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黒の星眷使い ~世界最強の魔法使いの弟子~  作者: 左リュウ
第九章 消えゆくモノ、金色の輝き
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第百四十九話 過去といま

「で、お前は具体的にどう協力してくれるんだ」


 ライオネルの質問に対し、グリューンは、


「そうね。魔王城への招待状なんてどうかしら?」


 小悪魔的な笑みを浮かべ、言った。


「それはつまり、魔王のいるところまで案内するということか」


「そういうこと。アンタたちも、魔王と戦うにしてもあいつの居場所を知らないことにはどうにもならないでしょ」


「なるほどな。そりゃそうだ」


 魔王と戦うと息巻いたところで、居場所を知らなければどうしようもない。


 グリューンが差し出したのは、俺たちにとって喉から手が出るほどほしい情報だ。


「それで今度はこっちから質問させてもらうけど、アンタ、魔法を奪われたのよね? どうやってあの化け物と戦うつもりなの」


「それは…………」


「言っておくけど、気合と根性だけでどうにかなる問題じゃないわよ」


 グリューンの指摘はもっともで、だからこそ俺は言い返せなかった。


 俺は魔法を失っている。このまま魔王と戦っても、ただの足手まといにしかならない。


 でも、


「それはわかってる。今の俺が魔王と戦っても、手も足もでない。無駄に殺されるだけなのかもしれない。それでも、戦いたいんだ。いや、戦う」


「……まあ、前の私なら鼻で笑ってたところでしょうけど…………どうしてかしらね。分かるわ、アンタの気持ち」


 彼女が浮かべた表情は、あまりにも人間的だった。


 あまりにも無謀で、バカげていることだとしても。


 魔人であるはずの彼女は、その気持ちが分かるという。


「けど、それで強くなれるわけじゃない。魔王城まで案内は出来るけど、勝算がなければ意味はないわ」


「――――それなら、私たちがなんとかしましょう」


 俺たちの会話に割って入るかのように、別の声が聞こえてくる。


 振り返ると、そこにいたのは初老の男性。


 俺たち生徒は、彼のことを知っている。


「プルフェリック先生?」


 学園に通っていた俺たちはみんな驚いた。何しろ、この場に出てくるにはあまりにも意外すぎる人だったから。


 プルフェリック・ドルーオ。


 学園に勤めている教師で、俺やレイド、フェリスも彼の授業を何度も受けた。


「どうやら、一足遅かったようですね。ラヴァルスードは、とうとう『巫女』を取り込んでしまいましたか」


「先生、どうして魔王や巫女のことまで……」


「そりゃあ、先生は『七色星団』の責任者だもん。トーゼンだよ!」


 プルフェリック先生の背後から、ぴょこんっとブリジットさんが現れた。


「そ、そうだったんですか!?」


「そーだよ。だって、先生はわたしたちが学生だった時から先生だったし、何もおかしくはないでしょ?」


 そういえば、プルフェリック先生は師匠が転移魔法を作った時のことも知っていた。


 確かに百年以上前から学園の教師だったから『七色星団』の責任者をやっていてもおかしくはなかった。


「卒業以降の『七色星団』は魔王の動きを止めるために活動していましてね。私もソフィアさんたちに協力していたのです」


「学園襲撃事件以降、先生は裏で魔王を止めるために色々と動いてくれてたの」


「そして、その準備が整いつつあるので、こうして現れたというわけです」


 それに、と先生は俺の方に視線を向ける。


「ソウジくん。君に戦う意志があるというのなら、その術を授けましょう」


 ☆


 崩壊したギルドホームから移動した俺たちは、ひとまず食堂に集まった。


 ブリジットさんがふるまってくれた夕食を口に運びつつ、先生が作業を終えるまで待つと共に体力の回復に専念していた。


 先生は今、フェリスが俺にくれたペンダントを改良してもらっている。


 というのも、フェリスが授けてくれたペンダント。あれは、フェリスが過去に『巫女』として覚醒した際に作り出した『星遺物』だというのだ。


 彼女はもともと、ルナの次に巫女として覚醒していた。だがその時、覚醒をいち早く察知した師匠たち『七色星団』が、ルナの両親が創り出した封印魔法を更に改良した封印の魔法で、彼女の力を封印した。


 フェリスが巫女として覚醒した際に創り出されたペンダントは、『星遺物』だということは告げず、『ソレイユ家に代々伝わるお守り』と偽ってフェリス自身に預けられた。


 そして先日。偶然にも俺がフェリスからペンダントをもらった。


 プルフェリック先生はそれを、俺が戦えるようにするための力として、『星遺物』を改良してくれている。


 彼女が最後にくれたものが、俺の希望になっている。


「はぁ。まさかこんなことになるなんてねぇ」


 崩壊したギルドホームの周りに集まりながら体を休めていると、クラリッサが夜空を見上げながらポツリとつぶやいた。


「入学した時は、まさか魔王と戦うことになるなんて想像もしなかったわ」


「そうだなぁ。そのうち魔王と戦うことになるぜ、って入学したばかりのオレに言っても間違いなく信じてもらえないだろうな」


 レイドが笑う。


「入学当初か……個人的に、あまり良い思い出ではないな」


「……確かにあの頃のオーガストはとっても嫌味なやつだった」


「…………反省している」


 オーガストが心底後悔したようなため息をもらした。


「ま、いいんじゃねぇの。大事なのは過去とどう向き合って、今、何を選んだかだろ」


 ライオネルの言う通りだ。


 過去に過ちを犯したとしても、そこから変わればいいだけだ。


 それにオーガストの場合、操られていたという面もあるわけだし。


「まだ一年も経ってないのよね。わたしたちが出会ってから」


「そっか……そうなるのか」


 思わず呟く。


 言われてみればまだ一年も経っていない。


 そっか。まだそんなものなのか。


 あまりにも濃密な一年だったから、もうとっくに一年以上は一緒にいるものだと思っていたけれど。


「まだまだたくさん、思い出を作ることができるのよね。クリスとだって、まだ遊び足りないし」


「わ、わたしですか?」


「……うん。もっとたくさん遊びたい」


「遊びもいいが、ちゃんとランキング戦のことも考えろよ」


「オーガストに言われなくても分かってるっての」


 でも、と。クラリッサは続ける。


「それもこれも、フェリスとルナや、ユーフィア様たちを取り返してからよね」


 そうだ。


 ここには本来いるべき人が二人欠けている。


 俺たちはこれから、欠けた大切な友達を取り戻しに行くんだ。


「魔王がなによ! わたしたち、まだまだこれからなんだから! たくさん遊んで、たくさん魔法の練習して、たくさん勉強して! これからたくさんの思い出を作るのに、邪魔しないでほしいわ!」


 魔王相手でも、物怖じせずにぷんすかとかわいらしく怒るクラリッサ。


 ある意味、いつも通りの光景で。


 俺はここにまた、帰ってきたいと思うようになって。


「……そうだな」


 気がつけば、言葉が口から出ていた。


「取り返そう、二人を。そしてこれからも、たくさんの思い出を作っていこう」


 確かに俺の記憶は少しずつ塗りつぶされていくのかもしれない。


 けれど、まだまだこれから作っていける思い出だってある。


 そのことが分かればもう迷いはない。


 俺は最後まで、戦える。




 ――――たとえ、どうなったとしても。






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