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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第九章 消えゆくモノ、金色の輝き
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第百五十話 突入、魔王城

「それじゃあ、ゲートを開くわよ」


 グリューン曰く。


 魔王城には特殊な結界が貼られており、通常の魔法で移動することは不可能なのだそうだ。


 自由に行き来できるのは、魔王を除くと特別な転移魔法を組み込まれていた魔神のみ。


「っていうか、疑問だったんだけどそもそも魔王城ってどこにあるの? 魔族の大陸?」


「知らないわ」


「ど、どういうことよ! 案内してくれるんじゃないの!?」


 驚くクラリッサに対し、グリューンは肩をすくめる。


「魔王城の中には案内できるわよ。転移魔法で移動するだけだし。でも魔王城そのものがどこにあるかは知らないわ。場所が分からなくても案内はできるってそういうこと」


 それに、とグリューンは付け加える。


「魔王城っていうのは常に移動しているのよ。なにしろアレ、言ってしまえば空中要塞ってやつだし」


「空飛ぶ城、ということか」


 オーガストの言葉に、グリューンはこくりと頷いた。


「そういうこと。だからどこにある、って言われてもわからないのよ」


 前世の時に侵入した魔王城は魔族の大陸にあったが、今回は違うんだな。


「よし、できた」


 会話の間にグリューンはゲートを完成させていた。


 空間が歪み、魔力で構成された円形のゲートが現れる。


「ここから先は正真正銘の地獄よ。覚悟があるならついてきなさい」


「愚問って言葉、知ってる?」


 クラリッサの言葉に、グリューンはニヤッと笑う。


「そりゃァ失礼したわ」


 今更逃げ出す気なんかない。


 俺たちは魔王城に繋がるゲートを、迷いなくくぐった。


 一歩前に進んだだけで、目の前が『黒』で塗りつぶされる。


 真っ暗な、どす黒いオーラで包まれた空間。


 魔王城に来たのだという感覚が全身を包み込む。


「…………ここが魔王城?」


「そうよ。ここから真っすぐ進んだところに大きな広間があるわ。そこにきっと、魔人達あいつらが待っているはずよ」


 グリューンの視線の先には、確かに扉のようなものがあった。


 その奥から漏れ出てくる禍々しい魔力も感じられる。


「準備万端って感じね」


「ああ」


 確認するように頷いたあと、俺たちは無言で扉に向けて歩き始めた。


 一歩、また一歩と戦場へと近づいていく。


 すぐに扉までたどり着き、手をかける。


 みんなと視線で意思確認を行うと、扉を開ける。


 扉の向こうに広がっていたのは、またもや黒で塗りつぶされた空間。


 その空間の中央にいたのは、二人の魔人。


 紫と青。


 リラとブラウ。


 二人は驚いたように、グリューンを見ていた。


「久しぶりね」


「魔王様は貴様の愚行をあらかじめ予測していた。だが、正直驚いたぞ。まさか本当に生きていたとはな。それに、わざわざ死体となる下等生物共を連れてきたか」


「どうやらアンタの魔王様にしぶとく作られたみたいね。ああ、それと。一つ訂正なさい」


「なに?」


「死体になるのは、」


 グリューンはブラウとリラに順番に指を向け、


「二つ、だけでしょう?」


「…………なるほど」


 リラは目を伏せ、


「拾った命、よほど捨てたいらしいな」


 全身から、殺気と共に溢れんばかりの膨大な魔力を生み出した。


「ソウジ、ここは私に任せてアンタは先に行きなさい」


「グリューン?」


 構えをとろうとした俺の体を、グリューンが制止させる。


「いや、でも今のお前がリラを相手にするのは」


「切り札はエリカって子から受け取ってる。心配しなくても大丈夫よ」


「そうだぜ、ソウジ」


 レイドがずいっと前に歩み出る。


 いや、レイドだけじゃない。


 ギルドのみんなが、リラとブラウを相手取るかのように前に進み出た。


「オレたちもここに残って戦うからよ」


 相手は魔人リラ。


 圧倒的な力を持つ最強の魔人。


 ブラウだっている。


 俺がエルフ族の大陸で戦ったゲルプだって、一体仕留めるのにかなり手間取った。


 そんな魔人が二体。


 少なくとも片方はゲルプよりも圧倒的な強さを持っているはずだ。


 普通なら死ににくようなものだと止めるべきなのだろう。


 だけど、みんなの覚悟はとうに伝わっている。


「わかった」


 だから俺が言えるのは、


「任せた」


 みんなに背中を託す言葉だけ。


「通すと思うか!」


「いいえ、通してもらいます!」


 俺に向けて放たれたリラの雷に、『最輝星』で変身したクリスが飛び込んできた。


 全力の魔力を研ぎ澄ませたレイピアが、リラの雷の軌道をそらす。


 俺はその隙に二人の魔人の後ろにある扉に向けて走り出した。


「進みなさい、ソウジ!」


「…………ここは任せてっ!」


「ここは僕たちに任せて……先に進めッ!」


「魔王のやつから、さっさと取り戻してこいッ!」


 クラリッサ、チェルシー、オーガスト、そして『最輝星』変身したライオネルがリラの攻撃を必死に防いでいる。


 俺は振り返らず、振り向かず。


 ただひたすら走り続けた。


 扉開き、その奥へと身を滑り込ませる。


 ☆


 ソウジが奥の扉に入ったことを見届けた後、グリューンはブラウへと視線を向ける。


「アンタ、どうして邪魔しなかったの?」


「ここで邪魔するのも無粋かと思ってな」


「なるほど」


 隣にいるリラはキッとブラウを睨んでいる。


「魔王サマが作り出した『自我』っていうのも考え物ね? リラ」


「黙れ。どの道、貴様らのような有象無象が束になろうと意味はない」


「それはどうかしらね」


 確かに、リラにとってはとるにたらない存在なのかもしれない。


 だけどグリューンにはそうと思えなかった。


 不思議と、最強の魔人を前にして恐怖はなかった。


「見せてあげるわ。人間の意地ってやつを」


 戦いが、始まった。










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