。

「ああ、もうっ! 今日は人生で最悪の日ですよぉおおおおおおおおおお!」


 ミリー・スペクタルは走る。なぜ走るのかと問われれば、「魔物に襲われているからよ! 見えないの!? ねぇ、わたしの後ろにいるこの四足歩行の化け物が見えないの!?」と叫んだことだろう。


 だが幸いというべきか、彼女に質問を投げかける者はここにはいなかった。

 だからミリーは走って逃げることにだけ集中できている。


 朝起きた時は最高の目覚めだった。

 真新しい制服に身を包み、これから通うことになる学び舎に想いを馳せていた。

 田舎から出てきて不安だったけれど、新生活に対するワクワクの方が勝っていた。


 だからちょっと早く家を出て、散歩しようと思った。

 王都の近くにある森を散歩して、落ち着こうと思った。

 ミリーの実家は森の中にあるものだから、森の中を歩くと心が落ち着く。


 そうしているといつの間にか魔物の生息しているところに迷いこみ、魔物に襲われてしまい、こうして逃げるはめになっている。


「ひゃわっ!」


 小石に躓きバランスを崩す。そのまま重力に逆らうことなくミリーは地面にスッ転んだ。

 魔物はもうすぐそこまで迫っている。狼のような獣。口に生えている立派な牙は柔肌など一瞬で噛み砕けるであろうことを少女は察した。


「う、あ…………」


 足がもつれて上手く動かない。

 魔物はそうしている間にも距離を詰めている。

 やがてその瞳で獲物を捕らえたあと、一気に地面を蹴って飛び上がり――――、


「お母さんお父さんごめんなさいあなた達の娘は今日という日をもってその短い一生を散らしますぅうううううううううううう!」


 目を閉じて恐怖におびえて牙が肉に食い込むのを享受し――――なにもおこらない。


「うぅ……?」


 ミリーはおそるおそる目を開ける。

 すると、魔物はメラメラと黒い炎に身を焦がしていた。


「あれ? もしかして私、新しい力に目覚めちゃったりしてミラクル起こしちゃいました……?」


 はてさて自分にそんな潜在能力でも眠っていたのだろうかと首を傾げていると、


「大丈夫?」


 綺麗な声がした。

 遅れて、自分が手を差し伸べられていることに気づく。


 視線を向けてみると、そこにいたのは長い金色の髪を持った少女だった。

 頭には黒い魔女帽子を被っていて、髪には赤いリボンが揺れている。胸も大きく、白い太ももがスカートの隙間から覗いている。出るところは出ていてひっこむべきところはひっこんだ女性的な体つき。


 とても綺麗で、かわいい女の子。


「もしかして、どこか怪我とか……」


「う、ううん! 大丈夫! 大丈夫です! ありがとうございます!」


 慌てて手を取って立ち上がる。


「よかったぁ。なんとか間に合って」


 にへっと柔らかい、ぽかぽかするような笑顔を向けてくる少女。


「入学式が始まるまで暇だからお散歩していたら、魔物に襲われてる子を見つけたんだもん。焦ったよぉ」


「そ、それはご迷惑おかけしました…………って入学式?」


「うん!」


 笑顔で頷く少女。

 ミリーは今ようやく気がついた。


 彼女が、レーネシア魔法学園の制服を身に着けていることに。


「もしかして、わたしと同じ……新入生……?」


「ということはあなたも?」


 少女に問われ、ミリーは頷く。


「そ、そうです」


「えへへっ。そっかぁ。嬉しいなぁ。同じ新入生と会えるなんて!」


 ぽかぽかとした、太陽みたいな温かさを持った笑顔だと、少女を見てミリーは思った。


「あ、私ミリー・スペクタルと申します。危ないところを助けられてありがとうございました」


 なにしろ命の恩人だ。

 お礼はちゃんとしておかなければならない。

 

「お礼なんていいよ別に! わたし、人助けが趣味みたいなもんだから!」


「変わった趣味を持ってるんですねぇ」


「うんっ! よく言われるっ!」


 少女は笑うと、すぐに何かを思いついたかのように、


「そうだ! わたし、まだ名前を教えてなかったね!」


 そういえばそうだった、とミリーは思いだす。

 命の恩人の名前はちゃんと記憶しておかなければ。


「わたし、エリィ! エリィ・ボーウェンっていうの! よろしくね!」


 少女は笑うと、握手を求めてきた。


 ミリーはその手に応じる。


「うん。よろしくお願いしますね、エリィちゃん!」


「こちらこそ!」


 二人は手を取り合ったところで、気づく。


「ミリーちゃん。そういえば今、何時だろう?」


「えーっとですね……九時を過ぎてますね」


「入学式は……九時からだったよね」


「うん」


『…………』


 二人は顔を見合わせると、王都に向けて走り始めた。




 その後、エリィとミリーのコンビは学園中から注目を集めることになり、二人の付き合いは卒業後も長く続くことになるのだが――――今の彼女たちはまだ知らない。





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