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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第九章 消えゆくモノ、金色の輝き
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第百五十三話 一つになる力、本当の強さ

 黒い嵐を斬り裂く。


 鎧をまとう。


 手には剣。


 胸には勇気。


 取り戻したいもの。


 取り戻さなければならないものは目の前にある。


 師匠が繋いでくれたこの力を、無駄にするわけにはいかない。


「いくぞ、ラヴァルスード」


 剣を構え、取り戻した力を噛み締めて。


 前を向く。


「師匠の力も、フェリスたちも、返してもらう!」


「返す、か。あいにくだが、そんなつもりは元より非ずだ!」


 剣と剣がぶつかりあう。


 火花が散り、魔力が交錯する。


 最後の戦いがはじまった。


 ☆


 魔人たちとの戦いは、劣勢だった。


「くうっ!」


 さしものクラリッサでも、今の状況には苦い表情を浮かべるしかない。


 相手のパワーがあまりにも高すぎる。


「どうした、その程度か!」


 激昂するリラの雷が、全員をまとめて吹き飛ばす。


 最輝星で強化変身したライオネルですらも。


「諦めろ! 跪け! 絶望しろ! 貴様ら下等生物に、勝ち目などない!」


「ある! 諦めなかったら、ぜったいぜったいぜ――――ったい、勝ち目はあるわ!」


 クラリッサは叫ぶ。


 確かに相手は強い。


 戦力差は圧倒的だ。


 それでも、そんなことは諦める理由にはならないのだ。


「まだ戯言をほざくか。ならば、更なる絶望を見せてやろう」


「ッ! まさか…………!」


 心臓を握り潰されそうな、冷たい感覚。


 嫌な予感は、的中した。


「――――『魔神結晶オーバードライブ』」


 どす黒い嵐がリラの体を包み込む。


 嵐を斬り裂き、中から現れたのは進化を遂げた二体の魔神。


 クラリッサは、この時ばかりは自分の勘の良さを恨んだ。


 むしろ外れてほしかった予感が的中したからだ。


「これで戦力差は更に広がった。これでもまだ諦めないか」


「何度も言ったでしょう。諦めないわ。絶対に!」


 ああ、確かに。


 確かにこれで勝ち目はよりなくなったのかもれない。


 でもそれがどうした。


 それがなんだというのだ。


 クラリッサ・アップルトンも、そのギルドの仲間も、これしきのことで諦めはしない。


「…………そうか」


 リラは苛立ちを露にし、特大の雷を生み出した。


 あんなものをくらえばただではすまない。


 いや、一瞬で消し炭になるだろう。


「まともに現実も見れぬまま死ぬがいい!」


 雷が迸る。


 避けられない。


 避けきれる規模でもない。


 それでも、


「諦めない……最後まで!」


 魔力を全開にし、クラリッサは自らが今撃てる最強の一撃を――――、


「よく言ったわ」


 ――――刹那。


 炎が、雷を斬り裂いた。


 驚くほど呆気なく、リラがぶつけようとした雷が空中で霧散する。


「なっ!?」


 一番驚いているのはリラ本人。


 そして、クラリッサたちの前に現れたその人物に、視線を送る。


「貴様…………!」


「はァい。遊びに来たわよ」


 ひらひらと手を振るのは、


「――――エリカ・ソレイユ!」


「久しぶりね。魔人リラ」


 ボロ布をマントのようにまとい、右手には彼女の星眷魔法である『ヴァルゴ・レーヴァテイン』が握られている。


 唖然とするクラリッサたちイヌネコ団に、エリカは、


「なにボサッとしてるのよ」


「エリカさん!? な、なんでここに……」


「ソフィアさんが連れてきてくれたのよ」


 オーガストの問いに、エリカはリラから視線をそらさずにこたえる。


「…………怪我は」


「治した。愛しのフェリスたんが奪われたのに寝てられるわけないでしょうよ」


 彼女はけろっと言うが、魔王から受けたダメージは相当のモノだったはず。


 いかにソフィア・ボーウェンといえども、呪い交じりの傷はそう簡単には治せない。


「ソフィアさんなら先に進んでるわ。私はここの処理を任された。魔人二体まとめて消してやろうと思ったんだけど…………これはちょっとキツそうね」


 エリカの視線の先には、魔神と化したリラがいる。


 爆発的に膨れ上がった魔力は今や、学園に襲撃してきた時の魔王すら上回っている。


「青いのはアンタらに任せるわ。やれるわね?」


「…………当然よ!」


「上出来。ああ、それとそこの緑」


「私!?」


 エリカが次に言葉を向けたのは、緑の魔人であるグリューン。


「ちょっと力ァ貸してもらうわよ」


「……ええ。構わないわ。ちょうどあいつにはお返ししてやりたかったところだし」


 エリカとグリューンが並び立つ。


 相手にするのは魔神リラ。


 そしてクラリッサたちイヌネコ団はブラウの相手をすることになった。


「さっさと片付けて、先に進むわよ!」


 宣言すると同時に、エリカは『最輝星』を発動させる。


 真紅のドレスに身を包み、紅蓮の翼を広げて魔神と相対する。


「愚かな! 魔神となったリラを倒せると思っているのか!」


「倒せると思っているから、アンタと戦うのよ!」


 炎と雷が激突する。


 と、同時に。


 クラリッサたちもブラウへと駆け出した。


「これが最後の戦いとなるか。ならばこちらも……本気を出そう!」


 黒い嵐を身にまとい、ブラウも『魔神結晶オーバードライブ』で魔神化を果たす。


 荒れ狂う魔力の暴風にも負けず、ブラウに対して有利属性であるクラリッサとクリスが飛び出していく。


(力で押してもこっちが勝てる道理はない……それなら!)


 クラリッサは瞬時に作戦を組み立て、アイコンタクトでギルドのメンバーと共有する。


 これぐらいのことはもうできる。


 お互いに信頼し、お互いに手を取り合ってきたこの仲間となら。


 まずはクラリッサとクリスが前に出る。


「行くわよ、クリス!」


「はいっ、参ります!」


「ム!」


 とはいえ、真正面からごり押しで力を叩きつけるのではない。


 深入りは避けながらブラウをかく乱していく。


 ソウジのブレスレットに魔力を注いがことで得た勇者の力が雷の魔力に宿り、ブラウの体にわずかながら傷をつけていく。


 だが、こんなものはダメージに入らない。


「小賢しい!」


 吹雪がクラリッサとクリスを薙ぎ払う。


 だが、そんな吹雪の隙間を縫って放たれた風の矢がブラウに襲い掛かる。


 クラリッサとクリスの陰に隠れたことで反応が遅れたブラウは腕に矢が何本か突き刺さるが、これも大したダメージにはならない。


「ぐおっ!?」


 と、ブラウが油断したであろうタイミングで矢が爆発した。


「爆発の魔法を組み込んで…………!? だが、こんなものは目くらましにしかならん!」


 むしろそれが狙いだ。


 爆風で視界が塞がったところに、オーガストの作り出した水の道を伝って、レイドが空中に躍り出る。


 重力に従った落下のエネルギーと合わさって、空中から斧を振り下ろす。


 ブラウにはそれが見えていたようで、斧の一撃は剣で受け止められた。


「確かに気迫は凄まじい! 魔力も跳ね上がっている! 今の貴様らは、魔人と戦うに相応しいほどの出力パワーを持っている! だが、惜しかったな! さきほどまでの我ならばともかく、魔神と化した我には届かん!」


「そうかもな。でも、剣は塞がっただろうが!」


「ッ!?」


 ブラウが気づいたそぶりと見せるが、遅い。


 既にリゲルモードへと強化変身しているライオネルが距離を詰めていた。


 ゼロ距離。


「ぶっ飛べぇええええええええええええええええッ!」


 大胆なアンダーモーションからのアッパー。


 蒼い拳が、ブラウの顎に突き刺さる。


「ぐ……ご、おォッ!?」


 ブラウの体が天井付近にまで高く、高く舞い上がる。


 ここが勝機だ。


「みんなの力を一つに!」


 クラリッサは、空中に浮かぶブラウに向けて杖を構えた。


 チェルシー、レイド、オーガスト、クリス、ライオネル。


 五人の魔力がクラリッサに集まり、合わさり、一つになる。


 全員の力を一点に集めたクラリッサは、魔力を融合させる。


 魔力には、波長というものがある。


 指紋のように個人がそれぞれ別の波長を持っている。


 それらを一つにするには魔力の波長の相性がかみ合っていないと不可能だ。


 本来ならば二つの魔力を一つにするだけでもかなりの技術を要する。


 しかし、クラリッサは五つ、自分のも含めれば六つの魔力を強引に一つに束ねてしまった。


 ぶっつけ本番で、寸分の狂いもなく。


 相性を無視してみんなの魔力を一つにすることができる能力。


 それが、クラリッサという少女が生まれ持った力。


 絆を紡ぎ、一つにすることができる力。


「いっけぇ――――――――! 『かきまぜきゃのん』!」


 放たれた巨大な白銀の雷が、ブラウの体を焼き尽くしていく。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ブラウも対抗するが、先に剣が砕けた。


 吹雪を体にまとうが、まとったそばから消滅していく。


 もう防ぐものはなにもない。


 魔神と化した身体が、白銀の輝きに飲み込まれていく。


「クク……まさか、我が黒騎士ではなく貴様らに敗れるとはな…………!」


 体が崩壊していきながらも、ブラウは笑っていた。


「楽しめたぞ、下等生物……否、人間――――!」


 ブラウは最期に笑って、人の力を認めて。


 完全に、消滅した。


 ☆


 炎と雷が交錯する。


 エリカの一撃がリラの体を抉るも、即座に再生してしまう。


「チッ。やっぱりそうなるか!」


「エリカ・ソレイユ! 勇者の力を持たぬ貴様に私は倒せん!」


「あァそうでしょうよ! けどね、秘策ならあるってェの!」


 エリカは下がり、グリューンと合流する。


「準備は出来てる?」


「バッチリよ!」


「手順はさっき話した通り! さあ、やりなさい!」


「了解!」


 グリューンは、自らが生み出した風をエリカへとぶつける。


 リラは味方であるはずのグリューンがエリカに攻撃したことに驚くが、すぐに否定する。


「違う、あれは!」


 攻撃ではない。


 グリューンの放った風はエリカの体に、剣にまとわりつくように展開させていく。


魔人グリューンの風を……まとった!?」


「そうよ。これなら――――」


 エリカの姿が、消える。


 だが、次の瞬間。


「ッ!」


 目の前に現れたエリカが剣を振り下ろす。


 ドッと肩から血が溢れる。


 体が再生する兆しは、ない。


「――――これなら、アンタを斬ることができる!」


 魔人は通常の魔力では倒すことはできない。


 魔人を倒すことができるのは勇者の力か、同じ魔王より生まれし魔人の力のみ。


 今のエリカがまとっているのは魔人であるグリューンの力だ。


「これなら、アンタに届く!」


 踏み込む。


 斬る。


 斬る。


 斬る。


 リラの体に、傷が生まれていく。


 今のエリカは確かに魔王から受けたダメージを完全に回復しているわけではない。


 それでも、彼女は学園最強。


 魔人をも上回る力の持ち主であることに変わりはない。


「そうやって己の力だけでは戦えぬことこそが、下等生物である証。グリューン! 仮にも魔人でありながらそんな下等生物に混じって力を貸すなど! 恥を知れ!」


「そうかしら? 他者を認めて助け合う。それって、本当に強くなきゃできないことよ。少なくとも、グリューンはアンタなんかより何倍も強いわ!」


「黙れ、死にぞこないが!」


 ああ、確かに。


 体が痛みはしている。


 激痛という警告を脳が発している。


 今にも傷口が開きそうだ。


 しかし、それらはエリカにとって些細なこと。


 フェリスという最愛の妹を取り戻すための障害。


 それを斬り飛ばすためならば、そんなことは些細なことだ。


「その程度の小細工で、たかだかグリューンの力をまとったところで! 魔神と化した私を倒せると思っているのかァ!」


 リラが巨大な雷の槍を構築していく。


 あれは紛れもない、魔神とかしたリラが今撃てる、最大最強の一撃。


「私を倒せると思っているのかですて? こっちのセリフよこのタコッ!」


 対するエリカもグリューンとタイミングを合わせて魔力を練っていく。


 生み出したのは、奇しくもリラと同じ槍の形をした炎。


「下等生物が! ここで消し去ってくれる!」


「灰にしてやるわ! 魔神リラ!」


 雷の槍と炎の槍。


 二つの力が同時にぶつかった。


 拮抗は一瞬。


 数秒後には、炎が雷を圧倒した。


 そのまま巨大な魔力の塊である槍はリラの体を飲み込んでいく。


「バカな……! バカなバカなバカな! この私が、最強の魔神である私が…………! 下等生物に、負けるなど! グリューン如きの使い捨てに、負けるなど…………―――――――――!」


 消えていく。


 最強の魔神が、消えていく。


「リラ。アンタの敗因は、そうやって他の生き物を見下していたこと。助け合う人たちの強さを知ろうともしなかったこと。本当に強いのは、私たちだったみたいね」


「認、めナイ……そんな、コトは、弱者、ノ…………!」


 最期まで己の敗因を認めぬまま。


 最強の魔神は、消滅した。











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